第362話 グランドア防衛戦後編
ゆっくりとグレンの視界が広くなっていく。前で腹が裂かれて血を吹き出しトロールが後ろに倒れていく。頬についた返り血を手で拭いグレンは振り向いた。
「やっかいなのは片付けたぜ」
「はっはい……」
トロールを指してにやりと笑うグレンに呆然とするグレッグだった。トロールが倒れたことで戦況は一気にひっくり返ろうとしていた。だが……
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
城門の上で激しい声が響いた。紫の色の鎧に身を包んだ体色が赤いオークが城壁の上に立っていた。オークは右手に幅の広い剣を持ち、左手には首がない神聖騎士を引きずっていた。
「ジェネラルオーク!!」
声を聞いて顔をあげたグレッグが叫んだ。彼の言葉に周囲の冒険者達が騒然とする。
「にっ逃げないと! あいつにはもう何人も冒険者が……」
グレッグはグレンに向かって逃げようと提案する。グレンは余裕の表情でオークを見つめていた。
「任せておけ俺が片付けて…… うん!? あっもう終わった……」
「へっ!?」
首を振ってグレンが残念そうにつぶやいた。グレッグがグレンの言葉の意味がわからずおかしな声をあげた。
「ウガアアアアアアアアアアアア!!!!」
ジェネラルオークが激しい声をあげた。冒険者とオークの視線がジェネラルオークへと向かった。城壁の階段へと向かうジェネラルオークの目の前に、大剣を抜いたクレアがゆっくりと下りて来ていた。
下りて来るクレアは優しくほほ笑み大剣を横に構えていた。
「えっ!? クレアさん!?」
グレッグがクレアに気づいた声をあげた。グレンは苦い顔で下りて来るクレアを見つめていた。
「ウガアアアアアアアアアアアア!!!!」
クレアが城壁に着地すると神聖騎士から手をはなし、ジェネラルオークは両手で剣を持って大きく振り上げた。クレアはジェネラルオークを黙って見つめ動かないでいた。
「クレアさん! 逃げ…… はっ!?」
ジェネラルオークの剣がクレアに向かって振り下された。しかし、ジェネラルオークの剣よりはるかに速く横からクレアの大剣が飛んで来た。大剣はジェネラルオークの腕を吹き飛ばし顔へと飛んで行く。
「プギャ!!!!!!」
声をあげるジェネラルオークだった。クレアの大剣はジェネラルオークの両腕を顔を吹き飛ばした。剣を振り抜いた姿勢で、クレアは腕と顔の半分を失った姿勢になったジェネラルオークに優しく声をかける。
「おいたはいけませんよ。オークちゃん…… もう注意する意味はないですけどね…… ふぅ」
クレアは口をすぼめジェネラルオークに静かに息を吹きかける。息を吹きかけられたジェネラルオークのバランスが崩れ城壁から落下しグシャっという音を立てた。
「みんな! いまだ!! オークどもを駆逐しな!!」
「そっそうだ! いけ!!!」
マルティナが声をあげグレッグが続く。冒険者たちは奮い立ち残ったオークに襲い掛かった。トロール二匹にジェネラルオークを失ったオークの軍団は総崩れになり、グランドアの冒険者と神聖騎士に駆逐された。
生き残ったわずか数匹のオーク達の逃げていく姿を城門からマルティナが見つめている。うなずいた彼女は振り返り槍を背中に戻し町の中へ入る。
「すげえな! あんたたち!」
「あぁ。助かったぜ!」
「あんたたち駅前通りの薬屋だよな? どうなってんだよ」
門の中で冒険者と神聖騎士に囲まれ声をかけられている、グレンとクレアの前にマルティナがやって来た。二人を見ながらマルティナは笑った。
「さすが…… グレンとクレアだね。腕は落ちてないね」
「あっ! マルティナさん! お久しぶりです」
「そうか…… ここの担当だったよな」
グレンとクレアがマルティナに右手をあげ挨拶し声をかける。マルティナと二人は以前テオドールで仕事をしたことがあり顔見知りだ。
「こんなことならさっさと声をかけておくんだったよ」
周囲に転がるオークの死体と破壊された門を、厳しい表情で見つめるマルティナだった。
「でも高いぜ。もう職員じゃなくて《《元職員》》だからな」
「えぇ。特別料金ですね」
「ははっ。そうだね」
豪快に笑うマルティナだった。グレッグは親し気に会話するグレン達を不思議な顔で見つめていた。彼はマルティナに声をかける。
「マルティナ姐さん…… 二人と知り合いなんですか?」
「えっ!? おいおい。あんたら気づいてないのかい?」
「へっ!?」
