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アウストロメリアの炎  作者: 白月一
第二幕:空白の勝利

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第二十六話:粉砕

 ”横ツノ”が胸壁の上から宙を舞い、外壁に取り付く。その様子をカランは外壁よりもさらに高い内壁の上から俯瞰していた。胸壁に設置した巨岩を盾に、その裏から一体の”横ツノ”がもう一体の”横ツノ”を投げ飛ばしているのだろう。


「…随分と力任せな攻城方法ですね」


 その感想は随分と呑気なものだった。内壁の上に立つカランにはどうしようも無かったからだ。迎撃しようにも術を放てば味方に当たる。であればカランにその場で出来ることは敵の観察だ。


「感心してる場合か!行くぞ!」


「わかりました」


 外壁の上にも術士はいる。盾の用意もある。だが広さのない壁の上では”ツノ持ち”に対して数の優位を活かせない。対応にはできる限り多くの術士が欲しい。

 第一戦団は外壁突破後に備え待機していた。だが外壁を奪われれば同じ方法で内壁まで飛び移られる可能性がある。そうなれば内壁の高さも意味を失う。カランはそうなる前に外壁の上に続々と増えつつある”横ツノ”を強引に焼き払おうかという考えが脳裏をよぎったが、内心ですぐにかぶりを振った。戦況的には最効率であろうと後に軍法会議は待った無しだ。であるならば今から外壁に登り”横ツノ”との白兵戦をこなすしかない。全身筋肉の鎧の化け物と至近距離で戦うなどカランの得意とする事では断じてないが、今はそれでもやらねばならない。

 カランはダルミンの背を追い内壁から垂らされた綱を手に壁上から飛び降りた。階段を使っている余裕などない。そのまま壁の間を走り抜け、二段飛ばしで外壁の上に駆け上がった。すでに外壁の上では”横ツノ”がその猛威を振るっていた。


「止めろおおお!」

「追い落とせ!追い落とすんだよ!」

「ちっくしょうがああああ!」


 兵士たちの叫びと亡骸が壁上に散乱していた。

 ”横ツノ”の腕の一振りで盾兵は弾き飛ばされ、蹴り飛ばされれば盾ごと体はひしゃげる。どう見ても追い落とすどころか止めることすらできていない。”横ツノ”は目ざとく術士官を見つけると一般兵たちを薙ぎ払いながら体を低くし突撃し、術士官を角の一突きで絶命させた。

 体を起こした”横ツノ”は自らの角に深く刺さった術士官の死体の足を掴むと無造作に引き抜き、壁の外に放り投げた。そして次の獲物を求め一歩足を踏み出す。ことはできなかった。

 その”横ツノ”は岩のように動かなくなった自分の足元を見た。その足が、壁にめり込んできる。というより沈み込んでいる。踏み込みが強すぎたか。そう思い足を引き抜こうとしたが一向に動かない。疑問に思った時にはもう遅かった。ボコボコと音を立てて壁に足がめり込んでゆく。


「ーー!!?」


 ”横ツノ”は声にならない驚愕の叫びを上げた。


「死ね」


 声に反応し、”横ツノ”が振り向いた先には顔に斜め傷のある憤怒の形相があった。

 下から上に振り上げられたダルミンの限界まで強化された拳は”横ツノ”の顎を的確に捉え粉砕した。さらに胴を回して蹴りを放つ。その踵は粉砕された顎を突き抜け脳髄を弾き飛ばした。巨大な角がベロリと剥がれ、”横ツノ”は力なく崩れ落ちた。


