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第74話 やっと来た二人

 グレン達がロボイセへ着いてから数日後の昼過ぎ。

 ロボイセへと続くトンネルを、二人の女性冒険者が歩いて町へと向かっていた。並んで歩く二人の女性の内一人は腹を擦りながら骨付きの肉を頬張って満足そうな顔を浮かべ、もう一人の女声は彼女が食べ歩くことに慣れてるのか特に気にする様子もなく普通に歩いていた。

 彼女らはクレアの友人で魔王を倒した元勇者のオリビアとその仲間クロースだ。二人はシスター達が住む赤いテントを通り過ぎている。ここではグレン達が見たものと同様の光景が繰り返されていた。

 テントの周りにいる男達はニヤニヤと笑ってテントの中へと入っていく。二人の耳にテントから漏れる吐息や男とシスター達の交わる声が漏れ届く。


「これはなかなかひどいですわねぇ」

「あぁ。クレアが言ってたとおりだな…… もぐもぐ」


 洞窟の光景を見て二人がつぶやいた。クロースが隣を歩くオリビアの方に視線を向けた。


「昔のあなただったら今頃ここの人達は全員張り倒されてますわね」

「んぐ!? そっそんなこと……」


 急に話を振られたオリビアは、肉を喉に詰まらせそうになり胸を叩いて必死に飲み込んだ。また肉を頬張ろうとしたがオリビアの動きは止まり、肉を見つめ少し間を開けてから小さく顔を数回横に振った。


「私も成長したんだ。昔みたいに突っ走るだけじゃ何も変わらないってな……」

「うふふ。そうですわ。この苦しみをすぐに終わらせますわよ」


 トンネルの先を手で指したクロース、オリビアは小さくうなずいて右手に持った肉にまたかぶりつくのであった。二人はトンネルを抜けロボイセの冒険者ギルドへとやってきた。冒険者ギルドは相変わらずカウンターに行列が出来るほど盛況だった。

 オリビアとクロースは冒険者達の列に並んで待っていた。町へ向かうトンネルでオリビアが持っていた肉はしっかりと彼女の胃の中へと吸い込まれており、彼女は今はトンネルから冒険者ギルドの間で買った肉が挟まった大きなサンドイッチを食べている。並んでいると二人を冒険者ギルドの職員の一人がカウンターから出て来た。

 出てきたのはプリシラで二人が並んでいる前に立った。


「すみませーん」


 プリシラが申し訳なさそうに二人に声をかけた。オリビアとクロースの視線がプリシラに向かうと、受付担当らしく彼女は愛想よく自ら名乗る。


「私は受付のプリシラと言います。あなた達の名前を教えてもらって良いですか?」

「わたくしはクロース、こちらはオリビアですわ」


 二人の名前を聞いたプリシラはすぐに反応する。プリシラにはオリビアの方が近いが、彼女はサンドイッチを頬張っておりクロースが代わりに返事をした。


「やっぱり。こちらへどうぞ。すぐに呼んで来ます」


 プリシラは二人を列から連れ出すと、空いているスペースに待たせカウンターの中へと戻っていった。

 しばらくして、カウンター奥の扉が開きプリシラが戻ってきた。彼女のすぐ後からクレアが入ってきた。クレアは二人を見つけると嬉しそうに手を振った。


「オリビアちゃん。クロースちゃん。いらっしゃい」

「おぉ! クレア。本当に助かりましたわ」


 二人もすぐに手を振り返してクレアの元へと向かう。カウンター越しにクレアと向き合っていた。クレアはオリビアとクロースと挨拶がてら会話した後、自分の横に立っていたプリシラに口を開く。


「プリシラさんもありがとうございます」

「いえ! これも仕事ですから」


 どうやらクレアはオリビアとクロースが来ることを事前にプリシラに伝え、彼女らが来たら自分を呼ぶように手配していたようだ。

 クレアニッコリと笑いカウンター越しで少し距離があるせいか、いつもよりも少し声を張りあげてクロースとオリビアに声をかける。


「それじゃお二人にお願いしたいことがあるので…… 来てもらっていいですか?」

「はい。かしこまりましたわ」

 

 オリビアとクロースの返事を聞いたクレアがカウンターを開けて二人を通す。プリシラの前を通る三人、プリシラはクレア達を見送ろうとしていた。黙って三人が通り過ぎると思っていたプリシラだったが、彼女の前に来たクレアに急に手を掴まれる。


「プリシラさんも一緒に来てもらっていいですか?」

「えっ!? 私もですか? でっでも……」


 周囲の様子を見たプリシラ、カウンターに並んでいる冒険者を見た。冒険者達は他のカウンターにいる職員によって順調にさばかれていた。クレアはプリシラに向かってにっこりと微笑む。


