13 王都の魔獣討伐
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王都中央区──────
崩れた瓦礫の上で、魔獣が唸り声をあげていた。
カインの氷魔法のおかげで、卵から魔獣が出てくるのを抑えられているものの、かなりの数が中央区を襲っている。
「レイルが言ってた情報とちげえ魔獣だぞこいつら」
「核とやらがあると言っていたが…見つからない」
レイルがリーヴェ村で討伐した魔獣の情報を頼りに、背の核を破壊しようと攻撃した。
しかし、背に核はなくて、体内で核が移動していることを知らない彼らは、完全に詰み状態だ。
「なら、再生が追いつかないくらい攻撃し続けるまでだ」
「ジェット…この魔獣の数を見てもっぺんその言葉言ってみ?」
ジェットの連続攻撃なら、不可能ではないが、2人を囲む魔獣はざっと数えても20体はいる。
それを、手当り次第に攻撃をしていれば、こちら側が魔力切れ間違いなし。
襲ってくる攻撃を交わしつつ、カインは打開策を練っていると、上空からルディの声がした。
「カイン、ジェット!」
ルディは、魔力感知で毛を逆立たせながら着地する。
「この魔獣たちは核が、体内で移動しておる。じゃが、ワシの魔力感知で体内の核の場所が見える」
「めんどくせーバケモン寄越してきたな、黒曜影団」
「核が移動するよりも先に破壊しなければならないのじゃ。レイルの方は、ニナが奇襲に成功して討伐した」
ルディとカインの話を聞いていたジェットは、1歩前へ出て足に雷を纏わせながら言った。
「ならば我が最適。スピードに特化した技で一気に仕留めよう」
「うむ、じゃがひとつ問題があってな…これだけの数を感知するには、止まっていなければ難しい」
「なら、俺の氷魔法で足を─────」
カインが『封じる』と最後まで言わなかったのは、それよりも強力で適している人物が現れたからだ。
昼間なのに、上空には星が輝く。
「これは心強い助っ人だ」
黒髪に手を添えて少年が呟いた直後、王都上空に魔法陣が展開される。
淡く輝く星が円を描き、力強い声が響いた。
「星魔法────星鎖結界」
魔法陣からは無数の光鎖が、魔獣に絡みついて動きが強制的に制止される。
術者は栗色の髪を揺らし、鶯の切れ長の瞳で戦場を見据えていた。
───それは、星紋巡守団リーダーだ。
星の加護を持つアークレイン王国国王は、星紋巡守団のトップにだけその力を授けている。
星魔法、その名の通り空に輝く数多の星々の魔力で、炎・水・雷・風・地の五大基本属性よりも、加護を受けた力の方が強力なのだ。
ちなみにレイルとカインの属性は、光と氷で、それぞれ特殊属性と派生属性と呼ばれている。
「さすがリーダー、敵に回したくないぜ」
「カイン、無駄口叩いてる場合か」
「はいはい俺もジェットと一緒に核破壊しやすよ。氷刃構築」
カインは、両手を合わせると瞬時に氷で刀を作りながら、リーダーに言う。
「魔力感知できんのが、ルディだけだときつい。伝達魔法を使える、ズノーは帰ってきてんのか?」
『もうすぐ中央区につくダ』
答えたのは、リーダーではなくズノー本人。カインの脳内に話しかけている。
それがズノーの伝達魔法で、仲間であれば直接脳内に話しかけることができるため、偵察や潜入任務で重宝されているのだ。
そして、他者が思っていること、見ていることを、ズノーが仲介して第三者にその情報を共有することが可能。
よって今回は、ルディが感知しているものが、カインたちにも見える。
「お持たせダ。ルディはどこダ?」
「ワシじゃ」
「みんな準備はいいダ?視覚共有」
中央区にいるカイン、ジェット、リーダーはルディが見えている世界が共有された。
「癖強コンビだなお前ら。よし、一斉に攻撃する!」
カインの合図によって、散開し各々が魔獣の核を目掛けて攻撃を仕掛ける。
氷の刃で次々に突き刺し、雷で疾風の如く切り裂いて、トドメは星紋巡守団で最強の女───リーダーだ。
リーダーは両手を掲げて、空に魔法陣を描く。魔法陣は輝きを増した後に、無数の光弾が降り注いだ。
「星落とし」
最強と言われるだけあって、全ての核に光弾が的中した。魔獣は、悲鳴を上げる暇もなく崩れ落ちていく。
「さすが星紋巡守団で最強の魔導士だ。ズノーの視覚共有も完璧だったぜ」
「ありがとダ。ルディも特殊なものを身につけていてびっくりしたダ」
リーダーを囲うように集まったところに、駆け寄ってきた影があった。
「リーダー!」
「無事だったか、レイルとニナ」
2人並んでリーダー達に合流する。ニナが握る短剣には、まだ淡く魔力の名残が揺れていた。
「任務から数日しか経っていないのに、随分と逞しくなったな、ニナ」
「あたしも星紋巡守団の一員だから!怖くても、大切なものを守るために戦うって決めたの」
(中途半端な甘さは仲間に迷惑がかかって、救えるものも救えないから)
リーダーが言う通り、短剣に自身の魔力を纏えるようになった少女は、数日で急成長を遂げている。
それは困っている人を助けたい、という生まれ持った優しい心がニナを強くさせているのだろう。
リーダーは顎に手を添えて、静かに呟いた。
「王都に魔獣を送り込む事など今までなかった。黒曜影団…何が狙いなんだ」
「───星紋巡守団の“兵器”」
「レイル、お前何故それを!?」
黒曜影団の狙いは、リーダーと副リーダーしか本来知らないはずだが、先日のハンスとの戦いでレイル達はその存在を知ってしまっている。
「王都がこんな状態だから後回しだったが、ノワール村で副リーダーと合流した時、黒曜影団の幹部ハンスが口にしていた」
続けてレイルは、眉を寄せながら言う。
「リーダー達が理由あって隠してるんだ。敢えてそれがなんなのか聞かねえけど、このまま王都が危険に晒されるのなら…共有することも考えた方がいいんじゃねえか?」
「…───ああ、そうだな。今すぐには言えないが、いずれお前たちに話しておく必要があるな」
星紋巡守団の“兵器”は、星紋巡守団結成時からリーダーと副リーダーしか知らないもの。
何十人も抱える組織に誰にも知られずに、隠し通してきたものを打ち明けるには、相当の覚悟が必要だ。
それだけ、重要なものであり、黒曜影団にとっても欲しているものらしい。
「ま、今は王都の復旧が優先だな」
「そうだね、ここにレイルと一緒に来る途中も、建物が壊されてたところがあったよ」
重い空気を吹き飛ばすように、カインは1度だけ手を叩いた。
そして、ニナの笑顔が場を和ませる。
ニナが星紋巡守団入団の時に、顔合わせしていなかった人物が近づいた。
「お初にお目にかかるダ。ズノーというよろしくダ」
「あたし、ニナ!こちらこそよろしくだ!」
「…ニナ、そいつの語尾は真似しなくていいんだよ」
先程まで眉間に皺を寄せていたレイルも、ニナの明るさでいつもの表情に戻っている。
呆れながら銀髪の少年は、ニナの頭に軽くチョップしたのだ。




