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第88話 気が合いそうな四人

 早朝ロボイセの大エレベーターへ向けて、キティル、メルダ、ハンナの三人が歩いていた。

 昨日の夕方、地底湖の水を抜く魔法道具の調整がハンナとブライアンにより完了した。本日はその魔法道具を使って地底湖での作業が実施される。

 三人は大エレベーターの前までやってきた……


「あの二人が護衛なのか?」


 先頭を歩いていたハンナがつぶやく。大エレベーターの前にすでにクレアとグレンが到着し待っており、二人と一緒にクロースとオリビアも居た。歩いて来る三人を見て、右手に朝食の骨付き肉を持ったオリビアが近づいて来た。


「よぉ! メルダ! 久しぶりだな」


 骨付き肉を持った右手をあげて、親しげに先ずメルダに声をかけるオリビアだった。メルダは彼女を見た瞬間に目を吊り上げて殺意のこもった表情に変わった。


「オリビア!!!」


 叫びながらメルダは腰にさして短剣を抜き、オリビアに向かって剣先を向けて構える。殺意のこもったメルダを見ながら、オリビアは困惑した顔で両手を前に出して猛獣をなだめるようにポーズを取る。


「おいおい。今はそんなことしてる場合ではないだろう?」

「だまりなさい! どの面を下げて私に会いに来たの?」


 緊張感が周囲を包む。メルダの行動は当然のことではある。なぜならオリビアは魔王を倒した勇者でメルダは魔王の娘だ。人間にとっては英雄であるオリビアだが、メルダにとっては自分の父を殺した仇でしかないのだから……


「ちょっと!? メルダ!? どうしたの?! 急に? やめて」


 二人の関係を知らないキティルは、急変したメルダに驚き慌てて止めようと彼女の肩をつかんだ。


「オリビアもですよ。私たちは馴れ馴れしく話す間柄じゃないですわ。彼女の気持ちも考えてあげなさい」


 キティルと同じく慌てて、クロースがオリビアの前に出て左手で止めた。心配そうにメルダの顔を覗き込むキティル、視線に気づいたメルダはチラッと彼女を見て唇を震わせ話す。


「あいつはオリビア…… 私の父…… ディスタードを殺した奴よ!」

「えっ!? ということは彼女は……」


 驚いたキティルがオリビアを見る。オリビアはクロースに止められて少しシュンとしていた。キティルの言葉にクレアが反応して出てうなずいた。


「はい。彼女は魔王ディスタードを懲らしめて世界に平和をもたらせた勇者のオリビアちゃんです。クロースちゃんはそのオリビアちゃんの仲間ですよ」


 クレアはハンナとキティルに向かってオリビアとクロースを紹介した。クレアの話しを呆然と聞いていたキティルが彼女に問いかける。


「クレアさん…… どうしてそんな人達がここに……」

「二人は私がノウレッジに招待したんです。キティルちゃんとパーティを組んでもらおうと思ったんです」


 ニッコリと微笑みクレアがキティルに答えた。突然、勇者とパーティを組めと言われたキティルは、二人を見て驚き声を震わせる。


「パーティを組む!? オッオリビアさんと私が……」

「何を勝手なことを! こいつと私が一緒になるわけないでしょう!!!」


 叫んでメルダはオリビアと仲間になることを拒否した、オリビアは彼女に興味なさそうに淡々と答える。


「私はどうでもいい。退屈な生活からまたかつてのような冒険をしたいだけだからな」

「違いますでしょ! ノウレッジ大陸の美味しい食材の話しをクレアから聞いてたから来たかっただけですわ」

「クロース!? そっそれは違う!」


 唇の下に食べかすをつけたまま、オリビアは骨付き肉を持った右手を必死に振って否定する。彼女の言葉に説得力がないのは明らかだった。呆れた顔するグレンとクロースの側でクレアは優しく笑っている。


「フン! 私はこんなやつらと旅なんかしないわ」

「メルダ! やめて!」


 オリビアとクロースをにらみ、鼻息荒く拒否を続けるメルダをキティルが止めた。止めたキティルをメルダが見た。キティルはまっすぐと前を向いてオリビアを見つめる。

 キティルの目には必死にクロースに言い訳するオリビアの姿が見えた。その様子に自然とキティルの表情は和らぎ心は穏やかになる。オリビアを見つめるキティルが次に発する言葉がもう決まっていた。


「ありがとう。クレアさん。私はオリビアさん達とパーティを組みます」

「キティル!? どうして!? あいつは……」


 信じられないという表情をするメルダに、キティルは首を大きく横に振った。真剣な表情のキティルからは決意の固さが感じられる。


「ノウレッジでは過去の実績と罪は問わない。メルダもオリビアさんもこの大地は受け入れてくれるわ」


 胸に手を当ててキティルは大事そうに言葉を発する。


「いや、それはただの冒険者達への……」

「私は冒険者よ。あなたもね」


 右手をメルダの前に出しキティルは淡々と彼女の言葉を遮った。そして…… 小さく息を吸いキティルは話しを続ける。


「私はエリィを助けたいの。そのために利用できるものは何でも利用してやるわ。もしあなたがそれを拒むなら……」


 言葉を溜めキティルはまっすぐとメルダを見つめ決意に満ちた表情で言葉を続ける。


「今この瞬間にあなたとのパートナー関係は解消するわ」

「そっそんな…… キティル…… あなた……」


 丁寧で落ち着いた口調だが、言葉は力強く揺るがない決意に満ちていた。メルダはキティルの決意に押されたじろぐ。メルダの様子を見たキティルはいたずらに笑い明るいくだけた


