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第75話 一名追加でお願いします

 オリビアとクロースがロボイセに到着した翌日の早朝。冒険者ギルドの裏口の扉から、オリビアとクロースを迎えるためグレンとクレアが出てきた。

 二人は冒険者ギルドの正面へと回る。夜が明ける前で冒険者ギルドは閉じられており、薄暗い通りは閑散として歩く者は少ない。通りの先に目をやるグレン、横でクレアは鞄からバスケットを出す。グレンは彼女が出したバスケットに気づいて指をさす。


「義姉ちゃん。なにそれ?」

「えへへ。内緒です」


 持っているバスケットを両手で抱えクレアは微笑む。内緒と言われグレンは首をかしげるのだった。


「うん!?」


 通りの先へ視線を戻したグレンが少し驚いた様子で声をあげた

 クレアがグレンの横から顔をのぞかせ、彼の視線の先を覗き込むようにして見た。クレアは静かに小さくうなずく。


「おはようございまーす」


 二人の前に現れたのはオリビアとクロースではなく受付のプリシラだった。


「おはようございます。ロボイセの受付は早いんですねぇ」


 クレアはプリシアが来るのが分かっていたのか、驚くことなく少しとぼけた感じで挨拶を返す。


「違いますよー…… 普段はもっと遅いんです。昨日の帰宅前に急に私もあなた達の調査に案内人として同行するように言われちゃって…… 大丈夫ですか?」


 少しおどおどした感じでクレアに同行を願いでた。二人はプリシラの言葉に特に驚く様子もなく、顔を見合わせてうなずいた。


「良いですよ。一緒に行きましょう」

「俺達から離れるなよ」


 二人は同行を認めた。プリシラの顔がぱあっと明るくなった。


「はい! ありがとうございます。しっかりと道案内しますね」


 プリシラが来てから数分でオリビアとクロースがやって来た。近づいて来た二人はグレン達と一緒にいるプリシラに視線を向けた。


「あら!? プリシラさん。お見送りですか?」

「おはようございます。違います。私も同行することになりました。よろしくお願いします」


 挨拶をするプリシラ、クロースとオリビアはクレアの方に顔を向けた。


「いいんですの?」

「はい。彼女も冒険者ギルドの職員ですから同行しても問題ありません。護衛もいますしね」


 クレアはクロースの問いかけに笑顔で答える。クロースはクレアの様子を見て笑ってうなずいた。


「そう。わかりました。こちらこそよろしくお願いしますわ」

「よろしく」


 クロースはプリシラと握手をし、オリビアはぶっきらぼうに右手を上げた。三人が挨拶を終わるのを確認したグレンが口を開く。


「じゃあ、皆そろったしそろそろ行こうか…… うん!?」

 

 グレンの傍に居たクレアが、オリビアの前へ向かっていった。微笑んで彼女はオリビアに持っていたバスケットを差し出した。


「はい。これお弁当です。食べてください」

「おぉ! すまない」


 少し驚いてオリビアは、クレアが差し出したバスケットを受け取っていた。クレアが持っていたスケットは弁当でオリビアに渡すために持ってきたようだ。


「さすがクレアだ。気が利くなぁ」


 布を持ち上げて、バスケットの中身を確認しよだれを垂らしながら、オリビアは嬉しそうにしてる。その様子を見ていたクロースが呆れた顔をし、頭の脇の髪を手で払うような動作をした。


「違いますわよ。クレアはあなたが買い食いして余計な時間を食わないようにしてるんですのよ? わかりませんこと?」

「えぇ!?」


 驚くオリビアがクレアを見た。クレアは気まずそうなかおをする。


「もうクロースちゃん…… わかってても言っちゃダメですよ」

「いいんですよの。少しは反省してもらわないと!」

「うぅ……」


 オリビアはしょんぼりとうつむいて、クロースは口元に手を当ててにやけていた。クレアはオリビアのフォローするため肩に手をかけた。近くで見ていたグレンはやれやれと言った様子で疲れた顔をするのだった。

 グレン、クレア、オリビア、クロースにプリシアを加えた五人は第五十三坑道へ向かう。町を抜けて大エレベーターから地下街へ下りた五人は、大エレベーターの周囲に築かれたバリケードを超える。

