第44話 旅立ちの時
白銀兵団のテオドール襲撃が終わってから一週間が過ぎた。
混乱していたテオドールの町も徐々に落ち着きを取り戻し、いつものような賑わう港町へと戻っていた。ノウレッジでは見つかった古代文明の遺物により、何かしらの問題が起こるのは日常なので復旧は慣れたものである。
冒険者支援課も通常の業務へと戻り、グレン達は白銀兵団の襲撃によりたまってしまった報告書の整理をしていた。
「あっあの…… グレンさん」
冒険者支援課の部屋の扉が開きキティルが顔を出した。書類の整理の手を止めて、呼ばれたグレンが立ち上がって扉へ向かう。
近づくグレンにキティルと一緒にメルダが居るのが見えた。
「どうした? 二人して? 何か支援が必要なのか?」
「えっ!?」
二人になぜここへ来たが、グレンが尋ねると凄く驚いた顔をするキティルだった。
「あんたの仲間のタワーに呼び出されたのよ。聞いてないの?」
メルダが呆れた感じタワーに呼び出されたと答える。何もタワーから聞いていなグレンは驚いた顔をした。
「タワーに? 義姉ちゃん何か聞いてる?」
「いえ、私も何も聞いてないですよ」
振り向いてグレンはクレアに確認する。彼女は首をかしげて答えた。
クレアからの答えを聞いたグレンがため息をついた。
「はぁ…… しょうがない。ハモンド君。すまないがタワーを呼んで来てくれ」
「はーい」
快く返事をしたハモンドが立ち上がった。だが…… 彼の背後にすっと黒い影が現れた。
「もっもう居ます……」
影はタワーで、ハモンドの後ろから声をかけた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
急に声をかけられたハモンドが振り向き、悲鳴をあげ飛び上がるようにして驚き腰を抜かした。
「こら! 急に現れるな。びっくりするだろ」
ハモンドの元へ行ってグレンがタワーに注意をした。グレンは腰を抜かしているハモンドに、肩を貸してて立ち上がらせるのだった。
「いっいや。キッキティルさん達が来る直前から居ましたよ…… ノックして扉を開けて入る時も名乗ったのに…… なんで誰も気づかないんですか……」
「気づかれるように気配を出せ! はぁ…… まったく……」
腕を組んでタワーの前でグレンは不満そうに首を横に振った。
「うっ……」
グレンから注意されタワーはしょんぼりしてうつむいてしまった。
「もう…… グレン君。タワーさんをいじめないの!」
「別にいじめてるわけじゃ……」
気まずそうにグレンは、右手を後頭部にまわしてかいていた。クレアは優しくほほえみタワーに声をかける。
「タワーさん。二人をどうして呼んだんですか?」
「はっはい。キティルさん。銀の短剣は持ってますか?」
顔を上げタワーは扉の方を向いてキティルに声をかけた。
うなずいてタワーの元へと来るキティル、クレアも移動し全員がハモンドの机の近くに集まった。キティルはタワーに銀の短剣を渡した。
「ぼっ僕がこの短剣を返してから抜きましたか?」
「いいえ」
小さく横に首を振るキティル、タワーは短剣を鞘から抜いた。
「なっなに。これ……」
キティルの視線が上をむくタワーが短剣を抜いてから数秒すると、剣先から一筋の青い光が出てキティルの額を照らしている。
「事件の後、情報収集課で石柱からこの短剣を抜きました。抜いてから剣先から光が南東の方角を指して消えません」
石柱に刺さった短剣は騒動後に抜ける状態になっており、情報取集課が回収し鞘に戻した状態でキティルに返却した。タワーが剣の向きを変えた、彼の言う通り剣先をどこに向けても光は一直線に南東へ向かって伸びていく。
キティルはずっと南東をさす光が、なんとなく気味が悪く一歩横にずれた。
「この光はなんなんだ?」
グレンの質問に少し緊張した様子でタワーが答える。
「いっ以前に銀の短剣に彫られていた古代文字を解析したんです。その結果、石柱はかつてこの大陸にあった都市へ向かうために作られた道標みたいですね」
タワーは喋りながら、持っていた銀の短剣を静かにさやに戻した。グレン達は真剣な表情で彼の話しを聞いていた。
「あっあの! エリィがどこに行ったのか。わかりませんでしたか? 銀の短剣に何かヒントは?」
