第46話 とある勇者の伝説
-アーリア教会所蔵、聖魔大戦記の一部分-
かつて世界の最北端に大陸が存在した。
太古の昔より神に背きし者の流刑地とされたこの大地からは、流刑者の恨みがこもった闇の力が地下より沸き立ち触れた者を魔族へと変貌させていた。いつからか大陸は浄化されない魂の溜まり場、不浄大陸と呼ばれるようになっていた。
不浄大陸より這い出た魔族は世を狂乱へと陥れた、神は不浄の地の周囲を結界により塞ぎ閉じ込めた。結界は三つの頭をもつアーレータークと呼ばれる天馬によって守護されていた。外界とのつながりを断たれた、魔族達は部族に別れ不浄大陸で長年覇権を争う日々を過ごしていた。
ジュリア聖帝歴953年。神への報復を唱える魔王ディスタードが、その圧倒的な力で部族を従順させていき不浄大陸を統一した。他大陸へ進出と神への報復を目論だ魔王ディスタードは結界を守るアーレータークへと戦いを挑んだ。七日七晩にも及ぶ、激しい戦いのすえ魔王ディスタードは、左目と左足と左手の指三本を失いながらもなんとか天馬を討ち果たした。
「我が意志は光と共に!」
絶命する直前、アーレータークの中央の頭が叫び声をあげたのだった。直後に天馬アーレータークは光となって天界へと戻り地上に降り注いだ。
魔王ディスタードは十年ほど傷を癒やした後、神への復讐と世界を手中に収めるべく侵攻を開始した。人間たちは必死に抵抗したが、わずか一年の間に二十の国が地上から消えた。人類は魔王ディスタードにより支配統一されるのが時間の問題かと思われた。
リクロス大聖堂で祈りを捧げていた、聖女リディアに神から一つの預言が与えられた。
「従者アーレータークの光を浴びし人類は、かの者の力を受け継いだ。光を浴びし人類の中から闇を払う勇者となる者が現れるだろう」
預言を受け早々に世界各地に使者が送られ勇者探しが行われた。だが、アーレータークの光を浴びた人類に確かに特殊能力は与えられた。しかし、その特殊能力は様々であり戦闘に使用できないものも多々あった。また、個人の資質によっては特殊能力に目覚めない者が多数であったため勇者探しは困難を極めた。勇者を探す間も魔王ディスタードの足音はすぐそこまで迫っていた。
ここで人間は勇者探しの方針を変える。勇者を見つけるのを諦め光を浴び特殊能力に開花した人間を強制的に集め、彼らを勇者候補として魔王ディスタード討伐の旅へと向かわせることにしたのだ。
各地で勇者候補と魔王軍は激しい戦いが行われた。勇者候補の多くは魔王軍との戦闘で大活躍し人類は盛り返した、不利だった戦況は一気に膠着状態となり魔族と人類の一進一退の攻防が続いた。ただし、多くの魔族が勇者候補達に討ち取られたが、勇者候補も同様でその数は日を追って減っていき、神の預言により希望を取り戻した人類に暗い影を落としていた。
だが……
とある十歳の少女勇者候補の登場により、魔王ディスタードと人類の戦争は急速に終結することになる。彼女は自らの下に集まった五人の仲間と共に八年もの旅を続け、ついに魔王ディスタードを討ち果たしたのだった。
魔王ディスタードを討伐し世界を救った彼女の名前は……




