第361話 グランドア防衛戦前編
グランドアの東門。石と木で組まれた頑丈な門に冒険者と神聖騎士が集合していた。
閂がされ閉ざされた幅十メートル高さ五メートルの大きな門の前に、一人の女性が歩いてい来る。彼女は冒険者ギルドの制服に槍を背負い腰には剣をさしておる。彼女は身長が高く長い茶色の髪を後ろにまとめ、目はピンク色の瞳で鋭く鼻は高く顎は鋭い。ギルドの制服で職員と分かるが凛とした佇まいの彼女は職員というより、熟練の冒険者や強者といった感じだった。
「よーし。集合しな」
手を上げた女性の元に二十人ほどの冒険者たちが集合する。
先頭に居た鉄の胸当てに厚手の革の帽子を被った男性の中年冒険者が声をかける。彼は口ひげを生やした目が垂れた黒目で腰には短剣に丸い盾と戦斧を背負っている。
「マルティナ姐さん。集合しました」
「ありがとう。グレッグ」
男性冒険者に女性がうなずく。彼女はマルティナという冒険者ギルドの受付嬢で、声をかけた冒険者はグレッグでライリーの父親である。グレッグはグランドアでずっと冒険者を続け家も購入しているクラスはB1のベテラン冒険者である。
マルティナは背筋を伸ばして冒険者達の前に立った。
「みんな聞いてるね? 二百匹のオークがここに迫っている」
右手の親指で扉を指して話すマルティナだった。次にマルティナは右手を戻し人さし指で地面を指す。
「あたしらの担当はここ。門が突破された場合に町にオークどもを入れないようにする。わかったかい?」
「へい!!」
威勢よく返事をするグレッグ、他の冒険者は緊張した面持ちでうなずいた。彼らの後ろで二人の男女の冒険者が顔を青ざめさせていた。
「二百……」
不安そうに冒険者の一人がつぶやく。マルティナは視線を後ろに向け自分を指した。
「まぁグランドドアの城門は強固だし簡単には突破されないさ。それに万一があってもあたしが片付けやるよ」
「ははっ。マルティナ姐さんは受付嬢辞めて冒険者になった方が良いな。なぁ? お前ら?」
「うるさいよ。グレッグ」
笑うグレッグを睨むマルティナだった。二人の様子に緊張していた冒険者の表情が緩む。
「来たぞ!」
壁の上に居る神聖騎士が声をあげ弓やクロスボウを構えた。城門の外にはオークの軍団が迫って来ていた。オークの悲鳴と神聖騎士たちの怒号がグレッグたちに聞こえる。
振り向いて閉ざされた城門を見上げながらマルティナは黙って戦況を見つめていた。
「なんだ。あれは…… トロールだと!?」
「クソ!! オークがトロールを使役してたんだ!」
城門でオーク達を防いでいた神聖騎士達が声をあげた。声が聞こえたマルティナの眉がわずかに動き背中の槍に手をかけた。
「みんな! 来るよ! 武器を取りな!!」
振り向いてマルティナが叫ぶ。直後に城門が勢いよく倒れて砂埃が上がった。城門の向こうには二体のトロールが立っていた。トロールは人型の魔物で、黄土色の皮膚に頭髪はなく目はギョロリとして鼻は平たく横に広く耳が尖り大きな口からは牙が覗く。身長は五メートルを超え腹が出て横にも縦にも大きく腕と足は太く足は短い。現れたトロールは胸から膝まで被れるワンピースのような革の服を着て手には丸太を持っている。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
トロールの脇からオークがなだれ込んでくる。トロールは頭をぶつけないように城門に手をかけ、ゆっくりと頭をさげ町の中へ入ってくる。
城門を破られ冒険者達は驚き呆然としていた。マルティナは真顔で槍を構えと一気に駆け出し先頭のオークの喉元に槍を突き出した。
「はああああああああああああああああ!!!」
「うぎゃあああああああ!!!」
鋭く伸びたマルティナの槍がオークの首を貫いた。彼女は力任せに横に槍を振り抜くとオークが飛びぬけ数人を巻き込んで倒した。マルティナの攻撃にオークの足が一瞬止まった。
「ぼさっとするんじゃないよ!」
「へい! お前ら! 出番だぞ!!!」