「お仕事は大丈夫ですよね?」

「えぇ。今は少し落ち着いてるので大丈夫ですけど……」


 冒険者ギルドはその日の仕事を受ける朝と、翌日の仕事を探す夕方が忙しい。昼から夕方にかけては手が空くことが多い。


「じゃあ行きましょう。この町のことであなたにも関係があることですから」

「はっはあ…… わかりました」


 少し強引にクレアはプリシラを連れてく。四人はクレアの先導でカウンターの奥にある扉へと入っていった。カウンターの側にある席に座ったジェーンは冒険者ギルドの奥へと消える四人に目を光らせていた。

 四人は階段を上がって二階にある一室へ。ここは四人ずつ向かい座る長いテーブルがあるロボイセ冒険者ギルドの第二会議室だ。テーブルの上には台座とその上には水晶が置かれていた。


「やあ。来たな。そっちに適当に座ってくれ」


 第二会議室にはグレンがすでにおり、入ってきた四人を迎えて座るようにうながす。クレアとグレンが隣り合って座り正面に三人が並んで座る。真剣な表情で座るグレン達を見てプリシラは少し気まずそうにうつむいた。


「私は本当に必要なんでしょうか……」

「えぇ。この町に住む方にも聞いてもらいたいんです」

「はっはぁ……」


 首をかしげるプリシラにクレアは優しく微笑む。クレアの視線はプリシラが首から下げてる首飾りを捉えていた。


「じゃあグレン君。始めますよ」

「あぁ。わかった」


 グレンが胸から下げていた首飾りを外して右手にもち水晶にかざす。

 水晶から光が伸びてテーブルの上に地図が表示された。呆然と地図を見ていたプリシラがハッという顔をしてつぶやく。


「これは…… 第五十三坑道の地図……」

「はい。私とグレン君。オリビアちゃんとクロースちゃんでここへ調査へ行きたいと思います」

「ちょっ調査?」

「はい。この坑道で見つかったと言われてる遺跡の調査です。魔物が侵入して来ていまだに謎の遺跡なんですよね?」


 クレアはプリシラに尋ねた。プリシラは小さくうなずいた。


「えぇ…… でも…… たったの四人ですよね。無理ですよ。だってあそこは魔物が発生した場所で誰も……」


 プリシラは立ち上がって第五十三坑道へ四人で向かおうのは無理だと訴える。彼女の訴えは当然だ。魔物の襲撃以降、第五十三坑道は魔物の巣窟となっており、向かった者は誰一人と帰って来てないのだから。


「それに…… 今は危険なんで立入禁止になってますし……」

「あぁ。大丈夫ですよ。だって…… オリビアちゃんは魔王を討伐した勇者ですから」


 クレアはプリシラの言葉に笑顔で答える。


「えぇ!? オリビアさんが魔王を倒した勇者!? 本当なんですか?」


 驚いて声をあげプリシラはサンドイッチを頬張るオリビアを見つめている。オリビアはニコニコでサンドイッチを食べながらプリシラの方を向いてうなずく。オリビアの態度に信じられないという顔をするプリシラだった。呆れた様子でクロースが口を開く。


「えぇ。本当に信じられないでしょうが事実ですわ。討伐した時にわたくしも居ましたし…… お疑いなら聖女オフィーリア様へ確認されても良いですわ」

「はっはぁ…… わっわかりました」


 堂々と答えるクロース、半信半疑だったプリシラは彼女の態度に、オリビアが勇者であることを信じた。


「じゃあ。プリシラさんすぐに調査の許可を取ってもらっていいですか?」

「はい。あの伝説の勇者が調査に行くと言うならすぐに許可が下りると思います。待っててください」


 立ち上がったプリシラは会議室を出ていく。グレン達は彼女が出ていくのを見送っていた。プリシラが出て足音が遠くなと、クロースが静かに口を開く。


「それで出発はいつですの?」

「今日は許可が出ないと思いますので明日の朝に出発します」


 クレアが出発の日時を告げると同時に、オリビアがサンドイッチを食べ終わった。そのまま彼女はクレアの言葉に答える。


「ごちそうさま。わかった。じゃあ今日はたらふく食べて準備しないとな」


 サンドイッチを包んでいた布で口を拭いて、オリビアがニコニコと笑っている。その姿を見たクロースの眉間にシワが寄って目が釣り上がる。


「なにを急にしゃべりだすだ! 今まで黙ってたくせによぉ! しっかもくだらねえこといいよってからに! だいたいおめさが食いすぎて借金したから到着が遅れたのを忘れたべか! しっかもまたクレアに頼んでなんとか借金も返すたのに…… 調子こくでねえ!!!!」

「すっすまん……」


 クロースは腕を組んで不満そうにそっぽをむき、オリビアは恥ずかしそうに右手で頭をかいて謝っている。二人のクレアは微笑み、グレンは呆れて両手を上に向けて肩をすくめていた。プリシアは何が起こったのかわからず呆然とするしかなかった……

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