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時還りの姫と光の巡守士  作者: 本郷美弥
第1章 魔獣討伐編
2/8

01 少年と少女


ー15年後 アークレイン王国



アークレイン王国北部に広がる森道を、1人の少年が軽やかな足取りで歩いていた。

陽光の差し込む緑のトンネル、鳥の歌声、葉擦れの音。


一件のどかな景色に見えていても、少年はピンと張り詰めた空気を漂わせている。


絹のような銀色の髪に、輝くサファイアをはめ込んだ瞳はクリっとしていて、通った鼻と薄い唇は、少年の美形を更に強調していた。

それでいて、そのビジュアルには似合わない大剣を背中に背負い、右腕には何かの紋章がついたバンドを巻いているのだ。


彼の名は、レイル・ノルドレイク。

アークレイン王国の星紋巡守団(スタークレクト)所属の若き巡守士である。


「うーん…道合ってるよな?」


レイルは地図を回転させながら首を傾げた。

目的地は、小さな村・リーヴェ村。

魔獣が現れ数名の負傷者が出た、という依頼を受けての巡回任務だ。


「やっぱり、カインも連れてくれば良かったかな…いや、あいつ今日別の任務があったんだ」


レイルは戦いにおいては、優秀でそれなりの成果を出しているものの、ひとつだけ皆が頭を抱えるほどの弱点がある。

それは…度が過ぎる方向音痴。


今日の任務は2日前に急遽決まって、同期であるカインも途中まで方向が一緒だったため、近くまで送り届けられたばっかり。


「…よし!森が見えたから多分合ってる!!」


(獣の匂いもさっきからするしな)


自信満々な顔で歩き続けた、その時だった。

森の奥から、バキバキっと何本もの木が倒される音と、地面が揺れているのは。


レイルは迷わず背負っている大剣に、手を回して戦闘態勢に入る。


「依頼のあった魔獣か…?」


(でも、おかしい。ここには人の気配が全くない)


そう、リーヴェ村からの依頼内容には、村の人々の魔力を狙って暴れていると書いてあったにも関わらず、この周辺には人1人の魔力すら感じない。

魔獣が迫ってくる方向へ、大剣を構えた刹那ー


「うわっ!?」


1人の少女が飛んできて、瞬時に下敷きとなるレイル。

その少女を追うように魔獣は、ゆっくりと木々を薙ぎ払いながら出てきた。


「……あれ?痛くない…?」

「無事か? あとは俺がやるから下がってて」

「わー!ごめん!すぐ退くね」


少女はレイルから離れて立ち上がると、目線を合わすように向き合う。


「でも、あたしも戦えるよ」


少女は肩まで伸びた桃色の髪を揺らし、通った鼻に、ピンク色の唇。そして、透き通ったエメラルドの瞳は、真っ直ぐとレイルを見つめている。片手に短剣を握りしめながら…

レイルの心臓が一度だけ、大きく跳ねた。


次の瞬間──


ガアアアアっ!

魔獣の咆哮が森を揺らす。


咆哮は、強風以上の威力で少しでも気を抜いたら、地面から足が離れてしまいそうになる。

レイルは、反射的に少女の腕を掴み、後方へと引き下がらせた。


「危ないから一旦下がって!」

「大丈夫!」


少女はそのままレイルの脇をすり抜けて、魔獣へと突き進む。


「あ、おい!」


レイルは完全に意表を突かれて出遅れてしまった。

魔獣は、4本の腕と鋭い牙をもつ巨体で、長くて太い尻尾は地面を叩く度に足元が揺れるのだ。


その尻尾が地面についた瞬間に、少女はそれに飛び乗って背中までかけ上がろうとするも、振り払われて飛ばされる。


「きゃああっ!」


飛ばされた方向にレイルは走り、少女が地へ激突しないように受け止めた。


「ほら、言わんこっちゃねえ」

「えへへ」

「笑い事じゃねえっての、ばか」


レイルは抱き抱えてた少女を優しく、下ろしてから今度こそ大剣を構える。


「ねえ、あなた強いの?」

「まあそれなりには」

「じゃあ、あたしが注意を引くからその間に魔獣の背中に上って」

「お前な──」

「あの魔獣には背中に小さな核があるの。それを壊さなければ復活しちゃう」


少女は魔獣の背中に指を指した。


「あれか」

「え、その距離で見えるの?」

「目はいい方なんだ」

「じゃあ、引きつけるからよろしく!」


レイルが返事をする隙も与えずに彼女は、短剣を握りしめ魔獣へと向かっていく。

そして何をするかと思えば、その短剣を魔獣の足へ突き刺したのだ。


「おーいこっちまでおいで〜っ」


少女は気を引きつけるように大きく両手を振ったあと、木々をすり抜けて駆け出した。


(ガキかあいつは)


呆れながら魔獣の背後に移動をして、木から背に飛び移り、レイルは大剣に自分の魔力を込める。

彼の属性は光で、大剣が薄黄色い光を纏って核を引き裂いた。


光刃(ライトカッター)!」


──刹那、魔獣は灰へと変わって蒼天の空へ舞う。


「すごーい!ほんとに強いんだね」

「お前も結構やるじゃん」

「あたし、ニナ」

「俺はレイル。レイル・ノルドレイクで、星紋巡守士」

「だから強いんだ。でも、どうしてこんな何もないところに?」


ニナの問にレイルは、先日星紋巡守団(スタークレクト)のリーダーから渡された依頼書を開いた。


「この先にあるリーヴェ村から魔獣を退治してほしいって依頼があったんだ」

「……」

「ニナ?」

「…っぷ!あはは、リーヴェ村はこっちの方角じゃないよ?」


エメラルドグリーンの瞳には、涙が滲んでお腹を抱えて笑っている。

ニナは、白ベースの襟付きノースリーブに、デニムのミニスカートを合わせた服装で、さっきまでレイルと戦っていたとは思えないほど普通の女の子だ。


自分が夢を見ているんじゃないかと疑うが、彼女の腰を見ると、横向きに短剣が収められていた。


「ええ!俺、仲間に途中まで送り届けてもらったはずなんだけどな」

「いつの間にか東側の森林に来ちゃってたんだね」


(森が見えたからあってるって突き進んだけど、すでに間違えてた…)


レイルはもう一度地図を広げて、ニナに尋ねる。


「この地図だと俺たちの現在地どこかわかる?」

「あたしもリーヴェ村に用があるから良かったら一緒に行こうよ」

「うわ、まじ助かる!ありがとうニナ」

「普通に行ってもここからだと、半日かかるからレイルが1人だったら、1日あってもつかないね?」


(完全に面白がってるし)


2人は並んで森道を歩き出した。しばらくレイルの方向音痴をネタに笑われて。


まだこの出会いの意味が偶然なのか必然なのか分からずに。

アストリア大陸の運命を変える2人が、今はただ並んで歩き始めた。


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