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3話 神さまの家と魔法の鐘

 ジャンヌはクロードと共に馬車に乗って、修道院までの旅をしていた。

 旅の間、幼いジャンヌにクロードは、修道院とはどんな場所なのか、噛み砕いて説明した。


「修道院は神さまの家なんだよ、ジャンヌ。ジャンヌと同じくらいの年頃の女の子たちがたくさんいて、みんなで学ぶからきっとジャンヌも友達が出来るだろう。鐘が鳴ったらお祈りをして、毎日規則正しい生活をしながら、みんなで勉強するから賢くなるんだ」


 ジャンヌは修道院の鐘を魔法の鐘のように思い浮かべた。鐘が導く先に天国へ続くかのような階段があり、階段の先は天国ではなくて王宮へと続いているのだった。


☆ ☆ ☆


 修道院では揃いの制服を着た少女たちがシスターの指導で学んでいた。ジャンヌと同じ平民の娘もいましたが、多くは貴族の娘たちだった。


 少女たちの年頃はジャンヌと同年代の7歳から上は15歳、鐘の音に合わせて読み書きから地理や歴史、果ては音楽やダンスといった、当時の上流階級の子女に必要な教養を一通り学ぶことが出来る場所だった。


 朗らかで魅力的なジャンヌはたちまち修道院で人気者になったが、当然平民の彼女に嫉妬する少女もいた。


 ジャンヌを中心としたグループとは別の、貴族の娘のグループにシャルロットという貴族令嬢がいた。グループのリーダー格のシャルロットは仲間を煽ってはジャンヌに嫌がらせをした。


 やり方がまた悪質だった。シスターに隠れてジャンヌの持ち物を持ち去るのである。

 しかも、シャルロット自身は指示を出すだけで、年下の少女や、身分の低い娘にやらせていた。グループ内でいちばん年上で、大貴族の娘で、しかもシャルロットは美しい。誰も彼女に逆らえないのだ。

 万が一、実行犯が判明したとしても、彼女は口を割らないから、シャルロットが指示しているとは誰もわからない。


 そんなことが一年半続いた。

 けれども、ある時突然事態は解決した。シャルロットがシスター長に呼び出されて、叱責を受けたあと、グループ全体が罰として一週間夕食抜きになったのだった。


 それからジャンヌへの嫌がらせはすっかり無くなったので、彼女は何となくシャルロットが指示していたのだろうと察した。

 

 間もなくシャルロットは15歳の誕生日を迎えて、修道院を出る日が来た。

 帰宅の前日に、ジャンヌはシャルロットに呼び出された。


「どうして、あたしを?」

 ジャンヌが尋ねると、シャルロットは、

「平民の貴女が、わざわざ修道院に学びに来るなんて、おかしくないかしら?だから、わたくし、探らせましたのよ」

「何のために、それを?」

「決まってるじゃない、どうせ親戚に頼み込んで、宮廷にお仕えでもしたいんでしょう?」

「……!!」

「当たらずとも遠からず、といったところかしらね?ジャンヌ。だから最初はわたくし、貴女を今のうちに潰そうと思ったわ。でも、途中から方針を変えたのよ。貴女を鍛えて差し上げることにしたのよ」

「鍛える、ですって?」

「そうよ。宮廷なんて修道院のいじめより遥かに陰湿な人間関係で満ちているの。平民のくせに、貴女素質があるのですもの。鍛えがいがあったわ、ジャンヌ、貴女、へこたれないでいつも朗らかさを忘れない」


 へこたれない?いつも朗らか??

 ーーあたしが?


 ジャンヌは自覚が無かったが、明らかにそれは、後に彼女がデュ・バリー夫人として王宮に上がった時に発揮する才覚だった。


「ジャンヌ、わたくしたちまたどこかでお会いするかもしれなくてよ? ……まあ、王宮とは限らないけれどね」

「そうね、あたしたちきっとまたお会いできるわ。その時はよろしくね!シャルロット様!」

 茶色い目をキラキラ輝かせる、純粋なジャンヌ・べキュに、

「……その能天気さが、貴女の身を滅ぼさないよう、せめて神さまにお祈りしておくわ、ジャンヌ」

 そう言い残して、シャルロットは修道院を去った。


⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 やがてジャンヌも15歳を迎え、修道院を去る日が来た。

 馬車で迎えに来たクロードは、

「ひさしぶりに会ったと思ったら、見違えたよ、ジャンヌ。君は美しいよ、天使ちゃん」

 手放しで喜んだ。


「嫌だわ、クロードおじ様までお世辞をおっしゃるのかしら?」

「君はきっと国王陛下にも愛される。もし本当にそうなれば、私はますますお金持ちになり、相応しい地位も貰えるに違いない。だけどね、ジャンヌ。もしかしたら私はその時は寂しさを覚えるかもしれないね」

 クロードはそう言いながら、ジャンヌの荷物を馬車に運ばせた。


⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


 ジャンヌ・べキュは魔法の鐘の鳴る神さまの家を去った。


 次にジャンヌを待つのは、身体を重ね合わせる、恋の世界だった。


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