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新大陸の冒険者支援課 ~新大陸での冒険は全て支援課にお任せ!? 受け入れから排除まであなたの冒険を助けます!~  作者: ネコ軍団
第2章 闇に沈む鉱山を救え

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第84話 ただの猫ではない

 第五十三坑道の地底湖の底。月光苔の光がわずかに届くうすぐらい水中を、オリビアとクレアの二人は泳いでいる。二人はグレンが調合した水中でも息ができるようになる薬、フリードルフィンを使用しており地底湖に潜ってから十数分が過ぎても余裕で笑っていた。

 どこかの川などにつながっているのか、餌もなさそうな地底湖には小さな魚が少数泳いでいた。二人は地底湖への中央付近へと近づく。


「!?」


 クレアが目を大きく見開いた。ニメートルほど彼女の前を泳いでいた、オリビアが振り返り嬉しそうに前を指さしたのだ。

 右手をあげクレアが答えると、前を向いたオリビアは大きく足と手を動かして早く進みだした。オリビアの足が湖底の砂を舞いげ視界が悪くなっていく、離されないようにクレアは必死に彼女についていくのだった。

 オリビアがまた振り返って前を指す。彼女の指した指の先にクレアが目を向けると、そこには一本の黒い石柱が立っていた。クレアとオリビアは黒い石柱の前へと泳いでやって来た。顔を上げクレアは石柱をまじまじと見つめる。

 目の前にある石柱はテオドールにあったものと同じで、根本には小さな台座があり、石柱の正面には青い宝石のような石が埋め込まれていた。本来なら泥や砂がついても良さそうだが、汚れもなくきれいな状態で台座に一本の柱がまっすぐと立っている。

 クレアはオリビアの方に顔を向け、彼女に向かって親指を立てて合図をした。


「コク……」


 小さくうなずいたオリビア、ゆっくりと二人は石柱から離れ浮上するのだった。

 湖面へと浮かび上がった二人は岸で待っているグレン達の元へと戻った。地底湖から上がった二人をグレンとクロースとプリシラが迎える。クレアは鞄からタオルを出しオリビアへ渡した。

 グレンは二人の近くまで来て声をかけた。


「どうだった?」

「テオドールの砦にあった物と同じ石柱でした。間違いありません」

「そうか。じゃあ後は……」

「えぇ。ここにもう一度来ましょう。皆で……」


 首にタオルをかけてうなずくクレアだった。グレンはクレアからの回答を聞いて大きくうなずいた。


「よし! ならもうここにダークオーシャンワームはいないし、俺たちはフラックさんに会いに行こうか」

「プリシラさん。冒険者ギルドに戻ったらハンナさんに連絡を取ってください。私達が会いたいと」


 近くにいた近くに居たプリシラにハンナと連絡を取るようにクレアが指示をだす。


「えっ!? はい。わかりました。でっでも……」


 プリシラは彼女に指示に少し驚いた様子で、チラッと視線を横に向けた。彼女の視線先にはそこには治療を終え、魔法で眠らされ地面の上に横たわるイアンが居た。彼の傍らには見張るようにして黒と白い毛の猫が座っている。


「あっあの。イアンさんを使えばゴールド司教を町から追放できるのでは……」


 申し訳なさそうにプリシラがクレアに口を開いた。彼女はイアンを証人としてゴールド司教を糾弾しようと言うのだろう。

 クレアは顎に手を置いて少し考えている。


「そうですねぇ…… でも、まずは第五十三坑道を正常に戻して町から魔物の恐怖を取り除くことが大事です。ゴールド司教はその後ですね」

「後回しにするんですか?! 今も苦しんでる人達が居るんですよ!」


 プリシラの提案を否定するクレアだった、しかし、プリシラは声を荒らげ食い下がってくる。普段のプリシラであればクレアの提案を受け入れていたであろう。だが、彼女は元シスターで町の入り口で、友人達が体を売ってることに心を痛めていた。

 冷静に淡々とした口調でクレアはプリシラに向かって話しを始める。


「ゴールド・スタンレー。ガルバルディア帝国の名門スタンレー家の次男で長男が家督を継ぐのと同時に教会へ入り主に仕える。司教となった彼はノウレッジ開発局へと配属される。そこで農地の開拓や都市開発に尽力した。その功績を買われて鉱石の町ロボイセへさらなる発展のため聖女から責任者として派遣される……」


