第67話 姉は長いものを切り捨てる
割れた窓の外にあった、クイーンデスワームの顔が素早く離れた。
「うわ!?」
建物が激しく揺れ天井から砂粒のような埃が舞い散ってくる。クイーンデスワームが室内へ押し入ろうと、窓に向かって体当たりをしたのだ。頭をなんどくねらせて細長い窓枠から体をなんとかねじ込もうとするクイーンデスワーム。
「グギャアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーー!」
激しい鳴き声をあげたクイーンデスワーム。ハンナは恐怖で一瞬だけ目をつむった。音がしてバラバラと砂埃が天井や壁から落ちてくる。壁からクイーンデスワームが離れたようだ。
起き上がったハンナは逃げようと部屋の出口へ。内開きの扉が開いたままで揺れている。ハンナは手を伸ばしてドアをつかむ……
「キャッ!」
ハンナの足元が崩れて体が下へ落ちていった。クイーンデスワームの体当たりの衝撃で床が抜けたのだ。ニ階から一階へ落下したハンナ、彼女は大きなテーブルの上に落下した。なんとか両足で着地できたが、踏ん張れずにテーブルの上に尻もちをついてしまった。
ここは建物の居間のようで部屋の入口にテーブルが置かれ、壁には絵がかけられ床には絨毯がしいていあった。テーブルは部屋の入口に密着させてあり、その周囲に椅子やソファが散乱している。どうやら扉の前にテーブルやソファをつんで、扉を塞いでなにかの侵入を防ごうとしたようだ。入り口がから反対側の壁は崩れて、ハンナがさきほど上った瓦礫が積まれているのが見える。がれきの隙間から光が漏れ絨毯を照れしている。がれきの向こうは窓かそのまま外へつながっているようだ。
起き上がったハンナはテーブルから下りた。扉を開けるために、テーブルをどかそうと手をかけた。
直後にバキバキ、メリメリと言う音が彼女の耳に届いた。
「ヒッ!!!」
嫌な予感がしてハンナはゆっくりと振り返った。ハンナの顔が真っ青になり思わず悲鳴を恐怖に震える。
ハンナの背後には積んであった瓦礫から、クイーンデスワームが顔をだしていた。どうやら瓦礫に強引に頭を突っ込んでねじ込んできたようだ。
「グギャアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーー!」
「きゃーー!」
鳴き声をあげるクイーンデスワーム、同時に悲鳴を上げるハンナだった。ハンナはクイーンデスワームの声に腰を抜かした。
「えっと……」
彼女はとっさにテーブルの下へ逃げ込んだ。必死にテーブルの一番奥へ言ってうずくまる。メリメリという瓦礫が崩れる音と、ズズゾゾとクイーンデスワームが体をする音がして近づいて来るのが分かる。
「ひっ! 来るな…… いや…… 来ないでーーー!」
声を震わせて泣きながら声をあげハンナは目をつむった。彼女の願いも虚しくクイーンデスワームは、テーブルの数メートル手前で口を開けるとまっすぐテーブルに向かって行くのだった。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーー!」
激しいマウンテンデスワームの声がして、ビチャという床に水のような巻かれる音がした。体を震わせてうずくまるハンナ、とっくに食われていてもおかしくない状況だったが彼女の体は何も異常はない。
ハンナは静かに目を開けた。大きな木製のテーブルの足と足の間に、ある黒いズボンとブーツが見えた。彼女は開かれた両足を見てホッと安堵の表情を浮かべた。
ハンナの視界に見えた足はグレンのものだ。彼は赤く目を光らせオーラを纏いテーブルの前に、下から剣を振り上げた姿勢で立っていた。振り上げた剣はクイーンデスワームの上顎に食い込んでいて、彼の体のすぐ前で牙が並んで奥が真っ暗で見えないクイーンデスワームの口が止まっていた。
