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第58話 地下へ

「グレンさん。クレアさん! プリシラです。起きてますか?」


 グレン達がロボイセに到着した翌日の朝…… グレンとクレアが滞在する部屋の扉がノックされたかすかに声が聞こえる。ノックをしているのはプリシラで、昨日に話をしていた仕事の準備が出来て二人を呼びに来たようだ。二人はベッドに寝ており、先にグレンがノックの音に気づき目覚めた。彼は顔をあげ扉へ向かって返事をする。


「あぁ。ちょっと待て……」


 ベッドから起き上がったグレンは扉に行って鍵を外し扉を開く。わずかに隙間からプリシラが顔を出してきた。


「昨日の話をした仕事の準備ができました。一緒に来てもらっていいですか…… てっ!? ごっごめんなさい!」


 話の途中だったプリシラは部屋を見ると、顔を真っ赤にして扉を閉めてしまった。


「おっおい!? どうした?」


 扉を閉じたプリシラにわけがわからず首をかしげるグレンだった。視線をプリシラが向けていた部屋の奥へと向けるグレンだった。


「あっ! あぁぁぁ……」


 自分が寝ていたベッドを見て声を震わせるグレンだった。彼は昨日も夜が怖く、寝付くまで姉に自分のベッドで甘えていたのだ。それだけなら大した問題にはならないのだが…… クレアは自分のベッドへと戻らず弟で暖をとった。また、グレンが起き上がった布団がめくれ、胸元がはだけクレアの黒い下着をあらわになっておりパッと見ると事後の後のように映る。手遅れだったがグレンは慌ててクレアを起こす。


「義姉ちゃん! 起きろ。仕事だってよ」

「ふにゃ…… あっグレン君! おはよう」


 目覚めて体を起こしクレアはグレンを見て笑うのだった。


「おはよう…… はぁ……」

「???」


 グレンはクレアに返事をし、うかない顔でため息をついて首を横に振るのだった。クレアはグレンの様子に首をかしげるのだった。


「プリシラちゃん。おはようございます」

「おっおはようございます…… チラっ!」

「さっさと行くぞ」

「あっ! はい」


 着替えて外に出ると気まずそうにプリシラが待っていた。彼女はグレンへ視線を向けた。誤解? を解くのが面倒なグレンはそのままにするのだった。二人はプリシアに連れられて一階に下りるのだった。グレンとクレアは正面玄関に向かうと思ったが、プリシラは下りた階段を正面玄関と反対方向に向かって歩き出した。


「どこへ行くんですか?」

「裏口です」


 廊下の先を指して振り返った、プリシラが笑顔でクレアに答える。


「最近はずっと混んでるから裏口の方が出入りしやすいんですよ。お二人もここにいる間は裏口から出入りした方がいいですよ」

「そうなんですね。ありがとうございます」


 クレアが礼を言うと、嬉しそうにプリシラは前を向き二人を先導して歩き出した。冒険者ギルドの裏口から出た三人、裏口は小さな路地につながっていた。


「じゃあこっちですよ」


 プリシラが二人を案内して、路地を進みすぐに曲がると表通りへと出た。テントが並ぶ大きな通りを三人は町の中心に向かって進む。プリシラが先頭でその少し後を二人が付いて行く形で歩いている。


「それで俺達の仕事はなんだ?」


 前を歩くプリシラに尋ねるグレン、プリシラはチラッと振り返ってすぐに前を向いて答える。


「地下街に臨時セーフルームを設置するんです。二人にはセーフルームを設置する魔道具職人の護衛をお願いします」


 セーフルームとは冒険者ギルドが冒険者に提供する、結界の貼られた魔物の侵入を防ぐ安全地帯だ。セーフルームは主に洞窟や遺跡などに設置され、支給品の提供や出入りの多い場所には宿屋や店などが置かれることもある。


「場所はリンガル洞窟亭という。日雇い鉱夫専門の宿屋だったところです。セーフルーム設置後は宿屋を再開する予定です。まぁその際は冒険者専門の宿に変わりますけどね……」


 淡々と仕事の内容を説明したプリシラが少し間を開けてプリシラから口を開いた。


「いやぁ。でも二人が来てくれて助かりました。本当なら冒険者に頼むんですけど、上から冒険者は鉱夫の護衛に優先的に回せって言われるし…… 後一日連絡が来るの遅かったら受付の職員が護衛につくところでしたよ」


 振り返って二人に向かってプリシラは笑っていた。冒険者支援課はテオドールの全ての町にあるが、支援員が配置されているのはテオドールを含め四つしかない。それ以外の町では受付が兼任し、グレン達が行ってる仕事を聖騎士や冒険者に依頼してこなしている。

 通りを進むと開けて場所へと出た。場所は円形の広場で、そこから八方へ大きな通りが伸びている。ここはロボイセの町の中心に当たりその名前を大エレベーター広場という。

 円形の広場の真ん中には、綺麗な石畳の床に囲まれた巨大な四角い建物が立っている。横に開く大きな金属の扉を持つ、この円筒型の建物が広場の名前になっている大エレベーターだ。大エレベーターの正式名称は大型魔導昇降機と言い、グレン達が乗ってきた船と同じ魔力が動力として地上の町と地下街をつないでいる。

