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―Tales of D―  作者: snoil
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第三話

アドキンスのセリフ多いです。目が疲れるかもしれませんがどうか最後までお付き合いを。

「冗談でしょう!」ウィルトは喚いた。

「いったい何を根拠に――そんな――」

「黙らんか、無礼者!」

 先ほどフランクと呼ばれた重臣が立ち上がり、怒りのあまり顔面蒼白になりながら怒鳴った。

「いい加減にしろ! 皇太子閣下の面前であるぞ、恥を知れ!」

「つまみ出すのだ」別の鬚面の重臣が言った。

「こんな非常識極まりない小僧など今すぐにこの部屋から放り出し、世にも恐ろしい罰を与えてやれ。そして――」

「三人とも、落ち着くのだ!」

 アドキンスは、老人とは思えないほどの大声で言った。フランクもウィルトも息を荒げながらしばし睨み合っていたが、やがてそれぞれの椅子に戻る。鬚面の重臣はまだ小声で何かつぶやいていたが、アドキンスの視線を感じてすぐに口をつぐんだ。

「ウィルトよ、君が混乱し、怒るのももっともだろう。しかし、ここはどうか気を落ち着け、これから我々の説明を最後まで極力黙って聴いていてくれんかの?」

 ウィルトは小さく頷き、宰相の方に向き直る。

「よろしい。……実は、君の母親が殺害された際、当時宰相補佐官だった私はもしやと思い、犯人のエルフから密かに真の動機を問いただした。そして、何とか聞き出すことに成功したのだ。私は君の母親がエルフであるということを知った。そして直ちに―申し訳ないことだが―ペンブルックシャーにある君の生家を独自に家捜しした。そこで見つけた……君のご両親が、君がまだ物心つく前、幼い頃に行なった血液検査の結果だ。もちろん公的な機関によってではなく、個人的に行なわれたものだった。そこに僅かに残っていた君の血液を採取して我々も検査を行なったが、やはり君は混血(メクシタス)であるという結論に行きついた」

 ウィルトは何も言わなかった。そう言えば両親の死後、生家に戻ってみたことなど無かった――。

混血(メクシタス)は法律でその存在を禁じられており、君はいつ殺されてもおかしくなかった。だが私は君が混血(メクシタス)であるという事実を周囲からひた隠しにし、君をこれまで十年間静観し続けてきた。……何故だかわかるかね?」「わかりません」ウィルトはぶっきらぼうに答えた。フランクが怒りで低く唸る声が聞こえた。

「左様か」

 アドキンスはゆっくりと立ち上がり、またしても指を鳴らした。するとウィルトとアドキンスの間の床から、何か赤い靄のようなものが立ち上って来た。よく見ると、それは例の赤いローブを着た召使の姿だった。

「あれを取ってくるのだ」アドキンスは煙のような体の召使に命じる。召使は恭しく頭を下げると、空気中に溶け込んでいくかのように姿を消した。

「さてウィルト、話は変わるが」アドキンスはウィルトの正面に歩み寄った。「五人の建国の偉人たちの物語は、もちろん知っているな?」

「はい」

「よろしい。では訊こう、まず五人は―君と同じく混血(メクシタス)だったが―悪魔(デーモン)を倒すために最初に何をしたか?」

 ウィルトは一瞬で記憶の糸を手繰り寄せ、答える。

「悪魔に寿命を差し出す代わりに、魔力を得ました」

「その通りだ。そして物語によれば、次に五人は、その魔力をそれぞれの道具に封じ込めた――これは即ち、それらの道具を五人が作ったということだろうと解釈できる。……五つの道具を全て言えるかね?」

「<深緑のペンダント><漆黒の聖剣><黄金の鏡><白銀のマント><真紅の石>」ウィルトは今度もすらすらと答えた。母が何度も読み聞かせてくれた、大好きな物語だった。

