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婚約破棄されましたが、最強のお兄様がただでは済ませません  作者: 百鬼清風
第一部 王太子の婚約者

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第10章 お兄様を庇えなかった日1

 灰狼傭兵団が捕まったという噂を聞いてからも、私はお兄様といつもどおり学園へ通っていた。

 そんなある日、屋敷でお兄様から買い物に誘われた。


「王都のコ・イ・ヌールに、珍しい宝石が入ったそうだ。マチルダと見に行こうと思ってな」


 コ・イ・ヌールは宝石を扱う高級店だ。お兄様が自分の装飾品を選ぶために私を誘うのは珍しく、私は読んでいた本を閉じた。


「どのような宝石ですか?」

「サンダイヤモンド。真っ赤なダイヤモンドで、強い魔力を秘めている。滅多に出ないものらしい。今回はネックレスになっているそうだ」


 赤いダイヤモンドだけでも珍しいのに、強い魔力まであるという。店で気に入ったからと、気軽に買える品ではないはずだった。

 お兄様の説明を聞きながら、私は本をテーブルに置いた。


「それを、どなたにお贈りになるのですか」

「マチルダに。仲直りのしるしにどうかと思って、クララに予約してもらった」

「私にですか!?」


 お兄様は当然のこととして頷いた。

 あの夜のことなら、もう仲直りしている。帰っていらっしゃるまで待ちたいと話して、お兄様にも分かっていただけた。それなのに、贈り物まで用意していたなんて。


「お兄様。お気持ちは嬉しいのですが、高価すぎます」

「値段は気にしなくていい。マチルダにこそふさわしいと思ったんだ」

「私には、こちらもございます」


 胸元の銀の雫のペンダントに触れると、お兄様もそれを見た。普段から身に着けている、大切なものだった。


「それもよく似合っている。だからといって、ほかの宝石を贈ってはいけないわけではないだろう?」

「いけないとは申しませんが、仲直りのたびにそんなことをなさっては困ります」

「そんなに喧嘩をするつもりはないぞ」


 お兄様が苦笑するので、私も少し困ってしまった。喧嘩をしたいわけでは、もちろんない。

 贈り物を断っているのに、話しているうちに一緒に出かけるのが楽しみになってくる。お兄様と宝石を選ぶところまで思い浮かべてから、私はもう一度、値段のことを考えた。


「まずは見に行くだけでは、駄目ですか」

「見たら気に入ると思う。マチルダにこそふさわしい宝石だからな」

「まだご覧になっていないのでしょう?」

「だから一緒に確かめたい。俺に付き合ってくれないか」


 そう頼まれては、いつまでも断り続けられなかった。

 お兄様は予約までして、私を連れていこうとしてくださっている。高価だからと繰り返すばかりでは、そのお気持ちまで拒んでしまう。


「……分かりました。では、ご一緒させてください」


 私が答えると、お兄様は嬉しそうに微笑んだ。

 結局、お兄様にはかなわない。私は外出の支度を済ませ、お兄様と馬車に乗って王都の宝石店へ向かった。



 コ・イ・ヌールに入ると、私はガラスのケースに並ぶ指輪や首飾りを見た。石の色や大きさがよく分かるように、どの品も間隔を空けて置かれている。

 私達を迎えた初対面の男性は、コ・イ・ヌールを営む店主だと名乗った。


「アシュフォード様。お越しいただき、ありがとうございます」

「予約していたネックレスを見せていただけますか」


 お兄様が告げると、店主はすぐには品を取りに行かず、私達の前で深く頭を下げた。


「その件で、お詫びしなければならないことがございます」


 私はお兄様を見た。お兄様は店主の続きを待っている。


「ご予約を取り消していただけないでしょうか。実は、後からエドワード殿下のご予約が入りまして」

「先に予約したのは私ですが」

「はい。承知しております。ですが、殿下からのお申し付けでは……」


 店主は頭を下げたまま答えた。

 予約を受けたことも、順番も否定しない。王太子のご希望だから、こちらに諦めてほしいと言っているのだ。

 値段が高すぎるとは思った。それでも、お兄様が私のために選んでくださった品を、そんな理由で断られるのは嫌だった。


「マチルダのために予約したものです。約束どおりにお願いできませんか」


 お兄様がもう一度頼んだ時、入口の扉が開いた。

 振り向くと、エドワード殿下がマーガレット様を伴って入ってくるところだった。私は礼をし、お兄様も挨拶をした。殿下は私達を見てから、店主へ尋ねた。


「サンダイヤモンドは用意できているな」

「はい、殿下。ただいまお持ちいたします」


 店主は私達への返事をしないまま奥へ行き、ネックレスの入った箱を運んできた。

 蓋が開くと、真ん中に据えられた赤い宝石が見えた。窓から入る光を受けて、透き通った石の内側まで鮮やかに輝いている。箱に近づかなくても、そこに魔力があると分かった。


「まあ、綺麗。殿下が選んでくださったのですか?」


 マーガレット様が殿下へ微笑んだ。

 殿下は満足そうに頷き、お兄様へ向き直った。


「男爵家の息子が買うには、身分不相応な品だな。これはマーガレットにこそふさわしい」


 つい先ほど、お兄様から言われたのと同じ言葉だった。

 マーガレット様は箱のそばに立ち、宝石を眺めている。私が身に着けることを考えていたネックレスは、既に彼女へ贈る品として扱われていた。


「恐れ入りますが、先に予約したのは私です。これはマチルダのものですので、なんとかお譲りいただけませんか」


 お兄様は丁寧に頼んだ。店主を怒鳴ることも、殿下の言葉に侮辱を返すこともしなかった。

 殿下はお兄様の頼みを冷笑した。


「ずいぶんと妹思いなことだ。だが、その前に聞いておきたい。ナイジェルを殺したのはお前だろう」


 私は息をのんだ。

 夜会から帰らず、行方不明になったナイジェル様。掲示板で見た名前が、どうして今、お兄様への非難と一緒に出てくるのか。

 お兄様なら、すぐに否定なさると思った。けれど、返事はなかった。


「ナイジェルは戦いを得意としていなかった。そんな相手を一方的に殺して、恥ずかしくないのか。騎士を気取っても、やっていることは卑怯者の所業だ」


 お兄様は殿下を見たまま黙っていた。

 あの夜、黒い鎧を着て出ていったお兄様を思い出す。帰宅してから、正式な任務ではなかったと話してくださった。私は詳しいことを尋ねようとして、結局、聞くのをやめた。

 今度こそ、お兄様に確かめたかった。殿下の言っていることは間違いだと、おっしゃっていただきたかった。

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― 新着の感想 ―
こんにちは。 このゴミ王太子…マジで立場的には『無駄にやる気だけある無能な味方』ポジションですよね。 生きてる必要性が現状感じられないなぁ…。
機密保持も出来ない王太子…
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