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第82話 そこにあるもので

「チッ!」


 振り向いたグレンは左に移動しながら、ダークオーシャンワームの口をかわしてすれ違う。銀色に輝く鱗の間から水が飛び彼の頬に水滴がかかって湿らす。グレンは右手に持った剣でダークオーシャンワームの体を切りつけようと腕に力を込めた。


「クソが!!」


 しかし…… 彼は悔しそうに叫び攻撃を止めた。ダメージを与えても再生されてしまい、自分の体力が無駄に消費するだけだからだ。

 すれ違ってダークオーシャンワームの背後へと抜けたグレンは振り返った。ダークオーシャンワームも体をまげて振り返り頭の上に乗ってるイアンがグレンを見て笑う。


「かわしたか。でも、いつまで攻撃をかわすだけかい?」

「あぁ。当たらなければ俺は仕留められないぜ」


 うなずいて笑って強がるグレン、イアンは彼の態度が気に入らないのかムッとした顔をした。


「アテウ!」


 イオンが叫ぶとダークオーシャンワームが グレンは剣で水の刃を弾いた。弾いた氷の刃はダークオーシャンワームを傷つけるが、体はすぐに再生される。


「ダークオーシャンワームは水の中では永遠に動き続けられるんだ。そして君の攻撃は再生される。さて…… いつまで持つかな」


 両手を広げた勝ち誇った顔をするイアンは、ダークオーシャンワームが近づいて口を大きく開き水の刃をグレンに向けて飛ばす。

 グレンは横に飛んで水の刃をかわした。ダークオーシャンワームは追撃しようと、グレンに向かって水の刃をさらに撃って来た。

 体を斜めにして飛ぶグレンの足を水の刃がかすった。ダークオーシャンワームは何度も水の刃を撃って来る。グレンはスピートをあげていくダークオーシャンワームを中心に、円を描くようにして水の刃をかわしていく。

 口を開けたままダークオーシャンワームは、グレンを追いかけ彼に向かって水の刃を何度も撃つのだった。


「ほらほら! 逃げるだけかい?」


 氷の刃をよけながら旋回するグレンに煽るイアン。チラッと横を見て距離を測ったグレンは高く飛ぶ。


「なっ!? まぁいい」


 上空を見て驚いた様子のイアンだった。グレンは縦に回転しながら、ダークオーシャンワームへと向かっていく軌道を描きながら氷の刃をかわしていく。

 イアンは回転するグレンが正面に来るタイミングを伺っている。顔をあげてグレンはすっとポケットへと手を突っ込みオーム石を取り出した。


「こいつをくらいな」


 グレンはオーム石を放り投げた。放物線を描きながらオーム石がダークオーシャンワームの手前の水に向かっていく。


「あれは…… ふん!!」


 投げらたオーム石を見た、イアンは背負っていた杖引き抜き体の両手に持って強く握りしめた意識を集中させる。

 ポチャっと言う静かな音がしてオーム石が水面に落ちた。


「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


 オームが石が水につかると同時に甲高い音が響く。天井や壁に反射した音は、やまびことなって何度も洞窟に響く。あまりの大きな音にプリシラとオリビアは耳を塞ぎ、二人を支えて飛ぶクロースとクレアは顔をしかめて必死に耐えるのだった。

 徐々に音がおさまっていく。杖から左手をはなしたイアンは、水面に浮かぶオーム石を見た。彼はすぐに顔をあげ十メートルほど前で、浮かんでいるグレンに感心した様子で声をかける。


