第66話 引き寄せる人
慎重に歩きながら、リンガル洞窟亭の奥へと進むグレンとクレア。室内にクイーンデスワームはどこにも見当たらない。途中でグレンはクレアと別れ一人で、クイーンデスワームが居たキッチンへと向かう。
目を赤く光らせオーラをまとまいグレンは、右手に持った剣を強く握り壁に体を擦り付けるほど近づけ、顔を斜めに倒して慎重に中を覗き込む。
「うわ……」
覗き込んだキッチンの光景を見たグレンが声をあげる。キッチンには壁や床にべっとりと血が巻かれ、床には骨が転がる凄惨な光景が広がっていた。彼の鼻には腐った肉と血の混ざった悪臭がまとわりついてくる。
しかし、凄惨な光景が見えるだけでここにもクイーンデスワームの姿はない。
「どこ行った……」
一歩後ろに下がり振り返ったグレンがつぶやく。
「グレン君! あれを!」
クレアが声をあげた。すぐに彼女へ視線を向けるグレン。クレアは左腕を伸ばし何かを指して立って居る。彼はクレアの指先に視線を向けた。彼女が指していたのは、店の壁に光の大剣で自らが開けた穴だった。穴の周囲の壁が何かがぶつかって崩れて広げられていた。おそらくキッチンから出てきた時のようにクイーンデスワームが体当たりをして壁を破壊して出ていったようだ。
「チッ! 外に逃げたのか」
「みたいですね」
小さくうなずくクレアだった。二人は急いで壁に開いた穴へと向かう。
「野郎……」
「待ってください」
穴から飛び出して行こうとするグレンをクレアが止めた。彼女は穴が開いた壁をジッと見つめている。壁には赤い生物の血と思われる液体が付着していた。クレアは壁についた血を指でなぞる。
「乾いてませんね…… まだ出ていってそんな時間は経ってないようです」
指先を自分の方に向けたクレアは付着した血を見てつぶやく。彼女の言葉を聞いたグレンは壁から慎重に顔をだす。
「うわあああーーー! くっ来るなーーーーーーーー!」
女性の叫び声が聞こえた。クレアとグレンは顔を見合わせ、互いに大きく目を開いて驚いた顔をした。
「この声はハンナさんですね…… 急ぎましょう。グレン君」
「あぁ。クソ!」
グレンは大きくうなずいて返事をした。二人は壁の穴から飛び出してハンナの元へと急ぐのだった。
数分前…… ハンナはグレンとクレアを見送った後、リンガル洞窟亭から少し離れた場所で二人を待っていた。通りを数十メートルほど戻った見通しの良い場所で、心配そうに彼女はリンガル洞窟亭を見つめていた。
「あれは……」
リンガル洞窟亭の少し手前にある路地から、大きなクイーンデスワームがはいでてきた。
巨体を揺らして地面を這いながら、クイーンデスワームはハンナの方へ向かってくる。その速度は遅く音も小さいハンナを認識して向かってきてるようではないようだ。クイーンデスワームに目はなく、その代わり臭いと音に敏感で、さらに頭部の先にある器官で熱を感知できる。
青ざめた顔でハンナは後ずさりしながら必死に頭を巡らせている。
「ふっ二人を呼ばないと……」
慌ててリンガル洞窟亭へと入った二人を呼ぼうとするハンナだった。彼女は戦おうとしたわけではないが、丸腰で不安なので腰につけていた槌へと手をのばした。
しかし、手が震えて槌を落としてしまった。石畳みの道に槌が落ちてカランという音が響いた。
「しまった!」
クイーンワームは前進を止め。頭を上げ先端を小刻みに動かしはじめる、どうやら周囲の様子を探っているようだ。
頭がハンナの向いた状態でピタッと止まった。彼女の存在を認識したのだろう。ゆっくりと頭が上下に開いて、クイーンデスワームが口を開く。
「プシューーーーーーーーーーー……」
空気の抜けるような音をクイーンデスワームが発する。
ゆっくりとクイーンデスワームが前進を再開し、徐々にスピードをあげてハンナへ迫ってくる。
「あっあ……」
徐々に迫ってくるクイーンデスワーム、ハンナは周囲を見渡して必死に頭を巡らせている。すぐ横に人一人がなんとか通れる幅の小さな路地が……
彼女はとっさにそこへと飛び込む走って前に出て振り返った。見ると十メートルほど先でこちらを見つめるクイーンデスワームの姿が見える。
