06 星紋巡守団の仲間たち
レイル、ニナ、ルディ、カインでテーブルに座って各々に、フルーツがたっぷり乗ったケーキが並べられる。
「お、美味しそう…」
「ニナよだれ出てるって」
ニナの隣に座るレイルは、頬杖をついて呆れた表情だ。今のところ、レイルだけが彼女の胃袋の大きさを知っている。
リーヴェ村では、175cmあるレイルよりも頭1個分は背が小さく、華奢な身体なのにどこに入るのか不思議なくらい食べていた。
「いただきます」
手を合わせてから、フォークで一口分切り取って口に運んだ。
「美味しい…!すごく美味しい初めて食べた」
「それは良かった。いつ見てもニナは美味しそうに食べるな」
「美味しいもの食べるの好きだもん」
顔をうっとりさせ、幸せそうな表情で休むことなく口を動かすニナ。
(フルーツってこんな食べ方があるなんて、お兄ちゃんにも会ったら教えてあげなきゃ)
「いっぱい食べるニナ好きだよ」
「カインさ、ニナをお前がいつも口説いてる女と一緒にすんなって」
「これはマジだったんだけどな」
「それ、いつも言ってるぞお前」
ニナの正面でニナが食べてる姿を見て、満月の瞳は目を細めた。どうやら、カインは大の女の子好きらしく、レイルの様子から、誰にでもやっていると伺える。
「ルディ、お前ケーキ食べれんの?」
「食べれるんじゃが、食べなくても生きていける。そんな身体にされてしまった」
「ああ、それもリーダー帰ってきたら相談だな」
相談事項がたくさんあるレイルは、ため息をまたひとつ吐いた。
いつの間にかケーキを食べ終えていたニナは、満面な笑みを浮かべている。
「どうせまだ足りねえって言うんだろ?俺のも食え」
「さっすがレイル!ありがとう」
レイルからお皿を受け取って、パクパクまた食べるのだった。
「───レイル、珍しく客人を連れているな」
「きゃあ!?」
聞き覚えのない声がして、ニナはお皿をひっくり返しそうになる。
なぜなら、ニナの背後に立つ金色の髪の男は、気配を感じさせずいきなり現れたから。
東方の国では、気配を消して忍ぶ忍者というものがいる。まさに、金髪の男は忍者だ。
茶色い瞳は少々つり目で、両腰には剣が装備されていて、双剣だということがわかる。服装も和服に近く、剣と同じ位置に巾着もつけられていた。
「我はジェット・アルシェルト。驚かせてすまない」
「ううん!あたしニナ、あたしにも後で忍びスキル教えて」
自分が知らないものに興味を示す、好奇心旺盛な性格だ。ニナと双剣を扱うジェットは、非常に相性がいい。
「いいだろう、我の弟子になるか」
「うん!師匠よろしくお願いします」
ジェットは程よく筋肉がついた腕を組み、ニナは彼に向かって敬礼をする。
「ジェット、お前も今任務から帰ってきたのか?」
「レイルのほうが帰りが速いとは、明日は雪でも降るのか?」
「お前らいい加減方向音痴弄るのやめねえ!?」
みんながケラケラ笑っているから、レイルは顔を赤くして拗ねていた。そんなレイルの銀髪の頭を、よしよしとニナは撫でる。
「レイルが拗ねてるから、私がよしよしするね」
「俺はガキか」
「あれ〜?余計顔赤くなっちゃった」
「…~~~───!」
多分これから旅をしたら、今以上にこの世界に無知な少女に振り回されるのだろうと悟った。
こうして、リーダーを待っている間にレイルが普段旅をしている、仲間達と話をして待つのだ。
5人で話してる間にも、依頼を受け出かける人達、帰ってきた人たちが忙しく出入りする。
物珍しそうに仲間に話しかけられるニナは、明るく笑顔で挨拶をして囲まれていた時だった──
両開きの扉が開いて光が差す。1人の人物が立ち逆光になっているが、間違いなく女性のシルエット。
「リーダー、俺に時間くれ」
「レイルか。私もお前たちに至急で頼みたいことがある」
レイルは、すぐにリーダーに駆け寄った。
リーダーは、ニナよりも身長は高く栗色の髪に、鶯の切れ長の瞳。話し方は男前だが、見た目は女神のような美しさで、これを世ではギャップと言うのだろう。
「お前は…見ない顔だな」
「あたしニナ!」
リーダーの切れ長の瞳は、桃色の髪の少女を射抜く。ニナは元気いっぱいに手をあげた。
「リーダー、まずニナをうちの巡守団に登録して欲しいんだ」
「そうかわかった。なら、ニナの登録から行おう」
レイルはニナを受付のカウンターまで連れていき、リーダーはその対面で何やら機械の操作をし始める。
ポンっ───
機械から今ニナが腕につけている、星マークのバンドが出てきたのだ。
「登録が完了した。ニナ、今日から正式に星紋巡守団の一員だ」
「ありがとう!あたし、頑張る」
「お前はいい目をしているな。さあ、これがお前のバンドだ、つけてみろ」
リーダーから差し出されたバンドを、ニナはすぐに受け取らずに腕を組んで、何かを考える様子。
いつもなら『わーい!』とか『やったー!』と言う流れなのに。
「リーダー、そのバンドは絶対にあたしがつけてないとだめ?」
