本当の娘が戻ってきたので、私は追い出されるかもしれません。
私はこのお屋敷の養女。
赤子の頃に攫われた子の代わりに、孤児院から引き取られた子。
この屋敷にきて十年。
とても大切に育ててもらった。
お母様、お父様、弟のユーリ。
みんな優しくて……。
でも本当の娘が帰ってきたら、私はきっと用済みになる。
だから、いつでも家を出れる準備を始めた。
「初めまして。アデルです。よろしくね」
私と違って本当の娘は、お父様、弟によく似ていた。
金色の髪に青い瞳。
とても美しい少女。
私のその日から、使用人の仕事を手伝うようになった。だって、私は孤児院の子。平民。家を追い出されたら仕事をしないといけない。
「レイチェル様!」
「大丈夫だから。お願い、手伝わせて」
使用人は私が養女であり、孤児院から連れてこられたことを知ってる。
だから、誰も止めなかった。
私が使用人の真似事をしている中、アデルが屋敷に馴染むのは早かった。
「レイチェル。どうして掃除なんかしているの?」
「今後の勉強のためですよ」
「そう、わかってるのね」
アデルはお母様たちの前ではとても優しくて、淑女然としていたけど、私に対しては違った。
でも私はそれを告げ口したりしない。
だって、私は養女。言っても無駄。
それをよいことに、アデルは周りに誰もいない時は私に使用人のように命令することが多くなった。
当然ね。
家を出たら、私は誰かに仕えるのだから、いい経験かもしれない。
屋敷では今のところ、私を冷たく扱うものはいない。
使用人すら、優しい。
だからアデルが冷たいのはいい練習になる。
アデルが来てから、一か月後、彼女が大事にしていたネックレスが消えた。
それは私の部屋から発見され、アデルは私を糾弾した。
私が取るわけがない。
だけど、言っても無駄だろう。
私は養女、本当の娘ではないもの。
「……アデル。君を信じたいと思っていた。しかし」
「お父様?」
アデルが聞き返す。
お父様は顔を背けている。
「僕の本当の姉なのだからとずっと我慢してきたけど」
「ユーリ?」
アデルは不安そうだ。
ユーリは少し怒った顔をしていた。
「アデル。あなたには教育が必要だわ。使用人からあなたのレイチェルへの態度の報告を受けている。十六年、そうよね。生まれた時から、あなたは違うところで育てられもの。あなたがどのような場所で育ったのか、調べたの。本当にごめんなさい。見つけられなくて」
「お母様」
アデルの声が震えている。
お母様の顔色は蒼白で、けれども真っすぐアデルを見つめていた。
「アデル、私と一緒に領地へ戻りましょう。そこで色々学ぶの」
「いや、いやよ。私はここがいいの」
「大丈夫。領地も広くていいところよ」
お母様は強引にそう言って、使用人にアデルを連れて行かせる。その後を追いかけながら、お母様は振り返る。
「レイチェル。後でゆっくり話しましょう。アデルのことはごめんなさいね」
どういうことなのかしら。
「姉上。いえ、レイチェル。この一か月、ごめん。ずっと姉上に虐められていたのに、何もできなかった」
「虐める?そんなことはないわ」
「あれは虐めだろう。君はそう思っていなかったみたいだけど」
お父様がかなり疲れた様子で、答える。
「アデルはとてもひどい場所で育ったんだ。だからあんな風になってしまって。だけど彼女が私たちの娘であることは確かだ。だから、私たちはあの子の面倒をこれからも見るつもりだ。十六年、ずっと探していたんだ」
お父様は苦しそうに言葉を紡ぐ。
「レイチェルと全然違って、僕は最初アデルを姉上と認めたくなかった。だけど、アデルは本当に僕の姉上なんだ。だから見捨てることはできない。だけど、レイチェルのことを虐めるのは別の話だ」
「君は何か勘違いしていたみたいだけど、私たちが君を追い出すことなどはしない。ずっと家族として暮らしていたじゃないか。使用人から話を聞いて私はとても悲しかったよ」
「僕もだ。だけど、出ていこうと思っているレイチェルを見て、僕はある事実に気が付いたんだ」
ユーリはにこりとを笑った。
