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第85話 つかの間の祝杯

 グレン達は第五十三坑道の調査を終えて帰路へとついた。

 大エレベータで地上へと戻ったグレン達、彼らは大エレベータを降りて冒険者ギルドへ向かう。外へ出たグレン達を赤い日が照らす。もう日は傾き夕刻を迎えていた。


「プリシラさん。ちょっと待ってください」

「はっはい!?」


 クレアが大エレベータから出て、すぐのところでプリシラを呼び止めた。鞄に手を入れたクレアは何かを取り出した。それはグレン達がつけているの同じ冒険者ギルド職員の職員証、蹄鉄型の金属の真ん中に青い宝石がついた首飾りだった。

 プリシラは首飾りをクレアから受け取った。


「これは冒険者ギルドの職員証」

「はい。予備を持っているのであげますね」


 ニッコリと微笑んだクレアは、プリシラの近づき耳元でささやく。


「なくしたとか破壊されたとか報告すると面倒なので…… これを持っていてください」


 プリシラから顔を離してニッコリと微笑むクレア。プリシラは彼女に向かって大きくうなずく。


「わかりました。じゃあ後で私の情報をこれに…… あっ……」


 首飾りをつけようとしたプリシラが一瞬だけ躊躇した。もちろんクレアが渡した首飾りには何もしかけはないが、彼女はまた盗聴されることを心配したのだろう。

 クレアはプリシラの動きを見て、両手を腰に置き胸を張り堂々としたポーズを取る。


「大丈夫ですよ。普通の職員証です。盗聴なんか私はしませんからね」

「ふふ…… わかってます」


 自信満々に答えるクレアに、プリシラは笑って答えるのだった。

 グレン達がロボイセの冒険者ギルドへと戻ってきた。扉を開けて彼らは中へ入った。

 中にはいつもの通り多くの冒険者が並んでいる。扉が開いても冒険者達は特に気にすることもなく前を向いている。グレン達がカウンターへと向かう。プリシラ、クレア、クロースが並んで前を行きグレンとオリビアが二人の後を並んで続く。

 ふとカウンターを見たグレンがニヤリと笑い隣を歩くオリビアに声をかける。


「ジェーンの顔見てみろよ」


 カウンターを見つめるグレン、彼の視線先をオリビアが目をやる。忙しいカウンター業務をこなす受付の後ろに立つジェーンが、あんぐりと口を開けて目を大きく見開いてグレン達を見つめている。ジェーンを見たオリビアは思わず吹き出すのだった。


「プフっ! あれは死体が歩くのを見たって顔だな」

「あぁ。俺たちがイアンに始末されると思ってたんだろうな」

「まったく…… 私はこれでも魔王を倒した勇者なのにな。舐められたものだ」

「はは」


 寂しそうにするオリビアを見た、グレンは彼女の背中を優しくさするのだった。

 カウンター前まで来たグレン達は一列に並び、クレアが皆の前に立って口を開く。


「じゃあ、調査は完了です。ここで解散ですね」


 わざとらしく大きな声で話すクレア、彼女の背後には悔しそうに五人を見つめるジェーンの姿があった。

 クレアはジェーンを確認するかのように振り向き、またすぐ前を向いた。そもそも解散なら冒険者ギルドの外でもいいわけで、中に入ったのはジェーンにわざと見せつけるためなのだろう。


「わかった」

「お願いしますわね」


 右手をあげて挨拶するオリビア、クロースは笑顔で頭を下げた。挨拶を終えたオリビアは両手を上にあげて伸びをした。


「よーし終わったぁ! さぁ、夕飯だ!」

「そうですわね。クレアは今日は……」


 伸びをしながら嬉しそうに笑うオリビア、うなずくクロースがクレアをチラッと見た。

 クロースの視線に気づいたクレアは優しく微笑んだ。


「はい。調査協力のお礼ですから今日は私のおごりです…… ただ私とグレン君は今日中に報告書を書かないといけないので先に行っててください」


 申し訳なさそうするクレア、オリビアは小さくうなずいた。


「わかった。じゃあ私達が泊まる鈴々(りんりん)亭で待ってるよ」


 鈴々亭はロボイセの冒険者ギルドから一番近い食堂兼宿屋で、オリビアとクロースが滞在してる。一階が食堂と酒場で、二階と三階が宿屋というリンガル洞窟亭に近い構造をしてる。


「お願いしま……」

「じゃあ行くぞ!」

「キャッ! 危ないでわよ」


 待ちきれなかったのか、オリビアはクレアの返事を途中で遮るとクロースの手を引いて冒険者ギルドから出て行こうと扉へ向かう。

 グレンとクレアは二人を見送るのだった。二人が冒険者ギルドから出ていくと、振り返ったクレアはプリシラに向かって口を開く。


「プリシラさんも一緒に行きましょう」

「えっ!? はい。わかりました。でも…… 私も報告書を書かないと行けないので」

「じゃあ終わったらギルドの前に集合ですよ」


 クレアは笑顔でプリシラに答える。三人はカウンターの中へと入って、クレアとグレンはカウンターの奥の扉から中へ入って二階へ向かう。

 ジェーンはプリシラ、グレン、クレアの三人を交互に睨みつけている。

 プリシラは二人と途中で離れて、カウンターの中にある自席へ向かう。グレンとクレアの二人が、カウンターの扉から裏へ消えた事を見たジェーンはプリシラを呼つける。


「プリシラさん! ちょっと来なさい!」

「はっはい!?」


 ジェーンの席へと向かうプリシラ。ちなみに二人は向かい合うようして座っている。

 椅子に座っているジェーンの横にプリシラが立つ。ジェーンが横を向く彼女は眉間にシワを寄せて、不機嫌そうな表情をしていた。彼女の表情を見たプリシラの心は、面倒という言葉に支配されていく。


