第360話 出番です
「ただいまー! あら賑やかですねぇ」
扉が開いてクレアが帰って来た。彼女の背中に大剣はなく買い物をして来たのか、手には長いパンが突き出て丸いオレンジが入った袋を持っていた。
クレアを見たグレンは嬉しそうに笑い目の前で自分をくすぐる姉の額に手を当て押しのけた。
「お帰り! 客…… じゃねえ。レイナ姉ちゃんが来たんだ」
「なによ! もう…… プクーー」
額を弟に押されレイナは不満げに頬を膨らませた。彼女は横で無防備に脇腹をさらす弟ににやりと笑った。
「うわ!?」
「えへへ。こんにちはクレアちゃん!」
「クソ」
クレアに挨拶を振りしてグレンの脇腹をつついたレイナだった。グレンが飛びのくように驚き、レイナはほほ笑んでクレアに挨拶をする。姉弟のじゃれ合いを見てクレアは優しくほほ笑む。
「ふふ。レイナさん! またこちらに来ているんですか」
「うん。そうなの」
嬉しそうに大きくうなずくレイナだった。彼女はクレアにさらに話しかける。
「ビックリしたよー。テオドールに行ったら二人は冒険者ギルドに居ないって言われたんだよ」
「ふふふ。すみません。お店を開くの忙しくて連絡できなくて」
「いいのよ。気にしないで! 次はここだね。これからも頻繁にノウレッジに来ることになるからね」
レイナは今後もノウレッジに通うことを告げる。嬉しそうにクレアだがグレンは顔をしかめた。
「げっ!?」
「なに!? 文句あるの?」
ムッとした顔でレイナはグレンを睨む。グレンは気まずそうに頭に手を置いて答える。
「ねえよ…… 最初に上陸した時から覚悟してたから」
「なんか嫌な言い方!」
不服そうにするレイナにグレンは顔を背け、すぐにごまかすように話をする。
「そういやレイナ姉ちゃん。今日の宿は?」
「まだ決めてない。これから」
「じゃあ泊まって行ってください」
「いいの?」
驚きレイナは期待した表情でグレンの顔を見た。グレンはゆっくりとうなずく。
「あぁ。ここは俺達の家だからな。遠慮しなくていい」
「えぇ。レイナさんならいつでも歓迎ですよ」
「わーい。ありがとう」
嬉しそうに両手をあげるレイナだった。クレアはレイナにほほ笑み、袋を抱えてカウンターへ近づく。近づいて来たクレアから香ばしい匂いが漂って来る。匂いに気づいたレイナが反応する。
「うん…… なんかいい匂いがする」
「これは…… クレア義姉ちゃん今日の夕飯はもしかして?」
鼻でクンクンと息をする姉弟、匂いを嗅いだグレンは顔を輝かせた。
「はい。今日はホロンロ鳥のスコッチエッグですよ」
「おぉ」
「わーい」
「じゃあすぐに準備しますね」
顔を見合わせて嬉しそうにグレンとレイナは笑う。二人を見てクレアは優しくほほ笑んでカウンターの奥の扉を開け中へはいった。しかし、すぐに扉が開いてクレアが顔をだす。
「グレン君…… ちょっと」
「うん!?」
カウンターの奥でクレアはグレンを手招きして呼んだ。グレンはクレアの元に近づく。小声でグレンとクレアは話を始める。
「有望な…… もうすぐ来る……」
「わかった」
「それと…… ちょっと気になることが……」
「えぇ!? 面倒な…… まぁいい。準備しておくか……」
クレアはゆっくりとうなずいて家の奥へと行き。話を終えたグレンはカウンターに戻って来た。立って店内を見渡していたレイナはグレンが戻って来ると口を開く。
「なに!? お姉ちゃんに内緒の話?」
「あぁ。仕事の話だ」
「ふーん。ねぇ? 店の中を見て良い?」
「あぁ。かまわないよ」
ほほ笑んだレイナは軽い足取りで商品が並ぶ棚へ向かう。一つ一つ弟の仕事を確かめるようにレイナは棚を見ながら歩く。
「こんなに…… 吸血症の血清が…… そういえば需要があるって言ってたわね……」
グレンが血清の瓶を取った棚の前で彼女は足を止めた。そこにはずらりと吸血症の血清が入った瓶が並んでいた。
