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第40話 南門の来訪者

 東門から戻ってきたキティルは、城壁に上ってグレンが戻るの待っていた。戦闘が終わり、騒がしかった南門はひっそりと静まり返り寂しくどこか不気味な雰囲気が漂っていた、


「グレンさん…… 大丈夫かな……」


 誰もいない戦場を見つめキティルは不安そうにつぶやく。

 平原の向こうから一筋の青い光が突如として現れ、硬く閉ざされた城門へとぶつかった。


「キャッ!?」


 大きな音がしてキティルが立っていた城壁が揺れた。城壁の壁につかまって揺れをしのぐキティル、彼女の鼻に焦げくさい香りと肌にじんわりとした熱さ伝わる。

 揺れがおさまって立ち上がった、キティルは周囲の状況をうかがう。視線を下に向けると城門から黒い煙が上がっていた。

 慌てて城壁を下りる階段へと向かった。階段から下の方を見たキティルに、巨大な金属の城門が真っ赤になって溶けているのが見えた。信じられないという様子で、キティルは溶けた城門の扉を呆然と見つめていた。


「あれは…… キラーブルー!?」


 熱で真っ赤に溶けた扉の隙間から、両手にサーベルを持ったキラーブルーが町に侵入してきた。視線を動かすキラーブルー、キティルは彼女と対峙した時の恐怖が蘇ってくる。キティルはとっさに下りようとした階段の脇に身を隠し下を向いた。

 ゆっくりとキラーブルーが歩き出した。一歩ずつ何かを確かめるように静かに町の奥へと向かっていく。身を隠しながらキティルは頭を抱え震えていた。突如現れたキラーブルーに彼女の頭は混乱していた。


「(なんで…… キラーブルーが!? まさか!? グレンさんはあいつに!?)」


 キティルはキラーブルーによって退けられたと勘違いした。


「グレンさん…… 私だって!」


 顔をあげたキティル、覚悟を決めた表情をした彼女の体の震えはいつの間にかなくなっていた。

 背負った杖を取り出し両手で持ち、キティルはゆっくりと階段を下りていく。彼女のかすかに動いている。


「精霊よ。聖なる炎の精霊よ。主に抗いし忌まわしき者たちをあるべき場所へと……」


 キティルの杖の先端に赤い光が集約していく。詠唱の途中で階段を飛び降りたキティル、キラーブルーの斜め後ろへ着地した。

 杖の先端をキラーブルーに向けジッと彼女の背中を睨む付けた。


「還せ! ヘルファイア!」


 赤い光を纏ったキティルが叫びながら、キラーブルーへ杖を向けつた。キラーブルーが立っている周囲の地面がひび割れていく。


「!?」


 地面が割れる音に気づいてい下を見たキラーブルーだった。ひび割れた地面が赤く光ってキラーブルーの頬を赤く照らした。

 キラーブルーに向けて、地面から炎が吹き出した。炎の勢いはすさまじく、城壁を超えるほどの高く舞い上がった。真っ赤に光る炎に包まれたキラーブルーの姿が見えなくなる。


「やったわ!」


 手応えがあったのかキティルは、目の前で燃え上がる炎を見て嬉しそうに両手に持った杖に力を込めて握りしめた。


「えっ!? なんで……」


 驚きの声をあげるキティル。炎の中から青い二つの光が伸びてきて、彼女の胸の辺りを照らしていた。


「侵入者…… !? …… 要確認!」


 かすかに炎の中からキラーブルーの声が聞こえた。炎がゆっくりと地面へと戻っていく。体にわずかに黒いすすがついているが、キラーブルーはほぼ無傷で姿を現した。

 目を青く光らせてキラーブルーをジッとキティルに顔を向けていた。


「まだよ! もう一回!」


 再度魔法をはなつために、キティルが杖の先端をキラーブルーに向ける。しかし……


「キャッ!?」


 瞬時にキティルとの距離をつめたキラーブルー。急に前に現れた彼女に、キティルは何も出来ずに悲鳴をあげ目を閉じるしかできなかった。


「えっ!?」


 衝撃も何もなかったキティルは、ゆっくりと目を開け驚きの声をあげた。キティルの目にキラーブルーが両手に持っていったサーベルから手を離して、足の両脇の地面にサーベルが突き刺さした光景が映る。

 キラーブルーは手を伸ばし、キティルの両肩をつかむと目をさらに青く光らせた。恐怖でまた目をつむるキティルだった。


「確認中…… 確認中……」


 キティルの耳に感情のないキラーブルーの声が聞こえてきた。すぐに肩からキラーブルーの手が離れた。ゆっくりとキティルは目を開ける。目前には真顔のキラーブルーが立ちつくしていた。


「イラッシャイマセ。プラティニア家ノオ嬢様」

「えっ!?」


 気を付けの姿勢になった、キラーブルーは胸に手を当てて丁寧に頭を下げた。キラーブルーの行動にキティルは驚いて固まっていた。

 直後にキラーブルーの瞳が青く光りだした。彼女の目から出た光りで、自身の目の前に薄い青色の四角い枠を投影させる。枠にはエリィが理解できない、銀の短剣に刻まれていたと同じ古代ノウレッジ文字が表示されている。