「……?」
「決まりがないなら、あたしは今つけているレイルのがいいな」
「え?」
呆けているレイルを見ながら、バンドにそっと触れた。
レイルのバンドは、汚れや傷があってとても綺麗なものだとは言い難い。
(これまでレイルが頑張ってきた証。それをつけていたら、どんな事でも頑張れそうな気がする)
「特に決まりはないが…新しいほうがいいんじゃないか?」
「ううん、レイルのがいい」
「わかった。なら、レイルがこれを」
リーダーからレイルへとバンドが渡る。受け取ったレイルはそれをニナに渡して言った。
「今度はニナが俺につけてよ」
「いいの?」
「ああ、俺は初心に帰ってニナを加えた新しいチームで任務をこなす」
白雪のように白い手が、ゆっくりとレイルの右腕にバンドを巻いた。
───直後、目の前にいたルディ、カイン、ジェット以外の仲間も2人を囲んで、拍手で歓迎される。
ニナはこれまでにない、幸福を噛み締めていたのだ。
「改めてあたしはニナ!みんな、よろしくね」
周りがつられて笑顔になるような、そんなにっこりとした表情で、星紋巡守団の一員となった少女は挨拶した。
これから共に旅をする少年は、その笑顔を隣で見守っている。ニナにつけてもらったバンドに触れながら…。
(…て、なにか忘れてるような)
「あ!!わりい、リーダー。こいつルディって言うんだけど、ルディも登録頼みたい」
「この犬を?」
(リーダーもそっち側かよ!?…この流れ予想できる)
嫌な流れを悟ったレイルは、片手で額を覆った。何故かって、この後にいつものツッコミが待っているからだ。
「ワシは犬ではない!狼じゃ!」
「お前喋るのか!?しかも犬じゃないだと?」
「もうその流れ勘弁してくれ〜〜!」
予想通りで、建物内にレイルの呆れの絶叫がエコーがかかったかのように響いたのだった。
***
無事にルディも星紋巡守団の登録をし終えて、新たにチームを組んだレイル達は、会議室にいる。
天井は見上げるほど高くて、窓もついているため、日中は日が差してとても明るい。
夜になれば、星が輝き綺麗なことが想像がつく。
会議室も全体的に白くて、部屋の中心には大きな丸い茶色の机が置かれていた。
余裕で10人以上いても問題ないだろう。
そして、入口の反対には金色の彫刻が施された、エレガントな暖炉が置かれている。
「早速話を進めたいところだが…レイルからなにかあるのだろう?」
「まず、俺が行ったリーヴェ村の魔獣は今まで見た事ない種類だった。そして、ルディは黒曜影団で実験体にされていたらしいんだ」
「お前が見たことない魔獣は、気になるな。それよりも黒曜影団?」
リーダーは、『黒曜影団』というワードに眉を顰めた。
「黒曜影団は俺たちが把握できてないだけで、近々大きなものを仕掛けてくる可能性が高い。魔獣も、核以外を壊すと再生される人工的なもの。奴らが関わっていると俺は睨んでる」
あの時、ニナと会っていなければレイルは苦戦していただろう。腹や腕を切り裂いても、瞬時に再生されてしまうから。
「お前大変だったんだな」
「うむ…ニナに拾われてワシはほんとに良かった」
ルディの隣に座っていたカインは、わしゃわしゃと慰めるように頭を撫でた。
その向かい…レイルの隣に座るニナはえへへと笑っている。
「レイルの予想は恐らく的中しているだろう。私が王国に呼び出されたのは、黒曜影団でだからな」
リーダーは、険しい顔のまま話を続けた。
「最近奴らの動きが活発化してきているらしい。お前たちには、明日から南にあるノワール村に行ってくれ」
「我は問題ないが、いきなりだな」
「ノワール村には、黒曜影団の幹部が1人いるらしくてな」
ずっと気配を消しているジェットは、やる気満々で自身の双剣に手を添えている。
普段は無口で、気配を消しているせいか影は薄いが、戦いになると口数がいつより多くなるらしい。
「俺も明日から余裕で行ける。ニナもいるなら余計に」
「同じく俺もだ。ニナ達は大丈夫?」
カインとレイルに、ニナは力強く返事する。拳を握りしめて、今の自分の気持ちに正直に。
「星紋巡守団になって初任務…頑張る。そして、ルディに乱暴したその組織、絶対許さない」
「ニナ、感謝する。ワシもお前を守る」
「決まりだな。ニナ、お前の部屋へ案内するからこの後ついてこい」
リーダーの後にニナとルディはついて行く。部屋は全員1人1部屋用意されていて、2階にあるらしい。
両方に手摺がついて折り返しの階段になっている。
「ここがお前の部屋だ」
「ありがとうリーダー、でも…こんな広い部屋にあたしとルディだけって寂しいね」
「ワシが暖めてやる」
「一緒に寝ようねルディ」
案内された部屋は、肌触りのいいグレーの絨毯に天蓋付きのふかふかなベッド、大きな窓の外はバルコニーがある。
さらには書斎までついていて、同じくらいの部屋に兄とふたりで過ごしてきたニナにとっては、あまりに広すぎる部屋なのだ。




