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第72話 お届け物です2

 冒険者ギルドへとグレン達は戻ってきた。グレン、クレア、ハンナの三人をカウンター前に残して、プリシラは一人でギルドの奥へ向かう。

 大エレベーター前まで戻ったシャサ達は聖騎士に保護され冒険者ギルドへ戻った。その後、怪我を負っていた彼らは治療のためギルドにある医務室へと運ばれた。

 クイーンデスワームを倒しゴールド司教が雇った刺客を捕まえたグレン達は、冒険者ギルドに戻って剣を返そうとしたが治療中のため剣をプリシラに預けて教会へ向かった。カウンター奥の扉が開いてプリシラが三人の元へと戻って来た。


「シャサさん達は治療が終わってもう帰っちゃみたいですね」


 戻ってきて残念そうに報告をするプリシラにグレンが尋ねる。


「わかった。あいつらはどこに住んでるかわかるか?」

「えっと……」

 

 プリシラがカウンター上に置いてある、水晶に冒険者ギルドの職員の証である首飾りをかざす。水晶から光が伸びロボイセの町の地図の一部が表示されている。


「あの三人は町の南側にある洞穴借家に住んでいるみたい」


 笑顔で答えるプリシラ、彼女の回答をグレンの横で聞いていたクレアがハンナに顔を向ける。


「ハンナさんのお家はどこですか?」

「私は町の南東にある職人町に師匠と住んでる……」


 クレアにハンナに答えた。クレアは視線をスッと動かし周囲の様子をうかがってからニコッと笑い普段とは少し大きな声を出した。


「わかりました。職人町ですね! 先に剣を届けてからハンナさんを送っていきますね」

「いや本当に一人で帰れるから……」


 両手を前に出して一人で帰れることを強調し送迎を断る、スッとクレアが一歩前に出てハンナに顔を近づけ耳元でささやく。


「良いんですか? 冒険者ギルドを騙して仕事をしたことここで言いますよ?」


 ハンナは師匠が怪我したと嘘をついている。クレアはそのことをバラすと脅している。魔法道具職人にとって頻繁に注文が発生する冒険者ギルドは上客だ。彼らからの信用を失えばハンナは、魔法道具職人としてノウレッジで成功するのは難しいだろう。


「うっ…… お願いします」


 うつむいて悔しそうにうなずくハンナ、クレアは彼女を見てニコニコと笑っている。グレンは苦笑いをして、状況がわからないプリシラは首をかしげて不思議な顔をしていた。三人は冒険者ギルドからシャサ達の家へと向かうのだった。

 町の喧騒を抜けた三人の目の前に、すり鉢状に削られた山の壁が見えてきた。山の壁には太い木と石を使って組まれた頑丈な足場が作られ、その足場へとは木で組まれた階段で上がれるようになっている。壁にはかつて坑道だった穴があり内部は宿屋や店などに改装されている。

 魔物が発生した影響で連日鉱夫を護衛の依頼があり長期滞在する冒険者が多くなったため、ロボイセでは使われなくなった坑道を家に改装して借家と貸し出している。足場へ向かう階段を上りきった三人は、足場から町へと目を下ろす。

 日が沈みかけた町の日陰になった建物に。ポツポツと明かりが灯っていた。足場は壁際には不規則に扉が並び、落下防止のために人の胸くらいの高さに柵と手すりが築かれていた。


「見てください! 猫さんですよ」


 クレアが嬉しそうにグレンに声をかけた。彼女の視線の先には、足場に築かれた手すり上に少し太めの茶色の猫が寝ていた。


「ナーン」


 猫がグレン達とすれ違う瞬間に鳴いた。クレアは立ち止まって嬉しそうに猫の顎をそっと撫でる。クレアに撫でられた猫は目を細めて、ゴロゴロと喉を鳴らして気持ちよさそうにしている。


「ふふ。猫さんはかわいいですね。やっぱり一番です」

「あれ!? 前に犬が一番かわいいって言ってなかった?」


 太め猫のたるんだ顎をモフるクレアにグレンが尋ねた。クレアは慌てた様子でグレンの問いかけに答える。


「へっ!? はっ!? どっどっちもかわいいんです! どっちも一番なんです!」

「はいはい。何も必死に猫に言い訳をしなくても……」


 必死な様子にグレンは呆れた顔をし、ぷくっと頬を膨らませクレアは顔を赤らめるのだった。グレン達は猫が居た場所からニ分ほど足場を歩いた。なお、猫から離れるクレアはとっても名残り惜しそうであった。


「あっ! あそこですね。十二番借家です。シャサさん達のお家ですよ」


 十二と書かれた扉を指して、クレアがグレンとハンナに声をかけた。すぐに駆け寄ってクレアは扉の前に立ってノックをする。ハンナとグレンは彼女の少し後ろに立つのだった。


「はーい! わぁ! クレアさんにグレンさんそれにハンナさんも!」


 リッチェが明るく返事をし、扉を開けて三人を迎えてくれた。開いた扉の向こうには、テーブルと椅子が見えそこには手に包帯を巻いたシャサと頭に包帯が巻かれたカフが座り、嬉しそうにグレン達を見ていた。

