第98話 地下に輝く月
拳を振り上げた姿勢のゴールド司教が、スピードをあげてグレンへと迫ってくる。大剣を右肩にかついでふらふらと体をゆらしていたグレンがわずかな間だけ止まった。その瞬間にゴールド司教の視線にグレンの顔がわずかに見えた。彼の口元はゆるみ余裕の笑みを浮かべていた。
さきほど殴りつけた時の結果に自信を持っていたゴールド司教は、余裕の表情を浮かべるグレンを不快に思い眉間にシワを寄せてにらみつける。
「死ねえええええ!!!! クソガキ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
グレンとの距離が一メートルまで詰めた、ゴールド司教はぐっと拳をより強く握って腕を前に突き出した。空気を切り裂きながらグレンの顔面を潰そうと拳が迫ってくる。顔をあげ向かってくるゴールド司教をジッと見つめ、グレンはゆらゆらと体を左右に動かしていた。
左へグレンの上半身がわずかにゆれた直後…… スッ足をするようにしてグレンは左足を前に出した。体が前進すると同時に彼は右腕を動かし向かって来る拳に向け大剣を振り上げる。
呆然とクレアがグレンを見つめている。彼女以外にとらえられない彼の大剣は鋭く伸びゴールド司教が繰り出す拳を迎え撃つ。
グレンの剣とゴールド司教の拳が二度目の激突を迎えた。大きな音が響きグレンの腕が重くなり、右手の指にしびれるような感覚が伝わる。ゴールド司教の拳にグレンの大剣がめり込んでいく。
ぶつかった姿勢で二人は一瞬だけ止まる。剣を振り上げた姿勢のグレンと、拳を突き出した体勢のゴールド司教が対峙する。ニヤリと笑ったゴールド司教だった。さきほどはここからグレンの剣をゴールド司教の拳が弾き返し……
「いっ!?!?!?!?!?!?」
しかし、ピキピキと音を立ててゴールド司教の拳にヒビが入る。パキーンというガラスが割れるような音がしてゴールド司教の拳が砕かれた。焦げてすすで黒い拳が砕かれ、細かい破片になって宙を舞う。
直後にグレンの剣とぶつかりあった衝撃がゴールド司教を襲う。ゴールド司教の体は衝撃で押されたように後ずさりして足がもつれて腰から落ちたゴールド司教は尻もちをついたような姿勢になった。
「なっなぜだ!? さっきは私の力が……」
ゴールド司教は悔しそうな顔でグレンを見ている。足を斬られたときもそうだが、銀の体となったゴールド司教は痛みに鈍くなっているようだ。大剣を振り上げた姿勢のままでグレンはゴールド司教に見向きもしない。グレンはまるでこうなると初めからわかっていたような態度だった。
彼の態度に見下されていると感じたゴールド司教は屈辱を覚える。すぐに魔法で体を浮かせて立ち上がり、グレンを睨みつけゴールド司教は眉間にシワを寄せた。
「クソがああああ! 舐めるな! クソガキが!!!!!!!!」
叫びながらゴールド司教が右腕を横に伸ばす。砕かれた拳の先端から触手が伸びていく。腕の先端から伸びた触手うねうねと動き先が細くなるように丸まっていく。触手は先端から後方へも伸び前腕を覆う。前腕を覆って先が円錐形へと丸まっていった触手は徐々に平たく細くなってり鋭い刃へと変化していく。
剣のようになった右腕を見て、舌を出してにやりと笑ったゴールド司教はグレンへと向かって飛んで行く。
「!!??」
グレンへと向かって来ていたゴールド司教は、彼の手前で急旋回して向きを変えクレアへと向かっていく。
「女あああああ!!!! まずはお前だあああ!!!!!」
丸腰のクレアを狙うゴールド司教、飛びながら彼は刃となった右腕を彼女に向けた。鋭く伸びた刃でゴールド司教はクレアを串刺しにするつもりだ。
グレンの表情が変わる。目を大きく見開き目の奥が赤く光らせ彼は小さな声でつぶやく。
「もう義姉ちゃんには指一本触れさせない…… 絶対に!!!」
つぶやいたグレンはスッと左手を前にだした。彼の左手が黄金のように輝き教会の鐘が激しく鳴り響いた。
「なっ!? なんじゃこれは!?」