「よろしい、大いに結構だ。……さて、その後五人はそれぞれの道具を使って小悪魔(インプ)どもを駆逐し、秘宝を奪い、最終的には賢者が奪った秘宝の弓矢に射抜かれた悪魔(デーモン)は分裂し、五人の秘宝の中に封じ込められた」アドキンスは続ける。「これら五つの秘宝は一般的に<息災のゴブレット><愛の指輪><常若の香水><不死の壺><勝者の弓矢>と呼ばれている」 あの童話に登場する秘宝にこのような正式な一般名がつけられているとは、ウィルトには初耳だった。

「息災のゴブレット……これを使い続けていれば、一生病を患うことはなく、また毒消しにも役立つ。愛の指輪……嵌めた者は周囲の者たちから愛を得ることができる。常若の香水……使い続ければ永遠の若さと究極の美を手に入れることができる。不死の壺……この壺に入った霊薬を使って、不死の身体になることができる。勝者の弓矢……悪魔(デーモン)を倒すことのできる唯一の武器であり、また狙った獲物は絶対に外さない」

 アドキンスは歌うように言った。「これら合わせて十個の宝のうち、<深緑のペンダント><真紅の石><常若の香水><不死の壺>そして<勝者の弓矢>は、この宮殿内にある宝物庫で厳重に保管されている」

 言い終えると同時に、王座の間の扉がタイミング良く音を立てて開き始める。

 中に入ってきた召使は(今度はもちろんはっきりとした身体で)、紫色の絹の布に包まれた何かを両手で抱えていた。アドキンスはそれを慎重に受け取る。

「そしてこれが」アドキンスは三たび指を鳴らして、ウィルトの前に机を出現させながら言った。「<不死の壺>だ」

 机に置かれた包みからサッと布が取り去られ、この宮殿の外壁と同様、眩しいほどに白い壺が現れた。見たところ陶磁製で、通常の壺よりふた回りほど小さい。ウィルトが中を覗き込むと、白くきめ細かい粉末が壺の半分くらいまで詰まっている。

「先ほども言ったが、この壺には所有者に不死の身体を与える力がある。それと同時に、寿命と魔力とを交換するという機能も持っている。……本来、これは悪魔(デーモン)の持つ能力の一つだった。さらに言えば、他の四つの秘宝が持つ力も、もともとは悪魔のものだったと云われている。この事実が何を意味するのか、君にもわかることだろう。……壺に触れてみるが良い」

 ウィルトは恐る恐る、右手の平を壺の側面に当てた。すると不思議なことに、陶磁器独特のひんやりとした冷たさはなく、むしろ生温かい感じがした。それどころか、自分の血管の鼓動に交じって、別のかすかな鼓動さえ感じる。

「この壺は、極めて大きな魔力と特異な機能を有している上に、生命の気配すらも感じさせる。このような物を『つくる』などという芸当は、いかに強大な魔力を持つ者であろうと原理的に不可能だ。……この壺には単なる魔力だけではなく、強い魔力を持つ何か――つまり悪魔(デーモン)の一部そのものが封じ込まれている。そう考えること以外に、この<不死の壺>も含めた五つの秘宝が、強力な魔力や特異な性質、そして生命を宿していることの説明がつかない」アドキンスはしきにりに身振り手振りも交えながら、熱っぽく論じた。「つまりはこれらの秘宝こそが、例の五人の偉人たちの物語がただの童話ではなく、れっきとした史実であることの確固たる証拠なのだ。だからこそ……童話が史実、即ち五つの秘宝が必ず実在するという確かな根拠があるからこそ、一部の探検家や歴史家たちは、単なる伝説だと笑い飛ばす者どもを尻目に、失われた秘宝を躍起になって探しているのだ――何だね、ウィルト?」

 ウィルトが口を開きかけるのを見て、アドキンスが言葉を切る。ウィルトはフランクの視線を感じて、極力丁寧な口調で尋ねた。「あの、宰相閣下、質問してもよろしいでしょうか。――なぜ、いくつかの秘宝は失われてしまったのでしょう?」

「ああ、ウィルトよ」アドキンスは芝居がかった口調で言った。「実に素朴かつ鋭い指摘だ。しかし非常に残念ながら……それは是非とも、私も君に質問したいものだ。……わからぬのだよ、ウィルト。まったく奇妙なことにこの国には、例の童話以外に建国前後の出来事を物語る歴史的資料が、ほとんど皆無と言って良いほど乏しいのだ。当時の混乱によってほとんど消失してしまったのか、あるいは……」