 クレアは静かに鞄に手を入れ中から一本の剣を取り出した。


「これを……」

「あっ! ありがとうございます」

 

 テーブルに居たシャサが立ち上がり、急いでクレアの元へとやってきた。クレアは笑顔でシャサに剣を渡す。


「よかった…… おじいちゃん」


 剣のグリップを力強く握り、目に涙を溜めながら刀身を見つめてシャサが笑っている。


「よかった……」


 シャサの様子を見ていたリッチェも目に涙をため嬉しそうにしていた。


「さぁ。これから私達は食事なんです。一緒にどうですか?」


 指で目を拭うとリッチェは三人を部屋の中へ招き入れようとした。彼女の言葉にクレアがテーブルの上に目をやると、生きて帰れたことへの祝いなのかパンや肉などの豪勢な食事が並んでいた。

 料理に目を輝かせたクレアだったが、寂しそうにすぐに大きく首を横に振った。


「くっ…… ダッダメです。次の仕事がありますから! それにお礼は受け取れないです。私たちは支援員。冒険者を助けるのが仕事ですから」

「あぁ。君達の報酬の一部から俺達の給料がでてるんだ。気にしなくて良い。これからも頑張ってくれ」

「そうですか…… 残念です」


 リッチェは凄く残念そうにする。彼女の横で話しを聞いていたシャサが会話に割り込んで来る。


「じゃあ! お友達としてクレアさんを食事に誘うのはダメですか?」

「えっ!? うーん…… それならいいかな」


 シャサの提案に驚いた様子のクレアは、少し考えてから彼女の提案を受け入れる。クレアの回答にシャサは目を輝かせていた。


「じゃあ。次の仕事があるんでこれで……」

「あっ。はい…… えっ!?」


 次の仕事へ向かうことを告げるクレアだった。扉を閉めようとするリッチェにクレアは顔を急に顔を近づけ耳元でささやく。


「私達が帰ったら扉をしっかりと閉じて今日は誰が来ても中に入れてはいけませんよ。危険な事があったらすぐにギルドまで来てください」

「はっ!? はい! わかりました……」

「よろしくお願いしますね」


 自信なく答えるリッチェ、クレアはニッコリと微笑む。クレア達はリッチェが扉を閉め鍵をかけるのを確認すると振り返った。


「じゃあ。次はハンナさんお家へ行きますよ。案内してもらえますか?」

「あぁ…… 頼む」


 足場から階段を下りて、町へと戻って小さな道を、ハンナが先導しグレンとクレアが直後に続く。


「しっかし…… 下手だな」

「ですね。おそらくここの上級聖騎士は私兵なんでしょう」


 ハンナの後ろでクレアとグレンが話している。


「どうした?」


 二人の会話を聞いていたハンナが振り返って尋ねる。

 グレンはハンナの顔をジッと見つめる。真剣な目で見つめられた、ハンナは動揺し少し頬を赤らめた。


「俺達の後ろを見ろ…… 角の手前くらいに茶色のズボンに白い上着を着た男女が居るだろ?」


 ハッという表情をしてグレンの指示通りに視線を彼の背後に向ける。グレンの言葉通り男女が腕を組んで歩いている。

 顔はよくみえなかったが、落ち着いた雰囲気でパッと見た感じでは夫婦かあるいか恋人が夕方の散歩を楽しんでいるようにしか見えなかった。

 首をかしげたハンナにグレンは少し強めの口調で声をかけた。


「よし! 前を向いて歩け! すぐにだ」

「なっなんなんだいったい……」


 不服そうに前を向いて歩きだすハンナ、その後をグレン達がついていく。


「あいつらは俺達を尾行してる。シャサ達の家に着く少し前からな。さっきまで男一人、女二人だったから一人は今頃シャサ達を尋ねてるだろう」

「えっ!? 尾行!?」

「バカ! こっちを見るな前を向け!」

「すまん……」


 驚いて再度振り向くハンナにグレンがすぐに前を向くように言う。慌ててハンナは前を向いた。前を向いたままハンナは話しを続ける。


「一人が残ったって…… シャサ達は大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。扉を閉じて誰も入れるなと言ってありますから。それに何かあればわかりますから……」

「あぁ。あいつらの方が優秀だしな」

「あいつら!?」


 二人の会話がよくわからず首をかしげるハンナ、クレアは微笑み視線を上に向けた。

 夜が近づくロボイセの建物には灯りが付き始めたいた。薄暗い家の四角い屋根の上を一匹の黒い猫が歩いていた。


「我々の尾行にはもう一組いるんですよ」

「???」


 クレアの言葉を聞いたハンナは、ますます混乱して腕を組んで首をかしげていた。その様子を見て二人は笑っていた。


「ニャ~」


 屋根の上で黒い猫の鳴き声がかすかにハンナに聞こえるのだった。

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