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第93話 トンネルを抜けるとそこは

 松明が照らす狭い階段をグレンとクレアは一歩ずつ慎重に下りていく。階段のまったホコリの上に、上り下りともに複数の足跡が残っているのが見える。長期間使われていなかったのが最近になって使われたようだった。

 螺旋状にトンネルで、多く円を描ながら地下へと階段は伸びていく。大きくカーブを描きながら階段は地下へと伸びていく。

 照らされた階段の先に人間の頭のような影が見えた。


「グレン君…… 止まってください。何か来ます……」


 立ち止まって左手を出してクレアがグレンと止めた。視線を前に向けてジッと階段の先を見た。


「あれは…… オークか」


 グレンの視線の先には、カーブの先からマウンテンデスワームに寄生されたオークが、ゆっくりと階段を上がってくるのが見えた。オークはグレンたちに気づいてないようで、右手に剣を持ってゆっくりと階段を上がってくる。


「結界の奥にオーク…… もう隠す気もないか」

「えぇ。そうみたいですね」

「どうする?」

「お義姉(ねえ)ちゃんにお任せです」


 ニコッと微笑んだクレアがグレンの前から消える。駆け出したクレアは一気に階段を駆け下りてオークの距離を詰めた。

 背負った大剣を抜いて右手に持ったクレア、膝を曲げ腰を落として体勢を低くし右腕を引いて剣先を前に向ける。オークの目の前に来たクレア、オークは彼女の動きについていけないのか目の前にいるクレアに全く反応していない。

 黙ってままクレアはオークの顔を見つめ右腕を前に突き出した。


「あが……」


 クレアが伸ばした大剣がオークの顔を貫いた。剣が顔を貫くと即座にオークの両腕は力なく垂れ下がり、持っていた剣は手から離れ音を立てて階段を落ちていった。大剣により潰されたオークの顔面から血が刀身を滴り落ちていく。小さくうなずいたクレアはゆっくりと剣をオークの顔面から引き抜く。

 血が吹き出して彼女の視界に赤黒い血の粒が飛び交う。剣を引き抜かれたオークは仰向けに倒れ階段を滑り落ちて五段ほど下で止まった。刀身についた血をはらうとクレアは静かに大剣を背中に戻して振り返り、グレンに向かってニッコリと微笑んだ。


