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第95話 悪魔が来たりて鐘をうつ

 地下修道院の聖堂。聖堂は広く長方形で壁から一メートルほどのにアーチ状の柱がつらなり、奥の祭壇の裏に壇上に掲げられた聖女の象を照らすようにステンドグラスが配置されている。

 天井に穴の開いた四角い板がはめ込まれており、穴から紐が床から一メートル五十センチくらいところまで垂れている。板の向こうは尖塔に通じており、紐を引っ張ると修道院の鐘がなるようになっている。この聖堂は魔物に襲われる以前は町の人々に祈りの場として解放されていた。

 ゴールド司教は祭壇の前に立って満足そうに聖堂の中心を見つめていた。彼の視線の先には…… 椅子が撤去されたガランとした聖堂のちょうど中央に、木で作られた組まれた柱が五本ほど立てられている。柱は聖堂の正面扉と祭壇を遮るように横に並んでいる。


「主よ…… お許しください……」


 柱にはボロボロの衣服をつけたシスター達が、正面入口に向かって手を上にした姿勢で縛り付けられていた。彼女達の背後には武器を持った魔族とジェーンが立っており、彼らとゴールド司教の間ちょうど鐘をならす紐が揺れていた。

 魔族は軽装の鎧に身を包み、緑や赤や青色の皮膚に耳の上や額から角が生え、背中からこうもりのような翼を生やしていた。

 シスターは全部で二十人で柱に二人ずつ縛り付けられ、残った十人は柱の背後に座らされ魔族に囲まれていた。シスターたちはベールを頭につけ下半身のみローブを脱がされ下着を晒している。


「なぁ! ジェーン! まだかよ! さっさとやらせろよ」


 激しい声がした。シスターを取り囲んでいた魔族がジェーンに向かった叫んだ。


「はぁぁ。お待ちなさい。まだ連絡が来てないわ」

「チッ! 早くしろよ! もう我慢できねえんだよ! なぁ?」


 うんざりといった様子でジェーンは魔族に首を振っている。おそらくこの魔族が何度も同じことを言っていたのだろう。


「落ち着けよ。そんなんだからお前は女に相手にされねえんだろ」

「黙れ!」

「「「「ははは!」」」」


 魔族達の笑い声が聖堂に響く。シスターたちはうつむき恐怖で涙を流している。


「どうしたのかしら…… もうとっくに勇者達は…… まさか……」


 イライラした表情でジェーンが横を向いた。


「あっ! こら!」


 魔族の一人が声をあげた。一人のシスターが、立ち上がって駆け出し不意を突かれた魔族は囲みを抜けだされてしまった。

 壇上にいるゴールド司教に向かって走るシスター…… だが、手を後ろ手に縛られた彼女は、バランスを崩してすぐにころんでしまった。

 必死に顔をあげ泣きながらシスターはゴールド司教に向かって叫んだ。


「司教様! なぜです! 私達がなぜ魔族に…… こんなの……」


 体を引きずりながら必死にゴールド司教に訴えるシスターだった。ゴールド司教は懇願するシスターに優しくほほ笑んだ。


「主と彼らと和解したのです。あなた達は和解の象徴です。彼らに身を捧げ奉仕しなさい」


 両手を広げたゴールド司教は優しい口調で諭す。彼の態度はシスターたちは絶望の表情でうつむき、数人のすすり泣く声が聞こえる。

 その様子をみて魔族達はニヤニヤと笑っていた。魔族の一人が逃げたシスターを追いかけて来た。


「だとよ!!!!!」

「いや!」

 

