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第78話 水浴びに誘われて

 周囲を歩きながらグレンは石を集め、クレアは鞄から燃料を取り出して火を起こす準備をする。歩いているグレンにオリビアが近づいて声をかける。


「終わったら君も一緒に水浴びをしよう」


 グレンの背中に手を回し、地底湖を指差しオリビアがグレンを水浴びに誘う。彼女の少し後ろに立っていた、クロースとプリシラの顔が青くなり声が聞こえたクレアがびっくりして目を大きく見開いた。グレンは唐突な彼女の誘いに驚き、困惑した表情を浮かべ反応できずにいた。彼の反応を見たオリビアが笑って背中を軽く叩く。


「なんだ!? お姉ちゃんと入るのが恥ずかしいのか? ははは」


 笑って数回ほどグレンの背中をオリビアが叩く。


「なっ何を言ってますの! そんなのダメに決まってるでしょ。ねぇ? プリシラさん」

「はっはい……」


 慌てた様子でクロースがオリビアを止め、プリシラに同意を求める。返事をした顔を赤くしてプリシラはうつむく。チラッとグレンを見た後すぐに顔を手で覆った。全裸になるわけではないが、水浴びでは薄着になるわけで、恥じらいを持つ女性であればプリシラのような態度になる。特にプリシラは元シスターで男性への免疫は他の女性より低い。


「えぇ!? 良いじゃないか。グレンくんを仲間外れにするのはかわいそうだろう。私達の弟なんだから……」

「ダメです! グレン君は忙しいんですから!」


 クレアがオリビアの言葉を遮った。彼女は駆けよってグレンとオリビアの間に強引に体をねじ込んだ。顔を赤くし眉間にシワを寄せオリビアを睨むように見つめている。すぐにクロースがオリビアの手をつかんだ。


「ほら行きますわよ。二人の邪魔をしてはダメですわ」


 クロースはオリビアを連れて地底湖へと向かっていく。プリシラは二人の後に続く。クレアは連れて行かれるオリビアをジッと見つめ安堵の浮かべ小さく息を吐く。


「ふぅ。まったく…… オリビアちゃんは調子に乗って…… グレン君のお姉ちゃんは私なんですからね……」

「二人がここに来た時に俺の義姉(あね)みたいなものって言ったのは義姉(ねえ)ちゃんだろ……」

「うっ!? あっあれは…… 二人と仲良くしてもらいたいからで…… 本当にお姉ちゃんと思ってほしいわけじゃ……」


 グレンに指摘されたクレアはうつむき小さな声でつぶやく。グレンは彼女の様子を見つめ小さく首を横に振って笑っていた。


「いいですか! グレン君のお姉ちゃんは私ですからね! 私だけがお姉ちゃんですから! 大事なことなのでニ回言います!」

「わかってるよ」


 すんなりと返事をしたグレン、クレアの顔がパアッと明るくなる。グレンはクレアの顔を見て笑った。


「こんなガキみてえな姉貴は一人で十分だよ」

「なっ!? プクーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


 不満そうに頬を膨らませクレアは腕を組みそっぽを向いた。


「もういいです。もう夜に泣いても一緒に寝てあげません!」

「へっ!? だから…… 声が大きい!」

「べーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


 グレンはオリビア達に聞こえないか気にして振り返る。クレアはグレンがオリビア達を気にかけるグレンに不満で彼に向かって舌を出した。

 この後…… 夜に一人になるのを怖がるグレンは、義姉を必死になだめたのだった。

 十分ほどしてからグレンとクレアは薬を作る作業を再開した。石と薪で焚き火を作って火を起こして鍋に火をかけた。クレアの鞄を持ったグレンは、鍋の前にしゃがんで手慣れた様子で彼女の鞄から薬の材料を探している。


「パセリにサハギンの耳…… 雪見草の粉に…… それに媒体となるノウリッジ蒸留酒と」


 グレンが作ろうとしてるのはフリードルフィンと言う薬である。飲めばしばらくの間、水中で呼吸が出来て目を開けていられるようになる。

 フリードルフィンは媒体に材料を入れ、少し煮るだけで簡単に作れるため漁師や船乗り他には水中探索を行う冒険者がよく使う。他にも強力な海軍がある国では水兵に支給されたりもする。

