第37話 あいつらは何者だ
猛スピードで降下するクレア、彼女は白銀兵団の中心へと向かっていく。彼女の目に五機の攻城櫓に三機の台車に乗った投石機、それを引っ張るオーガやトロールなどの白銀兵が映る。白銀兵団は攻城櫓や投石器の周囲に隊列を組んで囲むようにして進軍していた。
「はあああああ!」
気合をいれるとクレアが左手に持つ、白い光の大剣の刀身が伸びていく。十メートルほどの長さになった白い光の大剣を構えた。
「はっ!」
飛びながらクレアは左手に持っていた攻城櫓を斬りつけた。光の大剣は櫓を簡単に真っ二つに切り裂いた。激しい音を立てて攻城櫓が倒れていく。
クレアは前へと飛びながら残った攻城櫓を次々に斬りつけていった。
「「「「「「ウギャーーーーー!?」」」」」」
白銀兵達の叫び声がクレアの耳に届く。次々と斬られた攻城櫓が倒れて投石機の上に落ちて破壊したり、隊列へ倒れて白銀兵達を押しつぶす。
「よし!」
声を出してうなずいて再び高度をあげたクレア、彼女の左手の大剣は短く戻り右手の大剣と同じ長さに戻った。クレアは大きく旋回しながら隊列の先頭へと戻っていく。
ゆっくりとクレアは背後で起きた騒ぎにを見つめ、背中を向けている白銀兵達への前へと下りて来た。
「お姉ちゃんのお仕置きはまだこれからですよー」
クレアの声に白銀兵達が振り返った。彼女は白銀兵達の前で、両手の拳を横に合わせる動作をした。
大剣のグリップの先いわゆる柄頭が合わさるようになり、クレアの持っていた二つ大剣がくっつき上下に二つの刀身を持つ大剣へと変化した。
柄が三十センチ、刀身の合計は四メートル近い、巨大な二枚の刃を持つ大剣をクレアは頭の上へと持っていく。両手を使ってクレアは大剣を激しく回転させていく、激しい回転による風が巻き起こり周囲に砂ぼこりが舞い彼女の服が激しく揺れる。
「ふふふ。お姉ちゃんはこんなこともできるんですよ。じゃあ行きますねー!」
白銀兵達を見て優しく微笑んだ彼女は腕を前に下ろし足を踏み込んだ。
「「「「「「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」
激ししい白銀兵達の断末魔が東門まで轟く。クレアは大剣を回転させながら白銀兵達へと突っ込んでいった。
銀色兵達はクレアの激しく回転する大剣によって次々に切り裂かれていく。剣に体が触れた白銀兵はフードプロッサーの中にある肉のように簡単にバラバラにされる。
飛びながら大剣を回転させるクレア、白銀兵達の隊列は乱れ前線は混乱し白銀兵達は逃げ惑う。約二万の大軍はクレア一人によって崩されたのだった。
「クレアさん…… すごい」
櫓の上からクレアが白銀兵団を蹴散らす様子を見たエリィは感嘆の声をあげた。
「エリィ! どこー!」
呼ばれてエリィが振り返ると城壁の下からキティルが声をかけていた。彼女は後ろに東門に配置された百五十人を連れていた。
振り返ったエリィは城壁のへりから顔を出してキティルに答えた。
「ここだよ。キティル! どうしたの?」
エリィの方を向いたキティル、二人の目があうとキティルが口を開く。
「グレンさんの指示でみんなを連れて来たわ」
「ありがとう。二つに別れて、そことそこから城壁に上ってきて」
「わかったー。みなさん二つに別れて城壁に上ってください」
近くに城壁に登る階段を指し、次にメルダ達が配備されてる城壁へ続く階段を指してエリィが答えた。
部隊はキティルの指示で半分に分かれてそれぞれ城壁を上っていく。
みんなが城壁を上がるのを見てエリィは嬉しそうに笑った。だが、すぐにキティルはみんなが城壁を上り始めると慌てた様子で来た道を戻りだした。
「キティル!? どこに行くのよ?」
