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第94話 修道院を襲う悪魔

「キャッ!」


 魔族の手がシスターの背中に垂れた長い黒髪へと伸びつかむ。激しい力で髪をひっぱられたシスターは声を上げ、そのまま魔族に引き寄せて肩をつかまれ仰向けにひきずり倒された。

 倒したシスターに馬乗りになった魔族は、彼女のわずかに残っていた上着を引きちぎろとする。


「お前は魔族の血を注がれすべてを闇に塗り替えられるんだ!」

「いやあああああああああああああああ!!!!」


 泣きながらシスターは必死に手で魔族を叩いたり、体をよじり足を動かして抵抗する。大きな体の彼にはシスターの抵抗はほぼ無力だったが、自分に従属しない彼女に苛立ちを見せた。


「クソが!」


 拳を振り上げ投げる仕草をする魔族、恐怖で体を痙攣させシスターは動きを止め目をつむった。


「たっ助けて……」

「へへへっ。お前たちは神にも見放されたんだ。誰も助けになんか来ねえよ」

「そんな…… いやぁぁ……」


 シスターは目をつむったまま顔をくしゃくしゃにして泣き出した。彼女を見た魔族は満足そうに笑うのだった。魔族のよだれだろうか、シスターの頬や額にポツポツと生暖かい液体の感触が伝わる。よだれにしてはねっとりとした感触と、かずかに漂う金属のような臭いに違和感を覚えたシスターはゆっくりと目を開けた。


「ヒッ!」


 シスターが悲鳴をあげた。彼女の視線の先には、真っ白な刀身が魔族の後頭部から額を一気に貫く光景だった。シスター側に向いてる刃からゆっくりと血が垂れている。彼女の顔に当たっていたのは魔族の血だった。

 魔族の顔はつぶれ目は大剣に圧迫されて垂れ下がっている。だが、魔族の男はまだかろうじて生きているのか下を向きシスターと目をあわせた。


「あががああ!!! たす……」

「きゃあああああああああああああああああああ!!!!」


 震えながら必死に声をだす魔族に悲鳴をあげるシスター。頭から剣が消え赤黒い血が吹き出した。染まるシスターの顔に血が降り注ぎ彼女の視界を赤黒く染めていく。

 かすかに見えていた視界が血に染まりきる直前に、魔族の胸から同じ大剣が突き出て来るのが見えた。


「シー! 静かにしてください」


 優しくおっとりとしたクレアの声がシスターの耳に届く。人の声に落ち着きを取り戻したシスターは手で顔をぬぐう。

 血が取り払われた彼女の目には頭の時と違い、水平に伸びた大剣が魔族の胸から突き出ている光景が見えた。シスターの体から魔族と大剣がゆっくりと浮かび上がって離れていく。

 視界が開けると魔族のすぐ後ろには体勢を低くして、大剣を魔族の胸に突き出したクレアがいるのがわかった。


「フン!!」


 鼻から息を大きく吐いたクレアは大剣を勢いよく横に振った。魔族は大剣から抜けて畑へと転がった。クレアは大剣を背中にしまうと、倒れたまま呆然と自分を見つめているシスターに彼女はニコッと微笑む。

 鞄から毛布を取り出して脇に抱えた、クレアはシスターの元へと戻って来る。彼女は倒れているシスターに手を伸ばして声をかける。


「大丈夫ですか?」


 小さくうなずきクレアに手を伸ばすシスターだった。クレアは彼女が伸ばした手をしっかり握って起き上がらせた。持っていた毛布を持ってシスターの肩にかけた、クレアはにちらっと修道院へ視線を送った。シスターはクレアを見て口を開く。


「あっあなたは……」

「テオド…… ちっ違います!! 暗殺者ですよ!!!」


 クレアはシスターに名乗ろうとしたが、すぐに首を横に振って慌ててフードを目深に被り直して自らを暗殺者だと言う。シスターは口を半開きにして驚いていた。


「あっ暗殺者?」

「はい。悪い悪い暗殺者です。だから私のことはすぐに忘れたほうが良いですよ」

「ふふふ。そうなんですね」


 会話をしながら目をそらしたクレアにシスターは微笑む。クレアも笑ってすぐに真剣な表情に変わる。


「なぜ魔族がここに? それにあなたはトンネルに居たシスターさんですよね?」


 クレアの質問にシスターはうなずいた。


「はい。今朝いきなり聖騎士の方々が来て修道院を解放したから来いと強引に…… 連れて来られたら聖騎士さんが魔族に代わってみんなに襲いかかったんです……」

「そうですか……」


 泣き出しそうなシスター、クレアは彼女の肩に手をおいて慰めるのだった。


「義姉ちゃん! 急ごう……」


 グレンがクレアに声をかけた。クレアはシスターから手をはなして振り返り倉庫を指さした。

 シスターはクレアの指先に視線を送る…… クレアの数メートル後ろにグレンが立っているのに気づいた彼女は恥ずかしそうに毛布で下着を隠した。


「畑にある倉庫にトンネルがあって上の町まで繋がってるのでそこから逃げてください」

「えっ!? はっはい。わかりました」


 倉庫のトンネルの話しを聞いたシスターが驚いた顔をした。彼女はトンネルの存在を知らなかったようだ。おそらく緊急時以外に使用を避けるために、一部の人間以外には情報を与えないようにしていたのだろう。クレアは話しを続ける。