 アドキンスは言葉を濁し、意味ありげに片眉を吊り上げてウィルトを見る。これ以上は答えられないのだろう、とウィルトは解釈した。

「さて、ではこの話はこのくらいにするとしよう。……私もかつては歴史家の端くれでな。話が脱線してしまった」

 アドキンスが話を切り上げると、ウィルトは名残惜しそうな顔をした。脱線だろうが何だろうが、ウィルトはもっとこの話題について話が聞きたかったし、質問したい箇所もたくさんあった。しかしアドキンスはウィルトの気持ちなど知る由もなく、別のことを話し出した。

「私がこの話をすることで君に言いたかったことは、要は童話が史実であるということだ。……五人に魔力を与えた張本人である悪魔(デーモン)は、結局その五人によって権力を奪われ、封印されてしまった。普通は有り得ぬ。なぜなら、普通の人間が得られる魔力はどんなに長くとも八〇年程度。その程度の魔力では悪魔(デーモン)を倒すことなどまず不可能だからだ。しかし先ほども言ったが、五人はウィルト、君と同様に混血(メクシタス)であった。故に彼らは、悪魔(デーモン)自身ですら抑え込むことが出来ないほどに強力な魔力を手にしたのだ」

 アドキンスはウィルトの前で()ったり来たりしながら話し続ける。

「さて、何度も話が飛んでしまってすまないが……ウェールズはおよそ五〇〇年前に建国されて以来、長年に渡って平和を維持してきた。無論他国との対立はあったものの、実際に矛を交えることはほとんど無かった。しかしその平和は五〇年前、大陸からやって来たサクソン人の侵入によって突如として破られた。君の父親の(かたき)でもある彼らは我々よりも圧倒的大人数で、豊富な物資を持ち、武器もより強力だった。平和のぬるま湯に浸かっていた我が軍――治安維持官から成るウェールズ軍では、とても太刀打ちできなんだ。我々はずるずると敗退し、今やウェールズ南部の九つの州を含むブリテン島の九割がサクソン人の手に落ちた。八方手を尽くしても――例えば隣国アイルランドとの敵対関係も解消し、多額の謝礼と引き換えに援軍を得たが、形勢は一向に好転せぬ。むしろ悪化の一途をたどっている」

 アドキンスはふとウィルトの前で立ち止まり、その両目をしっかりと見据えた。

「我々は必死で思案を巡らせ、そしてついにサクソン人に対抗する力に成り得るものを発見した。我らにあって彼らにないもの……それは魔力に他ならない。そこで我々は数年前から、治安維持官の部署『自衛部』『防犯部』『情報部』に加え、新たに『特殊部』を設置した。特殊部には、寿命と引き換えに魔力を手に入れ、魔法を用いた戦闘訓練を施された隊員だけが所属できる。この特殊部隊員を戦場に送り込めば、戦況を打開できるのではないかと考えていた。だが倫理の観点も含めて、特殊部隊員が手に入れることのできる魔力はせいぜい十~二十年分程度だ。これでは傷を癒したり武器を一瞬で修復したり、あるいは敵に多少の衝撃波を与える程度のことしかできぬ。結局、特殊部の導入は一定の成果は挙げたものの、決定的な切り札(トランプ)となるには至らなかった……」

 ウィルトはこの時点で、宰相がこれから何を言わんとしているのかがわかったような気がした。思わず、ゴクリと唾を飲み込む。そんな様子に気づいたのか、アドキンスは少し早口になって続ける。

「そこで、我々は人間の三倍の寿命を持つエルフに協力を要請したが、結果は君にも予想がつくことだろう……お世辞にも芳しいとは言い難いものであった。そして、もはや万策尽きたかと諦めかけたとき、我々は気づいた。極めて希少だが、しかし人間やエルフなどよりも圧倒的に優れている素材……左様、それこそが、君たち混血(メクシタス)なのだ!」

