07 前夜
星紋巡守団の拠点に、夜が訪れた。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、白い廊下にはランプの柔らかな光だけが灯っている。
遠くから聞こえるのは、打ち合わせしている話し声や、鍛錬している金属音。
ニナは、自分の部屋でルディと共に悪戯っぽく笑いながら、ある企みをしていた。
「ルディ、準備はいい?」
「うむ…ワシはいつでも準備満端じゃ」
東の国にいる忍者のように、『抜き足差し足忍び足』で部屋を抜け出したのだ。
◇◇◇◇
一方、銀髪の少年は、仲間達と大浴場にいた。
「なあレイル、ニナとはどこで会ったんだ?おにーちゃんに教えな」
「誰が俺の兄ちゃんだよ」
「いーじゃん、ほら教えてみ」
「…迷子になった森で会った」
レイルの肩を組んで尋ねるのは、カインだ。
年齢はカインの方が上で、兄弟のように周りから見られているが、本人たちはライバルだと思っている。
幼い頃から星紋巡守団に入って、競い合ってきて苦楽を共にしてきたのだ。
レイルを揶揄うために、カインは今のようにたまに兄貴風を吹かせている。
「へえ、あんな可愛い子が1人でか?」
「兄を探してんだって。だから、ほっとけなくて誘った」
「なるほどね〜、確かにあの容姿に愛嬌あればほっとけないわ」
「…──お前ね、ニナは仲間だぞ」
(やっぱこいつ面白がってる)
ははっ!っと愉快に笑うカインを、横目でレイルは睨んだ。
───その瞬間、2人が横に並んでいる正面から、ブクブク泡が立ち浴槽から何かが出てくる。
「我は弟子を仲間に入れて良かったと思ってるぞ」
「お前、いきなり現れるのどうにかならねえ?ジェット」
「そうは言ってもこれがクセだからな」
「しかもな!いつニナがお前の弟子になったんだよ!?」
声がいつもより響く浴場で、レイルとジェットはわーわー言い合っていた。
その2人を静かに見つめているカインは、ふと思う。
(レイル、男が女をほっとけないって思うのは、仲間以上の感情…答えはひとつしかねえよ。…あーあ、いい女捕まえられたと思ったけど、次見つけるか)
「なーに、1人でかっこつけてんだカイン!お前もお湯鉄砲くらえ!」
「てめえいつになってもガキだな!?」
「我も参戦する」
レイルは子供のような無邪気さで笑いながら、両手を握手のような形にして、お湯をカインに向かってかけた。
ジェットも腕組みをして、微笑んでいる。
明日から、任務だというのに緊張感はまるでなく、【お湯鉄砲】で3人は一戦交えたのだ。
◇◇◇◇
それから銀髪の少年は、お風呂に上がって自室に向かうために、長い廊下をぼんやり歩いていた。
少しのぼせているせいか、ほんのり顔が赤くて…乾いていない濡れた髪がいつもより幼く見える。
肩に白いタオルをかけて、いつものように扉を開けた時────
「おかえりレイル」
「随分長い風呂じゃのう」
「おーーいっ!!」
いるはずがない人物が、ベッドに腰をかけているのだ。レイルは、目を見開いて食い気味にツッコミを入れる。
「ニナ、ルディ。お前らなんで俺の部屋にいるんだよ!?」
「部屋広いし、寂しいから遊びにきちゃった☆」
「遊びにって…まあ、まだ寝ないからいいけど」
歯並びのいい白い歯を見せながら、笑うニナにふと表情が曇った。
(あ…この表情はリーヴェ村でも見た)
「どうしたニナ」
「遊びに来たのは嘘じゃないんだけど、一緒に寝ちゃだめ…?」
「…─────へ?」
突拍子もないお願いに、ぽかんと口が開くレイル。彼は、明日の初任務が緊張しすぎて、気持ちが落ちていたのばかり思っていたのだ。
ニナは、その予想をあっさりと裏切った。
レイルの視線はふとニナの後ろにいってみると、小さな背に自室から持ち込んだ枕を隠している。
(男女で寝るのはどうかと思うけど、この状態をほっとけねーし、ルディもいるからいっか)
レイルはニナの前に膝をついて、頭にぽんと大きな手を乗せた。ルディもニナの寂しさを察して、ニナの身体に擦り寄る。
「そんな顔すんなよ、ここで3人で寝よう」
「ほんと…!?ありがとう、レイル。じゃあおやすみ」
「感謝するレイル、ワシも寝る」
ニナは一瞬にして目を輝かせ、レイルの布団に潜り込んだかと思ったら、目を瞑った。ルディも、素早く布団に潜る。
「お前ら寝るのはやっ!!!」
またもや、目を見開きツッコミを入れるのだった。
────────────
──────
数時間後──すっかり部屋も外も静まり返り、月の光が照らす部屋で3人仲良く眠っている。
わけではなく、1人の少年は目が覚めていた。
(…眠れねー、普通に考えて眠れるわけねえ)
隣を見ると、ルディを抱き枕にしてすーすー静かに寝息をたてるニナがいる。
黒いキャミソールのネグリジェは、膝下までの丈で寝返りをしてめくれ上がっていた。
「…ったく、ほんと世話が焼けるやつ」
口元にかかった桃色の髪を、骨ばった長い指でそっと退けて、しばらくあどけない寝顔を見ていたのだ。




