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第60話 助けたエルフに頼まれて

 ニコッと歯を出して、オークに笑いを返すクレア。傷つけられた人間を見せられても、クレアが平然と愛らしく笑うその姿は異様に見えた。

 オークは一切の動揺を見せずにいるクレアに、眉をピクリと動かしまぶたをわずかに開き驚いた様子を見せた。クレアはオークのその動きを見逃さなった。体勢を低くして背負った大剣に手をかけて、地面を蹴って一気に距離を詰める。

 剣を抜いてクレアは右腕を曲げ体の前に水平にしオークの目の前で滑り込んだ。クレアは拘束された人質のエルフの女性に足の下からオークの懐へと潜り込み、曲げた腕をしぼりこむようにして大剣を体と平行に持ち直す。


「ブヒャ!?」


 踏み潰されたカエルの断末魔のような声が、クレアの耳に届き視界の前に赤黒い血の雫が飛び散っていく。

 地面に足をかけ踏ん張り体を起こすと、同時にクレアは天に向かって大剣を伸ばした。オークの喉元に大剣が突き刺さり、ブチブチと音を立て一気に大剣がオークの首とその根本から伸びるマウンテンデスワームを切り裂いた。

 大剣を数センチなぞりながらオークの頭は地面に転がり、切られたマウンテンデスワームは血を吹き出しながら激しく上下左右に不規則に動く。


「キャッ!」


 拘束が解けたエルフの女性は、落下して腹を下にして地面に倒れ込んだ。


「無駄ですよ。人質を取ったくらいで勝てるほど私は甘くないです…… よ!」


 振り返り地面に転がったオークの光のない瞳の目に声をかけ、クレアは最後に力強く言葉を吐き出しオークの体を蹴って大剣を空へと放り投げた。オークの体は倒れ投げられた彼女の大剣は、上空で回転しながら飛んでいき倒れていたエルフの女性の顔の前に突き刺さった。


「ひっ!」


 目の前に落ちて来た大剣に驚きの声を上げ、エルフの女性は慌てて体を起こした。彼女は立ち上がろうとしたが腰が抜けた尻もちをついてしまう。

 その様子を見たクレアはほほえみエルフの女性に声をかける。


「怪我はないみたいですね。動かないでそこに居てください」

「コッコク! コクコク」


 振り向いてクレアに向かって黙って何度もうなずくエルフの女性、笑って彼女に答えたクレアは歩いて地面に突き刺さった大剣の鍔に手をかけた。


「「「「「ブッブフーーー!」」」」」


 手に持っている手斧や剣などの武器を振り上げオーク達が声をあげた。

 一斉にオーク達はグレン達に襲いかかって来た。


「グレン君! ハンナさんを避難させてください」

「はいよ」


 うなずいてグレンは体勢を低くしながら、ハンナの腰に腕をまわしそのまま肩に彼女の腹を乗せるようにして抱きかかえた。


「えっ!? わっ!? こら!? 何を!? えぇ!?」


 素早くグレンはハンナを担ぎ上げると、左足で地面を蹴って飛び上がった。グレン達を捕まえようとオークが手をのばすが間に合わない。オーク達から逃れてグレンは近くの建物の屋根の上へと飛んでいく。

 クレアはグレンが飛び上がると同時に口を開いた。


「母なる大地よ。汝を汚そうとする者たちを自らが刃となり浄化せよ!」


 オーク達の足元に白い丸い光が無数に現れた。強烈な光はオークたちの頬や体を白く照らしていく。


「「「「ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」」」」


 悲痛なオークの叫び声が地下の町に響く。白い光が槍となって地面からオーク達に向かって突き出された。

 地面から突き出した無数の白い光の槍はオークを一瞬で貫いて。光に気づき下を向いた者は額を貫かれ、そのまま前を向いていた者は、股間から体を通り頭まで一気に光の槍が貫く。

 オーク達の額や股間や腹なごから赤黒い血が光の槍を伝って流れていく。


「あっあれは……」

「グランドジャスティス。大地から聖なる槍が伸びて闇を貫く…… まぁ簡単に言えば義姉ちゃんの得意な魔法の一つだな」


 グレンに抱えられたまま、ハンナが下の光景を見て声を上げた。チラッと振り返り地面の光景を見たグレンは淡々と答えるのだった。地面に刺した大剣をクレアが引き抜く。大剣が抜かれると同時に光の槍は地面へと戻っていった。

