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第96話 銀の悪魔再び

 懐から手を出したゴールド司教には赤い液体の入った瓶が握られている。グレンは彼が取り出した液体が、なにかわからずすぐに動けるように身構えた。

 素早く瓶の蓋を開けたゴールド司教は中の液体を飲み干した。


「はははっ! 君達が”天使の涙”だろうが始末してしまえば問題ないんだよ! どうせ”天使の涙”は教会が関与しない非合法の手段だからな!」


 慌てて液体を口に含んだせいで飲み切れなかったのか、ゴールド司教は口角から少量の液体を流しながら叫ぶ。


「ほう? そりゃあ賢明な判断だ。俺たちを始末するってことを除いてだけどな。お前にそれが出来るのか?」


 笑ってグレンは腕を伸ばし剣先をゴールド司教に向けてまた歩き出した。


「なめるな! 小僧が! がっはっ!」


 苦しそうに喉を押さえたゴールド司教、彼の体から黒い煙が出て体を包んでいく。


「なっなんだ!?」

「アガガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」


 祭壇の上に立つゴールド司教は煙に包まれ、見えなくなり聖堂には彼の声がだけが聞こえていた。目の前に光景にグレンは立ち止まり、呆然と煙に包まれたゴールド司教を見つめていた。

 祭壇の奥に輝くステンドガラスまで黒く染めた…… 少ししてから煙は徐々に薄くなっていく。


「あれは…… 白銀兵(はくぎんへい)…… いやでも顔が……」


 煙の中からゴールド司教が姿を現した。ゴールド司教の体は頭部以外の皮膚が銀色に変化し、身長は三メートルほどに巨大化していた。腕や足は筋肉が盛り上がり上半身は裸で下半身も腰回りの部分だけ残していた。ジェーンが彼の姿を見て口元を緩ませた。


「はははっ! 力だ! 力が溢れて来る!」


 両腕を曲げて笑いがながら自分の体を眺めるゴールド司教だった。満足そうにうなずいたゴールド司教は、棒立ちで彼を見つめるグレンに目をやった。


「まずはそこの生意気な小僧を捻り潰してやる!」


 ゴールド司教は駆け出した。膨れ上がった彼の体の重さ、と強靭な力で祭壇の床がへこむ。


「クソ!」


 ゴールド司教は一気に彼との距離を一気に詰めた。右の拳でゴールド司教は横からグレンを殴りつけてきた。

 予想以上にゴールド司教の動きが速く不意をつかれたグレンだったが、なんとか反応し彼は体を左斜めに向け必死にゴールド司教の拳に向かった大剣を振り下ろす。


「しねえええ! クソガキがああああああああああああああ!!!!!!」

「黙れ!!!!! クソじじい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 拳を剣で迎えうつグレンと鬼のような形相で殴るゴールド司教…… グレンの剣とゴールド司教の拳がぶつかりあい、大きな音が修道院にこだまする。ゴールドの司教の指にグレンの剣がめり込んでいった。


「うわわあああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 しかし、ゴールド司教の拳の威力はグレンの想定をはるかに超えていた。ゴールド司教の拳はグレンの剣を彼ごと弾き返したのだ。

 ほぼ真横に吹き飛ばされた、グレンは聖堂の横にある壁にぶつかり、衝撃で修道院が揺れまた大きな音が響く。彼の背中に激しい衝撃と痛みが走る。グレンの体を中止に壁がほぼ円形にめり込み、衝撃で天井が崩れて砂埃が舞う。激痛が全身に走り頭を強く打った、グレンは体が強く揺れる感覚に襲われる。意識が徐々に遠のき彼の視界は静かに暗くなっていく。


「あっあああ……」


 壁からずり落ちたグレンは壁を背に座りこんでしまった。目から赤い光と体からオーラは消え獣化全解放ビーストモードプリズンブレイクが解かれていた。弾かれたグレンの大剣が彼の目の前に落ちてきて床に突き刺さった。

 座ったままグレンは静かに頭を垂れ頭から流れ出た血が頬を伝ってポタポタと床に落ちていく。


「グレン君!」


 大剣に構えて駆け出そうとしたクレア。だが…… 彼女の前にジェーンが立ちふさがった。メガネの縁を直してクレアに声をかける。


「あなたの相手はわたくしですわ……」

「……」


 クレアはジェーンの言葉を聞いてないのか、黙ったままジッとグレンが飛んでいった壁を見つめている。


「わたくしを無視するなんていい度胸…… ガハッ!?」


 ジェーンは左肩に激しい衝撃が受け体がのけぞり後ろに吹き飛ばされそうになる。彼女の肩をクレアの大剣が貫いたのだが。大剣から床に滴り落ちる血を見てクレアは真顔でジェーンを睨みつけた。


「どいて……」


 真顔でつぶやくクレアをジェーンは苦痛に顔を歪めたまま睨みつけていた。


「いやよ!」


 ジェーンは右手でクレアの大剣をつかむ。直後に彼女は顔が真っ赤に染まり、耳の上に羊のような丸い角を生やした魔族へと姿を変えた。

 服装も軽装で胸と腰だけの水着のような鎧を着た格好に変わった。ジェーンの正体は魔族だった。剣を突き出したままクレアはうつむいている。ジェーンは自分の姿にクレアが動揺していると勝ち誇りわずかに口元が緩む……


「どけえええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!」


 顔を上げたクレアは真顔でジェーンを怒鳴りつけた。そのままクレアは右腕に力を込めて、大剣を強引に押し込む。押し込まれた大剣により肉がさけ貫かれた骨が大剣とぶつかり、ジェーンの体の中でゴリゴリと音を立てる。


「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

!!!!!!!!!!!!」


 激痛に声をあげるジェーン、彼女は大剣に押されるようにした後ずさりする。クレアは苦しむジェーンの声など聞く気もなく腕を伸ばし大剣を押し込み上へと振り上げた。ブチッと言う音がしてジェーンの肩の肉が乱雑に引き裂かれた。苦痛の表情を浮かべて右手で肩を押さえ、ジェーンが膝をついてうずくまった。クレアはうずくまるジェーンを無視して、何事もなかったかのようにグレンの元へ向かって飛んでいく。座って頭をもたげているグレンを抱きしめようとクレアは両手を広げた。

 だが…… 高速で飛ぶ彼女の上に大きな影が。振り向いたクレアの視線にニヤリと笑うゴールド司教の顔が見えた。


「ゴールド司教!? なんで私の速度に…… キャッ!?」


 拳を振り上げたゴールド司教は空を飛ぶ。床に叩きつけらたクレアだった。叩きつけられて衝撃で大剣が彼女の手から落ちて地面を滑っていった。すぐに立ち上がろうとクレアは両手をつく。


「くっ!? どうして…… 私が…… キャッ!」


 起き上がろうとしたクレアだったが、背中に激しい衝撃を受け地面に押し付けられてしまう。彼女の背中をゴールド司教が踏みつけたのだ。

 地面に体を押し付けられ顔を歪めるクレア。ゴールド司教は自らの足の下で苦しむ彼女を見てうっすらと笑みを浮かべた。


「さすが…… 教会の禁忌…… イプラージじゃわい。この肉体…… 若返ったようじゃ…… ほほほ」

「イッイプラージですって……」

「そう。聖人アルファーブルが定めし薬師学術法第十六禁忌薬イプラージ…… なぜこのような素晴らしい薬を教会は禁止にしたか謎じゃな。まぁよい。おかげでワシは楽しめそうじゃし…… なっ!!!!」


 踏みつけているクレアに笑顔を向け、ゴールド司教は足に力を込め地面へと押し込んでいく。


「あっ!? あああああ…… あああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 クレアは苦しそうな声をあげ聖堂に響く。


「ねっ…… ね…… ねえ……」


 壁に叩きつけられたグレン、遠くなっていく意識の中で彼女の声がわずかに届いた。大事な大事な義姉の苦しむ声は、遠くなっていくグレンを現実に引き戻していく……

 顔をあげたグレンの目に数メートル離れた先で、ゴールド司教にふまれているクレアの姿が見えた。


「や…… ぐあ!!」


 必死に立ち上がろうと右手を床に付くグレン、しかし力を込めた途端に背中に激しい痛みが走り動きが止まり声をあげた。イプラージによって強化されたゴールド司教の放った一撃はすさまじく、一度の攻撃でグレンを戦闘不能にまで追い込んでいた。


「ああああああ!!!!」


 彼のかすかに届くクレアの声…… 大事な義姉の悲痛な声に彼は激痛を我慢し必死に立ち上がろうとする。だが、折れているか右手にしっかりと力は入らず、背中が痛み足腰が思うように動かない。意識が飛びそうになりぼやけるグレンの視界に床に刺さった月樹大剣(ムーンフォレスト)が映る。彼は必死に大剣をつかまおうと左手を伸ばす。


「チッ! 目が……」


 頭を強くうったことにより視界が揺れさらにぼやけ、グレンの伸ばした左手は大剣をうまくつかめずに空振りする。


「!?」


 左手を大剣の元へと何度も伸ばすグレンが何かに気づいた。遠のく意識が見せる幻覚か彼の狭まっていく視界にわずかに見える左の手のひらに黄色の小さな小さな光が見えたのだ。いつもならアンバーグローブには宝石フェアリーアンバーが装着されており光の加減で光ることは珍しくはない。ただ…… ムーンライトを月樹大剣(ムーンフォレスト)へと変形させるため、フェアリーアンバーは外されているのだ。今、アンバーグローブには何も入っていない。いや…… 正確には修道院の畑で取った月菜葉が入っている。


「そうだ…… 月菜葉を…… 外傷でも多少は効くはず……」


 グレンは光を見てアンバーグローブにしまった月菜葉を思い出した。月菜葉は目の薬の材料となる、グレンは左手を口元に持って行きアンバーグローブの端を口を掴んで外そうと……


「うわ!? まっまぶしい……」


 わずかに開いたアンバーグローブの隙間から、強烈な黄色の光が放たれグレンの顔を照らす。


「なんだよ…… これ…… でも」


 光に照らされたグレンはなんとも言えない心地良さを感じたのだった。

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