第42話 彼女の正体
キラーブルーの背後にタワーが立っていた。彼はエリィの様子がおかしいことに気づき、彼女を近くで監視していたようだ。
タワーは体をキラーブルーに密着させ左腕を腹に回して掴み、右手で逆手に持っている短剣を彼女の喉元に突きつけていた。
「てっ抵抗しないでエリィさんを離してください」
おどおどして迫力がなく、タワーはキラーブルーにエリィを解放しろと命令した。
「はぁはぁ……」
キラーブルーは黙ってタワーの命令を素直に聞きエリィから手を放した。解放され地面に足をつけた、エリィは苦しそうに息を整える。
「早く離れて!」
「はっ!? はい!」
即座にタワーが離れるようにエリィに命令すると、彼女はその場から背を向けて走ってキティルの元へと向かう。
「新タナ侵入者…… 情報ヲ……」
視線を下に向けたキラーブルー、短剣を持つ真っ黒な手袋を見つめている。うっすらと目が青く光って細い光線が彼の手袋に当たる。
「スキャン中…… パワー、スピード、魔力、低。コノ侵入者ノ攻撃ニ備エル必要ハアリマセン」
キラーブルーはタワーの手に光を当て、淡々とした口調でつぶやく。自分を侮られるような言葉を聞いた、タワーだったが彼は特に気にすることもなく笑う。
「そっそうさ。ぼっ僕はグレン君達みたいに正面から戦うタイプじゃないから……」
タワーはキラーブルーに答えたが、彼女は何も反応をしめさなかった。タワーは少し間を置いて口を開く。
「そのしゃべり方にこの体の冷たさ…… あなたは…… ゴッ石人形ですね?」
「!?」
キラーブルーの体がかすかに痙攣した。彼女の反応にタワーは、自分の予想が当たったことを確信した。
石人形は土や石や金属などを魔法の力で、合成して作られた人形だ。魔力を動力とし主人の命令に忠実、さらに強靭で耐久力が高く、戦場や警備の他に農作業など様々な場所に用いられている。
また、キラーブルーは女性の姿だが、石人形の外観は個人の趣味で、竜の姿をしてたり犬のようだったりと様々な物がある。
「なら君の弱点は分かるよ!」
タワーはキラーブルーの喉元に突きつけていた短剣を離した。剣先をキラーブルーの胸元にある小さな青い宝石へと向けた。彼女の胸元にある石は魔導石という、魔導石は魔石の一種で魔力を貯めておけるものだ、
石人形は魔力が動力であり、大抵の石人形は魔導石から動力である魔力を供給されている。魔導石を破壊してしまえば魔力の供給がなくなり石人形は動かなくなる。タワーは一気に短剣を魔導石に向けて振り下ろした。
ガキっと言う音がしてタワーの短剣は魔導石にぶつかった。しかし、突き刺さることなくそれどころか傷一つ付いていない。よくみると魔導石の上に、薄い青い光の膜があり光がかすかに波打っていた。
「これは…… 魔法障壁…… くっ!?」
悔しそうな表情のタワー、キラーブルーは左手で彼の手首をつかんで、ゆっくりと短剣を自分から遠ざけた。そのまま彼女は体を前に傾け強引にタワーの腕を引っ張って彼を自分の前に強引に引っ張り出した。
「うわ!?」
キラーブルーはタワーの手を離す。軽いタワーは投げ飛ばされて、キラーブルーの五メートルほど先に地面に落ちた。
すぐに姿勢を戻したキラーブルーは、右手に持っていたサーベルの剣先をタワーに向けた。駆け出したキラーブルーはタワーとの距離を一気に縮めた。
「いたた…… 残念だけど僕の役目は終わりです」
目の前にタワーに向かってサーベルを突きだそうするキラーブルー。タワーは持っていた短剣の前に出した。彼が逆手に持っていた短剣の柄頭に、つけられた青い石がキラーブルーに向けけられている。
素早くタワーは、右手の親指で石を弾くようにすると、短剣の石は横にずれた。短剣のグリップの部分は空洞になっていた弾いた石があったところは穴が黒く開いている。そこから白い煙がキラーブルーに向けって発射された。
「視界不良……」
一瞬で視界が真っ白になるキラーブルー、サーベルを突き出す動作が一瞬遅れた。サーベルに手応えなく彼女の右腕は伸び切った。
すぐに煙は引いた。キラーブルーに居たはずのタワーの姿がなかった。
「侵入者ガイナイ……」
腕を引いて視線を動かしてキラーブルーはタワーを探していた。少し離れたところでグレンは傷薬を左腕にかけていた治療していた。彼は何かに気づいて横をむいて背後に視線を送った。
「時間を稼いでくれて助かったぜ」
笑顔で誰もいない背中に声をかけるグレン、直後にふっとタワーが彼の背後に姿を現した。声をかけられたタワーは静かにうなずき何かを地面に置いた。
「あぁ。ありがとう」
笑顔で礼を言うグレン、タワーが置いたのは彼が移動の途中で拾った彼の剣ムーンライトだった。グレンはムーンライトを一目見て確認し傷薬の瓶を投げ捨てた。
「いってぇ!!!!!」
動くと左腕に痛みが走りグレンは、顔を歪ませて声をあげた。タワーは痛がる彼を見て心配そうに声をかける。
「グレンさん。大丈夫ですか? 痛そうですけど」