二人が飛び下りてきた天井にある鐘へと続く、扉かいくつもの光輝く小さな三日月が降って来た。三日月は高速で飛びゴールド司教に追いつき光を放つ。三日月が放つ光は強烈で瞬時に周囲の天井へ壁などが光に照らされて真っ白に染まる。
「うわ!? クソ!」
三日月の強烈な光に目の前が真っ白になり、目がくらんだゴールド司教は止まった。首を横に振った彼は目を押さえたりしている。
「ぐわああああああああああああああああ!!! クソが!!」
飛んでいた三日月がゴールド司教へとぶつかる。薄く鋭く刃のようになっている三日月はブーメランのように回転しながらゴールド司教の手足や体を切りつけた。
「ちょこまかと!!! この!!!」
右手を振り回し三日月を散らすゴールド司教だった。三日月は舞いながらゴールド司教の手から逃れ、クレアの元へと移動していきた。
「これって…… 月菜葉ですよね」
飛んで来た三日月を見てクレアがつぶやく。クレアの周囲に黄金に光輝く、月菜葉が彼女を守るようにして浮かぶ。そう天井から舞い降りた三日月は義弟と一緒に修道院の裏の畑で見た月菜葉だった。
「なんでしょう…… この光…… 元気が沸いてきます」
月菜葉は優しい光でクレアを包んでおり、彼女は傷ついた自分の体がゆっくりと回復していくのを感じた。
「キャッ!! えっ!? グッグレン君……」
クレアの視界が真っ白になった、再び三日月が激しく光ったのだ。光がおさまると浮かぶ月菜葉越しに、大剣を担ぎ自分を守るように立つ黄色のオーラを纏ったグレンの背中がクレアに見えた。大きくてたくましい彼の背中を見るクレアの表情は自然とほころび目は潤んで輝くのだった。
「クソ!!!! 代わりに貴様が死ねええええ! クソガキが!!!!」
急に現れたグレンをゴールド司教は驚いたが、もう後に引けない彼は自分を鼓舞するようにグレンを罵倒して右手を大きく引き剣となった剣先をグレンへと向ける。
静かに大剣を肩に担ぎ体を揺らしながら立つグレン、うねりをあげ空気を切り裂き鋭く尖ったゴールド司教の腕が彼の喉元を狙って伸びて来る。
ゴールド司教の腕が届く直前にグレンは、音もなく静かに左足を引き体を横に向け同時に右腕を広げるようにして大剣を肩から下す。彼の胸をかすめるようにしてゴールド司教の腕が通り過ぎていった。
右手に持った大剣をグレンは振り上げた。体をゆらしゆったりとした動作から繰り出された大剣は瞬時に速度をあげて鋭くゴールド司教の腕へと迫っていった。
「がっ!!!!!!!!!!!!!!!??????????????」
硬い感触がわずかにグレンに伝わった。グレンの大剣はゴールド司教の腕をいとも簡単に切り裂いた。
今度は右肘の下付近からゴールド司教の腕は切り落とされ、回転しながら飛んでいった右腕は壁に突き刺さる。
グレンは前を向きそのままゴールド司教と入れ違いやつの背後へ。入れ違いながら手首を返したグレンは大剣に左手を添え両手で振りかぶる。そのまま彼はゴールド司教の背後へ体を向けると、両手に力を込め大剣を素早く振り下ろした。
「ぐわあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
大きな音が響く。グレンの大剣がゴールド司教の背中を斬りつけた。ゴールド司教の体は硬く大剣は彼の背中を斬りつけることはなかったが、鈍器で叩かれたような衝撃に襲われた。背中から押されるような衝撃を受けた、ゴールド司教は吹き飛ばされ床に叩きつけられた。グレンから五メートルほど離れた床に叩きつけられ、衝撃で顔をしかめたゴールド司教はすぐに立ち上がろうと左手をついた。
大剣を振り切った姿勢だったグレンは、大剣から左手をはなし一本で持って肩に担いだ。彼は立ち上がろうとするゴールド司教の背中に向け口を開ける。
「俺の大事な義姉ちゃんに触るんじゃねえ!!!!! クソジジイ!」
黄色いオーラを纏い上半身をゆらゆらと揺らしながら、グレンは倒れたゴールド司教を睨み怒鳴りつけた。
「ガキが舐めおって!!!」
悔しそうな顔で左手をつきゴールド司教は起き上がった。振り向いた彼はグレンを睨みつけ彼に向かって走り出すのだった。