クイーンデスワームの血が彼の頬を伝って、鼻の周囲にクイーンデスワームの口から悪臭が漂っている……
「グギャアアアアアアアアアアアア」
口の奥から小さく苦しそうな声が聞こえた。クイーンデスワームがゆっくりと後ろに下がっていく、グレンは剣を止めたままの姿勢のまま上顎から剣が抜けて血が床に垂れていく。
先程クレアが光の大剣で傷うけた時は、すぐに修復されたクイーンデスワームの体だったが、ユニコワックスの効果でグレンがつけた傷は、修復されずに切られた肉の部分が修復しよううごめくだけだった。
「悪いな。こいつは仕事で必要なやつなんだ。お前の餌にするわけにはいかないんだよ!!」
グレンは下がっていくクイーンデスワームに声をかけると顔を上に向けた。天井にいつの間にか大きな穴が開いて、下を覗き込むクレアの姿がグレンに見えた。
「義姉ちゃん! 後は頼んだぜ」
「はーい」
返事をしたクレアは頭を下の体勢にして一気に下りて来た。木のかす砂埃がクレアのきれいな頬に当たる感触がし、彼女は左手の開き指をクイーンデスワームに向けた。ジッとクレアはクイーンデスワームの背中を見つめる、紫の光沢の硬い鱗のようなものが蛇腹状にならび蠢いている。
「はあ!」
力強く左腕を前に出した、クレアの指から光の大剣が五本が伸びていった。
「グギャアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
激しく鳴き声を上げたクイーンデスワーム、クレアが伸ばした五本の光の大剣が横に並びクイーンデスワームに突き立てられた。
光の大剣はクイーンデスワームの体を貫通して床に突き刺さる。クイーンデスワームは床に光の大剣によって、はりつけにされて身動きが取れなくる。
すぐに右手をクレアは大剣へと持っていく。頭を下にしていた体勢を戻して足を下にして、彼女は大剣を抜いて背中まで大剣を振り上げ左手を握り手に添えた、クイーンデスワームを拘束していた光の剣が消えていく。
「はあああ!!!!」
勢いよくクレアはクイーンデスワームの体に向かって大剣を振り下ろした。
「プギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
クレアの大剣はクイーンデスワームを真っ二つに切り裂いた。クイーンデスワームの体から血のようなドロッと白い液体が吹き出した。生臭い液体が彼女の頬や体に浴びせられる。
直後に硬い感触がクレアの両手に伝わった…… 振り下ろした大剣が床に到達したのだ。剣を戻すクレア、彼女の両足がふわりと床につく。目の前には切り落とされた、クイーンデスワームの体が転がっていた。残った部分は瓦礫の下へいきそこからさらに外まで伸びている。
「ふぅ…… 終わりましたね」
頬についた液体を手で拭って軽く息を吐くクレア、グレンは笑って彼女にうなずいた。
後ろを向いてかがみテーブルの下を覗き込むグレン。薄暗いテーブルの下でハンナがうずくまりながら呆然としてこちらを見ていた。
「もう大丈夫だ」
「あぁ……」
グレンと目があったハンナは、頬を赤くして足を必死に閉じて視線をすぐに外した。彼の言葉に我に返り、自分が下着姿だと認識したのだ。
顔を上げグレンはすぐにクイーンデスワームの死体へと歩いていった。目の前からグレンが居なくなり、ホッとした表情をしたハンナはテーブルから這い出て来た。
「ハンナさん…… よかった」
「ありがとう。助かった」
「お礼はグレン君にお願いします。遠くからあなたを見つけたのは彼ですから」
リンガル洞窟亭を出た後、クレアは地上をグレンは空を飛び二人はハンナを探した。空を飛んで居たグレンが、建物へ逃げ込むハンナを見つけたのだ。
話しを聞いたハンナはグレンに視線を向けた。彼はクイーンデスワームの死体を見て何かを探してくれた。
「グレン君。ありがとう……」