「オ嬢様。首都リクロイゼヘノ来訪理由ヲ選択シテクダサイ。確認後、来賓席ヘト転送イタシマス」


 目を光らせたまま、キラーブルーはキティルに声をかけていた。何が起きてるのかわからず呆然としているキティルに、少ししてから再度キラーブルーが声をかける。


「オ嬢様。首都リクロイゼヘノ来訪理由ヲ選択シテクダサイ」

「(なっなんなの…… これ…… 古代文字…… キラーブルーは私に何を聞いてるの? でも…… 今なら)」


 手を付いて立ち上がったキティル、杖をギュッと握りしめてゆっくりと背後へと移動する。


「オ嬢様。首都リクロイゼヘノ来訪理由ヲ選択シテクダサイ」


 キラーブルーは前を向いたまま、同じ言葉を繰り返すだけだった。キティルはキラーブルーの背後に回り込んだ。手に持っていた杖の先端をキラーブルーへと向けた。


「コノ中カラ来訪目的ヲ選択シテクダサイ。来訪理由ガ不明ノ場合ゴ案内デキマセン」

「きゃあああああ!?」


 目を光らせ枠を投影したまま、キラーブルーが急に振り返った。キティルの動きに勘付いていたようだ。悲鳴のような声をあげたキティル、キラーブルーの目の光が消えた。


「異常値検知…… 来賓保護モードヘ移行シマス」


 片膝をつきしゃがんだキラーブルーが地面に刺さったサーベルを引き抜いた。立ち上がったキラーブルーは、キティルに背中を向けて首を左右に動かしていた。


「にっ逃げなきゃ!」


 キティルはキラーブルーから逃げ出した。キラーブルーに背中を向けキティルは、必死に走り東門へ向かう通りへと向かう。

 時々、振り返りながらキラーブルーの様子をうかがう。キラーブルーは追いかけて来なかった。


「ホッ……」


 気が抜けたせいか、前を向いて数十メートルほど進んだところでキティルの息があがる。


「はぁはぁ…… よし! 早くグレんさんに知らせないと……」


 キティルは通りから路地に入って、ホッと一息をつく。息を整えた彼女は路地から出て再度走ろうと……


「来賓ヲ保護シマス」


 路地から出たキティルの耳元に声がした。背後に振り向くと、真顔のキラーブルーが立っていてキティルに声をかけて来た。


「きゃああああ!」


 真っ青な顔になってキティルは悲鳴をあげた。前を向き一心不乱にキティルは必死に駆け出した。ゴツゴツした石の道を、足がもつれながら転びそうになりながらもキティルは必死に東門へ向けて走った。


「キティル!」

「あっ! グレンさん!」


 声がして上を向くと、数十メートル先の上空をグレンが、キティルに向けて飛んで来ていた。


「キラーブルーが! 来てます! 気をつけてください」


 振り向いて叫ぶキティル、グレンはうなずいて彼女の向かって急いで下りていく。グレンはキティルの二メートルほど前に着陸した。


「えっ!? なんで!?」


 キティルが驚いて声をあげた、彼女を何かが猛スピードで追い抜いていった。

 追い抜いていったのはキラーブルーで、キティルを無視し一直線でグレンへと向かって行く。キラーブルーの接近に気づいたグレンは腰にさした剣ムーライトに右手をのばす。彼の目が赤く光りオーラを纏う。


「侵入者発見! 緊急保護ニ移行シマス!」


 大きな声をあげながら、キラーブルーは両手に持ったサーベルを振り上げた。グレンの首を狙ってキラーブルーは両手の剣を交差させるように振り下ろそうした。

 膝を曲げてグレンは剣を抜きながら右斜め前へ出た。そのままグレンは、キラーブルーとすれ違いながら抜いた剣で彼女の脇腹を斬りつける。

 軽い感触がグレンに伝わった。グレンの剣は深くはいらず、かするようにキラーブルーの脇腹を切り裂いた。グレンの剣の動きに反応しキラーブルーはわずかに体をそらしていた。

 キラーブルーとすれ違い背後に回り込んだグレンが振り返った。傷ついた脇腹を気にすること無く、キラーブルーも振り返る。少し悔しそうにグレンはキラーブルーを見つめていた。


「かわしたか…… まぁそんな簡単な相手じゃないわな。キティル! 離れて隠れてろ」

「はっはい!」


 振り向いてグレンは後ろに居たキティルに隠れるように声をかけた。うなずいた彼女は近くの建物に身を隠すのだった。キラーブルーは黙って身を隠すキティルを見つめていた。

 サーベルを持った両腕を下しジッとキティルを見るキラーブルーと、右手に剣を持ち剣先を下に向け構え赤いオーラを纏ったグレンが対峙し時間が過ぎていく。

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