 大エレベーターは毎日ひっきりなしに地下街と、地上の町を往復しロボイセの物流と人流れを支えていた。魔物が地下街を占領した現在も大エレベーターは通常通り動き、鉱夫と護衛の冒険者を地下へと送り込むのであった。


「えっと…… あれ!? いない?」


 大エレベーターの前に来た、プリシラが周囲を見ながら困った顔をしている。周りにはエレベーターを待つ、冒険者や鉱夫が数十人ほどが居た。


「どうした?」

「はい。大エレベーターの前に魔導道具職人さんと待ち合わせをしてるんですけど…… 見当たらなくて……」


 うつむいて残念そうにするプリシラだった。結界を出す魔法道具がなければ、セーフルームの設置は当然できない。プリシラの背中をさすってクレアが彼女をなぐさめる。グレンは腕を組み困った様子で周囲を見渡している。

 三人の背後から一人の女性が近づいて来た。女性は長い水色の髪に緑色のパッチリとしたやや細長い瞳に高い鼻をしたどこか知的な雰囲気が漂わせていた。格好は黒のオーバーオールのズボンに、緑の長袖のシャツを着て革の手袋をつけ、腰には金属の小さな槌をぶら下げて背中には革のリュックを背負っている。


「君たちが冒険者ギルドの人達だろ?」


 女性はやや低くねっとりとした声で三人に声をかけてきた。女性を見たプリシラはうなずき首をかしげた。


「はい。そうですけど…… あなたは?」

「私はハンナ。魔法道具職人ブライアンの弟子だよ。すまない。師匠は急にギックリ腰になって来れなくなった」

「えぇ…… そんな……」


 魔法道具職人が来れなくなり、プリシラはしょんぼりとしてうつむいてしまった。

 だが、ハンナはプリシラをみて笑った。


「大丈夫だ。私が代わりに行く。師匠の作ったものを設置するだけだろ?」

「えぇ!? でも……」


 自分が作業をするというハンナ、プリシラは少し困った様子でグレンたちをみた。ハンナは自身の腕を疑っているプリシラにムッとした顔をする。


「大丈夫と言ってるだろ。それとも今日は中止にするか? 急いでるんだろ?」


 渋い表情をするプリシラだった。ハンナの腕はわからないが、彼女の言う通り上司からセーフルームの設置をせっつかれているのも確かだった。


「うー…… わかりました。お願いします」


 しばらく悩んでからプリシラは渋々とハンナに頼む。ニッコリと満足そうにハンナはうなずいた。


「それじゃ二人があなたの護衛です」


 プリシラは手でグレンとクレアを指した。クレアがニッコリとハンナに微笑んで口を開く。


「グレンと私はクレアです。よろしくお願いします」

「よろしく」


 自己紹介を終えた四人は大エレベーターが動くのを待っている。

 ブーッという音が広場に響く。これは大エレベーターの到着を知らせる音だ。音を聞いたプリシラはクレアの方をむく。


「それじゃあ、私は冒険者ギルドに戻ります」

「わかりました」


 小さくうなずくクレア、プリシラはポケットから折りたたまれた紙を取り出して彼女に差し出した。


「これは地下街の地図です。設置場所に赤い丸をつけてあります。魔物との戦闘でくずれた瓦礫があったりして、進めない場所とかもありますから注意をしてください

「ありがとう」

「それじゃあ。よろしくお願いします」


 クレアに地図を渡したプリシラは、冒険者ギルドへ戻っていった。

 直後、大きな音がして大エレベーターの扉が横に開いた。開いた扉の先には馬車が四、五台くらい乗れそうなスペースがあった。


「行こうか」

「はい。グレン君。行きますよ」

「あぁ」


 冒険者達に続いてクレア達がエレベーターの中に入った。エレベーター内は四角い巨大な空間で、壁には巨大な金属の柱が複雑に組まれているのが見える。天井には太い縄を巻き上げる機械が四隅にならんでいる。床は木製で太く大きな板が並んでいた。

 エレベーターは金属の柱で組まれた骨組みの中に、ドーム型の透明な魔法障壁の屋根を持つ昇降機を四本の縄で釣っている。四本の縄は金属の骨組みにある魔力を動力とした巻取り機へと伸びており、これを魔法の力で動かすことで床部分を上下に動かしている。


「相変わらず。でかいなぁ」

「ですねぇ」


 慣れた様子の冒険者と違って、グレンとクレアは巨大なエレベーターを物珍しそうに見つめていた。二人は何度か大エレベーターに乗っているが、いつもこの大きさに圧倒されている。

 再びブーっという音が鳴り、エレベーターの扉が閉じられた。ガシャンと言う扉が閉まる音が響いて、ゆっくりとエレベーターは地下に向かって動き出すのであった。

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