「戦団長、落ち着いてください」


「落ち着いている」


 落ち着いていなかった。さしずめ術士官の亡骸を放ったのが気に障ったのだろう。その背から怒気がありありと立ち昇っている。


「ならわざわざ接近しないでください、周りに人はいませんでした。火術で討伐できます」


 ”横ツノ”に薙ぎ払われ、兵はいなかった。接近して反撃の可能性を残すより、足止めができたのだからそのまま火術で討伐する方が合理的だ。


「…そうだな、気をつけよう」


「他の団員も集まってきました。その顔では敵どころか味方まで怖がります。次、行きますよ」


 外壁の上には他の”横ツノ”が今も猛威を振るっている。それに後続もまだ途絶えていない。


「すまん」


「構いません。戦団長の美徳でもありますから」


「…すまん、切り替える」


 振り返ったダルミンはすでにいつもの戦団長だった。感情に振り回されてばかりでは組織の長は務まらない。


「第一戦団各員!各分隊に別れて”横ツノ”に対応しろ!術で多少壁を崩しても構わん!今は現状の打開が優先だ!」


 状況に対応できてはいる。しかし壁の下に群がる”平鎧”と壁の上に跳んで来た”横ツノ”の両方の対応は難しい。


「カラン、いつも通りだ。好きに暴れろ」


「わかりました」


 ダルミンはそう言い残すと、自らもまた分隊を率いて次なる”横ツノ”を討伐しに向かった。


「ひぃ、はぁ、外壁の上に来るのに一苦労だな」


「バルドさん、いいところに」


「あぁ?」


 壁の上にたどりついた時にはすでに膝に手を置き、肩で息をするバルド。そして彼の分隊の面々だった。


「腹のせいでしょ」

「バルドさん、やっぱり痩せましょう」

「野菜食わないからですよ」


 彼らの言葉は容赦ない。


「うるせえ!まだピンピンしてらぁ!…それでカラン、何用だ、はぁ」


 バルドは息を吐きながら背を伸ばす。ピンピンしているようには見えない。


「いつも通りです。俺が焼くので足場を固めてください」


 バルド率いいる第一連隊第四分隊は独立遊兵たるカランの補助を行うことが多い。カランが敵を焼き、第四分隊がその補助をする。


「焼くたってなぁ、壁の上には味方だって…」


「ですから周りに味方のいない”横ツノ”を狙います」


「そんなのどこに、おい、お前まさか」


 その時、新たな影が壁の間を舞った。


「はい、それが一番、効率がいい」


 カランは空に指を向ける。その宙を舞う巨体に。

 一陣の風が吹き、カランの指先から火の粉が散る。火の粉は瞬く間に大火となり無防備に空を跳ぶ”横ツノ”を爆炎で包んだ。爆風で失速し巨体は壁の足元にゴシャリと音を立てて落ちる。カランは壁から少し身を乗り出し、再び指先を向け追い討ちの炎を放った。放たれた術は火柱を上げ、殺到する”平鎧”ごと”横ツノ”に止めを刺した。


「お、おぉ、すげぇな」


 ここまでの火力を、この精度で放てる術士は第一戦団には他にいない。全ての術士の中でも比肩すると言えるのは術士院長のアリンタぐらいのものだろう。

 カランは胸壁から飛んでくる”横ツノ”を次々に焼いていく。後続を絶てばあとは壁上の”横ツノ”を討伐するだけだ。


「……」


 しかし、数体の”横ツノ”を迎撃したところでカランは手を止める。


「どうした?」


 後続の”横ツノ”の勢いが削がれた。跳ぶごとに次々に焼かれているのだ。当然と言えば当然だが。


「”横ツノ”もとうとう品切れか?次は”平鎧”も投げてよこそうってか?」


 バルドの感想は単調なものだった。流石にそんなことはないだろう。胸壁上の巨岩の裏にはまだその巨大な角が見え隠れしている。


「一応、警戒を」


 そう促した時だった。新たな”横ツノ”が宙を舞う。すかさず指を構え術を練る。


「……チッ」


「おいおいマジかよ」


 思わずカランは舌打ちをした。構わず術を放つ。放たれた炎は、また一体の”横ツノ”を撃墜した。


 ドンッッッ!!!!


 しかし、巨体は壁を震わせた。


 ドンッッッ!!!!


 また一体。


 ドンッッッ!!!!

 ドンッッッ!!!!


 二体。三体。


 単純な話だった。跳んでくる”横ツノ”を撃墜できるのはカランだけ。当たり前だがカランは一人しかいない。一人しかいないのであれば、撃墜できる数にも限りがある。ならば複数の個体で同時に飛べばいい。


「能無しではないか…」


 カランはいまだ荒野に佇む指揮官と思われる”横ツノ”を目を細くして睨んだ。


「カラン!ボッとすんな!”横ツノ”どもここに目ぇ付けてやがる!」


「それは困りましたね」


「言ってる場合か…くそっ」


 指揮官の策は同時に跳ばせるだけではなかったらしい。カランの位置に見切りをつけて、あらかじめそこにいる術士を狙うように指示していたのだろう。確かに壁の上からこれだけ派手に火を飛ばせば嫌でも目に付く。いよいよ本当に”横ツノ”と白兵戦をしなければならないかもしれない。

 正面から跳んでくる個体が撃ち落としたが、他は壁に乗り上げられた。カランたちの元には左右から挟み込むように”横ツノ”が迫っていた。


「まじぃな、他の団員も手一杯か」


 すでに跳んで来ていた”横ツノ”はまだ討伐しきれていない。迫り来る複数の”横ツノ”を相手できるのはカランとバルド率いる第四分隊の隊員だけだった。


「壁作るぞ!」


 バルドの指示が飛ぶ。”横ツノ”はもう一足で距離を縮め切るだろう。そんな時。


 ドッゴオオオ!!!!


「なんだぁ!??」


 外壁が強く震えた。

 全身を硬い甲で覆った巨大な異形が、直(・)接(・)、壁上に降り立った。

 第四分隊の面々の背筋が凍る。


「まだいるのか…!?」


 その足元には一体の”横ツノ”


「あっぶな、飛び越えるとこだった」


 その着地点にいた”横ツノ”が、断末魔を上げる間も無く壁にめり込み、押し潰されていた。


「おっ?一体潰せた。らっきー?ってやつか」


 内(・)壁(・)の(・)方(・)から跳んで来た新たな異形の民は、壁の上に着地と同時に踏み潰した”横ツノ”から足をどける。


「おおカランじゃん」


 巨大な左鋏を肩に担ぎながら、その異形はクツクツと笑う。


「南の壁が暇だったんでな」


 黒い複眼、細長い触角、太い額角、そして左腕が明らかに大きい鋏状の腕。深い青い甲殻に覆われたデカポダの戦士ダーバルは、そうあけすけに言い放った。

ダーバルのジャンプが立ち幅跳びの要領だったのか、エビジャンプだったのか、果たして…(決めてない)

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