「グレンさんが南門で一人残って戦ってるの! だから戻るわ」
問いかけにキティルは南門を指して答えた。そのまま彼女は南門を目指して振り返らず走っていった。
キティルの背中をエリィは心配そうに見つめていた。
「てっ敵が来ます!」
「えっ!? ごめんなさい! 迎撃の準備をして」
聖騎士の一人の声によってエリィは慌てて振り返る。数十人の白銀兵達が城門へと迫ってきていた。
白銀兵団はクレアによって崩されたが、一部の白銀兵達がなんとか立ち直りクレアのスキをつき城壁に迫って来ていた。
エリィとメルダは城壁から迫ってくる、白銀兵達に対処するのだった。
二時間後……
「はあああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
クレアは合わさった二つ大剣を振り下ろした人形の白銀兵は、頭から真っ二つになり左右に別れて倒れた。
真っ二つに割れた白銀兵の体の向こうには、後退りしながら武器を構える数十人の白銀兵達が見えた。彼女の目が鋭く光る。
「そこ!!!!!!!!!!!」
左足を軸に体を背後に反転させながらクレアは、光の大剣の剣先を突き出した。背後から迫って来ていた白銀兵の胸を光の大剣が貫いた。
大剣を戻すと白銀兵は事切れた人形のように地面に倒れ込んだ。
「ふぅ…… お姉ちゃんは頑張りましたよ。グレン君……」
左手を胸に置き小さく息を吐いたクレアは目線を少し上に向けた。彼女の周囲にはおびただしい数の白銀兵の躯が転がっていた。クレアは服が少し砂埃が汚れただけでほぼ無傷で、手足が真っ赤に染まっているは白銀兵達から浴びた返り血だった。
二万近く居た白銀兵はほぼ半数はクレアに討ち取られ、その他のほとんどは持ち場を放棄して逃げた。
わずかに城壁へと辿り着けた数百の白銀兵達もいたが、エリィとメルダの必死の防衛によりこちらもほとんどが戦死した。
「あら!?」
ドラの音が響く。クレアの前にいた白銀兵達の動きが止まった。
クレアに背中を見せて白銀兵達が引き上げていく。どうやらドラの音は撤退の合図のようだ。
「じゃあ私も戻りますか」
深追いせずにクレアは、大剣を下ろして浮かび上がって城壁へと戻っていく。光の大剣が静かに小さな光の粒子となって消えていった。城壁を上から眺めクレアは被害の確認をしていた。
「大丈夫? 傷は浅いわ」
「やだ…… 早く! 殺して! 殺してー!」
叫び声に気づいてクレアは慌てて城壁へと下りる。城壁の柵の部分に冒険者風の女性が、肩に矢を受けた状態で座り込む、横には治療をするためにメルダが膝をついて彼女に寄り添っていた。クレアは城壁まで下りていってメルダに声をかけた。
「どうしたんですか?」
「あっ! クレア…… 彼女が治療を受けさせてくれないのよ」
「いや! 治療なんか無駄よ! わっわたし白銀兵になるのよ。南の砦で見た! みんな銀色に……」
どうやら女性冒険者は白銀兵から矢を受けた自分が、白銀兵になると思って混乱しているようだ。
「大丈夫ですよ。あなたは白銀兵になりませんよ」
「嘘よ! 早く殺して! 私はみんなの敵になりたくないの!」
泣きながら必死に訴える女性冒険者、クレアとメルダは取り乱す彼女にどうしたら良いかわからず困惑していた。
「クックレアさんの言う通り。だっ大丈夫ですよ……」
「えっ!? うわぁ!? あなた!? 誰!?」
メルダとクレアの背後から自信なさげでささやくような小さな声が聞こえた。驚いたメルダが振り返るとそこには黒髪の小柄な男性が立っていた。クレアは男性をみてすぐに笑顔になった。
「タワーさん! ごっごめんなさい。この人は冒険者ギルドの職員のタワーさんです」
二人の背後から現れたのはタワーだった。突如現れたタワーによって、驚いた女性冒険者は泣き止んでいた。少し緊張した様子でタワーは話しを続ける。