グレッグはうなずいて背負った盾と戦斧を取って前に出して構えるのだった。オークと冒険者たちの戦いが始まった。
「オリャアアアアアアアアアアア!!!」
オークの剣を盾で受け止め横から戦斧で切り付けたグレッグだった。オークは腹から血を流し倒れる。戦うグレッグの前に居たマルティナが声を叫ぶ。
「グレッグ!!! 後ろ!!!」
「えっ!? うわああああああああああああああああああ!!!!」
振り向いたグレッグの前にトロールが立っていた。トロールは丸太をグレッグに向かって叩きつけてきた。真っ黒に影に覆われたグレッグに丸太が勢いよく向かって来る。
もう避けることは出来ずにグレッグは目をつむった。激しい音がして地面がわずかに揺れる。しかし、グレッグに衝撃はなく彼は立ったままだった。彼はゆっくりと目を開ける。
「えっ!? あなたは……」
目を開けたグレッグの前にはグレンが剣を横に振り抜いた姿勢で待っていた。丸太は真っ二つに斬られ空中に浮かんでいた。グレンを見たグレッグは目を見開き驚いて声を震わせる。
「グッグレンさん……」
「ふう。間に合ったな」
小さく息を吐いてグレンが振り向いてグレッグに声をかけた。
「どっどうして…… ここに?」
「あぁ。あんたの息子が知らせてくれたんだ」
「ラッライリーが…… まっすぐ教会に行けって言ったのに……」
うなずいて笑うグレンに首を振りグレッグはどこか嬉しそうにつぶやくのだった。グレッグの様子にほほ笑んだグレンは前を向く。
「まぁ話は後だ…… すぐに片付けるからな」
「えっ!?」
「ほい!!」
グレンは左手を横に動かす。浮かんでいた丸太がグレンの左手の動きに呼応する。彼の左手の前に丸太が来るとグレンは左腕を開くようにして手を横に動かした。
「ぶほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
トロールの横面に丸太が飛んで行き直撃した。強く殴られたように顔に丸がめり込み、顔を横に向けトロールの足元がふらつく。トロールは横に倒れた大きな音が響いた。
「大丈夫か?」
「はっはい…… ありがとうございます」
「いや…… まだだ」
「えっ!?」
グレンは獣化全解放を使う。彼の目が赤く光り毛のような先がなびくオーラを纏い体が巨大化する。彼は手袋から素早くシャイニーアンバーを外しムーンライトの鍔に取り付け月樹大剣へと変形させた。
「ぶほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
もう一匹のトロールがグレンに向かって走って来た。両手で持った丸太を大きく振りかぶりトロールはグレンに向かって勢いよく振り下ろす。大きな音がして砂埃が舞い上がった。
「グレンさん!!!!」
城門の前にグレッグの声が響いた。グレンが居た場所に丸太が振り下ろされていた。悔しそうにグレッグは顔を背けた。
「ぶっぶほ!? ぶほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
トロールの声がした。砂埃がおさまると右肩に大剣をかついだグレンが左手で軽々と丸太を持って支えていた。
「ほっ!」
「ぶほおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
グレンは左手で押し上げた。丸太を押し返されたトロールは丸太を持って後ずさりし両腕を上げたような姿勢になった。にやりと笑ったグレンは飛び上がった。
「はああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「ぶほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
飛んで距離を詰めたグレンはがら空きになったトロールの腹の前へ来た。彼は右手に持った大剣に力を込め横からほぼ水平にトロールの腹を斬りつけた。トロールの腹が横に裂け血がふきだすのだった。