「オーム石…… 君が剣士ではなくて薬師だったとはね」

「はっ。俺は剣士でも薬師でもねえよ。冒険者たちの支援員だ」


 首を大きく横に振ったグレンは右腕を伸ばして剣先をイアンに向けた。


「さぁ!! そいつはもうお前の言うことを聞かないぜ。覚悟しやがれ!」


 威勢よく叫んだグレンが前へと出る。イアンはグレンの様子を見た小さく首を横に振った。


「いやぁ。よくやったよ。でも…… 無駄だよ。アテウ!」


 イアンはグレンに杖の先端に向けてダークオーシャンワームに命令をだした。ダークオーシャンワームは彼の指示を聞いて、口を大きく開け氷の刃をグレンへとはなつ。

 オーム石の効果でダークオーシャンワームはイアンとの主従関係は解放されたはずである。驚いたグレンだったが、体が反応し急停止して右手に持っていた剣で水の刃を弾いた。


「なっ!? なぜ…… オーム石の奏でる聖音がワームを束縛から解き放つはず……」


 呆然とするグレンに笑顔のイアンは、杖をかかげ彼に見せつけるようにした。


「この杖はドラゴンシャウトと言ってね。我々の耳には届かないドラゴンの言葉(ドラゴンズスペル)を出せて全ての音害から周囲を守ってくれるんだ」

「ドラゴンシャウトだと…… そんな物が……」

「魔獣使いがオーム石の存在を知らないとでも思ったのかい? ただの支援員さん」


 ニコッと余裕で微笑むイアン。ユニコワックスを剥がされオーム石も使えないとなると、いよいよグレンに打つ手はなくなった。グレンは追い詰められた。


「さぁ。獲物はゆっくりと痛めつけて最後に美味しく食べような。ケーイ」


 イアンが勝ち誇って笑っている。ゆっくりとダークオーシャンワームが前に進む。悔しそうにして彼に背中を向けたグレンはダークオーシャンワームとの距離を取るのだった。

 クレア達はグレン達から五メートルほど上から戦況を見つめていた。


「まずいですね…… グレン君……」


 クレアが心配そうにグレンを見つめてつぶやく。彼女に抱きかかえられている、オリビアが彼女の顔を見た。


「なぁユニコワックスってクイーンデスワームの再生を止めるワックスだよな…… 予備は持ってないのか?」

「あります。私の鞄に入ってます」

「じゃあそれを……」


 体の向きを変えて、クレアが肩からかけた鞄に手をのばす。


「無駄ですよ。ワックスを剣に塗らなきゃいけません。あなたを抱えたままでグレン君が剣にワックスを塗るまで敵を引き付けるのは無理です」

「そっそうか……」

「どうすれば……」


 心配そうにグレンを見つめ必死に考えるクレア、オリビアはハッと目を見開いた……


「クレア! ちょっと教えてくれ? ユニコワックスって剣に塗らなくても良いのか?」

「えっ!? 何を言ってるんですか? 剣に塗らないとダメですよ。当たり前です」

「ちっ違う。すまない。私はワームの本体に塗っても効果はあるのかと聞きたかったんだ?」

「そっそれは…… きっと大丈夫だと思います。確かグレン君が前に…… ワックスは相手に塗るのが一番効果があるけど抵抗されるから剣に塗ってるって……」


 クレアの回答にオリビアの表情が明るくなった。彼女はクレアに向かって次の質問をする。


「ユニコワックスの作り方は分かるか?」

「はい。確かお鍋に湯を沸かして材料を入れてかき回して冷まして固めるんです。ただ…… 固めるのは剣に塗るためだから効果をだすだけなら固めなくても良いってグレン君が……」

「ほう……」


 小さくうなずくオリビアは水面を見つめている。まだ水はダークオーシャンワームによって円形に水が流れ渦が巻いている。


「材料もわかるか?」

「えっと確か…… ワックス草…… はいらないから……」

 

 必死にクレアはユニコワックスの材料を思い出す。


「ハナビダケの粉にレインボーベリー三つです」

「なるほど材料は全部鞄にあるな?」

「はい。あっ!! でも…… それと……」

「それと?」

 

 ユニコワックスの材料をあげていくクレア。鞄にはそれらは全て入ってる。最後に使う一つを除いて……

 クレアは顔を赤くして小さな声で最後の材料を言う。


「そっそれと…… 女の人のお小水が必要です……」

「えっ!? そっそんなものが入ってるのか?」

「コク…… これはさすがに鞄には……」


 小さくうなずくクレア…… オリビアはクレアからユニコワックスの材料を聞いて少し考えている。


「うーむ……」


 チラッと横を向くとクロースが、プリシラを抱えて飛んでいるのが見えた。オリビアは彼女たちを見て小さく息を吐き顔を真っ赤にした。


「はぁ。しょうがない。ちょっと恥ずかしいが…… グレン君に上を向く余裕はないよな。よし!! 最後の材料は現地調達だ」

「えっ!?」

「クロース!」


 オリビアがクロースを呼んで手招きをする。クロースはプリシラを、抱きかかえたまま彼女の元へと飛んで来るのだった。


「なんですの? 急に」

「ちょっと」


 手招きしてクロースをさらに呼び寄せるオリビア、彼女の耳に口を近づけてそっと小声で話しを始めた。オリビアの話しを聞いたクロースは顔を少し赤くしてすごく驚いた表情をした。


「なっ!? そっそんなこと…… 彼女にさせるわけには……」


 抱えているプリシラを見たクロース、二人の会話が聞こえないプリシラは二人を見上げながら首をかしげた。オリビアはクロースから顔を離して真顔でうなずく。


「でも、やるしかないんだ。もし君に他にいい作戦があるなら教えてくれ。早くしないとグレン君が……」


 下を向くオリビア、グレンがダークオーシャンワームに追われている姿が映る。クロースもグレンを見て、少し悩んでから小さくうなずいた。


「うー…… わかりましたわ。プリシラさん。頼みましたわよ」

「へっ!? なっ何をするですか?」


 膝で腰を押し両腕に力を入れてクロースはプリシラを持ち上げて、彼女の耳が自分の口に近づくようにした。少し恥ずかしそうにクロースはプリシラに耳打ちをした。


「嫌です! そんなこと出来ません!」


 顔を真っ赤にして大きく首を横に振ったプリシラだった。


「ごめんなさい。でも…… グレンさんを助けないといけませんの…… 今のあなたにしかお願いできませんお」

「頼む。私も一緒だから……」

「お願いします。このままじゃグレン君が……」


 クレア、クロース、オリビアが必死にプリシラをなだめ説得する。下を見たプリシラにグレンが必死に逃げる姿が見える。


「うぅ…… わっわかりました……」

「ありがとう! クレア! クロース! 準備をしろ」

「「はい」」


 クロースはプリシラを連れて二人から少し離れた場所へ移動する。オリビアはクレアの鞄に手を突っ込み彼女の指示で、ハナビダケの粉、レインボベリーを取り出すと下に投げた。

 水面に材料が落ちた。どうやらオリビアが思いついた作戦は、下の水を利用してユニコワックスを作ることのようだ。そしてオリビアは最後の材料の投下の準備を始める。

 すぐにオリビアは自分の下着に手をかけ足首まで下し、スカートの裾をまくり上げた。プリシラも泣きそうになりながら下着を下しスカートを捲りあげるのだった。

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