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第59話 長い物に食いつかれるな

 グレン達の足元がわずかに揺れた、エレベーターが地下へと到着したのだ。地上の時と同じように音が鳴ってゆっくりと扉が開かれた。

 開いた扉の向こうには坑道を拡張したドーム型の広い空間に、茶色の建物が並ぶ町の風景が広がっていた。大エレベーターの前は地上と同じ円形の広場となっており、町の作りも地上と同様に扇形に作られている。


「空を見ろか…… 相変わらず居るんだな」

「ですね」


 顔を見合せて笑うグレンとクレアだった。エレベータから降りた二人の視線の先に、上へと向いた矢印と空を見ろと文字が書かれ看板が見えた。これは周りの風景が似ており、自分がロボイセの地上にいるか地下にいるかわからなく人がたまにいるため看板を設置している。

 グレン達と一緒に地下へと下りた冒険者や鉱夫たちは、続々と大エレベータを降りてそれぞれの目的地へと散っていく。三人も大エレベーターから先へと進む、クレアとグレンは並んで前を歩きすぐ後ろハンナが続く。

 広場へと続く道にはバリケードが築かれて、聖騎士や冒険者が警備に立っているのが見える。バリケードの向こう側は灯りが消え、薄暗くひっそりと静まり返っていた。


「エレベーターの前だけなんとか取り戻しった感じだな」

「そうですね」

 

 周囲の様子をみながらグレンがつぶやくとクレアが同意してうなずく。二人のすぐ後ろで会話を聞いていたハンナが会話に入っていくる。


「しょうがない。ここを攻めて来たのはワームに従えられたオークの集団だ。一筋縄ではいかないさ」

「あぁ。マウンテンデスワームか……」

「そうだ」


 グレンの問いかけにハンナが小さくうなずく。マウンテンデスワームとは人間の指三本くらいの太さで、柔らかく体色が紫色の細長い丸いミミズのような形をした魔物だ。

 陽の光が苦手で地中や洞穴など棲息し、人間や動物や他の魔物の首すじなどを食い破って脳に食いついて寄生し相手の体を乗っ取ってしまう。乗っ取られた生物は痛みを忘れ、凶暴性がまして欲望に忠実になり近くの生物に襲いかかる。

 ロボイセではマウンテンデスワームが定期的に発生し、天井から伸びたマウンテンデスワームが坑道で作業中の鉱夫の首筋に噛みつくといったようなことが起こる。ロボイセではマウンテンデスワーム用に首筋の根元まで鎖で覆うヘルメットを鉱夫に支給して対策している。

 またマウンテンデスワームは一体の生物につき数十匹ほどがとりつく、寄生された人間を背後から見ると紫色の馬の尻尾が後頭部から生えているように見える。そのため一部の地域でマウンテンデスワームを、パープルポニーテールなどと呼ぶ。

 大エレベーターの扉からまっすぐに歩き、広場を抜けると大きな木製の扉が見えてきた。幅が十メートルはあろうかという通りにまたがるように木製の壁と門が築かれていた。

 門の両脇に鎧を着た聖騎士の姿が見える。クレアが聖騎士の一人に近づいて声をかけた。


「冒険者ギルドです。セーフルームの設置に来ました」

「わかった」


 聖騎士が右手をあげると扉がゆっくりと左右に開かれた。門の向こうはゴミが散乱し、道にはオークの死体や赤い血痕が残る通りが見えた。


「オークは女性を特に好みます。気をつけてください」

「わかりました。大丈夫ですよ」


 右手をあげて笑顔で聖騎士に答えたクレア、扉の向こうを指すと彼女はハンナとグレンと一緒に門を超えるのだった。

 門を超えてすぐに立ち止まりクレアは地図を開いた。三人のすぐ後ろでゆっくりと木製の扉が閉じられている。


「リンガル洞窟亭はこの通りを先にある交差点を左に行った先です。私が先導します。真ん中はハンナさんでグレン君は最後でお願いします」

「わかった」


 大まかな場所の確認と隊列を指示したクレア、グレンはうなずいて彼女に答えた。三人はクレアを先頭に中央にハンナ、最後尾にグレンという並びで歩き出した。


「うへえ…… ひどいな」


 町は建物の屋根や落ちたていたり、扉や窓が破壊され中が荒らされていた。さらに通りにはオークの死体が無造作に散らばっている。

 倒れていたオーク達の後頭部は食い破られて、脳に直接噛みついてる十数本のワームが伸びて干からびている。


「うん……」


 ふとグレンが視線を前に向けた。グレンは前から迫って来る数体の魔物気配を感じたようだ。視線を通りに向け、散乱してるゴミが少ない場所で先頭のクレアに向け彼は口を開く。