「町へ戻ったら冒険者ギルドに行ってプリシラさんに助けを求めてください」

「えっ!? 冒険者ギルド…… でっでも」

「大丈夫です。プリシラさんは味方です」

「わかりました……」


 シスターは倉庫を見つめて不安そうな表情をする。彼女を見たクレアは鞄に入って顔を出してるナーの頭を撫でた。


「ナーちゃん。彼女の案内をお願いできますか」

「ナー!」


 元気に鳴いたナーはクレアの鞄から飛び下り、シスターの前で駆けて行った。ナーはシスターに向かって顔を向け鳴く。シスターはナーを見て驚いた顔をしていた。


「この子について行ってください。優秀な道先案内人です」

「わっわかりました」


 ナーがゆっくりと歩き出した。シスターは前を向いて歩き出そうとしたが、意を決したような表情ですぐに振り返ってクレアの手をつかんだ。


「みっみんなを助けてください……」

「はい。任せてください」


 ニッコリと微笑んでクレアはそっと彼女の手を握り返す。


「彼女たちは修道院の聖堂にいるはずです。お願いします」

「わかりました。聖堂はどこにありますか」

「えっと入り口を入って廊下をまっすぐ行くと正面玄関にでます。正面玄関の向かいに入り口があります……」

「ありがとうございます」


 礼を言うクレアにシスターはハッとして慌ててまた口を開く。


「あっ! でも、待ってください…… 正面には魔族が居るので…… こっちなら……」


 クレアの耳に顔を近づけてシスターは小声で話す。クレアは彼女の言葉を聞いて口元が緩み嬉しそうに笑った。


「ナー!」


歩き出していたナーが振り返り催促するように鳴く。クレアはナーに視線を向け笑顔で謝る。


「ごめんね。じゃあ行ってください。気づかれないようになるべく静かにお願いしますね」

「はっはい」


 シスターはクレアに促され彼女から手を離した。クレアに頭を下げると急いで振り返って、ナーを追いかけて倉庫へと向かうのだった。


「じゃあ、俺たちも行こうぜ」

「えぇ」


 シスターを見送ったクレアとグレンは、畑を越えて修道院の扉の前へとやってきた。修道院の扉の前に二人は並んで立つ。


「ひっそりとしてるな。警備もいないなんて」


 周囲をみながらグレンがつぶやいた。クレアは横を向いてグレンの方を向く。


「シスターさんが言った通りで、正面を固めているのでしょうね。トンネルの入口には結界を貼ってましたし我々がこちらから来ることはまったく想定してないんですよ」

「ふーん。じゃあ。驚かせてやるか」


 グレンは小さくうなずきながら剣ムーンライトを抜き左脇に挟むと、アンバーグローブへと手を伸ばしフェアリーアンバーを外す。フェアリーアンバーを剣の鞘にはめた、剣が月樹大剣(ムーンフォレスト)へ変化した。同時に彼は獣化全解放ビーストモードプリズンブレイクを使用し、目が赤く光り口元の犬歯が伸び体が太く大きくなっていく。

 グレンは大剣を肩に担ぎ修道院の裏口の扉に手をかけニヤリと笑った


「準備完了だ。行こうか……」

「はい」


 クレアが大剣に手をかけてうなずく。グレンは扉を勢いよく開けた。

 バーンという大きな音が修道院に響いた。扉の向こうは二メートルくらい幅の廊下だった。かつてはきれいに清掃されてたのだろうが、廊下は壁に穴が開いていたり床の板がめくれていたりかなり荒れていた。

 廊下の先十メートルほどに魔族が二人並んで立ち、突然現れたグレンとクレアを驚いた顔で見つめている。


「こんにちは。じゃあ行こうぜ。義姉…… えっ!?」


 横を向いてクレアに声をかけたグレンだったが、彼女の姿は一瞬で消えた。クレアは駆け出して体勢を低く魔族へと向かっていく。一気に二人の魔族達のとの距離をつめ大剣を引き抜いた。

 大剣を抜きながら魔族の首を斬りつけた。クレアの動きに反応できなかった魔族は避けることも出来ず大剣によって首を跳ね飛ばされた。

 クレアは手首を返すと大剣を戻し、体を左斜め前に向けた。クレアは先ほどと同様に魔族の首を大剣で跳ね飛ばした。

 声をあげることも出来ずにクレアは魔族二人を片付けた。その時間は一秒もかかっていないだろう。首を落とされた魔族二つの死体がクレアの前に転がる。

 剣先を下に向けクレアは倒れた魔族を見ていた。クレアは魔族が完全に息の根を止めたのか確認しているのだ。すぐに振り返った彼女はニッコリと微笑みグレンに声をかける。


「グレン君…… いいですね。関与しないですから…… 残さず消すつもりでお願いします」

「あぁ…… わかってる……」


 クレアの言葉にグレンは小さくうなずいて答えるのだった。

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