「ふっ二日前くらいから白銀兵は人を襲うのをやめてます。そっそれに一番最後に襲われた人は白銀兵にならないでそのまま亡くなってるんです……」
タワーの言葉にメルダは、難しい顔で考え込んでから口を開く。
「うーん。戦力が足りないから増やしたんでしょう。二万も兵隊がいれば十分ってこと?」
「違うと思います。彼らの目的は私達の排除ですから…… 仲間に引き込む人間を増やさないようにしているんだと思います」
クレアとメルダの会話を聞いていたタワーは、小さく首を横に振り申し訳なさそうに口を開く。
「いっいえ…… おふたりとも違います。きっと彼らは白銀兵を増やせないんだと思います。白銀兵団は魔法の呪いによって作られた兵士達の集団だと思います。大量の魔力の供給がなければ白銀兵は作れませんし動かせません」
「つまり目的のために全力で用意できたのがあの二万の軍団ってわけですね」
タワーの言葉に納得してクレアがうなずく。タワーは嬉しそうにしてる。
「嘘よ! そんなの!」
「そっそれ言うなら…… 君はとっくに白銀兵になってるよ。ぼっ僕達が見た銀色兵に変わった人達は攻撃を受けてからすぐに銀色兵に変わったから…… きっ君は矢を受けてしばらく経つけどピンピンしてるでしょ」
「私もクレア達と人が白銀兵になるところを見たけど彼の言う通りだったわ」
自信なさそうにするタワーにメルダが同調する。女性冒険者は自分の傷を見た。矢が刺さった肩からは血が流れ、銀色の兵士に変わる様子は微塵もない。
傷を見て少し安心した表情を浮かべた女性冒険者を見た、メルダは笑って彼女の肩を軽く叩いた。
「いた!」
「ほらさっさと治療するわ」
「だから痛いですよ。叩かないでください」
「うるさいわね。あんたがグダグダするから時間がないのよ」
「うっ…… はっはい…… ごめんなさい」
しょんぼりとうつむく女性冒険者、メルダは左手を光らせ彼女の肩に回復魔法をかけていく。クレアはメルダと女性冒険者の様子を見て微笑みタワーと顔を見合わせた。
クレアはタワーの顔を見てふと疑問が脳裏に浮かぶ。
「そう言えばタワーさんはどうしてこちらに?」
「あっあぁ! ごっごめんなさい。白銀兵団がまだ混乱してるみたいだ。誰かが背後から追撃してるようです」
クレアは目を大きく見開いて、タワーの言葉を遮るように声をあげた。
「グレンくんだわ! きっとグレン君が私を助けようとして……」
「はっ!? なんでそんなことが分かるのよ」
目を輝かせてグレンの名前を呼ぶクレア、メルダは少し呆れた表情で問いかける。
嬉しそうに笑ってクレアはメルダの言葉に答える。
「えへへへ。私とグレンくんは仲良しさんですからね。わかるんですよ。よーし! お姉ちゃんが今すぐ行きますからね」
体を浮かび上がらせて笑顔でクレアは大剣を抜いた。
「ちょっと待ちなさいよ!? あんた戻ってきたばかりじゃない! あぁ! もう……」
メルダの制止を聞かずにクレアは飛んでいってしまった。
「クレア…… でも…… グレンが一人でって…… もし本当ならグレンって何者なのよ…… クレアはあれだけど……」
呆然と飛ぶクレアを見つめるメルダの横で、タワーが静かに口を開く。
「かっ彼は…… 二つの特殊能力を持つ異端児ですね」
「えっ!? なに!? なんて言ったの?」
「はっ!? 知らない人……」
ぼそっと答えたタワーにメルダが聞き返した。タワーは彼女の顔を見ると、頬を真っ赤にしてうつむいて瞬時に城壁から姿を消した。
「えっ!? あれ!? もう! なんなのよ! ここのギルドの人間って変なやつばっか!」
不満そうにメルダが空に向かって叫ぶ。女性冒険者はメルダを気まずそうに見つめていた。