「ねぇ。魔王を倒した勇者と倒された魔王の娘。天秤にかければどっちが有効か分かるでしょ。冒険者は損得勘定で動くべきだって教えてくれたのはあなたじゃない」

「うぅ……」


 いたずらに笑うキティルだった。もちろん、彼女は損得でメルダと組んでいるわけでない。テオドールからここに来るまでの間に打ち解け、仲間としてメルダを信頼し冒険者として人としても経験の浅い彼女にとってはメルダは師匠のような存在でもあった。

 キティルの言葉を聞いたメルダは短剣を持った右手を下ろした。彼女はうつむき間を開けてから小さく息を吐く。


「はぁ…… そうね。あなたが正しいわ。ごめんなさい……」

「いいの。ありがとう」


 メルダは顔をあげて申し訳無さそうにした。キティルは首を横に振って笑う。


「はああああああああああああああ!!!」


 短剣をしまい大きく息を吐いたメルダは、ゆっくりとオリビアの元へ歩を進める。

 少し警戒した様子でオリビアは近づくメルダに視線を向けた。


「協力しましょう。私は白金郷(チッタアルメール)に行きたいの。そのためならあなたにでも頭を下げられるわ」


 握手をするために右手を出し引きつった笑いをするメルダ、オリビアはそんな彼女を見て笑った。


「あぁ。お互いに妥協するべきだな」


 左手に骨付き肉を持ち替えたオリビアとメルダは、少しぎこちなくだが握手をした。直後にメルダは手を離してジッと右手を見つめている。


「無理に仲良くする必要はない。我々は同じ目的のために共に行動するだけだ。別に私の寝首をかいても恨まないさ」

「そうね。覚悟してなさい。後! 食べ歩きはやめなさいね」

「そんなことは君に関係ないだろ!」

「うるさいわね! 油が手についたのよ!」


 口論を始めたオリビアとメルダ、クロースとキティルが二人の元へと駆け寄る。心配そうなクロースとキティルの横で、オリビアとメルダの表情は明るかった。クレアは二人の様子を見て満足にうなずく。


「うんうん。仲良しになりました。四人はいいパーティになりそうですね」

「そっそうかぁ!? なんかお互いまだ険悪な感じがするけど……」

「ううん。大丈夫です。最初から本音でぶつかりあってますもん。それが良いんです……」

「義姉ちゃん……」


 メルダとオリビアを見てクレアは少し寂しそうに笑うのだった。


「勇者をノウレッジに呼べて魔王の娘と会わすって君は一体何者なんだ……」


 近くへ来たハンナが呆れた顔でクレアを見た。


「ただの冒険者ギルドの支援員ですよ…… ううん。違いますね」


 首を大きく横に振ったクレア、続く言葉にハンナが期待した顔をする。


「私は立派なグレンくんのお姉ちゃんです!」

「はぁ!?!?!?」

「ははっ……」


 腰に両手を当てて胸を張るクレア、グレンは乾いた笑いをする。

 ハンナは首を軽く横にりあきれかえっていた。


「ふふふっ。まぁいい。じゃあ地底湖へ向かおうか。ほら君達も行こう」


 大エレベーターを指さしたハンナだった。オリビア達四人はハンナの言葉に反応して大エレベーターへ向かう。グレンとクレアは手を振ってその場で五人を見送ろうとしていた。二人の行動に気づいたハンナが口を開く。


「あれ!? 二人は来ないのか?」


 ハンナの問いかけにクレアがうなずいた。


「はい。今回は支援する予定はありません。私とグレン君は今から別のお仕事です」

「そっそうか。でも、またワームが出たら……」


 心配そうに大エレベーターを見つめるハンナだった。セーフルームの設置の際にクイーンデスワームに襲われた彼女はまた襲われないか心配してるようだ。


「大丈夫ですよ。クイーンデスワーム対策のユニコワックスならクロースちゃんに預けてありますから」


 クレアはハンナの心配を察して対策済みであることを伝えた。


「そうそう。だからもう地下でションベンする必要はねえよ。あっ! でもハンナは怖がると勝手に漏らすからな……」

「キッ!」


 顔を赤くしてハンナは余計な事を言うグレンを睨みつけた。クレアは呆れた様子でグレンの右手首をつかんだ。


「もう…… ほら! グレン君! ほら! 行きますよ。次の仕事に遅れちゃいます」

「わっわかった。じゃあ気をつけて」


 クレアはグレンの腕を引いて去っていく。残された五人は二人の背中を静かに見送るのだった。

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