「うん!? 大丈夫だ。もう少しで薬が効いて来る。すぐに使えねえかも知れないがな…… しっかし…… あのやろう急に強くなりやがって厄介だな」
「かっ彼女は魔力が動力の石人形です。魔法士隊から魔力を奪って自身を強化したんです」
「チッ…… そういうことか」
舌打ちをして悔しそうにグレンがキラーブルーを見つめた。心配そうにタワーが彼にまた声をかける。
「彼女は胸の石を破壊すれば止まります。まっまだ少しお手伝いした方がいいですか?」
「いや大丈夫だ。おかげで弱点がわかったからな。後は任せておけ」
緊張した様子でタワーがグレンにたずねた。グレンは顔をタワーに向けて笑った。ホッと安堵の表情を浮かべるタワーは、石人形であるキラーブルーの弱点をグレンに伝えた。グレンの視線がキラーブルーの胸元に光る青い石に向けられた。
グレンは視線をキラーブルーから外しタワーの方を向き小さくうなずいた。
「タワー。ありがとう。助かったぜ」
「いっいえ…… ぼっ僕は情報収集課の課長ですから!」
緊張した笑顔でグレンに答えるとすぐにタワーの姿が消えた。グレンはムーンライトを拾うためにしゃがんだ。ムーライトを拾ったグレンは、苦痛で顔を歪ませながら左腕をわずかにあげムーンライトを脇に挟む。左手首を前に向けフェアリーアンバーを取り出したグレンはムーンライトの鍔に差し込んだ。光り出したムーンライトを素早く脇から外した。ムーンライトは月樹大剣へと姿を変えた。ゆっくりとグレンは目を光らせ大剣を肩に担ぐのだった。
「優先度低。侵入者捜索停止…… 優先度高。顧客保護ヘ移行……」
顔を横に動かしてタワーを探していたキラーブルーは目を青く光らせてつぶやいた。
直後にキティルが居る方角に体を向けて歩き出した。
エリィはキティルと合流し二人で通りを、東門を目指して走って逃げていた。二人は頻繁に後ろを振り返り様子を確認する。
二十メートルほど後方からゆっくりと歩きだすキラーブルーを見えた。
「こっこっちに来る……」
「いいから急ぐわよ。キティル!」
エリィがキティルをの手をつかんで前に引っ張った。二人は手をつないで前を向いて必死に走る。
しかし、ふわっと二人の横を何かが通リ過ぎていった。
「なっ!?」
「いつの間に…… こっちよ」
通りの数メートル先に両手を広げたキラーブルーが立っていた。二人は驚いて立ち止まった二人、すぐにエリィは振り返って逃げようとキティルを引っ張った。
キラーブルーの目が青く光、キティルと手をつないで逃げるエリィの背中に光が当たる。
「顧客誘拐…… 顧客保護セヨ」
エリィに光を当てたまま、淡々とつぶやいたキラーブルーは駆け出した。
「危ない!」
「キャッ!」
叫んだエリィがキティルを横に突き飛ばした。キティルは尻もちをついた。エリィが通りの真ん中にいて、キティルは通りの端で尻もちをついたままキラーブルーとエリィを見つめている。
「ヒッ!? なっなによ」
二人の間にキラーブルーが立ってキティルに背中を向けて立っている。エリィはキティルを助けようと立ち上がり近づこうと前に出た。
「オ嬢様カラ離レナサイ。コレハ警告デス」
近づこうとするエリィに向かい、キラーブルーは両手を広げた。エリィがキティルに近づこうとするのを防いでいるようだ。
「何を言ってるの? お嬢様? キティルが!?」
キラーブルーの行動に意味がわからず困惑するエリィだった。
「警告無視スレバ強制排除シマス」
右手に持ったサーベルを振り上げるキラーブルー、警告というのは本当なのかすぐに振り下ろさずエリィに振り上げたままでいる。エリィは怖くて動けずにいた。
「エリィ! 逃げろ!」
「えっ!?」
空から声がした。キラーブルーとエリィの視線が上に向けられた、ゆっくりと右肩に月樹大剣をかつぎ目を赤く光らせ毛のようなオーラをまとうグレンが空から下りてきていた。
少し離れた場所に着地した、グレンはゆっくり歩いて三人に近づく。歩きながらエリィに向かってグレンが声をかける。
「早く逃げろ! 後は俺に任せておけ」
「はっはい」
うなずいたエリィはキラーブルーを迂回してキティルの元へと向かう。キラーブルーの視線がエリィを追いかけていく。離れていくエリィへキラーブルーは体を向けた。
「顧客保護……」
「行かせるかよ」
グレンが肩に担いでいた月樹大剣を振り下ろした。大剣は石畳みの道に叩きつけられ、周囲に破壊された石の破片が飛び砂埃が舞う。
「!!!」
突如キラーブルーの目の前に木の根の何本も束になって壁のようになっていた。木の根は地面から石畳みの道を突き破り、数十本がまるで石を持って束ねられていた。
木を見上げてるキラーブルーの背後からグレンが声をかける。
「キティルの元へ行きたいなら俺を倒すんだな…… 獣化全解放!」
振り向いたキラーブルーに、目が赤く光り体が巨大化したグレンの姿が見えた。巨大化したグレンはキラーブルーの五メートルほど前に立ち彼女を見下ろすのだった。