「うん!? 気にするなよ。こっちも仕事だから…… あった!」
クイーンデスワームの体の中に何かを発見したグレンは手を伸ばした。少しするとグレンが、白いドロドロした体液にまみれた何かを持ってハンナの元へと戻って来た。
「ほら! これお前のだろ?」
「あぁ……」
グレンが持ってきたのはハンナのオーバーオールだった。グレンはハンナのために探して持ってきたのだ。
「うへえ。ビチョビチョだ。これを履くのに少し勇気がいるな」
オーバーオールを受け取ったハンナは、濡れたオーバーオールを両手で広げて苦笑いをした。
「そんな濡れてるのなんか気になるか。もう下も濡れてるじゃん」
「へっ!?」
グレンは笑っている。ハンナは視線を下に向けた。自分の下着の股の部分が黒くなっているのが見えた。ハンナは瞬時の自分の頬が熱くなるのを感じた。
「まぁでも自分のしょんべんとクイーンデスワームの体液じゃ違うか…… いた!? どうしたんだ?」
顔を真赤にしたハンナはグレンを押して遠ざけた。グレンは数歩後ろに下がる。
「うわああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
ハンナは両手で真赤な顔を覆いしゃがみこんでしまった。
「グレン君…… 本当に…… あなたって人は……」
呆れた様子で額に手を置いて首を横に振ったクレアだった。グレンはよくわからず首をかしげていた。指を少し開いてグレンをにらみつけるように見つめたハンナがぼそっとつぶやく。
「もう…… 責任を取ってもらうしかない……」
「責任? 何の責任だよ」
「こんな辱めを受けた責任だよ! そうだな夫婦として一生添い遂げてもらう!」
「めっ夫婦!?」
グレンが動揺して声を震わせる。目をうるませてハンナがうなずく。グレンの頬が赤く染まり恥ずかしそうに頭をかく。ハンナは笑ってその様子を見た、甘い恋人のような空気が二人の間に漂う。だが……
「ダメーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」
クレアが二人の間に強引に割り込んだ。グレンを睨みつけた。
「はっ!? なんでクレアが反対するんだ? 姉弟でも弟の妻に口出す権利は……」
「ダメですよ! グレン君のお嫁さんはお姉ちゃんが決めるんです。あなたじゃダメです! 出会って間もないですしお互い何も……」
必死に話すクレア、グレンは呆然と彼女が話す様子を見ていた。ハンナは必死なクレアを見て吹き出してしまう。
「ふっ…… 冗談だよ」
「えっ!?」
「当たり前だろ。まったく…… グレンに仕返ししただけだ」
「なーんだ」
ホッと胸を撫で下ろしたクレアだった。ハンナはグレンが持っていたオーバーオールを取った。
「悪いな。着替えるから外へ出ててもらえるかな?」
「あっ。はーい。ほら行きますよ」
返事をしたクレアは、テーブルをどかして扉を開けられるようにして、グレンの背中を押して部屋の外へ連れて行く。
押されて部屋を出ていくグレンの背中を少し名残おしそうにハンナは見つめていた。
部屋を出て後もグレンが覗かないように、クレアは彼を押して少し部屋から離す。歩きながらグレンはハンナに文句を言うのだった。
「クソ!! 何が夫婦だよ。びっくりさせやがって!」
「グレン君がデリカシーがないのが悪いんですよ。それにあんな冗談に簡単にひっかかるなんて……」
「何だよ! 義姉ちゃんだって必死だっただろ」
クレアはグレンの言葉に少し間を開け黙った。
「だって…… 私だもん…… グレン君…… お嫁さん…… 誰にもあげないもん……」
「?」
クレアの言葉が聞き取れなかったグレンだったが、彼女が何か言ったのはわかり振り返った。振り返ったグレンと目が会ったクレア、彼女は舌をグレンに向かって出して笑うのだった。