 五人を先導するのはクレアで横にグレン、プリシラが続いて最後尾にオリビアとクロースが続く。


「あれ!? こっちは……」


 グレンが何かに気づいてつぶやく、クレアはグレンの方に顔を向けて笑った。


「第五十三坑道へ行く前にリンガル洞窟亭へ行きます。セーフルームが正常に動いているかチェックしないとですからね」

「そうか。わかったよ」


 クレアの先導で五人はリンガル洞窟亭の前までやってきた。

 数日前のクイーンデスワームとの戦闘で、リンガル洞窟亭の前の地面には血の痕が残り、割れたガラスが散乱していた。

 リンガル洞窟亭の前でクレアは振り返った。


「ここは私とグレン君がセーフルームを設置した場所です。今から休憩とセーフルームが異常ないか確認します」


 クレアはオリビア達に伝えるとそのまま扉に手をかけて開けた。グレン達はリンガル洞窟亭の中へ入るのだった。

 扉の向こうは外と違いグレン達の清掃のおかげで、床は綺麗に掃除されテーブルが整えられていた。中へ入って少し歩くとクレアが皆を止めて振り返った。


「私はプリシラさんとキッチンの方を確認して来ます。グレン君はフロア様の像の状態を見てください。オリビアちゃん達は二階を確認してもらっていいですか?」

「わかった」


 クレアの指示に従い、プリシラとクレアはキッチンへ、グレンは象の前へ行き、オリビア達はニ階へ上がっていった。

 キッチンの中へ入ったクレアが様子をうかがう。


「あっ!」


 クレアがキッチンの中はいるとそこには…… 三人の冒険者がキッチンの中央で並んで寝ていた。三人の傍らには彼らの仲間で見張りをしてる一人の冒険者が座っている。

 見張りは突如やってきたクレアとプリシラへ視線を向ける。クレアは慣れた様子で胸元に下げている首飾りを見せる。


「急にお邪魔してごめんなさい。冒険者ギルドの職員です。セーフルームの状態調査に来ました。じゃまにならないようにしますね」


 にっこりと微笑みクレアは口元に指をもっていき静かにするアピールをする。見張りはかしこまった様子でうなずいた。

 数日前までここにはクイーンデスワームがおり、食事をしていたせいで人間の骨や肉片が無数に転がっていた。

 掃除したおかげで多少の血痕は残っているが、充満していた血の匂いはグレンが調合した消臭効果のある薬草によって消えかすかに香草の香りが漂う冒険者が休憩するには問題ない場所に変わっていた。


「セーフルームに何か問題ありますか?」

「ブンブン」


 冒険者達を起こさないように、クレアは小声で見張りに声をかけた。首を大きく横に振って見張りは問題ないと答える。クレアは見張りの回答とキッチンの様子に満足そうにうなずいた。


「よし大丈夫ですね。グレン君のところへ戻りましょう」

「はい」

「ご協力ありがとうございました」


 見張りに手をあげて挨拶をしたクレアはプリシラを連れてグレンの元へと戻った。グレンはフロア象の背後に回って状態を確認していた。


「どうですか?」

「あぁ。大丈夫。象にも結界にも異常はないよ」

「よかった」


 グレンの回答を聞いてホッとした表情を浮かべるクレアだった。

 二階を見回っていたオリビアとクロースが、二階の廊下に立ったのが見えたクレアは二人に声をかけた。


「そっちはどうですか?」

「異常はないですわ。ベッドに猫がいますけど……」


 猫と聞いた瞬間にクレアが目を輝かせた。


「わーい。行きまーす」


 嬉しそうに両手をあげたクレアは足取り軽く二階へ駆け上がっていく。クレアの行動にプリシラは呆然としてグレンは笑っていた。

 二階に上がったクレアはクロース達の横を通り彼女達が出てきた部屋に入っていく。

 部屋の中には古びた硬そうなベッドがあり、その上に手足の先と口元と腹が白い毛でほかは黒い毛の猫が寝ていた。


「かわいいー」


 猫を脅かさないように小さく声をあげクレアは、静かにベッドに近づいき猫の横に座った。猫は近づいて来たクレアに驚いて逃げることなく堂々としている。


「えへへ。いいこでしゅねぇ」


 笑って幼い子供へしゃべるような口調で、クレアは猫に声をかけながら優しく丁寧に猫を撫でる。猫も気持ちよさそうに目を閉じていた。


「私たちはこれからプリシラさんを連れて第五十三坑道に行きますよ。一緒に来ますかー。なんて……」


 クレアは猫に適当なことを言っていた。クロースとオリビアは部屋の入口の脇に立ち、部屋の様子をうかがっている。


「相変わらず。動物が好きなんですね」

「えへへ。はい!」


 クロースは彼女の言動を見て呆れた顔をした。


「私は安心したよ…… クレアは変わらない……」


 少し寂しそうにオリビアはクレアの姿を見てつぶやくのだった。クレアは二人の様子など、気にかけることなく猫との時間を満喫するのだった。


「いいこだから。これを上げましょう。お弁当の残りですけど」


 鞄に手を入れたクレアが白い布を取り出した。布を開くと中には茹でた鶏肉が入っていた。

 クレアは鶏肉をちぎって手に乗せて猫の前に差し出した。それを見ていたクロースは笑っている。だが、オリビアが急に何かに気づいた顔をした。


「うん!? 待て! 弁当の残りだと!? だったらそれは私のじゃないか!」


 鶏肉を指さして叫ぶオリビアだった。猫は声に驚いて目を大きく開き、クレアも驚いた顔をして振り向く。足を踏み出して前に出ようとするオリビアをクロースが肩をつかんで留めた。


「猫と喧嘩するのはおやめなさい! このおバカ!」

「うぅ…… でもそれは私の……」


 止められて悲しい顔で鶏肉を見るオリビア、クロースは彼女を見て額に手を置いて首を横に振るのだった。クレアは困った顔をして猫が静かにナーンと鳴くのだった。

 クレアが猫を存分に可愛がった後に五人は第五十三坑道へと向かうのだった。

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