第46話 とある勇者の伝説
ある日の早朝。クレアは一人で自分の部屋に居た。
薄水色のラグが床に引かれたやや狭い部屋の端に、クレアが普段は使わないベッドがありすぐ向かいには机と本棚が並んで置かれている。出窓の下に置かれたベッドの脇に彼女が使う大剣が立てかけられていた。
机の上に置かれた水晶には上品そうな銀色の短い髪の女性が映っていた。顔の上半分は水晶の光で見えなかったが、青くまんまるな耳飾りを両耳につけているのが分かる。
「どうしたんですの? あなたが連絡をくれるなんて珍しいですわね」
クレアに向かって水晶に映る女性が声をかけた。
「二人に聞いてほしいことがあるんです。連絡とれますよね?」
女性はクレアの言葉に小さくうなずいた。
「えぇ。お隣同士ですからね。でも、話したいことがあるなら直接連絡しなさいな。喜ぶわよ」
「でも…… 私は……」
珍しくクレアが暗い顔をして自信なくうつむく。その様子を見ていた女性は小さく息を吐いた。
「ふぅ。しょうがないですわね。いいですわよ。話しをしてあげます」
「本当ですか? ありがとうございます。こっちの美味しいお菓子をあげますね」
女性の答えを聞いて、顔をあげてうれいそうにするクレアだった。
「えっ!? なんでおっお菓子を……」
「だって好きですよね。お菓子……」
指をあごに置いて首をかしげるクレア、水晶の女性は汗をかいて少し慌てた様子だ。
「そっそんなことありませんわ。まったく……」
「あら!? そうでしたっけ?」
顔を水晶に近づけるクレア、女性はクレアから顔をそむけた。
「とっとにかく。話ってなんですの!」
「あのね…… ノウリッジに……」
嬉しそうにクレアは女性に向かって話しを始めた。
十分ほど後……
「ふーん。古代文明の都市…… 白金郷に挑む若い冒険者ですか。確かにあの子が好きそうですわね」
「そうでしょう。だからお願いします」
「わかりましたわ。伝えておきます」
「お願いしますねー」
ニッコリと笑うクレア、直後に水晶に映っていた女性の姿が消えた。クレアは立ち上がって背伸びする。
「うーん。早起きして眠いですが。今日はお姉ちゃんが朝ごはん作る番ですからね。頑張りますよ」
弾むような足取りでクレアは、自分の部屋から出ていくのであった。