瓶を一つ取ってレイナはグレンに顔を向けた。
「ねえ!? グレン君。血清をこんなにどうやって作っているの?」
「あぁ。ガーラム修道院で捕虜にした吸血鬼の毒を牛に与えて…… 血を抜いて……」
「えぇ!? そんなのお牛さん可哀想でしょ!」
牛を利用して血清を作るというグレンにレイナは可哀そうだと訴える。グレンは彼女がそういう反応すると分かっていたようにうなずいて答える。
「大丈夫だ。ソーラに金払って通訳してもらって牛から了承をもらっているからな。それにしっかりとした良い厩舎と牧草をやっているしな。汽車から牧場が見えたろ?」
「へぇ…… ならいいの? まぁいいか……」
自分に問いかけ自分で答えるレイナだった。その後、三人は夕食を取り眠りにつくのだった。グレンの店は店舗とキッチンとダイニングがあり二階は寝室が二つに居間がある。レイナに一つ寝室を貸しグレンとクレアは同じ部屋で就寝していた。
深夜…… 外が激しい物音がしてグレンとクレアが目を覚ました。
「来ましたね……」
「あぁ。ふう…… 面倒だな。まぁいい」
「はい。準備しましょう」
グレンとクレアは起き上がり着替え始めた。町の外から人の声が聞こえ騒然としている。
「じゃあ俺は下に居るからレイナ姉ちゃんを起こしてくれ」
「わかりました」
着替えたグレンは部屋から出て一階へ。クレアは部屋を出て居間へからレイナを起こすため寝室に向かう。グレンは一階に下りて店に来た。直後に鐘の音が響き店の扉が激しく叩かれ少年の声がした。
「開けて! グレン先生!」
「ライリーか…… いま開ける!」
扉を叩いていたのはライリーだった。グレンは彼に返事をして扉を開けた。扉の向こうには目に涙をためたライリーが立っていた。彼の後ろには赤ん坊を抱えた中年女性が立っている。女性と赤ん坊はライリーの母と妹だ。赤ん坊は激しく泣きライリーの母親が必死にあやしている。ライリーの母親の表情は暗く不安に満ちている。
「どうした?」
「おっオークの襲撃して来たの! いま父ちゃんたちが呼び出されて東門に…… 僕は教会に避難しろって言われて…… グレン先生たちにも知らせなきゃって……」
「そうか。ありがとう。えらいぞ」
身をかがめてグレンはライリーの頭を撫でた。ライリーは泣きそうな顔で震えている。
「クレア義姉ちゃん! 来てくれ」
振り向いてグレンはクレアを呼んだ。レイナを連れてクレアが下りて来る。
「町の外にオークが来ている」
「えぇ!?」
驚くレイナにクレアは小さくうなずくとカウンターの下に潜り込んですぐに出て来る。
「はい。グレン君!」
「よっと!」
カウンターの下からクレアはグレンの剣ムーンライトを出して彼に投げて渡す。グレンは剣を受け取り慣れた様子で腰にさした。次にクレアは壁際の棚の後ろから大剣エフォールを出して背負う。
「えっ!? グレン先生…… クレアお姉ちゃん…… 何を?」
武器を用意するグレンとクレアにライリーは驚いた。グレンはライリーの前にしゃがんで彼の肩に手を置いて声をかける。
「俺達が…… 父ちゃんを助けてやるからな……」
「でっでも」
「大丈夫だ。任せておけ。ちゃんと教会に避難して母ちゃんと妹を守るんだぞ」
「うっうん……」
返事をしたライリーを優しく撫でるグレンだった。立ち上がり振り向いたグレンはレイナに口を開く。
「レイナ姉ちゃんはライリー達を教会に連れて行ってくれ」
「任せて! グレン君たちも気をつけて!」
「あぁ。行くぞ。クレア義姉ねちゃん!」
「はーい」
グレンとクレアは店から出ると地面を蹴って空高く舞い上がる。店から出たグレンをクレアを見上げる呆然とするライリーだった。
「とっ飛んだ…… グレン先生が……」
「大丈夫だよ。グレン先生とクレアちゃんはすごく強いんだから!」
レイナはライリーの横へ来て二人を見つめ笑顔で話す。その表情は自信に満ちていた。




