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時還りの姫と光の巡守士  作者: 本郷美弥
第1章 魔獣討伐編
11/18

10 狙うもの


石畳は黒ずみ、霧が地を這うように漂っている。村人たちは縄で縛られ、広場の端にひとまとめにされていた。


その中央に、スキンヘッドに三つ巴のマークを刻んだ男が、傷だらけの男を痛ぶっているのである。


───星紋巡守団(スターレクト)、副リーダーだ。


星紋巡守団(スタークレクト)で、屈指の武闘派であり、数々の死線を超えてきた男。


「……ちっ」


乾いた血が口元にこびりつき、赤い衣服はもはや原型を留めていない。

殴られ、蹴られ、それでも男は顔をあげなかった。


目の前に立つのは、口端を上げながら笑う黒曜影団(オブシディアンコーズ)の幹部。


長身で、鍛え上げた筋肉を見せつけるような黒いタンクトップだ。

そして、自分より立場の弱い人間は部下でも、見下し躊躇いなく殴る。そんな非情な男。


「このハンス様が優しく聞いてやってんのに、まだ言わないのか?」


低く、ガサガサの声が問いかけた。


星紋巡守団(スタークレクト)が隠している“兵器(カギ)”の在り処をお前が知らないはずがないだろう?」

「ふん…なんの事だか」


副リーダーは、表情を変えずにとぼけるも、内心は焦っているのだ。


(星紋巡守団(スタークレクト)でもリーダーと俺しか知らねえことを何故こいつらが知ってる…?)


次の瞬間───

拳が容赦なく腹に叩き込まれる。


「───ぐっ……!」


鈍い音が響き、副リーダーの身体が前のめりに崩れかけた。…それでも、歯を食いしばり、口を割ろうとはしなかったのだ。


「お前を拷問にかけたところで、口を割らないのはよーくわかった」


幹部であるハンスは、先程より濃い笑みを浮かべて、ゆっくりと視線を村人に向けた。


「だから今度は、お前が話すまでこいつらで遊ぶとしよう」

「…っ!やめろ、関係ないだろ」

「なら、お前が兵器(カギ)の在り処を言え」


ハンスは利き手である右手の拳に力を入れて、雷の魔力を溜める。


「そこの女からにしようか」

「い、いや…」


目から涙が溢れて、ガクガクと震える女性の前にゆっくりと歩んだ。

女子供関わらず、目的のためなら手段を選ばないのが、ハンスのような人物が属する黒曜影団(オブシディアンコーズ)である。


(くそ…っ!まずいこのままだと)


覚悟を決めて、男の望む答えを言おうとした時だった───


「副リーダー!俺達も知らねえ情報を簡単に話そうとしてんじゃねー!光波撃(ライトウェイブ)


羽のない動物に乗った見覚えがありすぎる銀髪の少年が、上空から斬撃と同時にハンスへ光の衝撃波を放ち、吹き飛ばしたのだ。


「ハンス様ー!」

「何奴だ!」

「はやく仕留めろ」


黒曜影団(オブシディアンコーズ)側が混乱している隙に、東側からは村人達を守るように氷の壁が覆う。


氷壁展開(アイスウォール)

雷瞬連斬(ボルトラッシュ)