「行きましょうか」

「あぁ」


 クレアに向かってグレンはうなずいた。二人はまた歩き出す。

 数十分ほど歩いたであろうか、階段が終わり十メートルほど進む。


「あれ……」


 グレンが声をあげた。トンネルの先は行き止まりで何もなかったのだ。行き止まりり壁のすぐ前に、蝋燭がささったままの燭台が倒れて松明に照らされている。


「うーん。行き止まりですねぇ」


 困った顔でクレアが立ち止まりグレンも彼女のすぐ後ろで止まった。


「あれは……」


 周囲を見渡していたクレアがなにかに気づいた。彼女は燭台が落ちてる地面をしゃがんで黙って見つめている。グレンはかがんで彼女の肩から顔を出して地面を覗き込む。

 地面にはうっすらと赤黒い液体が垂れたようなあとがある。


「義姉ちゃん。それって」

「えぇ。血のあとですね…… でも…… これは…… そうか!」


 何かに気づいたクレアは壁から視線を外し上を向いた。上を向いた彼女はニッコリと微笑み天井を指差した。


「出口はあそこみたいですね」


 クレアの指の先には四角い木製の扉が見える。グレンがすぐに左足で地面を蹴って浮かび上がる。右手を伸ばしたグレンは木製の扉を押した……


「あっあれ!? この!」


 扉に鍵はかかってないが重くて動かなかった。グレンは肩を扉につけ両手で力を込めて再度扉を押した。

 ガタタとなにかが崩れる音がした後、キーっと言う音を立てて扉が開いた。グレンは扉から慎重に出て周囲を見渡す

 出てきた場所は倉庫のみたいだが、棚は倒れて破壊されて農作業の道具が散乱している。また、ここで誰かが襲われたようで床や壁に血痕がこびりついている。

 倉庫に誰もいないことを確認したグレンは下にいるクレアに声をかけた。


「義姉ちゃん。大丈夫だ。上がって来て」

「はーい」


 返事をしたクレアが浮かび上がってやってきた。


「ここはどこでしょうね」


 首をかしげながら扉の横にある窓を覗き込む。外には大きな畑が広がっている。


「グレン君…… あれを」


 クレアは窓の向こうを指してグレンを呼ぶ。彼女の横に立ったグレンはクレアが指す窓の外を見た。

 畑の向こうにレンガ造りの三階建の大きな建物が見えた。建物の屋根には鐘がついた尖塔があり、屋根には大きな十字架が立っている。


「ここは地下修道院…… ここがゴールドの別荘ってわけか」

「そうですね」


 グレンの脳裏にトンネルで見た血痕がよぎった。


「まさかあいつらトンネルを使って修道院を……」

「えぇ。修道士達や町の人が避難するためのトンネルです…… そこを使って魔物を送り込んで襲わせたのでしょう」

「ひでえことしやがるな」


 悔しそうに修道院を見つめるグレンだった。グレンは修道院から視線を外しクレアに向かって口を開く。


「まぁいい。行こうぜ。自分が奇襲に使ったトンネルで今度は俺たちに奇襲されるんだ」

「えぇ」


 クレアはグレンの言葉に笑顔でうなずく。二人は扉を開けて倉庫から出た。ここは修道院の裏手にあたるようで、畑の向こうの修道院の壁には、勝手口のような小さな木製の扉だけが見える。

 二人は畑を横切って修道院へと向かおうとする。畑はしばらく手入れがされてなかったのか草が伸び放題で荒れている。

 畑の手前で立ち止まったクレアがつぶやく。


「日が差さないのに…… 畑で何を育ててたのでしょうね」


 ここは地下で当然だが日光は届かない。畑でなにを育てるかクレアはふと疑問に思ったようだ。


「あぁ。これは月菜葉(つきなっぱ)だよ。葉っぱが三日月の形をしてるだろ」


 グレンが畑に生えた草を指さした。まっすぐに伸びた草の葉は彼の言う通り三日月の形をしてる。


「月菜葉は日光が苦手で逆に日陰におくほどよく育つんだ」

「そんなのがあるんですね」

「あぁ。月菜葉は目に効く薬の材料にもなるんだけど食料としても優秀なんだ。茹でるとちょっとほろ苦いけど美味しいんだぜ」


 説明を聞いたクレアは興味深げに草を見た。


「へぇ。ぜひ食べてみたいですね」


 クレアはグレンの方を見た。目を輝かせた彼女の瞳からは、月菜葉を食べたいという気持ちが溢れてる。


「えぇ…… わかったよ。今度見かけたら買って料理してみるよ」

「やったー」


 嬉しそうに両手をあげたクレア、グレンは黙ってジッと彼女を見つめている。クレアはグレンの視線に気づいた。


「なっなんですか? お姉ちゃんを見つめて……」


 少し恥ずかしそうにするクレア、グレンは笑顔で答える。


「いや…… なんかオリビアみたいだなって……」

「へっ!?」


 グレンが自分を見つめていた理由が、オリビアと自分が重なったことに少し不満を覚えつつも、クレアは嬉しそうに笑った。


「ふふふ。甘いですね。オリビアちゃんだったら今頃食わせろって言って、食べさせるまでグレンくんにつきまといますよ」

「あははは。そうだな。違いねえ」


 二人はお互いに顔を向き合わせて笑った。グレンはふと月菜葉を見た。三日月の形をした葉っぱがかすかに揺れる。彼は何かに惹かれるように手を伸ばし月菜葉に触れる。


「何をしているんですか? グレン君……」

「いや…… ちょっと気になって…… それになんか触ってると落ち着くんだ」


 月菜葉に触れるグレンに声をかけるクレアだった。彼の表情はついさきほどまではゴールド司教を排除するためにこわばっていたが、今は緊張が解け穏やかで自然と頬がほころんでいる。クレアはグレンの顔を見てほほ笑んだ。


「植物の少ない鉱山で見かけた植物ですからね。それに月が名前にもついてますし…… グレン君の特殊能力が求めてるのかもしれませんね」

「そうか…… じゃあ一枚だけもらって行くか…… でもこれって畑泥棒だよな……」

「良いんじゃないですか。手入れもされてませんし…… 今の私たちは悪い人ですから!」


 グレンとクレアは顔を見合せて笑った。月菜葉をもらうことに躊躇したグレンだったが、彼女の言葉に従い月菜葉を一枚もぎ取った。何かに導かれるように自然にグレンは月菜葉を左手のアンバーグローブの中にしまうのだった。

 

「!!!」


 急に修道院の扉が開く音がした。反応した二人は武器に手をかけて身構え修道院に視線を向けた。


「あれは……」


 出てきたのは上半身の服がボロボロで、下半身が下着姿のベールをつけたシスターだった。

 彼女は倒れ込むようにして扉から出ると、一目散にグレン達が居る畑へと向かって走って来る。しきりに後ろを気にかけているせいか、もしくは元々ここに誰もいないと思ってるせいか彼女はグレン達の存在には気づいてないようだ。


「待て! おらぁ!」


 大きな声がした。シスターに続いて身長が二メールくらいありそうな、緑の色の皮膚で背中に丸い頭の額に一本の角を生やした魔族の男が出てきた。魔族はシスターを追いかけて畑と向かう。魔族の足は早くシスターにすぐ追いついた。

 逃げるシスターの背中に向かって魔族はニヤリと笑って手をのばすのだった。

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