第363話 路地裏の仲介者
時間を少し戻してレイナがノウレッジに再上陸した日…… 狭い路地裏を壁に手を付きララが足を引きずるようにして歩いている。
「イテテ…… なんで…… 私は凄腕のヴァンパイアハンターになのに……」
尻を押さえながらララはぶつくさ言っていた。一本の向こうの大通りから人の気配と喧騒が聞こえ、人通りがほとんどない路地裏には寂しい彼女の声だけが漂っていた。
「うん…… 誰!?」
暗い路地の向こうから気配を感じた、ララは右手をベルトに持って行き短剣に手をかけた。
「はいはーい。こんにちはー!」
前から右手をあげ左腕にナーを抱いたソーラが笑顔で歩いて来てララに声をかける。彼はチェーンがついた赤い縁の方眼鏡をかけている。怪訝な顔で近づくソーラをララは睨みつけた。
「なによ。あんた?」
「僕はソーラ…… 君がララだね?」
「なっなんであたしの名前を?」
怖い顔で自分の名を知っているソーラを睨むララだった。
「君が行きたい場所を知っている人だよ」
睨まれても落ち着いた様子で、右手を胸を当て左足を引いて頭を下げるソーラであった。彼の言葉にララは目を輝かせる。
「もしかしてあなたハンター協会の人?」
「ちょっと違うよ。僕は仲介人なだけさ。協会とハンターの間をとりもっているの」
首を横に振ってにこやかに答えるソーラだった。やっとハンター協会に行けると思っていた、ララは不機嫌そうに鼻息を荒くした。
「ふん。胡散臭いわね…… 信じていいのかしら?」
「そうですか。じゃあこれで」
疑ってくるララにソーラは右手をあげあっさりと引き下がり。背中を向けてその場を去ろうとするソーラをララは慌てて引き止める。
「えっ!? ちょっと待ってよ! あたしに用事があったんでしょ」
「でも…… 君が信じられないなら…… 僕はもう帰るよ。無理強いは出来ないしね」
振り向いて優しく笑って歩き出すソーラだった。ララはソーラを見て悔しそうに眉間をシワに寄せた。
「まっ待ってよ!! わかったわ! 信じる! 信じるわよ! でっどうすれば良いの?」
ララが信じると叫ぶとソーラは振り向いて怪しくほほ笑んだ。彼はポケットから一枚のメモを取り出してララへと差し出した
「はい。これ!」
差し出されたメモを受け取り疑った顔をで中身を見るララだった。
「なによこれ…… ふーん。ロボイセの第五十三坑道でハンナを探せって……」
顔をあげたララはソーラを見て渋い顔で首をかしげた。
「ねえ!? なんなの? これ?」
ララに尋ねられたソーラはまた怪しくほほ笑み口を開く。
「次の目的地さ。ハンター協会に入りたいんだろ?」
「えっ!? もちろん! ヴァンパイアハンターとしてノウレッジを救うために来たんだから!」
力強くヴァンパイアハンターになりたいというララを見て、ソーラは小さくうなずき東の方角を指した。
「じゃあすぐに行った方が良いよ。ハンター協会の試験はもう始まっているからね」
「えっ!? わかった。ありがとう! えっと…… ソーラさん!」
「じゃあねぇ」
ララはソーラに礼を言うと慌てて駆け出して行ってしまった。路地に消える彼女に手を振ってソーラは見送った。
「元気が良いねぇ。ふふ。グレン達はいつもあんな子たちを相手にしてたのかな……」
「ナー!!」
寂しそうに空を見上げるソーラにナーが優しく鳴くのだった。
翌日…… ロボイセへと向かう魔導機動船の甲板のヘリに立ってララは景色を見つめていた。
「ふぅ…… もうすぐ着くわね」
川から見える草原を見ながら流れる景色が徐々に遅くなるのを見てうなずくララだった。彼女はモップを立てよりかかるようにして立っていた……
「おい! 新入り! 掃除をサボるな!」
「ひゃっひゃい!」
ララの背後からセーラ服を着た大柄の中年男性が怒鳴りつけて来た。ビクッと背筋を伸ばしたララは甲板にモップをかけ始めた。彼女を見て中年男性は腕を組んであきれた顔をする。
「まったく…… 金が足りねえから働くって泣きついたのを忘れるんじゃねえぞ」
「うぅ…… ごめんなさい」