 クレアはゴールド司教の経歴を話していた。


「なっなんですか? それくらい私でも……」


 冒険者ギルドは教会に所属する組織だ。当然、プリシラもゴールド司教の経歴くらいは知っている。

 バカにされたのかとプリシラは不快な表情を浮かべていた。すぐにオリビアがプリシラの肩に手を置き振り向く彼女の首を横に振った。


「違うよ。きっとクレアが言いたいのは…… この実績のある男とそこのただの冒険者の証言…… どっちが信用されるっかってことだ?」

「ふぇ!? そっそれは……」


 オリビアの問いかけにプリシラは黙り込んでしまった。比べるまでもなく信用されるのはゴールド司教の方だろう。クレアはオリビアを見て小さくうなずいた。


「大丈夫ですよ。色々と手はあります…… それが正規の手段とは限りませんけどね……」


 ニッコリと怪しく微笑むクレアだった。普段と変わらない笑顔のクレアだが、プリシラの目に不気味に見えて思わず彼女は声があげた。


「へっ!? あの……」


 驚いた顔をするプリシラに、今度はクロースが彼女の肩に手を置いた。振り向いたプリシラに優しくクロースが微笑む。


「クレアに任せておけば大丈夫ですわ」

「はっはぁ……」


 クロースの言葉に半信半疑で返事をするプリシラだった。

 頭をかくどうさをした、グレンがイアンを指してクレアに問いかける。


「まぁでも…… 本当にあいつはどうする? 今のロボイセの冒険者ギルドには連れていけないぞ」

「大丈夫ですよ。あの子に任せます」

「あの子?」

「えぇ!? 気づいてなかったんですか…… もう! ナーちゃーん!」


 クレアはナーちゃんとイアンの横に座っていた猫を呼んだ。ナーと呼ばれた猫はすぐにクレアの足元にかけてくる。

 足元に来たナーをクレアはしゃがんで撫でる。グレンは猫を呼ぶクレアに呆れた顔をする。


「また! この猫に勝手に名前をつけるなよ。飼いたくなっても俺たちにペットは……」

「違いますよ。この子はナーちゃんですよ。もう…… 忘れたんですか? テオドールでも会ってますよ」

「えぇ!? そうなの」


 驚くグレンにナーは眉間にシワを寄せて、少しムッとしたような表情を向け鳴いた。


「ナー!!!!」


 グレンに向かって怒りながら鳴いている、ナーを見てなにかに気づいたようだった。


「あっ! ごめんそうだったな…… ただの野良猫だと……」

「ナーン…… プイ」


 謝るグレンにナーは顔をそむける。クレアはしゃがんだままグレンとナーの姿を見て笑っていた。

 優しく撫でながら彼女はナーに声をかける。


「ナーちゃん。イアンさんを預けるのでお願いしますね」

「ナーン」


 クレアがナーに声をかけ、撫でるのやめて立ち上がった。直後にナーの体が白く光に包まれた。光は強烈で昼間のように周囲を照らした。


「まっまぶしい…… えっ!?」


 強烈な光にプリシラが目を手で覆った。すぐに光はおさまり手をどけるたプリシラは驚いて固まった。

 クレアの横にニメートルくらいの人型の姿に変えたナーが立っていたのだ。ナーは黒のシルクハットをかぶり、赤い蝶ネクタイに黒いスーツを着て右手に赤い宝石が先端についた杖を持っていた。


「ひいい!? ばっ化け猫!?」


 人型に変わったナーにプリシラが驚いた声をあげた。彼女の言葉にクレアがすぐに反応したしなめる。


「違いますよ。ナーちゃんは猫妖精(ケットシー)さんなんです!」

「けっ猫妖精(ケットシー)??」

「はい。ナーさんのような猫妖精(ケットシー)さんが猫さんをまとめてくれるおかげでソーラさんの情報網は早く正確なんです」

「はっはぁ……」


 猫妖精(ケットシー)は猫の顔を持つ人型の幻獣で、猫たちの王様で何匹のもの猫を従え数々の魔法を操る。

 特に幻覚魔法が得意で稀に人間を馬鹿したりする。だが、傷つけるようなことはせずにあくまで猫妖精(ケットシー)が興味を持った人間とふれあうために行われる。


「それじゃあ。イアンさんを頼みましたよ」

「ナーン」


 鳴いたナーはシルクハットを取って挨拶をすると、イアンの元へと戻って左手で彼を抱きかかえた。


「じゃあお願いします。ソーラさんのところで保護してもらってください」


 クレアの言葉にうなずいたナーが、右手に持っていた杖で地面をつく。地面に丸い魔法陣が現れ白く光りだす、光に飲み込まれるようにしてナーの姿が消えた。

 呆然と見送るプリシラ、クレアはナーが消えた魔法陣があった場所を寂しそうに見つめていた。


「なぁ猫妖精(ケットシー)って人の言葉が喋れなかったっけ?」


 オリビアがグレンの耳元に顔を小声で質問した。


「あぁ。体は大きいがナーはまだ百歳にもなってない子どもの猫妖精(ケットシー)だからな。言葉は理解するけど喋れないんだ」

「そうなのか」


 オリビアがグレンの回答を聞いて納得したような表情をした。少して彼女は両手を伸ばして伸びをした。


「我々も少し休憩したら我々も戻ろうか」


 イアンが寝ていた場所の辺りを指したオリビアが歩き出す。クロースとプリシラはうなずき彼女に続いた。


「なっなに? どうしたの」


 オリビア達に続いて、戻ろうとしたグレンの前にクレアが道を塞ぐように立った。タオルを肩にかけたままクレアはグレンの顔を恥ずかしそうに見つめた。


「あっ頭を…… 拭いてください」

「えっ!? じっ自分でやれよ……」

「うー…… だってグレンに拭いてもらうの…… 好きなんです」


 タオルを申し訳なさそうにクレアはグレンに差し出した。クレアは風呂上がりによくグレンに頭を拭いてもらっていた。


「わかったよ。ほら貸せよ」

「わーい」


 ぶっきらぼうに答えたグレンはタオルをクレアの手から取った。両手でタオル持った彼は、嬉しそうにするクレアの頭にタオルをかけて両手で拭き始める。グレンが持つタオルに包まれたクレアは幸せそうに笑うのだった。

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