08 出発の時
東の空が白み始め、拠点を照らしていた。
人の出入りも徐々に増え、任務に向かう者、帰還した者が交差している。
レイル達一行も、その1組に該当しているのだ。
全員が玄関に集まり、ルディの背には荷車が備え付けられて、大荷物が乗っていた。
南に位置するノワール村は、急いで向かったとしても丸一日かかってしまう距離。
「お前たち頼んだぞ。到着したら副リーダーの指示に従ってくれ」
レイルたちを見送る仲間達の先頭に、リーダーは立っていて腕組みをしながら言った。
「ニナちゃーん!帰ってきたらもっとお話しような〜」
「私たちとも仕事行こうね」
「初任務、頑張れよ」
「みんなありがとう!行ってきます」
ニナの周りには、仲間達が囲んでいてみんなが笑っている。
「たった1日でここまで馴染むなんて、すげえなニナは。なあ、レイル?」
「…──ああ」
「て、なんだお前のその顔は」
カインは、レイルの肩に寄りかかりながら尋ねると、レイルは明らかに様子がおかしい。
昨日はほとんどニナの寝顔を見ていたのだ。みんなから心配されるのも、無理はないだろう。
「──クマができてるぞ」
「おわっ、お前はまた急に出てくんじゃねえジェット!」
カインの後ろからスッと出てきたのは、金髪の少年で一緒になって指摘する。
げっそりとしたレイルは、絹のような髪は少し乱れ、目の下にはうっすらと影。
普段の凛とした雰囲気が、どこか頼りなく見える。
「…寝不足なだけだ」
「へえ?いつも一番最初に寝るレイルくんが?」
「カインうるさい、余計なこと言うな」
その会話を聞いていたニナが、首を傾げてレイルの顔をじっと覗き込んだ。
「レイル、昨日寝れなかったの?」
「まあ…」
「睡眠は大事だよ?あたしが今度寝かしつけてあげる」
にこっと笑われて、レイルは思わず視線を逸らす。
(……原因はお前だよ)
「弟子はレイルに甘いな」
「え、そう?」
「ニナ、俺も寝かしつけてよ」
「じゃあ今日はみんなで寝よう!ルディ抱えて寝ると暖かいんだよ」
「ワシもニナと寝る」
そんなやり取りを、聞いてわなわなと震わせ1人の少年が叫んだ。
「ジェット、カイン!お前たちは端で寝ろ!それからニナ、誰かれ構わず一緒に寝ようとするのやめろ」
───こうして初任務を遂行するために、5人は拠点を後にするのだった。
***
ガラガラと馬車に乗ってしばらく経つ。
レイル達一行は、アークレイン王国の石畳を歩き、次第に土の道へと変わった。
両脇には背の高い木々が連なって、ノワール村へ向かう道は、人通りが少なく静かだ。
「ねえねえ、ノワール村ってどんなところなの? あたし、南方面は行ったことないんだ」
「アークレインとは真逆だな。全体が黒い造りで、霧がかってる」
「ミステリアスだね」
ニナは楽しそうに笑いながら、周囲をキョロキョロ見回している。レイルは、ニナの質問に答えているが、不満げな表情で金髪の少年を睨んでいた。
「つーか、ジェット。なんでわざわざ俺らのほうに座るんだよ?せめぇって」
「我は、弟子に技を伝授するからだ。レイルこそ、カインとポチの方へ行ったらどうだ」
「〜っ!!なんだよ弟子って…しかもポチってニナが最初につけたルディの名前じゃねえか」
「弟子から聞いて、ポチという名の方が気に入ってな」
(んだその理由、相変わらず謎が多いやつ)
狭い馬車に、レイル、ニナ、ジェットが並んで座って、その反対側にカインとルディが座っている状況なのだ。誰がどう見てもバランスが悪すぎる。
忍者のような身のこなしのジェットに、元々興味があったニナは戦闘での立ち位置を教わっていた。
その時だった──
「10人くらいの魔力を感知した。ワシらを囲んでおる」
「ナイス、ルディ。おそらく御者もグルだ、全員戦闘態勢に入れ」
黒曜影団にて、身体を改造されてしまったルディは、敵意のある魔力を遠くから感知することができるのだ。そして、鼻も効くため仲間の位置も把握できる。
大剣を構えたレイルが合図したと同時に、全員が武器を構えた。
「ニナ、お前は俺から離れるなよ」
「うん…」
ニナは短剣を構えたものの、戦い慣れをしていない。魔獣から身を守るための、戦闘スキルしか身につけていない少女は、対人は初めてなのだ。
レイルをはじめ、星紋巡守団の仲間たちも最初から人を傷つけることに、何も躊躇いがなかったわけではない。
「星紋巡守団はここで消えてもらう、それが私たちの使命!」
馬車から出ると、ルディが言った通り、杖を構えた黒いローブの集団が、レイルたちを囲んでいた。
集団のリーダーと思わしき人物が、手をあげて合図を出した途端に、杖から黒い物体が襲う。
「いきなりかよ!氷盾展開」
黒髪の少年が先頭にたち、両手を地面につけた瞬間に、その場所から氷盾が出てきて相手の攻撃から身を守られた。
ジェットはいつの間にか、氷盾の上に乗っていて、両手の剣は雷が波打っている。
そして、そのまま怯んでいる相手の前に飛び降りて、電光石火の速さで斬りかかった。
「弟子、我の速さを見ておれ。雷瞬連斬」
黒いローブの集団は、ジェットの速さについていけず、連続で攻撃を受け次々と地面へ倒れていく。
カインもジェットに続いて、レイルも敵を圧倒していた。
─────だから、もう大丈夫だとニナは思い込んでしまったのだ。
1人だけ背後に迫り、戦闘態勢に入れていない少女と、白い狼を狙う人物がいたことを知らずに。
「お前らだけでも倒して、人員を減らす!死の誘い」
「ニナ危ない!」
「きゃあっ!?」
黒いローブの人物は、ブラックホールのような球体を生み出し、周囲の空気ごと吸い込もうとする。それを、ルディがニナをレイルの方へ突き飛ばして阻止した。
レイルはその光景を見て、何かのスイッチをONにしたかのように、顔つきが変わる。
「おいお前…、俺の仲間を傷つけようとした。覚悟はできてんだろうな」
「今ここで我々を倒しても、お前たちはハンス様に…黒曜影団には勝てない」
「俺たちは黒曜影団を止めるための巡守団だ…!光剣爆発!」
レイルの大剣は光の魔力を纏って、黒いローブの人物に触れた瞬間に爆発した。
「俺は、星紋巡守団のレイル・ノルドレイク。仲間を傷つけるやつは、誰であっても許さねえ」
気絶している人達を見下ろしながら、レイルは告げる。拳はぎゅっと握りしめながら──────