さらに、ジェットの双剣が閃光となって、敵陣を切り裂いていった。

派手にレイル、カイン、ジェットが動き回っている間に、小さな影が副リーダーの背後に駆け寄る。


「初めまして、今助けるね」

「また威勢のいいガキが入ってきたな」


フッと副リーダーは嬉しそうに笑った。ニナは、短剣で後ろ手に縛られていた縄を断ち切り、解放する。


自由になった副リーダーは、肩を回しながら指をゴキゴキ鳴らして、更にはボロボロの衣服を脱ぎ捨てたのだ。

そして、それを見ていた少女に言った。


「助かった、俺はレイルの方へ加勢に行く」

「あたしはこのまま村人立ちを解放するね」


お互いが反対背を向け、やるべき事のために駆け出す。



◇◇◇◇



レイルの奇襲によって、吹き飛ばされ壁にめり込んだ男は、額に青筋を浮かべている。


星紋巡守団(スタークレクト)…!よくもこの俺に傷つけてくれたな」

「そのセリフ、そっくりそのまま返す」


大剣に光を纏いながら、レイルはハンスに近づく。その背後からまた1人の男が来た。


「まさかお前に助けられる日が来るとはな。我が道いくガキだったレイル」

「うるせえ、今そんな話すんなよ」

「がはは、それもそうか!俺はそいつに散々殴られたんだ。その分仕返ししないと気が済まねえ」


副リーダーは、銀髪の少年の背中を見て感慨深く感じ、昔の記憶を少しだけ思い出している。


初めて副リーダーとレイルが出会ったのは、星紋巡守団(スタークレクト)が設立して間もない時。

戦う術を持っていない子供で、思ったらすぐ行動し周りを巻き込み、困らせる少年だったのだ。


(そのガキが今では、仲間に頼られ星紋巡守団(スタークレクト)のトップ3に入る強さだもんな)


「副リーダー!やらなきゃ俺が先に行くからな」

「あ、おい!」


銀髪の少年に続いて副リーダーも、ハンスに攻撃を仕掛けた。


剛力崩拳(ブレイクフィスト)!」


副リーダーは、武器を持たず素手での超近距離戦を得意とする武闘派だ。

拳に魔力を一点集中させて放つ崩拳は、金剛力のようで一撃でも食らったら、骨まで砕く威力。


「ふざけやがって…!」


ハンスは雷の鎧を纏って、レイル達に立ち向かうも、レイルの大剣によって攻撃は防がれた。


ハンスの戦闘値は、黒曜影団(オブシディアンコーズ)の幹部の中でもそれほど高くはない。よって、この戦いはハンスにとって負け戦である。


「ちっ、1人でも道ずれにしてやる」


そうハンスは言うと、手の中には煙玉が握られていて、それを地面に打ちつける。ただでさえ、霧が濃く見づらいのに、更に白い煙がレイル達の視界を奪い、完全に雷の鎧を纏う男を見失ったのだ。


「待ちやがれハンス!」


レイルの声は、カインやジェットが戦う喧騒にかき消されるのである。



***



一方、副リーダーがレイルと共に戦っている頃。


「ニナ!作戦成功だな」

「うん、無事に副リーダーを助けられたよ。カインと師匠のおかげだね」

「弟子よ、安心するのはまだ早い」


副リーダーを解放した後に、カインとジェットは敵をなぎ倒しながら、ニナの元へと駆け寄った。


ジェットが言う通り、敵自体はカイン達が苦戦する相手ではないが、相手の回復魔導師(ヒーラー)だけかなり優秀なのだ。


「あの後ろのやつをどうにかしねえと、相手はゾンビ戦だぞ」

「我の範囲攻撃であれば、回復魔導師(ヒーラー)も一気に倒せるが…」


2人はある場所を向けながら言った。


範囲攻撃をすると、まだ解放しきれてない人や、範囲外に移動できていない人達が大勢いる。


相手は、お構い無しに村人を巻き込んで攻撃を仕掛けてくるため、それを守りながら戦う2人はいつもより苦戦を強いられている状態だ。


その時、レイルを乗せていたルディがニナ達の所へ滑空しながら言う。


「子供や老人はワシの背中に乗せられる」

「ルディ、背中には何人乗せられる?」

「子供なら3人、大人は2人までじゃな」

「わかった!カイン、師匠。もう少しだけ時間を稼いでほしい。ここはあたし達で何とかする」


(走れないおじいちゃんおばあちゃんを手助けしながらだと、かなり時間がかかるけど、ルディがいるならだいぶ短縮される)


ニナの言葉に2人は頷いて、敵を引きつけるように散開していった。


「あたしはまだ解放していない人たちを助けるから、ルディは走れない人たちをジェットの攻撃範囲外まで運んで」

「うむ、了解した」


ルディも再び滑空し、大人達を背に乗せて運ぶ往復をする。


「走れる人は急いであっちに逃げて!」


ニナは、短剣で村人の縄を切って誘導している時だった──

背後にレイル達が戦っているはずの男が、いつの間にかいたのは。


「弱そうなお前から犠牲になってもらう」



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