必死な様子でキティルが話に割り込んでタワーに質問した。エリィの捜索は行われたが死体は見つからず、指輪の反応もなく行方不明扱いとなっていた。キティルはエリィを懸命に探しており、どんな小さな手がかりも逃したくないと必死なのだ。だが、申し訳なさそうにタワーは首を横に振った。
「いえ、わかったのはあれが道標だということだけです。エリィさんの行方までは……」
「そうですか」
タワーの返答にしょんぼりしてうつむくキティル。うつむくキティルにタワーが声をかける。
「でっでも、たぶん。エリィさんは生きています。きっと彼女はこの大陸にあるどこかの遺跡に飛ばされたんだと思います。あの銀色の光は古代の転送魔法のようなものだと……」
「本当なの?」
メルダが目を細くしてにらみつけるような視線をタワーに送る。彼女の鋭い視線にタワーはビクッと一回痙攣してから小さな声で話しを始めた。
「ざっ残念ですが…… 確証はないです。ただキラーブルーがエリィさんを殺すつもりだったらあんな面倒なことはしないってことは確かです……」
うつむいて自信なく話すタワーだった。メルダは腰に両手を置いて小さく息を吐いた。
タワーは申し訳なさそうにして話しをまた始める。
「それで昨日ですね。南の砦にあった石柱と同じものがロボイセの旧鉱山で見つかっと連絡がありました」
「ロボイセ…… ここから南東だな。つまり光はそこを指してるのか……」
「はい。おそらく…… そして光を追って行ける先は……」
「白金郷ってわけか」
グレンの言葉にタワーは真顔で小さくうなずく。
二人の会話を聞いていた、メルダが視線をキティルに向け口を開く。
「キティル……」
「うん。わかってる。グレンさん!」
力強くキティルがグレンを呼び、呼ばれた彼は彼女へ視線を向けた。静かにキティルは自分の胸に手を置いて口を開く。
「私は白金郷を目指します! 私はエリィは生きてて助けを待ってるって思うんです」
決意に満ちた表情で力強く白金郷を目指すと宣言するキティルだった。
「そうか。わかった…… でも一人で大丈夫か?」
「ううん。一人じゃないですよ。メルダさんも一緒です。」
嬉しそうに笑ってキティルは、横に立っていたメルダに顔を向けた。グレンが驚いたメルダに視線を向けると彼女は、不満そうな表情をして恥ずかしそうに頬を赤くする。
「メルダが一緒って……」
「なによ! 元々白金郷はあたしたち姉妹が狙ってたの! 私とキティルはたまたま同じ目的になったのよ。それに…… 白金郷を見つけたら魔族の再興も出来るしね」
「まっ魔族の再興だと…… お前達はまた人間と戦争をしようというのか?」
厳しい表情でグレンはメルダを見た。彼の視線を避けるようにしてメルダは横を向いて腕を組んだ。
「さぁね…… でも…… もし魔族が復活してもここは見逃してあげるわ」
口を尖らせてメルダは恥ずかしそうに話していた。
「やっぱりメルダさんはいい人ですねぇ」
「なっ!? あんた! いい加減にしなさいよ。いい人じゃないわよ!!!!」
顔を真っ赤にしてクレアの言葉を否定するメルダだった。
「うふふ」
「はははっ」
目が合わせたグレンとクレアはほぼ同時に吹き出す。
「なっなによ! いいでしょもう」
メルダは腕を組んで口を尖らせてそっぽを向いた。ハモンドとタワーとキティルの三人は笑いをこらえていた。
話が終わってタワーから銀の短剣が返却された。部屋から出ていこうしたキティルが振り向いてグレンの元へとやってきた。
「グレンさん」
「どうした?」
背後から声をかけられ振り向くグレン、キティルは緊張した様子で口を開いた。
「こっここから離れても…… 私達のこと支援してくれますか?」
顔を上げたキティルは、まっすぐな瞳でグレンを見つめていた。力強くグレンはうなずいた。
「あぁ。俺は冒険者支援課だ。どこに居ようが冒険者を支援するのは変わらないよ」
「はい! 良かったです」
グレンは手を伸ばしキティルの頭を、数回ポンポンと軽く優しく叩く。頭を叩かれたキティルは恥ずかしそうに顔を真赤にしていた。クレアはグレンの横でうらやましそうにキティルを見つめるのだった。
翌日、キティルとメルダは南東にあるロボイセを目指して旅立っていった。新大陸のどこかに眠る伝説の白金郷を目指す、二人の長く険しい冒険が始まったのだった。