返事をして必死にモップで床を掃除するララだった。彼女は両替を忘れ一ペルも持たない状態で船に乗ろうとした。本来なら置いて行かれるところだったが、作業を手伝うということで乗船を許可された。
魔導起動船がロボイセ近くのダグオン港へと停泊した。乗客がダグオン港から全て降りると最後にララが港へと立った。
「ロボイセ…… ここからはタダの馬車があるのよね…… あれ!?」
ダグオン港からは乗客用にロボイセまで乗せてくれる無料の馬車が出ている。文無し状態のララは馬車を利用しようとしていた。しかし、港に馬車はなくララは門に立って警備をしている神聖騎士にたずねる。
「ねぇ!? 馬車は? ロボイセに行きたいんだけど?」
「あぁ。もう出たぞ。今日はもう戻ってこないな」
「そっそんな!? なんで待ってくれなかったのよ!!」
置いて行かれたことに両手をあげ抗議するララだった。神聖騎士はやや驚いた様子で答える。
「えっ!? ちゃんと乗客が全員でるまでは待ってたぞ? 君はなぜ遅くに出て来たんだ?」
「うっ…… それは……」
気まずそうにうつむくララだった。無賃乗船のためララは乗客ではなかった彼女は、積荷の乗り降ろしが終わるまで下船できずに遅くなったのだ。
「もういいわ。歩いて行く」
首を横に振ったララは歩いて行くと言い出した。神聖騎士は目の前の道を指して口を開く。
「道沿いに行けばすり鉢状の山が見えてくる。そこがロボイセだ。稀に魔物が出るから気をつけてな」
「わかった。ありがとう」
右手をあげ神聖騎士に手を振ったララは道を歩きロボイセへと向かうのだった。
「はあはあ…… 何が稀に魔物よ…… それよりも…… 山道になるなんて聞いてないわよ!」
ロボイセは鉱山開発ですり鉢状に削られた山い出来た町である。外から行く場合は山の中腹まで行き、トンネルを通る必要がある。
「ここの向こうね。早く行かないと…… まずは両替だわ!」
魔石に灯りに照らされてトンネルを見つめるララだった。ララはトンネルを進んでいく。
「えっ!? これって…… なんでテントが……」
トンネルの途中に大きなテントがあり道の半分ほどを塞いでいた。ララはテントを物珍しいそうに見ながら前を通る。
「こんにちは」
いきなり声をかけられて驚いた顔をするララだった。テントの入り口にシスターが立っており通り過ぎようとしたララに声をかけたのだった。シスターはぱっちりとした赤い瞳の可愛らしい女性だった。彼女のベールの隙間から垂れる髪は茶色でサラサラしていた。
ララはシスターが立つテントの中をまじまじと見つめた。中はベンチと奥に祭壇があり横にはローブを着た恰幅の良い短い黒髪の中年の神父が立っている。神父は指に多数の指輪をつけ金色の首飾りをつでいる。
神父はララと目が合うとにやりと笑って頭をさげた。ララは慌てて視線を神父から外しシスターに尋ねる。
「ここは何なの?」
「出張教会ですよ。ロボイセに来る人や旅立つ人が滞在中や旅の安全を祈願できるようになっているんです」
笑顔でシスターはテントが何かの説明を始めた。ララは興味を持ったのか相槌をうちながら話を聞いていた。
「ロボイセに来る鉱石買い付けの商人さんは忙しい方が多いですからね。行き帰りの道中に教会があると助かると好評なんですよ。それに……」
「うん?」
シスターが暗い顔をうつむき不思議そうな顔をするララだった。
かつてゴールド司教が支配していた頃、このトンネル内でシスター達は体を売り暮らしていた。彼女の体を売り暮らしていたシスターの一人なのだろう。
「なっなんでもありません。あなたもお祈りを捧げていきませんか?」
「ごめんなさい。急ぐの! また今度ね!」
「そうですか……」
右手をあげ申し訳なそうにするララにシスターは少し寂しそうにうつむく。ララは町へ急ぐため早足でテントの教会を後にした。
しばらく歩いたララの頬をトンネルと照らす光以外のピンク色の光が照らす。目を大きく見開き腰に付けていた花形の石を持つララだった。石はピンク色に点滅していた。
「これは…… そう…… そういうことね。結構根深いかもね…… ノウレッジ……」
ララは点滅する石を見てつぶやいて歩いて行くのだった。