あきれた顔をするマルティナにグレッグは意味が分からず驚きの声をあげる。周囲の人間も首をかしげている。マルティナはグレンとクレアを手さして口を開く。
「二人は元テオドール冒険者支援課のグレンとクレア…… あんたらのほとんどは一回は世話になっただろ?」
「あっ!!!」
クレアとグレンを見てハッとするグレッグだった。ちなみにグレッグはノウレッジに来た際にクレアに冒険者ギルドまで案内されていた。
グレッグと同じように冒険者達がグレンとクレアを見てハッとする。一人がどんな状況で二人に支援されたか話し出すと次々に冒険者達が話し出す。騒がしくなる二人の周囲から二つの人影がひっそりと離れようとしていた。
「おっと! 待ちな!!」
男女の冒険者の前に素早くグレンが回り込んで両手を広げた。二人は冒険者達の輪から静かに離れていたまるで逃げるように……
「なっなんだよ!? お前は!」
「そうですよ! もう討伐は終わったでしょ! 帰らせてよ!」
グレンに食って掛かる男女の冒険者だった。男は鉄の鎧に身を包み背中に大剣を背負い、短い茶色の髪で左頬に魔物につけられた爪の傷がある。女性は薄い水色の長い髪に丸い青い瞳をもち鼻がやや低いかわいらしい女性でベルトの腰に矢筒と短剣があり背中に弓を背負っている。
二人を冷たい目で見つめながらグレンが口を開く。
「お前ら…… ノーリスとイーサだな? いま町を襲撃したオーク集団の討伐に失敗したの黙ってただろ?」
「うっ……」
男性の冒険者はノーリス、女性はイーサという。二人はコンビで仕事をこなしている冒険者デュオだ。二人はグレンの言葉にハッとした後にノーリスが口を開く。
「しっ失敗してない! あんな大きな集団だなんて聞いてなかった! それにお前は元職員だろ! 関係ねえじゃねえか! どけよ」
「そうよ! トロールまで一緒に居たのよ! だから私達だけじゃ対応できないから引き上げて…… 仲間を募ろうとしただけよ! それが間に合わなかっただけなの!!」
ノーリスとイーサが必死に話している。少し前に二人はオークの討伐依頼を受けた。当初は十人程度の集団だったが、二人は簡単な討伐だと侮り仕事を後回しにしていた。後回しに十日程度だったが、オークは他地域から流れていた集団に吸収され、二百人を超える集団に変わっていた。二人は討伐を諦め自分達の怠慢をごまかすため仕事を放棄しようとしていた。放棄する前にオークが町を襲ったのだ。
「そりゃあ本当かい? なら…… あんたらの報告義務違反だよ」
「「うっ……」」
グレンと追いかけて来たマルティナは話を聞いて口を挟んだ。彼女の横にいたクレアが小さくうなずいた。
「冒険者依頼内容が変化した場合、速やかにギルドへ報告し指示を仰ぐ必要がありますね」
「あぁ…… いつも教えているんだけどね……」
腕を組んで大きくマルティナは息を吐いた。ノーリスの肩に手をあて背の高い彼女は腰を曲げて顔をジッと見る。
「どうして? 報告しなかったんだい? そうすればこの町が破壊されることはなかったんだよ」
「そっそれは…… 俺達が失敗したなんて……」
「私達はもうすぐに聖都へ向かうの…… 一流を目指すのに…… 仕事を失敗したなんて…… 言えない……」
大きな音が城門前に響きグレンとクレアがしゃがんだ。二人の上を二つの影が勢いよく飛んで行った。
「「ぶは!!!」」
地面に叩きつけられたノーリスとイーサが声をあげ地面を転がっていった。
「グレッグ! 捕まえな」
「へい!! お前ら! 手伝え!」
マルティナの号令でグレッグがノーリスとイーサを縛り上げ、他の冒険者達も彼を手伝う。拘束された二人はひったてられる。
ノーリスとイーサはマルティナの横を通る時に彼女を睨みつけた。
「冒険者に暴力なんて…… 訴えてやる……」
「そうよ覚悟しておきなさい」
「黙れ!」
グレッグが二人に黙るように言った。マルティナは腕を組んで大きく鼻で息をする。
「ふん。勝手にしなよ」
「なによ! 後で後悔するわよ」
「あぁ。お前はこの大陸から排除されるさ!」
マルティナに向かて叫ぶノーリスとイーサだった。グレンが拳に力を込めると同時にグレッグがノーリスの胸倉をつかんだ。
「おい! さっきから言いたい放題いいやがってクソ野郎ども!!! ここは俺達の町だ! 出て行くのは勝手だがな! 壊して良い場所じゃねえんだよ!!」
グレッグがノーリスとイーサを怒鳴りつけた。二人は彼を不服そうに彼を睨むとうつむいていたのだった。二人は連行されグランドアの長い夜が明けるのだった。




