10 狙うもの
石畳は黒ずみ、霧が地を這うように漂っている。村人たちは縄で縛られ、広場の端にひとまとめにされていた。
その中央に、スキンヘッドに三つ巴のマークを刻んだ男が、傷だらけの男を痛ぶっているのである。
───星紋巡守団、副リーダーだ。
星紋巡守団で、屈指の武闘派であり、数々の死線を超えてきた男。
「……ちっ」
乾いた血が口元にこびりつき、赤い衣服はもはや原型を留めていない。
殴られ、蹴られ、それでも男は顔をあげなかった。
目の前に立つのは、口端を上げながら笑う黒曜影団の幹部。
長身で、鍛え上げた筋肉を見せつけるような黒いタンクトップだ。
そして、自分より立場の弱い人間は部下でも、見下し躊躇いなく殴る。そんな非情な男。
「このハンス様が優しく聞いてやってんのに、まだ言わないのか?」
低く、ガサガサの声が問いかけた。
「星紋巡守団が隠している“兵器”の在り処をお前が知らないはずがないだろう?」
「ふん…なんの事だか」
副リーダーは、表情を変えずにとぼけるも、内心は焦っているのだ。
(星紋巡守団でもリーダーと俺しか知らねえことを何故こいつらが知ってる…?)
次の瞬間───
拳が容赦なく腹に叩き込まれる。
「───ぐっ……!」
鈍い音が響き、副リーダーの身体が前のめりに崩れかけた。…それでも、歯を食いしばり、口を割ろうとはしなかったのだ。
「お前を拷問にかけたところで、口を割らないのはよーくわかった」
幹部であるハンスは、先程より濃い笑みを浮かべて、ゆっくりと視線を村人に向けた。
「だから今度は、お前が話すまでこいつらで遊ぶとしよう」
「…っ!やめろ、関係ないだろ」
「なら、お前が兵器の在り処を言え」
ハンスは利き手である右手の拳に力を入れて、雷の魔力を溜める。
「そこの女からにしようか」
「い、いや…」
目から涙が溢れて、ガクガクと震える女性の前にゆっくりと歩んだ。
女子供関わらず、目的のためなら手段を選ばないのが、ハンスのような人物が属する黒曜影団である。
(くそ…っ!まずいこのままだと)
覚悟を決めて、男の望む答えを言おうとした時だった───
「副リーダー!俺達も知らねえ情報を簡単に話そうとしてんじゃねー!光波撃」
羽のない動物に乗った見覚えがありすぎる銀髪の少年が、上空から斬撃と同時にハンスへ光の衝撃波を放ち、吹き飛ばしたのだ。
「ハンス様ー!」
「何奴だ!」
「はやく仕留めろ」
黒曜影団側が混乱している隙に、東側からは村人達を守るように氷の壁が覆う。
「氷壁展開」
「雷瞬連斬」
さらに、ジェットの双剣が閃光となって、敵陣を切り裂いていった。
派手にレイル、カイン、ジェットが動き回っている間に、小さな影が副リーダーの背後に駆け寄る。
「初めまして、今助けるね」
「また威勢のいいガキが入ってきたな」
フッと副リーダーは嬉しそうに笑った。ニナは、短剣で後ろ手に縛られていた縄を断ち切り、解放する。
自由になった副リーダーは、肩を回しながら指をゴキゴキ鳴らして、更にはボロボロの衣服を脱ぎ捨てたのだ。
そして、それを見ていた少女に言った。
「助かった、俺はレイルの方へ加勢に行く」
「あたしはこのまま村人立ちを解放するね」
お互いが反対背を向け、やるべき事のために駆け出す。
◇◇◇◇
レイルの奇襲によって、吹き飛ばされ壁にめり込んだ男は、額に青筋を浮かべている。
「星紋巡守団…!よくもこの俺に傷つけてくれたな」
「そのセリフ、そっくりそのまま返す」
大剣に光を纏いながら、レイルはハンスに近づく。その背後からまた1人の男が来た。
