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第89話 昔の知り合い

 キティル、メルダ、オリビア、クロース、ハンナの五人はグレンとクレアと別れ大エレベーターから地下へ移動し第五十三坑道へと向かう。

 途中で魔物の襲撃が何度かあったが、オリビアとクロースの力で難なく撃退した。地下に入ってからニ時間ほどで第五十三坑道へ到達した。

 湿った空気が漂う広い第五十三坑道を地底湖へ向けて五人は近づく。オリビア、クロースの二人が先行し、ハンナ、メルダ、キティルは少し離れて続く。

 オリビア達が地底湖の前と到着した。ちょうど食べ終わった骨付きの肉の骨を左手に持ち、しゃぶりながら静かな湖面を見つめていたオリビアがふとつぶやく。


「やっぱりな……」


 眼光を鋭くしオリビアの口元がかすかに笑う。

 直後に湖面に直径一メートルほどの白く光の円が一つ現れた。円はあっという間に増えていき百は超えた。直後に光の中から次々と魔族達が出現する。

 光は大量転送魔法トランスーマだ。現れた魔族達は人間に近く背中に蝙蝠のような翼を生やしている。体色は紫や赤や黒で耳は尖り頭に角を生やしている。


「へへへっ。本物の勇者オリビアが来るとはな。意外だぜ」


 先頭の魔族がオリビアを見て声をあげた。魔族は男で赤い皮膚で頭髪のない頭に耳は細く尖り左右の耳の少し上から角が生え、右目の眉の辺りから頬に向かってまっすぐと剣で斬られた傷がついてる。

 男は身長はニメートルほどで、腕や胸の筋肉が盛り上がってゴツい。彼は右手に大きな斧を持ち上半身は革製の胸当てをつけ、下半身はつま先が細い茶色の靴に白いズボンの上に革の腰巻きをつけていた。


「???」


 オリビアは名前を呼ばれたが、彼の事を知らないようで首をかしげ不思議な顔で魔族を見つめている。魔族はオリビアが自分のことを知らないのに気づき舌打ちをする。


「チッ! 俺のこと覚えてねえのか…… まぁいい。この傷の借りを返すいい機会だ」


 傷の部分を撫でながら男がオリビアを見て笑っていた。

 勇者として長い長い旅の果てに魔王討伐を成し遂げたオリビア、彼女が対峙した魔族は戦闘で言葉を交わさずに散って行った者も含めればゆうに一千万を超える。一人の一人の顔などよほどの印象的なことがない限り覚えているはずがない。


「あなたは…… エスコバル!?」


 オリビアでなく、メルダが魔族の顔を見て驚いて声をあげた。魔族の名前はエスコバル、元魔王軍親衛隊副隊長だ。魔王の身辺警護担当である親衛隊に属していたエスコバルとメルダは面識があった。


「おぉ! 姫様じゃねえか。娼婦はもうやめたのかい?」


 メルダを見たエスコバルが彼女に尋ねる。メルダは目をそらした。メルダの反応にエスコバルはニヤニヤと笑っていた。


「噂はここまで届いてるぜ。あの高飛車な姉妹がベッドでヒンヒン鳴いてたってな。あぁ。俺もご相伴に預かりたかったぜ」

「クッ!」

「まぁいい。今日ここで同じようにすればいいだけだからな。へへへっ」


 エスコバルは下品に腰を振ってニヤニヤと笑っている。悔しそうに彼を見つめるメルダだった。

 二人の会話を近くで聞いていたオリビアがエスコバルを睨みつけた。


「魔王の娘なのに随分な言いようだ」


 オリビアはエスコバルを睨みつけて、背負っていたメイスを抜いた。隣に立つクロースがすぐに彼女に声をかける。


「当たり前ですわ。魔族の世界は常に強い者が正義ですから。魔王の娘とはいえ弱ければ蹂躙されるだけ…… まぁ人間も代わりませんけどな」

「フッ。そうだな」


 クロースの言葉で冷静になったオリビアは笑う。振り向いてメルダへ視線を向けた。うつむいたまま悲しげに佇むメルダを見る、オリビアの目は哀れみに満ちていた。オリビアの顔を見たクロースは背負ったハルバードに右手をかけ、左手で彼女の背中を押して前を向くようにう促す。


