04 白き狼
「はあ…レイル〜重いよ」
「お前が全部持って行くって言うからだろ」
周りには木しかない道を、レイル達は大荷物を抱えて歩いている。
少し歩いては、休憩しての繰り返しで『はあ…』と2人はため息を吐いていた。
こうなってしまったのは、朝日が森を金色に染める頃──
「じゃあ、また何かあったら星紋巡守団に言ってくれ。また、すぐに助けに来る」
「みんな、元気でね!」
リーヴェ村のみんなにお別れをして、旅立とうとしていた。
そこに、何人もの村人が大きなバッグを2人の前に差し出す。
「ニナちゃん達、どうかこれを持って行って」
「気持ちだけで充分───」
「嬉しい!ありがとう!」
またもや、レイルの横から顔を出して満面な笑みの少女。
「おいニナ、馬車もないのにどうやってこれを持って帰るつもりだ?」
「だって…あたし達のために用意してくれたんだから、持っていこうよ〜」
そんな流れで、用意してくれた野菜や果物に、医療用品が詰まった大きな荷物を持っていくことになった。
言うまでもなく、ほとんど荷物を抱えているのはレイルだ。
アークレイン王国王都に拠点を置く、星紋巡守団までの道のりは、まだまだ遠い。
「あれ?」
森の奥深くを見据えて、目を細めるニナ。
その先には、白い体毛に耳が生えた動物が横たわっている。
「ねえ、レイル!犬が倒れてる…、ちょっと様子を見てくるね」
「あれはどう見ても狼だろー!?」
引き留めようと、大荷物を下ろしたレイルだったが、それを待つことなく狼の所へ向かうニナ。
「俺が行くからお前は下がれ」
「あたし、犬好きだから大丈夫!」
「だから、あれは犬じゃねえって」
(あのバカ…)
肩まで伸びている髪をなびかせながら、走って行く彼女の無鉄砲さは当分慣れそうにない。
後を追うようにレイルも走った。
「犬さん大丈夫?」
倒れていたのはやはり、犬ではなく狼で雪のように白い毛には血痕がついていて、呼吸が少し荒い。
苦しそうで、ひとりで立てる状態でもないのに、琥珀色の瞳は人間は信用できないという『拒絶』の眼差しだ。
そして、それに怯まずに手当をしようとするのが、救急箱を片手に持つお転婆な少女。
「大丈夫…ちょっと痛いかもしれないけど、手当するよ」
「ニナ、離れろ!噛まれたらどうするんだ、俺がやる」
「荷物いっぱい持ってもらっちゃってたから、これくらいはあたしにやらせて」
優しく、落ち着かせるように何度も『大丈夫』と言いながら、ニナは狼の前足に包帯を巻きつける。
「これでよし…っと!」
「まったくお前は無茶ばっかすんなよ」
「あはは、心配してくれてありがとうレイル」
本当はもっと叱るつもりだった少年も、エメラルドの瞳を細めて微笑まれたら、言葉を失ってしまう。
眉間に皺を寄せて顰めながら、『はあ…』っと盛大なため息を吐いた。
「それにしてもこの子、どうしよう…とりあえず名前決めないと」
「……───もしかしなくても、飼う気か?」
「だってこのままにしておくのも、心配だし」
話してる間も、触れるか触れないかの塩梅で、狼の毛並みにそって撫でている。
(犬って触ったことなかったけど…すっごくもふもふ)
「ったく、仕方ねえな。どうせダメって言っても連れてくんだろ?」
「さすがレイル!この子の名前はね、ポチにする」
「うわ、ありきたりだなそれ。俺だったらモフ男にする」
「レイル、方向音痴もだけどネーミングセンスも絶望的にひどいね」
「おいっ!!」
それからも、お互いに名前を出しあって狼の様子を見ていた。
「…うるさい、人間」
「…───」
お互いの声ではなく、第三者の声に警戒をした。そしてすぐに2人は、武器を構えて背中を合わせる。背中は任せた、とでもいうように。
だって…
「お前たちは他の人間とは違うようだ。感謝する」
まさか、ニナが助けた狼が喋るなんて誰も想像つかないから。
「犬が喋った!?」
「犬は喋らねえって!あ、でも狼も喋らねえか」
狼はゆっくりと首を上げて、琥珀色の瞳でニナを見る。
「人間は酷く残酷で嫌いじゃ。でも、汝らに助けられたのは事実…借りを返したい」
「そんなのいいよ〜!ね?レイル」
「ああ、俺たちは困った人たちを助けるのが仕事。そこには人ではなく動物達も入る」
ニナは膝を抱えて、にっこり笑って言った。
「ポチ、私の名前はニナだよ。よろしくね?」
「……娘よ、ポチとはワシのことか?」
「え?うん。」
「ワシは犬ではない!!狼じゃ!名はルディ」
少女はすっと立ち上がって、銀髪の少年に駆け寄る。
「うわーん!犬じゃないって、しかも名前もあるって言ってる」
「だから、犬じゃねえって言ってただろ!?」
(よく今まで一人でやってこれたなこいつ…)
彼女に振り回されて何度目かわからないため息を吐きながら、ニナの頭をよしよしと撫でた。
そして今度は、レイルがルディと名乗る狼と向き合う。
「俺はレイル・ノルドレイク。お前のその傷は魔獣か?」
「ワシは実験体として黒曜影団に囚われていて、脱出時に怪我をした」
「黒曜影団だと!?」
「あたしもお兄ちゃんから、ちょっと聞いたことあるその名前」
黒曜影団はレイルが所属する星紋巡守団にとって、因縁の相手である。
アストリア大陸全体に拠点を置いて、非道なことを行っているのだ。
星紋巡守団は、黒曜影団を倒すために建てられたと言っても過言では無い。
ルディは張り詰めた空気の中、言葉を紡ぐ。
「ワシたちは兵器として改造された。言葉も話せるし、今は怪我で魔力が安定していないが、空だって飛べる」
ニナはゆっくりとルディに歩み寄り、抱きしめた。
「もう…大丈夫。黒曜影団がどんな組織か知らないけど、あたしが守るから」
(動物達をいじめるなんて許せない)
ルディは驚いたように瞬きを数回繰り返す。
酷い扱いを受けた、ルディは同じ人間でもこんなにも心が温かい人がいるんだと感じたのだろう。
「その件は、星紋巡守団に持ち帰りだ。とりあえず帰るぞ」
「うん、ルディ歩ける?あたしがおんぶするからね」
「このくらいの怪我、怪我のうちに入らん。ニナなら背中に乗せられる」
その言葉に、好奇心旺盛の子が聞き逃すはずもない。目を輝かせて、『乗りたい』って分かりやすく顔に書いてある。
「ニナ、乗れ」
「うわああ…!ふかふか、元気になったら空も飛んでね」
「お前は命の恩人、ワシが叶えられるなら全て叶えよう」
幼子のようにはしゃぐ姿を、後ろで荷物を抱えながらレイルは小さく笑った。