「まさかお前に助けられる日が来るとはな。我が道いくガキだったレイル」
「うるせえ、今そんな話すんなよ」
「がはは、それもそうか!俺はそいつに散々殴られたんだ。その分仕返ししないと気が済まねえ」
副リーダーは、銀髪の少年の背中を見て感慨深く感じ、昔の記憶を少しだけ思い出している。
初めて副リーダーとレイルが出会ったのは、星紋巡守団が設立して間もない時。
戦う術を持っていない子供で、思ったらすぐ行動し周りを巻き込み、困らせる少年だったのだ。
(そのガキが今では、仲間に頼られ星紋巡守団のトップ3に入る強さだもんな)
「副リーダー!やらなきゃ俺が先に行くからな」
「あ、おい!」
銀髪の少年に続いて副リーダーも、ハンスに攻撃を仕掛けた。
「剛力崩拳!」
副リーダーは、武器を持たず素手での超近距離戦を得意とする武闘派だ。
拳に魔力を一点集中させて放つ崩拳は、金剛力のようで一撃でも食らったら、骨まで砕く威力。
「ふざけやがって…!」
ハンスは雷の鎧を纏って、レイル達に立ち向かうも、レイルの大剣によって攻撃は防がれた。
ハンスの戦闘値は、黒曜影団の幹部の中でもそれほど高くはない。よって、この戦いはハンスにとって負け戦である。
「ちっ、1人でも道ずれにしてやる」
そうハンスは言うと、手の中には煙玉が握られていて、それを地面に打ちつける。ただでさえ、霧が濃く見づらいのに、更に白い煙がレイル達の視界を奪い、完全に雷の鎧を纏う男を見失ったのだ。
「待ちやがれハンス!」
レイルの声は、カインやジェットが戦う喧騒にかき消されるのである。
***
一方、副リーダーがレイルと共に戦っている頃。
「ニナ!作戦成功だな」
「うん、無事に副リーダーを助けられたよ。カインと師匠のおかげだね」
「弟子よ、安心するのはまだ早い」
副リーダーを解放した後に、カインとジェットは敵をなぎ倒しながら、ニナの元へと駆け寄った。
ジェットが言う通り、敵自体はカイン達が苦戦する相手ではないが、相手の回復魔導師だけかなり優秀なのだ。
「あの後ろのやつをどうにかしねえと、相手はゾンビ戦だぞ」
「我の範囲攻撃であれば、回復魔導師も一気に倒せるが…」
2人はある場所を向けながら言った。
範囲攻撃をすると、まだ解放しきれてない人や、範囲外に移動できていない人達が大勢いる。
相手は、お構い無しに村人を巻き込んで攻撃を仕掛けてくるため、それを守りながら戦う2人はいつもより苦戦を強いられている状態だ。
その時、レイルを乗せていたルディがニナ達の所へ滑空しながら言う。
「子供や老人はワシの背中に乗せられる」
「ルディ、背中には何人乗せられる?」
「子供なら3人、大人は2人までじゃな」
「わかった!カイン、師匠。もう少しだけ時間を稼いでほしい。ここはあたし達で何とかする」
(走れないおじいちゃんおばあちゃんを手助けしながらだと、かなり時間がかかるけど、ルディがいるならだいぶ短縮される)
ニナの言葉に2人は頷いて、敵を引きつけるように散開していった。
「あたしはまだ解放していない人たちを助けるから、ルディは走れない人たちをジェットの攻撃範囲外まで運んで」
「うむ、了解した」
ルディも再び滑空し、大人達を背に乗せて運ぶ往復をする。
「走れる人は急いであっちに逃げて!」
ニナは、短剣で村人の縄を切って誘導している時だった──
背後にレイル達が戦っているはずの男が、いつの間にかいたのは。
「弱そうなお前から犠牲になってもらう」