 光の槍がなくなると、支えを失ったオーク達は地面へと倒れ音が響く。光の槍で貫らぬかれた傷口から聖なる火が噴き出し倒れたオーク達は燃え上がる。クレアは地面に倒れ燃え上がる、オークを見て満足そうにうなずき大剣を背中に戻して振り返った。


「もう大丈夫ですよ」


 ニコッと微笑みクレアは、背後に座っているエルフの女性に優しく声をかけた。彼女の声が聞こえてないのか、地面に尻をつけ膝をあげた姿勢で下着をさらしながら、女性は呆然とクレアの姿を見つめていた。

 何の反応もない女性にクレアは少し心配そうに首をかしげた。


「義姉ちゃん。お疲れ様」


 ハンナをかついだグレンが、クレアの横へと下りて来た。グレンを見たクレアが目を輝かせる。グレンは担いでいたハンナを地面へと下ろしし、クレアが助けたエルフの女性へと目をむけた。

 グレンと目があうエルフの女性、彼の視線が下にむき少し頬が赤くなってく。エルフの女性はハッという表情をして慌てて股の間に両手を挟むようにして恥ずかしそうにうつむく。


「いた! なんで足を踏むんだ」

「つーん」


 二人の様子にクレアは、不満そうに口を尖らせグレンの足を踏みつけた。グレンが文句を言うがクレアは彼を無視して腕を組んでそっぽを向く。


「一瞬であのオーク達を全滅させるなんて…… 君達は…… 一体何者なんだ……」


 地面に下ろされたハンナは、真っ黒な炭になったオーク達が地面に転がる光景を見て驚きの声をあげた。

 やや潤んだ瞳にクレアを映すハンナからは畏怖の念があふれている。ハンナにクレアは微笑み横にグレンの袖を引っ張った。


「何者って…… テオドール冒険者ギルド冒険者支援課の支援員で課長のクレアと支援員のグレンですよ」


 素直に二人の素性を答えるクレアだった。頭をかく仕草をしてグレンが口を開く。


「一応。俺はただの支援員じゃなくて課長代理って肩書はあるけどな……」

「まぁ私はお姉ちゃんでグレン君とずっと一緒ですから代理を頼むことはありませんけどね」

「はいはい。でも…… 俺は代理なのになんで一緒にテオドール離れてるんだろ…… 代理をしてるのハモンド君じゃん…… はぁ」

「いいじゃないですか二人で一緒にいられるんですから!」


 両腰に手をあてて胸を張るクレア、グレンは自分の肩書の意味のなさを嘆くのだった。


「ははっ……」


 二人のやり取りにハンナは静かに乾いた笑いをするのだった。


「あれ!?」


 クレアはうつむいたまま動かずにいる、エルフの女性に気づき近づいてしゃがんで肩に手をかけた。


「怪我はないですよね? 一人で上へ戻れますか?」


 顔をあげたエルフの女性、彼女は目に涙をため瞳が潤んでいる。


「あっあの……」

「はい。何でしょう?」


 エルフの女性に声かけられ、首をかしげる優しく微笑むクレアだった。エルフの女性は安堵の表情をうかべ静かに話しを始めた。


「わっ私の仲間が…… 彼らに…… 捕まってしまって…… 助けてください!」

「まぁ大変! グレン君! すぐに助けに行きましょう」


 仲間がオークに捕まったと訴えるエルフの女性、すぐにクレアは振り向いてグレンに声をかけた。


「義姉ちゃん…… 俺達はセーフルームの設置に来てるんだろ」

「私たちは冒険者支援課ですよ。冒険者を支援するのが仕事です」

「そりゃそうだけどさ……」


 グレンはクレアに答えながら、気まずそうにハンナの方に視線を向けた。クレアもハンナの方に顔を向け彼女に冒険者を助けて良いか尋ねる。


「いいですよね? ハンナさん?」


 問いかけを受け少し間を開け、ハンナは口元をゆるめて答える。


「かまわない。せっかくセーフルームを設置するんだ。利用する冒険者は一人でも多いほうがいいだろう」


 ハンナの回答にエルフの女性の表情が明るくなり、クレアは嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます。それじゃ行きましょう。どこか案内してください。えっと……」


