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第68話 作業再開

 着替えを終えてハンナは部屋から出てきた。扉を開けたハンナが廊下に立って待っていたグレンを見て驚きの声をあげる。


「グレン…… (きみ)…… それは結石だろ? どうしたんだ」


 暇そうにしていたグレンが、拳より一回り小さいくらいの石を空中に投げていた。彼の足元にはクイーンデスワームから回収した銀色の輝くシャサの剣が立てかけられている。

 ペチッと音がして手を止めた石をつかんだグレンは笑い、握った石をハンナに見せた。彼が持っていたのは水色で宝石のように輝いた石だ。得意げに表情を浮かべるグレン、ハンナはグレンが持つ石をまじまじと興味深げに見つめていた。


「そうだ。でかいだろ? さっき服を取る時に見つけたんだ」


 結石とは魔物体内に出来る石で、主に魔力の結晶や分泌液等が固まって結晶となったものだ。結石は輝きを放ち宝石として価値があるものや硬い性質や魔力有無などにより、道具や装備の材料になったり様々な用途がある。

 クイーンデスワームの結石は魔法と相性がよく、魔法道具の材料や魔道士達の武器や道具に使われている。ちなみに珍しい物と言えば、あるドラゴンの結石は精力剤として高値で取引されていたりする。


「この大きさなら…… 二千ペルくらいで買い取ってもらえるな。よかったな」


 顔をあげてグレンの方を向いて目を輝かせるハンナだった。彼女の言葉にグレンの表情が少し曇った。


「あっ。うん…… そうなんだけどな」


 振り向いてクレアを見つめるグレンだった。クレアは彼が持つ結石に視線を向けた。


「私達がこれを回収したのは報告用ですよ。勝手に売ることは出来ません。冒険者ギルドへ持って返るだけです」

「えぇ!? もったいない」


 残念そうにするハンナにグレンは諦めたような口調で話しをする。


「しょうがないさ。俺達はギルドの職員だからな。業務中に回収したもので金はもらえない。もらえるのは受付のめんどくさがる顔くらいだな」

「ははっ…… そうなのか」

「あぁ。そうなんだよ。まったく」


 悔しそうな顔をするグレン、そんな彼の背中をハンナは優しくさすっている。クレアは二人の後ろで心配そうに見つめていた。

 ハンナは何かを思いついた顔して、笑って右手をグレンの前に差し出した。


「じゃあ! 私が拾ったことにして売ってしまえばいい…… 私はギルドの職員ではないしな」

「おぉ! ナイスアイデア!」


 笑顔でグレンは提案に乗って、結石を彼女の手の上に乗せようとする。二人は互いに笑って楽しんでいるようだった。


「こーら。そんなことしたらダメですよ。返しなさい」


 楽しそうにする二人の後ろからクレアが、眉間にシワを寄せ二人の間に割り込むように入って来た。

 クレアは交互に二人を睨み結石を渡すようにと、グレンの前に手を差し出すのだった。彼女の顔は頬を膨らませて目に涙をためている。泣きそうなクレアにグレンは逆らえない。


「あぁ! もう…… わかってるよ。冗談だよ」


 顔を大きく横に振り、グレンは結石をクレアに渡した。ハンナは気まずそうにして一歩ほど後ろに下がった。グレンから結石をクレアは大事そうに鞄へしまった。そしてジッとグレンを見つめる。


「じー……」

「なっなんだよ」


 見つめられたグレンは恥ずかしそうに顔を背ける。


「悪い子…… 後でお仕置きです」

「はぁ!? はいはい。好きにしろよ。ほらハンナも出てきたんだしさっさと作業に戻ろうぜ。」

「プクー!」


 適当に返事をするグレンにクレアがまた頬を膨らませた。グレンは彼女に背を向けて歩き出した。


「あぁ! 忘れてた。これもお前のだろ。窓の外に落ちてたのを拾ったんだ」


 何かを思い出したグレンは、ハンナの前に来て腰の後ろに手を回した。彼が腰の後ろから手を戻すとハンナが持っていた槌が握られていた。


「そうだ! ありがとう」


 ハンナは笑顔で礼を言うと槌を両手で大事そうに受け取った。

 三人は作業を再開するためリンガル洞窟亭へと戻った。リンガル洞窟亭へと戻った三人はゴミが散乱する酒場の中央へとやって来た。グレンとハンナの前に出てクレアは、周囲を見渡してから振り返り口を開く。


「また魔物や悪い人たちに占拠されないようにまずはここを安全地帯にしてしまいましょう。ハンナさんお願いします」

「わかった。任せろ」


 返事をしてハンナがオーバーオールの胸のポケットに手を突っ込んで何かを取り出した。ポケットから出た彼女の手には小さな宝箱が握られていた。これは魔法収納箱という道具で、クレアの鞄と同じようなもので、大きい物体を収納して簡単に持ち運べる。