「ふぅ…… ここまでは……」
大きく息を吐いて安堵の表情を浮かべハンナは前を向いた。だが……
「はっ!?」
ハンナが前を向いた直後にバリバリと言う激しい音がした。振り返ると…… クイーンデスワームが路地に強引に体をねじ込んでこちらに向かって来ていた。両脇の建物を崩しながら体を必死によじり進む、クイーンデスワームの速度は遅いが確実にハンナに向かってくる。
「うわあああーーー! くっ来るなーーーーーーーー!」
叫び声をあげたハンナ、彼女は前を向いて走り出すのであった。路地の先に僅かに灯りが見える。ハンナは必死に走って路地を抜けた。
路地を抜けるとそこは小さな広場になっていた。茶色の四角い建物に囲まれた小さな広場で、オーク達か冒険者でも居たのか真ん中に焚き火の痕があった。
「えっと……」
広場を見つめるハンナ、瓦礫が積まれて建物の二階へ上がれそうだ。二階は人が通るのもきつそうな幅二十センチ、高さ一メートルほどの細長い窓があった、さすがのクイーンデスワームもあそこへ入るのは無理だろう。
ハンナは瓦礫に上って窓から建物へ逃げ込もうと思いつく、彼女は急いで瓦礫へ向かって走り出した。瓦礫をつかんで上り始めるハンナ。
「グギャアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
「はっ!?」
鳴き声が聞こえてハンナは振り向いた。路地から広場へイーンデスワームが顔をだしている。すぐにハンナを感知したクイーンデスワームは、蛇のように左右に体を揺らしてながら向かってくる。
顔を青くしたハンナは必死に瓦礫を上った。窓の前に来た彼女は腰に手を回した。
「しまった…… 槌はさっき……」
槌でハンナは窓を割ろうとしたが、路地裏の入り口に落とし慌てて逃げたため拾ってなかった。
「えっと…… じゃあこっちか!」
数十センチほど離れたところにある隣の窓は、ガラスが上部に残った状態で割られていた。おそらく冒険者かオークがこちらから建物に侵入ししたのだろう。ハンナはすぐに隣の窓へと移動して、体を窓の中へねじ込む。頭を先にいれ手を伸ばし、体を必死に斜めにして肩を入れる。手を伸ばして床にてをついて、前に進んで腰から足を引き抜こうと……
「うわああ!? なんだ!?」
足が何かに引っ張られて体が止まった。足を上にして、床に手を付けた姿勢となり、ハンナは振り返った。
割れた窓にズボンの裾が引っかかっていた。必死に手をのばすが体を先に入れたため、手を伸ばしても足の届かない。
ズズズと言う音が近づいてくるのが分かる。クイーンデスワームが近づいて来ているのだ。ハンナの足は半分は外に出た状態だ、彼女の脳裏にフランの最後の姿がチラつく。
「いやあ! 来るな! いやだああああああ!」
必死にハンナは足をばたつかせる。しかし、体勢が悪く裾に割れたガラスがガッチリ食い込み、足を動かしても布が裂けるだけで外れない。
クイーンデスワームの気配を足に感じたハンナ、股間にじんわり湿ってくる。自ら小便を出した先ほどと違い、今度は恐怖で意図せずに漏らしてしまった。
「ハンナ! ズボンを脱げ!!!!!!」
「えっ…… あっ!? あぁ!!!! そうか!!!!!」
誰かの声が聞こえた。ハッという顔してオーバーオールのベルトに手をかけて肩から外した。手で床を必死にこいで、床を這いつくばるようにして前に出る。オーバーオールからハンナの体が抜けた。プリンとした大きめの尻を包む紫の下着を履いたハンナの下半身があらわになった。
「グギャアアアアアアアアーーーー!!」
直後、鳴き声と共に窓の外が真っ暗になり、窓に引っかかっていたオーバーオールが消えた。
「はぁはぁ……」
上半身は緑のシャツに下半身は下着姿になったハンナは、窓から一メトールほど離れた床に座り込み窓を見つめていた。
窓には口を開けたクイーンデスワームが見えた。その姿を見た彼女の履いてる紫の下着に出来た、小さな濃い紫の染みが徐々に大きくなっていくのだった。