 鍋に材料を入れてグレンがかき混ぜていた。彼の横でクレアは薬が完成するのを待っていた。ふと彼は鍋を見ていた顔をあげクレアへと目を向けた。


「あっ! 義姉ちゃん。クイーンデスワームがまた出るかもしれないからな。剣にユニコワックスを塗っておきなよ」

「そうですね」


 グレンはクレアの鞄から小さな壺を出した。この壺の中にはユニコワックスが入っている。第五十三坑道にクイーンデスワームが出現することを想定して、二人はユニコワックスを作成し保管していた。


「一回塗ったらニ時間は大丈夫だ。その壺だけで五回分はあるから」

「うん。わかった。ありがとう。たくさん作ってくれて……」

「まぁ。義姉ちゃんがたくさん出してくれたからな!」

「へっ!? こっこら! グレン君! もう……」


 クレアは恥ずかしそうに顔を赤くした、グレンは彼女の様子を見てニヤリと笑っていた。しかし次の瞬間、二人はすぐに真顔になった。


「来たみたいだぜ」

「そうみたいですね。でも…… おそらく彼らはこっちには来ませんよ」

「だろうな。まぁ任せるよ。勇者様」

「えぇ。オリビアちゃんクロースちゃん。頼みましたよ」


 グレンとクレアは地底湖を見ながら笑顔で会話をしていた。

 地底湖の大きな岩があり、その岩の上にオリビア達三人の服が畳まれてその上に武器が置かれている。地底湖の岩の向こうで隠れるようにしてオリビア達は水浴びをしているようだ。

 岩から数十メートル離れた壁に採掘の途中だったのか、人が立って入れるくらいの削れた箇所がある。そこに男二人と女一人の三人組が隠れていた。

 男の一人と女性は上下白のズボンとシャツの上に、灰色の金属製の胸当てをつけ頭に白い布を巻き黒のバンダナを首に巻いている。男は布の隙間から見える髪は金髪で青い瞳をして大剣を背負い、女は褐色肌に黒髪でオレンジ色の瞳をして、背中に大きな斧と丸い盾を背負っていた。

 もう一人の男は黒のローブを身にまとい背中に、ドラゴンの鱗のよう装飾がされた杖をさしている。髪は紫で長く背中の半分くらいまで伸びたのを後ろに結び、目は細くいわゆる糸目で大人しそうな顔つきをしていた。

 白い服の男の一人が右手を前に差し出して、彼を囲むようにして二人が立っている。白い服の男は手のひらを上にむけそこには小さな水晶が置かれている。


「きゃ! 何するんですの!」

「相変わらず小ぶりだな。私に付き合ってよく食べるくせに…… プリシラさんは見た目と違って意外と……」

「キャッ!? やっやめてください…… はしたない……」


 男が持つ水晶から水浴びをしてる、クロースとオリビアとプリシラの声が聞こえる。


「うっうるさいですわよ! 胸の大きさなんか別に……」

「代わりにこっちにはよく付くこと……」

「おめえ! いい加減しねえと蹴っ飛ばすぞ!」

「ひえー!」


 おどけたオリビアの悲鳴が聞こえて、その後水面を叩くような音が水晶からする。男たちはオリビア達の様子をうかがっているようだ。

 会話を聞いていた白い服の女はニヤリと笑って男の方を向いた。


「油断してるね。行くよ」

「あぁ」


 男は静かにうなずいて返事をした。すぐに女は黒いローブの男の方に顔を向けた。


「あんたはここにいな。あたい達だけ十分だ」

「そうか…… 好きにしろ」


 口元を緩ませて黒いローブの男は返事をした。彼の表情からどこか二人を見下したような雰囲気がある。


「チッ! あんた! 行くよ」


 不機嫌そうに舌打ちをして女は白い服の男に命令する。白い服の男女は黒いローブの男を残し二人でオリビア達の元へ向かうのだった。歩く途中で男が女に顔を向け視線を後ろに動かし口を開く。