お父様は苦笑いを浮かべている。
「あなたは僕の姉じゃないってことに気が付いたんだ」
「……そう。そうよね」
「レイチェル、変な誤解しないで。僕はあなたのことが大好きだよ。だけど、姉としてじゃない。僕が十六歳になったら、僕の婚約者になってよ。レイチェル」
「はい?」
「えっと、これはだな。レイチェルの意志次第だ。強制ではない。それは安心してもらってもいい」
お父様がものすごい困った顔をしている。
ユーリは何かとても嬉しそう。
「これから一年、僕のことを好きになってもらえるように頑張るよ」
「えっと、あの。アデルは?」
「アデルは領地だよ。僕だって時折遊びにいくつもりだ。レイチェルは連れて行かないけど。嫌な気持ちだろ?」
「そんなことはないわ」
アデルに対して嫌な気持ちになったことはない。
だって、彼女はお父様、お母様の本当の娘で、ユーリの本当の姉だもの。
私はただの養女だから。
「レイチェル。僕の言ったことを覚えている?いつも肝心なこと聞かない振りするんだから。僕はもうレイチェルを姉とは思わないから。レイチェルもそのつもりでよろしくね」
そんなの無理だわ。
だって、ユーリはこのお屋敷に引き取られた時から弟だったもの。
「だんまりか。いいよ。覚悟していてね」
「ユーリ。レイチェルを困らせることをやめなさい。レイチェルだって、社交界デビューもまだなんだから、色々周りを見る必要があるはずだ」
「見る必要はないよ。僕だけで十分」
「ユーリ」
その後、私は十六歳の誕生日を迎え、お披露目をすることになった。
アデルはまだ準備ができていないと見送られた。
私はお父様と一緒にパーティーに参加したのだけど、私が孤児院育ちの養女ということで冷たい目で見られることもあった。だってアデルを差し置いているもの。理解はできる。
パーティーでは壁の花になることも多くて、なかなか大変だった。
アデルみたいなちょっと冷たい令嬢も多くて、困ったこともあった。
でもアデルに少し冷たくされていたから、心の準備はできていたと思う。
そのような感じで一年過ぎても、男性から声をかけられることはなかった。
そうしてユーリが翌年デビューをしたのだけど、私が彼のお相手となり、参加することになった。
令嬢たちの態度は、以前よりもひどかったけど、ユーリがいつもかばってくれた。
一年で、ユーリの身長は伸びて、顔も大人びた。
私への態度も前とは違って、ドキドキさせられることも多くなった。
そうして、私が十八、彼が十七歳。
私たちは婚約した。
婚約パーティーにはアデルも参加した。
憑き物がとれたように優しい令嬢になっていて、ほっとした。
前は不安だったのかな。
アデルが領地にお母様と戻って、ユーリも何度か領地にいった。もちろんお父様も。
一人でお屋敷に取り残されたりしたけど、使用人たちが優しくしてくれた。
しかもユーリが自分の代わりにと大きなぬいぐるみを置いて行ったりして。私が姉だったのに。
領地から戻ってきたアデルとはよく話をするようになって仲良くなった。私に冷たかったのは、娘である自分の居場所を確保したかったからだって。だけど、私に濡れ衣を着せようとした時も、お父様たちがアデルを見捨てなかったから、心を入れ替えたみたい。
アデルはずっと酷い環境で生きてきたから、色んなことが信じれなかったって言っていた。
私も、お父様、お母様、ユーリのことを信じきれなくて、きっと追い出されるって思っていたから、状況は全く違うけど、なんとなくわかった。
「娘」なのに信じなくて悪かったよねってお互いに笑えるくらい、私たちは仲良くなった。
アデルはお屋敷の本当の娘で、最初は冷たかったけど、優しい令嬢に変わった。
私は孤児院から引き取られたけど、屋敷を追い出されなかった。
巷でよく読まれているロマンス小説のような展開は何もなかったけど、私はとても充実した人生を歩めている。
ユーリが少し束縛ぎみなのが少し気になるところで、アデルにも愛が重いかもって言われるけど、私にはこれくらいがいいかも。
だって安心するもの。
(おしまい)