 魔族はシスターの右手で、シスターの肩を強引に自分の方に向かせた。左手で履いていたズボンを下ろし魔族は下半身をあらわにする。


「こら! まだよ!」

「よいよい」


 ジェーンは止めたが、ゴールド司教はにこやかに魔族を止めるジェーンを諌めた。許可を得た魔族はニヤリと笑い下を向いたシスターに叫ぶ。


「おら! 奉仕しろ」

「いや!」


 シスターは叫び目の前に垂れていた教会の鐘をならす紐を噛んだ。大きな鐘の音が悲しく聖堂や周囲に響きわたる。


「うるせえな!」

「がっ!」


 魔族がシスターの顔を平手でひっぱたく。たたかれた衝撃がシスターは、紐から口をはなす。魔族はすかさずシスターの頭をてでつかむ。


「紐じゃなくてこっちに奉仕するんだよ!」


 シスターの頭をつかんだ魔族は、強引に自分の股間に押し付ける。魔族の股間からはっする悪臭がシスターの鼻にまとわりつく。

 口に向かう欲望にシスターは歯を食いしばり必死に抵抗するシスター、彼女の態度にいらついた魔族は彼女の右手を伸ばし鼻をつまむくちを開けさせ強引に欲望をねじ込んだ。


「んん!!!! んんんん!!!!!!!!!!」


 上下に口が裂けそうなほど広げられ熱くたぎった欲望が舌を焦がしていく。シスターは目に涙をため受け入れるしかなかった。


「んんんんんんんんんんんん!!!!!! オボオオオオオオオオオオ!! んぼ! んぼおお!!!」


 喉奥まで欲望を突っ込まれ声にならない声をあげるシスター、恍惚な表情をあげ魔族は満足げな表情を浮かべる。魔族はわしずかみにしたシスターの頭を強引に上下に動かすのだった。魔族に汚される仲間をシスターたちは直視できずに顔を背け泣き出す。その様子を見て周囲の魔族は興奮し舌なめずりをする。

 魔族の手がされに上下に速く動く彼の欲望が我慢の限界に達するようだ。


「はぁぁぁ…… さて…… 俺達を受け入れろ!!!」

「ジュル…… ん!!! んんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!」


 魔族は欲望をシスターの口にぶちまけた。シスターは吐き出された欲望に溺れそうに苦しみの声をあげる。直後……


「ぷはぁあああああああああああああああああ!!!!! ごほっごほ!」


 ドスっというと鈍い音がして、シスターの頭と鼻を押さえつけていた魔族の手の力が抜け、彼女の口から魔族の欲望と大量の泡だったよだれが吹き出て床に染みを作る。

 解放されたシスターは苦しさからせき込み、息を吸い込もうと口の脇から液体を垂らしながら顔をあげた。同時に彼女の頬にポツポツと雨みたいな水滴があたる感触がする……


「あっあ……」


 シスターが声を震わせる。目を大きく見開いて愕然とするシスターを頬を伝い赤い液体がポタポタと床に垂れていく。彼女の視線の先には後頭部から大剣で貫かれ口から血を流している魔族だった。頭を貫いた大剣により圧迫され目が飛び出し等になった魔族は、苦痛に顔を歪め黙ったままシスターを見つめている。


「邪魔するぜ! て…… わりい。もう死んでたわ」


 グレンの声がして彼の手が魔族の肩に伸びた。グレンによって魔族が引きずり倒され、シスターの視界が開ける。

 開けた視界の先にはグレンと、教会の尖塔へつながる板が外れた光景が見えた。グレンとクレア尖塔に上って聖堂の真ん中は強襲を仕掛けたのだ。

 グレンは大剣を肩に担ぐと真顔で壇上を睨みつけていた、彼が右手に持つ大剣の剣先から赤黒い魔族の血を垂らて床に落ちていた。

 フードを被ったグレンの顔を見たゴールド司教は眉間にシワを寄せた。


「やはりお前らが天使の涙……」


 ゴールド司教はグレンを睨み返した。魔族とジェーンが身構える。グレンは静かにゴールド司教に向かって歩き出す。


「第五十三坑道への妨害。魔物を使った町の襲撃。ことが発覚しないように地下街でのクイーンデスワームを使った殺人行為の指示。すべて開拓法違反だ。覚えはあるか? ゴールド!!!」


 壇上に向かって一歩ずつ歩きながら、ゴールド司教に向かって大きな問いかけるグレン。


「なっなんのことじゃ! わしはそんなこと知らん! すべて貴様らのでっちあげじゃ」

「勝手に言ってな。もうお前の言葉に意味はない。決まったんだよ! お前は排除だってな」


 必死に否定するゴールドを睨みつけ、腰を落としたグレンは大剣を構え体勢を低くし駆け出す準備をする。


「お待ちなさい! 彼女たちがどうなったも良いのかしら?」

 