「じゃあ少し離れてくれ」


 床に魔法収納箱を置いたハンナが二人に手のひらを向け離れるようにと合図を送った。クレアとグレンは彼女の指示に従い数歩下がって離れる。ハンナは二人の前に立つと口を開いた。


「キッフェジョーゲン」


 ハンナの言葉に反応し、魔法収納箱は白く光りだした。大きな光が発せられてすぐに消えると目の前に、台座の上に立つ銅像が置かれていた。台座は長方形の数十センチくらいの高さで、上部は器のようになっていて水が張られている。その上にニメートルほどのローブを着た翼の生えた女性の象が立っている。台座の近くに魔法収納箱が転がっている。

 象は髪の長い美しい女性の姿でローブに身をつつみ、右手に十文字の刃の槍を持ち足首まで器に張られた水につかりながら凛々しく立っている。

 この像は女神フロアだ。フロアは全世界に存在する光の源と言われる光の精霊の主だ。彼女が体内から発する聖なる光は全ての闇を振り払うと言われている。古代から光の魔法が封入された魔石を内部に埋め込まれたフロア像は、高度な魔除けとされフロア象を通した魔石の光が届く範囲は結界となり魔物や悪霊などが近づけない。セーフルームはフロア象を利用して作られているのだ。


「後は……」


 腰につけた槌を右手に持ったハンナは、フロア像の背後に回りしゃがみ台座へ手を伸ばす。彼女が手を伸ばした台座にはよく見ると小さなつまみがあり、ひっぱると全面に扉が開く。

 中は歯車や液体が入ったタンクなどが詰まってるのが見える。ハンナは真剣な顔で台座の内部を見つめていた。


「うん。大丈夫だな」


 納得したようにうなずいてハンナは台座の扉を閉めた。彼女は銅像の横から顔を出してクレア達に声をかけた。


「もうこの建物の敷地は結界が貼られた。魔物は入ってこない」

「よかったです」


 嬉しそうに笑うクレア、グレンは物珍しそうに銅像へ近づいていく。ハンナは立ち上がり、銅像の前方へと周りこむ。


「これって聖水か…… 珍しいな。これは」


 魔法収納箱を拾おうとしたハンナに、台座に張られた水を見つめていたグレンが声をかけた。グレンはギルドの依頼でセーフルームの設置を何度かおこなってるが、通常のセーフルームに置かれるフロア象には聖水が貼られた台座はなく珍しいため思わず尋ねたのだ。


「それは師匠のオリジナルだ。聖水を内部で循環させ結界の効果を高めている。通常なら月に一度魔石の交換が必要だが、聖水が循環して魔石を浄化するので年に一回程度聖水を数滴足すだけずっと使えるぞ」

「おぉ。それはすごいな。魔石の節約にもなるしな」

「そうだな…… ただな……」


 暗い表情でフロアの銅像を見つめたハンナだった。グレンは彼女の様子に声をかけた。


「どうした?」

「ううん。何でも無い。じゃあこれでセーフルームの設置は……」


 首を数回横に振ったハンナ、もうこれでセーフルームの設置作業は終わりである。彼女は作業の終わりを二人に告げようとする。


「お掃除です!」


 ハンナの言葉をクレアが遮った。驚いたハンナはクレアに反応した。


「なっ!? もう作業は終わりだぞ」

「いえ。次はお掃除ですよ。さぁグレン君!」

「はぁ…… 面倒だな」


 クレアはハンナの質問に大きく首を横に振り、グレンに声をかけた。グレンはわかっていのか面倒くさそうに返事をする。


「掃除? なんでそんなことを?」

「こんなに汚いところを冒険者さん達に提供出来ません!」

「えっ!? 君達は……」


 驚いて二人を見つめるハンナ、クレアは彼女の様子に気づかずにグレンに指示を出し始めた。


「グレン君はテーブルとか大きい物を運んでください。ハンナさんと私は水くみですよ」

「なぜ私も? 私は設置作業するだけで……」

「いいから三人でやれば早く終わりますから!」


 クレアは優しく微笑むとハンナの手をつかみ、リンガル洞窟亭の外にある井戸へ向かう。店内に残されたグレンはクレアに言われた通りに、片付けを始めようと近くのテーブルに手をかけた。


「うん!? やめた方がいい。ろくなことにはならないぞ!!!」


 グレンはなにかの気配に気づいて、店内に大きく響くような大声で話してゆっくりと振り向いた。振り向いた彼は視線を気配のした吹き抜けになっている二階の廊下へ向けた。


「メルダ…… それにキティル……」


 目を見開いたグレンは驚いた顔をした。ニ階の廊下の柵には弓を構えたメルダが居て、彼女の横にはキティルが立っていた。

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