「大丈夫か。あいつ残して来て……」

「あたいとあんただけでやれば報酬が増えるだろ。余計なやつを排除するのは当前だよ」

「さすが姉御だぜ」


 女は笑って白い服の男を見る。話しを聞いた男の顔が緩む。


「なぁ? 姉御! 勇者達は好きにしていいんだろ?」

「あぁ。裸ならそのままやってやんなよ。脱がす手間省けるじゃん。キャハハ」


 白い服の女が下品に笑う。男女はオリビア達の元へと小走りから徐々にスピードをあげ走り出す。二人は訓練を受けているのか足音は小さく気配を消して素早い。

 走りながら二人は首のバンダナで口元を覆って顔を隠した。

 地底湖までの距離をつめて岩を一気に駆け上がる。頂上まで上って武器を取り出し、オリビア達の服の先まで行って向こうが見えるところまでやってきた。


「動くんじゃあないよ!!!!」


 威勢よく女が声をあげた。二人は視線を湖に向けた。


「えっ!? あっあの……」


 そこには赤くところどころがレースで透けた扇動的な下着と冒険者ギルドの首飾りだけを、身に着けたプリシラが浅瀬に立って水面を叩いていた。

 彼女は声をかけられて動きを止め二人の方を向き怯えた表情を浮かべている。


「おい! 勇者どもは?」


 白い服の男がプリシラに叫ぶ。プリシラは怯えた様子で首を横に振った。


「ここに居るぞ」


 すっと男の背後にオリビアが落ちて来て、女の背後にはクロースが飛んできて着地する。

 ほぼ同時に二人は男女の背中を蹴り飛ばした。蹴られた男女二人は、バランスを崩して地底湖へと落下した。


「「ギャッ!?」」


 叫び声をあげると同時に水辺に男女は叩きつけられた。

 尻もちをついた姿勢で岩の方を見上げた二人、そこには水色の色気のない下着姿のオリビアとクロースが立っていた。オリビアの下着は飾りのない無地で色気のない水色の下着で、クロースは腰の部分が細く胸の下着とショーツにレースが施され上品で洒落た白い下着だ。


「どっどうして!?」


 男が二人を見て声をあげた。オリビアは笑って首をかしげた。


「さあね。その前に君達は何者だ?」


 オリビアの問いかけに男女二人の顔が青くなった。慌ててる男女を見てオリビアは笑う。


「くっそう! あいつだ」


 女が立ち上がりプリシラに向かって走り出した。女の行動にオリビアは笑う。


「ダメだよ。そんな予測しやすい行動したら…… クロース!」

「はーい」


 クロースは素早く自分の服の上に置かれたハルバードを右手で拾うと女性に向かって投げた。

 回転しながらものすごい勢いでハルバードが女の背中に迫っていく。

 女は背中にハルバードが迫ることに気づかず、必死な顔でプリシラの目の前で彼女の向かって手をのばす。

 だが…… プリシラの視界に映っていた女の頭を、白い何かが上から切り裂いた。


「ひっ!」


 プリシラの悲鳴がする。ハルバードは女の頭に上から突き刺さり首の辺りで止まった。ハルバードが刺さったまま女は倒れ、水面からハルバードの柄だけが突き出て周囲を赤い血が染めていく。下の光景を見て満足そうにうなずいたオリビアは、足元にあった自分の服の上に置かれたメイスを拾い上げた。


「次は君だよ……」


 メイスの先端を男に向けてオリビアがつぶやいた。しかし……


「ダメですわよ。一人は残しておかないとお話が聞けませんでしょう」

「そうだったな。でも…… 手足は折っておかないと逃げるぞ」

「うーん。そうですわね…… 口だけでいいんですもの…… じゃあ手足を折りましょうか」


 にこやかに会話をするオリビアとクロース、二人の会話を聞いた男の顔が青くなり恐怖にひきつる。


「うわああああああ!!! 嫌だアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 叫び声を上げたながら男は立ち上がると走って逃げ出した。必死でおぼつかない足で何度も転びそうになって地底湖を出て走っていく。


「クレア! そっちに行ったぞ!」


 オリビアは走り去っていく男の背中を見ながらクレアを叫ぶのだった。

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