「同情なんかするんじゃありませんことよ。これは向こうの問題です。私達には関係のないことですわ」

「あぁ。わかってる…… でも…… なっ!!!!」


 トンという音が地底湖に響いた直後にボチャンと言う音がした。エスコバルの近くに居た魔族が地底湖に落ちた。

 背中を上に向けてぷかりと浮かぶ、落ちた魔族の額から血を流れ湖面を染めていく。

 オリビアが持っていた骨を魔族の一人に向かって投げて見事に命中した。骨は魔族の額とぶつかった衝撃で砕け散っていた。


「てめえ!!!!! 何しやがった!!!!」


 落ちた仲間を見たエスコバルがオリビアに向かって叫ぶ。ゆっくりとオリビアは背負っていたメイスを引き抜いた。

 右腕を伸ばしてメイスの先端をエスコバルに向けたオリビア。


「今の彼女は私の仲間だ。侮辱は許さない!! 私は私の仲間を守る…… 勇者オリビアの名にかけてな」


 落ち着いた淡々とした口調でオリビアは話す。表情は真顔でまっすぐとエスコバルを見つめている。

 その目からは普段の食いしん坊でのんびりとした彼女からは、想像もできないくらい熱く燃えるような殺意が満ちていた。

 オリビアの気迫に一瞬たじろいたエスコバルだった。


「クソが! やっちまえ! お前ら!」


 エスコバルは怖気づいたことを、周りに悟られないように大声で叫んで魔族達に命令を下すのだった。

 魔族達は飛んで一斉にオリビア達に襲いかかるのだった。


「クロース! あいつは私がやる。雑魚は任せたぞ」

「はい。任されましたわ」


 オリビアは叫びながら駆け出す。クロースはハルバードを両手に持って構え、ハンナ、メルダ、キティルの前に立った。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」


 メイスを回転させながら、向かってくる魔族と次々と吹き飛ばし、オリビアはエスコバルとの距離を一気につめる。エスコバルの前に来ると彼女は足で地面を蹴って飛び上がった。瞬時にオリビアはエスコバルの一メートルほど上に到達する。


「はぁあああああ!!」


 エスコバルに両手で持ったメイスを勢いよく振り下ろした。エスコバルは彼女の一撃に気づき持っていた斧を彼女のメイスに向けて受け止めた。

 斧とメイスが激しくぶつかり合って火花が散った。勇者の一撃を防いだ得意げな顔でエスコバルはオリビアを見た。


「おいおい。なんだぁ? お前の武器は棒切れかよ。聖剣リオールはどうした?」


 オリビアを煽るエスコバルだった。だが、斧越しに見えるオリビアは余裕の表情で笑う。


「あれは使いにくいんだ。それに…… 本来の使い手は私じゃないからな!!」

「へっ!?」


 目の前にいたはずのオリビアが消えた。直後に彼の左横にオリビアは移動していた。オリビアは腰を落として、両手で持ったメイスを右肩の横まで引いて叩きつける直前の体勢だった。

 彼女はチラッとエスコバルを見たニヤリと笑った。何が起こるか理解したエスコバルは全身に力を入れた。オリビアはそのままメイスを勢いよく振り抜く。


「ゴボォォォォ!!!!!!!!!」


 オリビアのメイスはエスコバルの背中を斜め下に向けて叩いた。硬い感触がオリビアの両手に伝わる。

 エスコバルは背中に激しい衝撃と痛みが走り腹の底から何から飛び出しそうな声が出た。バキバキメキメキという音がエスコバルの体の中から耳に届き、メイスは彼の背中へとめり込んでいく。


「うわああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


 叩かれたエスコバルは吹き飛び、叫び声をあげて頭から地面に向かっていった。


「クッ!」


 地面の直前でエスコバルは、必死に翼を動かして地面に叩きつけられる前に、なんとか体勢を戻した。

 エスコバルは前を向いて姿勢で、そのまま両足を地面へつけ着地する。


「クソオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」


 足が地面についたが、オリビアのメイスの力はエスコバルの背中を押し続けた。必死に踏ん張った彼の足は地面を削ってニメートルほどで前に進んで止まった。エスコバルの五メートルほど後ろに静かにオリビアが下り立った。すぐに振り向きエスコバルは斧を構えた。

 オリビアはその様子を見て不敵に笑みを浮かべている。悔しそうな顔でエスコバルは彼女を見つめている。


「はぁはぁ…… なんてパワーだ…… だがな」


 静かにエスコバルは斧を下ろした。彼の意外な行動にオリビアは少し驚いたような顔をした。

 翼を動かし体を地面から十センチほど浮かせて、オリビアから十メートル離れた湖の上まで飛んで逃げた。

 エスコバルは地底湖の上に止まって動かなくなってしまった。


「おいおい。逃げるのか? 他愛もない」


 地底湖の上にいるエスコバルを見て笑うオリビアだった。エスコバルは彼女に笑われても黙って動かない。そして彼女は笑うのはエスコバルを挑発する意味もあった。なぜなら彼女は……

 笑われたエスコバルは表情を変えずに右腕を伸ばしてオリビアに向けた。彼の右手にふわりと白い煙のようなものが立ちのぼった。直後……


「なっ!?」


 エスコバルの右手から、オリビアに向けて細長く尖った氷の塊が発射された。

 細長く弾丸のような形をした氷は、白い空気をまとい猛スピードで、オリビアに向かって飛んでいくオリビアは向かってくる氷の塊をメイスで弾く。弾かれた氷は上空に飛んでいき天井に突き刺さった。

 かすかに空気が振動し天井から砂埃と小さな石が地面へ舞い落ちてきた。


「チッ!」


 氷が刺さった天井は白く凍りつく。それを見たオリビアが悔しそうに舌打ちをする。彼女の様子を見て肩を震わせてエスコバルが笑った。


「ククク…… お前が飛べないことはわかってる。さぁ! いつまで私の魔法をかわせるかな」


 エスコバルの言葉にオリビアは暗い顔でうつむく。エスコバルはオリビアが飛べないことを把握して湖に逃げたのだ。勝ち誇った表情を浮かべるエスコバル、だが、うつむいたオリビアの口元はかすかにゆるんでいた。

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