「あなた! 職員証はどうしたんですか!? いつも身に着けなさいと……」

「えっ!? 職員証ですか? ちゃんと身につけてますけど」


 申し訳なさそうにプリシラは首からぶら下げている首飾りを持ち、ジェーンに見えるように前に出した。


「へっ!? それは…… うんまぁ。あるなら良いんですのよ」


 首飾りを見たジェーンは心底驚いたようで、眼鏡の奥の目を大きく丸くして、驚きすぎたのか出た声がわずかに高くなってる。

 あまりの驚きように顔を下に向けジェーンから見えないようにしてるが、プリシラは唇をかんで必死に笑うのをこらえていた。また…… これでプリシラは自分に首飾りに仕掛け施し盗聴していたのは、ジェーンであることを確信した。

 ジェーンはまだ驚き固まっていた。彼女がしばらく何も言わないとプリシラが口を開く。


「あっあの…… 他に用事がなければもう席に戻りたいんですけど……」

「えっ!? あぁ。そうですわね。どうぞ」


 プリシラの言葉にジェーンは我に返り彼女を自席へ戻す。首をかしげるジェーンを横目で見たプリシラは蔑むような表情をするのだった。

 数十分後、残った仕事を片付けたプリシラはグレン達と冒険者ギルドの前で合流した。

 冒険者ギルドから右に進んで最初の角を曲がり、細い路地を抜けると大きな通りへと出る。通りに出てすぐの向こう側の左斜め前に鈴々亭はある。

 この町の他の建物と代わり映えない、四角い三階建ての建物で軒先に鈴が二つ重なった看板がぶら下がっている。グレン達は鈴々亭の扉を開けて中に入った。中は広い空間で扉の正面から一番奥に十人ほどが座れるカウンターがある。

 入り口からカウンターまでは通路になって一メートルほど空いており、両脇にズラッと四人がけの丸テーブルが並んでいる。続カウンターの奥はキッチンになっており開いた扉から料理を作るコックの姿が見える。

 二階までは吹き抜けの構造でカウンターの横に階段があり、カウンターの上に冒険者達が宿泊する部屋が並んでいた。


「こっちですわよ」


 グレン達が店に入るとクロースが手を開けて声をかける。声の方に視線を向けたグレンに、扉から左手に奥にある席にクロースが居てオリビアがこちらに背を向けて座っているのが見えた。

 二人の元へ向かうグレン達……


「えぇ……」


 テーブルを見たプリシラが声をあげた…… プリシラはオリビアの前に積まれた何十枚もの皿を見てしまったのだ。


「おぉ! 来たか」


 口からエビの尻尾をだしながら、オリビアが振り向いてグレン達に声をかける。プリシラ以外の人間は特に驚く様子もなく席に着く。


「えっ!? あぁ……」


 みんなが反応しないの見たプリシラは慌てた様子で続いて席に着く。

 三人は席をついてウェイターを呼んで注文をした。料理を待っているとオリビアが食べながら口を開く。


「しっかし…… さっきのジェーンは最高だったな」

「いまごろ聞こえません。聞こえませんわーーって騒いでるんじゃないか」


 メガネを直す仕草をしてジェーンの口調を真似するグレン。グレンの真似を見たプリシラはすぐに吹き出した。


「ぷぷ…… もう! やめてくださいよ。今度ジェーンさんの顔を見たら思い出しちゃうじゃないですか。わたしの席は彼女の前なんですよ!」

 

 笑顔のプリシラの方に顔を向けたクレアが、心配そうな表情をする。


「まぁそれは良いとしてプリシラさん…… 気をつけてくださいね。相手はあなたから情報が引き出せなくなったとわかったら何をするかわかりません」

「わっわかりました」

「なるべく一人にならないようにしてくださいね。冒険者ギルドでもです」

「はい」


 クレアの言葉に小さくうなずくプリシラだった。


「ハンナさんには連絡をいれてくれましたか?」

「はい。大丈夫です。ハンナさんは自宅に居るからいつでも来ていいそうです」

「そうですか。ありがとうございます。じゃあグレン君。明日ハンナさんに会いに行きましょう」


 声をかけられたグレンはクレアに向かてうなずくのだった。

 そこへ料理が運ばれてきた。トレイに一人前の料理を乗せた、黒のミニスカートの制服を着た、金髪で兎耳のウェイトレスがグレン達のテーブルへとやってきた。話をしていたクレア達にクロースが代わり料理を受け取った。

 ウェイトレスはすぐに戻っていく。クロースは料理をクレアの前に置こうと、手を伸ばしながら彼女に問いかける。


「じゃあ明日はわたくし達も一緒に行ったほうがいいですわね」

「いえ…… 二人は少し自由にしててください。そして…… 相手の目をなるべく引くように」

「そうですか。わかりましたわ。せいぜい派手に活動いたしますわね」

「はい。お願いします」


 クロースが答えるとクレアはニッコリと微笑むのだった。

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