 アドキンスの声は部屋中に響き渡った。一瞬の沈黙の後、アドキンスは声を落として尚も続けた。

「あるいは、残りの秘宝を探し求めるという選択肢もあった。あれらの秘宝は、いずれも使いようによっては絶大なる武力と化す。だが、秘宝の在り処に関してまったく手掛かりがない現状では、あまり現実的とは言えぬ。故に、我々は前者の方策を採ったのだ」

「つまり、宰相閣下」ウィルトはゆっくりと口を開いた。

「閣下のおっしゃりたいことは、混血(メクシタス)である僕に対して罪を免除する代わりに、国の為に寿命を差し出して魔力を手に入れ、サクソン人と戦えということですね?」

「いかにも」アドキンスは微笑みを浮かべながら頷く。「不服かね?」

「不服と言えば殺す。そうでしょう?」

 アドキンスは微笑みを浮かべたまま、答えなかった。ウィルトは微笑みを返した。

「ご安心を。サクソン人には個人的な恨みがあります……父の(かたき)ですから」育成学校も経ずに治安維持官になれるなんて、ウィルトにはまさに夢のようだった。

「引き受けてくれるか!」アドキンスは心からの喜びを込めて言った。「よくぞ言ってくれた、ウィルト。そうと決まれば話は早い――」

「その前に、閣下、いくつか質問してもよろしいでしょうか?」ウィルトは尋ねる。

「おお、ウィルト、もちろんよかろう」

「では、気になったのですが、なぜ国王陛下ご自身がいらっしゃらないのでしょうか? 皇太子閣下では不満というわけでは決してありませんが……」ウィルトは上目遣いで皇太子の様子を観察しながら尋ねる。皇太子アーサー・エッジワースはまだ一度も口を開いておらず、身動きもほとんどしない。ただただ金色の瞳でじっとウィルトを見下ろし、王座に張り付いた人形のように見える。

「国王陛下はこのことをご存知ない」

 アドキンスは急に声を潜め、やや躊躇いがちに答えた。

「この計画を発案したのは皇太子閣下と私だ。国王陛下は――陛下は、混血(メクシタス)をひどく毛嫌いしておられる。ここにいる者たちはみな、皇太子閣下の計画に賛同する者たちばかりだ」

「なるほど」ウィルトはフランクに視線を走らせる。怒りの表情は大分薄れてきてはいるが、まだ憎々しげにウィルトを睨みつけていた。この人とは到底仲良くやっていけそうもないな、とウィルトは思った。

「では閣下、もうひとつ……僕の寿命は、どの程度差し出すことになるのでしょうか?」

「少なくとも半分」アドキンスは、パッと片手を広げながら答えた。「四、五〇〇年といったところだ。それ以上はもちろん君に任せるが――」

「その差し出した寿命は」ウィルトは待ちきれずに尋ねた。「いったい誰の元にいくのでしょうか?」

 アドキンスがサッと表情を変えた。

 

 これまでになく重苦しい沈黙が訪れた。誰も口を開かない。フランクでさえ、ウィルトが宰相の言葉を遮ったことを咎めようとしない。まるまる一分近くも経ってから、アドキンスが何か言おうと口を開きかけたその時、少年特有の独特の甲高い声が―しかしぞっとするほどの冷気をはらんで―響き渡った。

「それは、ウィルト、そなたの知るところではない」

 アーサー・エッジワースだった。ウィルトはびくりと身体を震わせる。金色の眼は、色こそ変わらないものの、人を圧倒する何かを放出しているようだった。

「この世には、知らぬ方が幸せでいられる事柄もあるのだ」

「お言葉ですが」ウィルトは勇気を振り絞って言った。「僕の尋ねていることが、知らないほうが良い事柄であるとは思えません。これでは、税金を誰に納めているのかわからないのと同じようなものではありませんか?」