「義姉ちゃん……」

「えぇ。ハンナさん。止まってください」


 先頭のクレアが立ち止まり、左手を横に出してハンナを止めた。クレアはかばうようにしてハンナの前に立って、ジッと通りの先を見つめてグレンは腰にさしている剣に手をかけた。


「ブフーーーー!」


 甲高い叫び声が通りの前方で響いた。ニメートル近いオークが走ってくる。走って来たオークは右手に手斧を持ち、革の腰巻きをつけ木で作った靴を履いている。本来オークは緑色の皮膚に頭髪はなく豚のような鼻をして耳が尖り、目はやぼったく細く下顎前にでてそこから牙が伸びた醜い顔で背は高く筋骨隆々の人型の魔物だ。

 しかし、グレンの前に走ってきたオークは、緑色の皮膚のオークの体は顔と胸の当たり前ではうっ血したように紫色に変わり、頭の背後には伸びた十匹のマウンテンデスワームが走りに合わせて左右に揺れうごめいてる。


「気をつけろ。あいつは凶暴で…… えっ!?」


 ハンナはオークを見て怯えた様子で、先頭にいるクレアに声をかけた。クレアは振り向いて微笑んだ。しかしすぐに彼女の姿は消え、何が起きたかわからないハンナは思わず声をあげた


「ブヒっ!?」


 一瞬で勝敗はついた。腰を落として体勢を低くしたクレアは、距離をつめながら左手の拳を握りひじを曲げて引く。

 オークのそばにくると体を起こし、クレアは左拳をやつの顎の下まで一気に振り上げた。クレアはオークの顎の下ギリギリで拳を止めた、同時に彼女の拳から光の剣が伸びて顎の下からオークの頭を貫いた。光の剣はオークの頭を貫きながら伸びて、頭頂部から数十センチの赤黒い血をまとった刀身を輝かせている。


「グレン君。いいですか。マウンテンデスワームは寄生主の心臓を止めて殺しても少しの間は動けます。油断してるとそのまま食いつかれて寄生されてしまいます。だからこうやって……」


 光の剣で顎からオークを串刺しにした状態で、振り返ってグレンに説明を始める。オークはすでに事切れ動かなくなり、後頭部のマウンテンデスワームも動かなくなり垂れ下がっていた。

 いつの間にかハンナの横に立っていた、グレンは彼女の説明にやれやれと言った表情を浮かべた。


「知ってるよ。真っ先に首を切り落すか、脳に剣を突き立てマウンテンデスワームを殺せばいいんだろ。まっ一番簡単なのは魔法で全部燃やしちまうことだけどな」

「おぉ! 正解です」

「正解もなにも。前に義姉ちゃんが教えてくれただろう」

「よく覚えてましたね。えらいですよ」


 にっこりと微笑み、オークの頭を右手でつかむと左手を引いて剣をオークから抜いた。オークの顎からドバッと言う音と血が吹き出し、クレアの足元を血で染めていく。クレアは乱雑にオークを地面に投げ捨てた。音と共に地面に叩きつけられた、オークを見てクレアは小さく息を吐く。


「ふぅ。敵がどこから来るかわかりませんね。気をつけて行きましょう」

「そうだな」


 グレンに向かって通りの先を指さすクレア、グレンは笑顔でうなずいて答える。ハンナはいとも簡単にオークを、退けたクレアを呆然と見つめていた。


「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!! 離してええええええええええええ!!!!」


 悲鳴が三人に聞こえた。グレン達は同時に声が聞こえた方向に顔を向けた。建物と建物の間の路地からオークが一匹現れる。


「あら!?」


 オークの体の前に耳の尖った金髪のエルフの女性の姿が見える。彼女は手足とマウンテンデスワームに掴まれオークの目の前に出されていた。

 ゆっくりと歩いてグレン達の前へとやってきたオーク。オークに寄生したマウンテンデスワームが、クレアの前に見せつけるように女性を出した。

 彼女は白い裾の短い裾のローブに手には白い手袋をつけ白いブーツを履いている。両手をマウンテンデスワームに捕まれ、手を上、足を左右に開かれた姿勢でオークの前に突き出されている。女性の短い裾の間とはだけた胸元から水色と白の縞模様の下着がのぞく。女性は手足の他に首にもマウンテンデスワームが巻き付いていた。絶望的な表情で涙に目をためた、女性はしぼりだすような声をあげる


「たっ助けて…… グッ!」


 急に苦しそうな声をあげるエルフの女性、クビに巻き付いていたマウンテンデスワームが締め付けたようだ。


「義姉ちゃん…… こいつだけじゃ……」

「えぇ。わかってます」


 クレアが厳しい顔で視線を左右に動かす。建物の間からオークが次々と現れてグレン達の周囲へと歩いてくる。


「だっ大丈夫なのか?」


 現れたオーク達を見て不安そうに声をあげるハンナ、彼女の声に反応したのか、苦しむ顔の横からオークが顔をだしいやらしく笑うのだった。

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