 ジェーンがグレンに声をかけ右手をあげた。シスターたちに魔族達が武器を向けた。

 座っているシスター達を囲む魔族は背中や首筋に柱の後ろに居た魔族は前に回り込み縛られているシスター達の喉元に剣や斧を突きつけた。

 ジェーンは魔族の動きに満足にそうに笑い勝ちを確信したような顔をした。横目でシスター達を一瞥したグレンはすぐに前に視線を戻し淡々と口を開く。


「好きにしろよ」

「なっ!?」


 唖然とするジェーンだった。グレンはジェーンに顔を向けてニヤリと笑った。


「出来るなら…… だけどな」

「えっ!?」


 彼の視線がわずかに上に向くとほぼ同時に天井から、大剣を右手に持ったクレアが下りてきた。ジェーンは視界に彼女の姿を捉えられたがすぐに消える。

 クレアは走りながら左手を並ぶ柱に向けて伸ばした。左手の指からそれぞれ五本の光の剣が伸びていき、柱の前で武器を持っていた魔族の胸や額を光の剣が瞬時に貫いた。

 光の剣はすぐに消え、クレアは左手を戻して次にシスタを囲む魔族達へと向かっていった。集められたシスターを円形に囲む、魔族達の背中を大剣で次々と斬りつけていく。

 十匹の魔族の斬りつけ最後の一匹が持つ武器を弾いた。キーンと言う甲高い音がして魔族が持っていた剣が舞い上がった。同時に魔族が一匹、一匹と次々に倒れていった。


「ぐわあああ!! えっ!? なんだ!? みんな!」


 倒れていく仲間を見て最後に残った魔族が叫ぶ。いつの間にか自分の武器も弾かれた彼はかなり狼狽し小刻みに震えている。残った魔族の背後からクレアが声をかける。


「あなたで最後です」

「ひぃ!!!」


 背後から声をかけられ振り返った魔族が悲鳴をあげる。魔族から少し離れた場所で、クレアは腕をまっすぐに大剣の剣先を魔族に向けて立っていた。怯えた魔族は後ずさりする。


「あっあああ…… はっ!!! これだ!!!!!!」

「きゃっ!? きゃあああああああああああああああああ!!!!!!!」


 やけくそで目の前に居たシスターの頭をつかみ自分の体の前に持っていく。彼女を盾にしようとする魂胆のようだ。魔族はクレアの前にシスターを見せつけるように腕を伸ばした。


「こっこいつがどうなってもいいのかぁ!」

「あっあっ……」


 頭を強く握られてシスターが苦しそうに声をあげた。クレア首を横に小さく振り、右足を軽く踏み込むんだ。同時に魔族の視界からクレアが消える。


「動かないでください!」


 声と同時にクレアがシスターのすぐ前に現れ剣を突き出した。突き出されたクレアの大剣は魔族の胸を貫く。


「あっがっがが……」

「人間を盾にするには…… あなたの体は大きすぎですよ」


 苦痛に顔を歪むませる魔族にクレアはニッコリと笑って大剣を引き抜くと、素早く手首を返してそのまま大剣を振り上げた。クレアの大剣は魔族の腕を切り落とす。

 シスターは地面に落ちて尻もちをつき、握力を失った魔族の腕は彼女の頭からずり落ちていく。


「もう大丈夫です」


 解放されたシスターにクレアは優しく声をかける。怯えた顔でうなずくシスターだった。うなずいたシスターを見たクレアは話しを続ける。


「裏の倉庫に猫さん達がいると思うので彼らについて行って冒険者ギルドまで避難してください」

「はっはい」


 返事を聞いたクレアはにっこりと微笑むのだった。シスターたちは立ち上がり皆が駆け出した。

 クレアが弾いた魔族の剣がグレンの足元に落ちている。剣をチラッっと見てからグレンは顔をあげ、大剣の剣先をゆっくりとゴールド司教に向けた。


「次はお前だ!」


 叫んだグレンは前へと足を踏み出した。同時に目撃者がいなくなり、グレンとクレアはフードを外し床に捨てた。


「クッ!」


 体を震わせて悔しそうな顔をしたゴールド司教は、身に着けている法衣の懐へ手をのばすのだった。

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