「身のほどをわきまえろ、ウィリアムスの息子よ。何を知るべきで知らぬべきか、それはそなたの決めることではない」皇太子は言った。

「それではそなたは、仮に寿命の行き渡る者が私や父上――国王陛下だとしても、それで何か不満でもあるというのか? そなたにとって不都合なことでもあるのか?」

「いえ、しかし――」

「ならば」皇太子は反論を許さない口調で言った。「余計なことに首を突っ込むのは控えた方が身のためだ。そなたは本来死ぬべきところを、幸運にも我々にとって利用価値があるという理由によって、生かされているだけに過ぎぬ。そのことを理解しておけ」

「あなたは僕を殺せない!」

 ウィルトは利用価値という言葉に怒り、立ち上がって叫んだ。

「僕を殺したら、サクソン人には勝てないのではなかったんですか?」

「口を慎め!」フランクが怒鳴った。「皇太子閣下の面前であるぞ!」

「構うもんか!」ウィルトも怒鳴り返す。

「利用価値だって? あなたがそういう姿勢をとるなら、こちらも言わせてもらう。……僕だって、この取引に利用価値があるから応じただけだ! 僕は父さんを殺したサクソン人が憎い。だからそのサクソン人に復讐する機会をくれるからという理由があるだけに過ぎない。わざわざ何百年もの寿命を、得体の知れない誰かに差し出し、代わりに得体の知れない力を手に入れてまで、あなたのような人間が治める国の為に戦おうなんて気はさらさら――」

「<衝撃(インパクト)>!」

 アドキンスの絶叫が雷鳴の如く轟き、ウィルトは腹に強烈なパンチを食らったような見えない衝撃を感じた。そのままウィルトの身体は宙を舞い、ゴウンという鐘のような鈍い音を立てながら、銀色の鉄扉に激突して止まった。ウィルトの目の前で盛大に火花が散り、そのままズルズルと崩れ落ちる。

「ウィルト! 私の前で皇太子閣下にそのような態度をとることは許さぬ……君がいくら大切な人材であろうと、絶対に!」

 ウィルトは弱々しく呻いた。今やアドキンスの顔には柔和な微笑みなど欠けらもなく、顔のしわの一つ一つに激しい怒りが刻まれている。

「皇太子閣下のおっしゃるとおりだ。……君は社会というものを知らぬ!」アドキンスは仰向けに倒れているウィルトに歩み寄り、真上から見下ろした。

「社会には知ってはならぬこと、そして礼儀というものが存在するのだ。社会に於いてこれらのことを軽視する者は、然るべき制裁を受けるに値する」

「では、ただ寿命が長いだけの人間を、単なる便利な道具のように扱う者はどうなんでしょうか?」ウィルトは痛みと吐き気を何とかこらえ、歯軋りしながら言った。

「……皇太子閣下は、あくまで君にわかりやすく説明なさる為に、あのような表現をお使いになったに違いない」

「違う!」馬鹿げた言い訳にもほどがある、とウィルトは憤慨した。「本当にそう思ってたからああ言ったんだ! あなただってそうでしょう? 所詮は僕を道具だと思って、最後は使い捨てにする気なんでしょう? いくらでも代わりがいると思ってるんだ!」

「黙れ!」アドキンスが叫ぶと、ウィルトの身体がひとりでに持ち上がる。アドキンスはその首根っこを掴んで冷たい鉄扉に押し付け、顔を近づけてこう言った。

「ウィルト、君にもう一度訊く。我々と手を結んでサクソン人と戦うか、あるいは死か」

 答えは決まっていた。

「ウェールズも社会もクソ食らえ!」ウィルトは人差し指と中指を立て、侮蔑のサインとともに言い放った。

「残念だよ、ウィルト……」

 ウィルトはまたも腹に鈍い衝撃を浴びた。そして、もう何も見えなくなった。






中指と人差し指を立て、手の甲を相手に向けるのはイギリスの伝統的(?)な侮蔑のポーズです。ファックサイン(中指一本を立てる)に相当します。昔は捕虜にした弓兵が二度と弓を射れないように、利き手のこの二本の指を指を切り落とすという風習がありました。このことから「俺の利き手の指はまだこの通り無事だ。切れるもんなら切ってみろ」という挑発的意味合いがあるそうです。

 以上、ちょっとした豆知識。イギリスに行ったときには是非とも気を付けましょう。

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