 言葉につまったクレアが困った表情をした。クレア達は助けたエルフの女性の名前を、まだ聞いておらず言葉につまった。


「はい。案内します。後…… 私はリッチェです」


 笑顔でリッチェと名乗ったエルフの女性。彼女は立ち上がって通りに先を指し歩き出した。グレン達はリッチェに続く。

 リッチェに先導されてグレン達は、彼女の仲間の救出へと向かう。

 三人を先導しリッチェは大きな通りを進む。リッチェのすぐ後ろにはクレアが居て、ハンナ、グレンの順に続く。

 周囲に目を配りながらクレアは少し前を行く、リッチェに彼女らが襲われた時の状況を確認するため声をかけた。


「リッチェさん達が襲われた時の状況を聞いてもいいでしょうか?」

「えっ!? はっはい。私たちは三人でエレベーターから坑道まで鉱夫さんの護衛をしていたんです。そしたら建物の扉が開いて急にオークが現れて……」


 リッチェは小さな声でゆっくり話しを始めた。クレアは話しを聞きながら顎に手を置いて真剣な表情をしてる。何かを考えてるようだ。


「あっという間に仲間と鉱夫さんは捕まってしまって…… 一番最後を歩いてた私は助けを呼びに行ったんです。でも…… 追いつかれて」

「そうですか。ありがとうございます」


 立ち止まって辛そうに襲撃された時のこと話したリッチェ、クレアは彼女に優しく微笑んで礼を言うのだった。


「シャサちゃんにカフ君……」


 捕まった仲間の名前を心配そうにリッチェがつぶやいくのだった。四人はまた前へと歩き出した。


「建物に隠れていた…… さっきのオークも私に人質を……」


 リッチェから話しを聞いたクレアは、難しい顔でぶつぶつ言っている。彼女の様子が気づいたグレンが声をかける。


「どうした義姉ちゃん。なんか気になることでもあるのか?」


 声をかけられたクレアがグレンの方を向いて小さくうなずいた。


「はい。少し…… オークが待ち伏せをしたことが気になって……」


 クレアの言葉にグレンは目を見開いて何かに気づいた顔をした。


「確かに…… 言われてみたらそうだな。あいつらは寄生されて本能でしか行動しなくなるのにな」

「えぇ。リッチェさんを私に見せて動揺させようとしたし…… オークの知性が残ってるのかあるいは……」


 難しい顔をして考え込むクレア、グレンは彼女の肩に手を置いた。


「まぁそんなこと今考えても仕方ないさ。行けば分かるだろう」


 前を指さして笑うグレン、クレアは彼の行動に思わず笑みが溢れる。


「ふふ。そうですね。気をつけて行きましょう」

「あぁ」


 クレアに向かって笑ってうなずくグレン。彼らは再び歩き出すのだった。しばらく進むと同じ幅ほど道とかさなる、大きな交差点へとやってきた。交差点の左をさしてリッチェが口を開く。


「もう少し先にある宿屋だった建物からオークが……」


 リッチェが手で指した方角を見たグレンは、何かに気づいてハッという表情をした。


「義姉ちゃん…… こっちにある宿屋って……」

「えぇ」


 グレンの問いかけにクレアは、うなずいてリッチェへ視線を向け尋ねる。


「リッチェさん。その宿屋の名前はリンガル洞窟亭じゃないですか?」

「はい。そうです。よく分かりましたね。さすが冒険者ギルドの方ですね」

「やっぱり」


 リッチェの答えを聞いた、クレアとグレンは顔を見合わせてお互いうなずいた。

 二人の様子が気になったリッチェが首をかしげ不思議な顔をした。


「どうしたんですか?」

「私達の目的地もそこなんだよ。偶然だね」


 クレアとグレアの間に立っていたハンナが二人の代わりにリッチェに答えた。


「すごい偶然です。よかった…… じゃあ急ぎましょう」


 リッチェはリンガル洞窟亭の方角を指し歩き出した。三人はリッチェに続く。地下街の南東にあるニ階建ての宿屋がある。茶色で四角い形は周囲の建物と同じだが一回りほど大きい。軒先には骨付き肉とつるはしが交差する看板がぶら下がっている。

 この宿屋がグレン達が目指しているリンガル洞窟亭だ。町が魔物に襲われる前は昼夜問わず鉱夫達があつまり賑わっていた。現在はその賑わいも消え。マウンテンデスワームに寄生されたオーク達のうめき声だけ響くだけ…… のはずだった。

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