第36話 大事な弟のために
「おりゃああああああああああああああああああああああ!!!」
声をあげ気合を入れグレンは腕を勢いよく振りぬき、バリケードを白銀兵団へと向かって投げた。
投げられたバリケードは回転しながら上空へと飛んでいき、放物線を描いて突っ込んでくる白銀兵団に向かって落ちていった。
「「「「「プギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」」」」」
大きな音がしてグレンの百メートルくらい前で、砂埃が舞い叩きつけられたバリケードが十数人の白銀兵を押しつぶしていた。
「グワバ!」
指揮官らしき白銀兵がグレンを指さして叫んでいる。ゴブリンやオークや人間の弓兵達が前に出て矢をつがえる。
「ほらよ。まだまだあるからな。全部くれてやるよ!」
グレンは横に動きながら、次々にバリケードを掴み両手に持つと向かって来る白銀兵団へと向けて飛ばしていく。二個目、三個目と連続で白銀兵団にバリケードは叩きつけられた。飛んできたバリケードにより、白銀兵団は隊列を崩されて動きが止まる。手をゆるめずにグレンは城壁前に築いた、十数個のバリケードを全て白銀兵団へ向けて飛ばした。
数分後、グレンの前方はバリケードが舞い上げた、砂埃で見えなくなっている。
「よし」
小さくうなずいたグレンは、前に向かって静かに歩き出した。
舞い上がった砂埃が落ち着き状況が見えてくる、十数個のバリケードによって数百人はいた白銀兵団の約半分が押しつぶされたいた。
「「「「「グワアアアアア!!!!!」」」」」
複数の叫び声と足音がグレンの耳に届く。死体とバリケードを乗り越えて、皮膚が銀色へとへ変貌したゴブリンの白銀兵五匹がグレンに飛びかかって来た。
「邪魔するな。忙しいんだよ!」
左手を前に突き出したグレン、左手首にあるフェアリーアンバーがわずかに白く光った。彼が投げ壊れた、バリケードの丸太が浮かび上がって猛スピードで戻って来た。
「グワバ!!」
丸太は最後尾にいたゴブリンにぶつかって吹き飛ばし、グレンの左手へとおさまる。彼は足で踏ん張って腰をひねりながら飛びかかってきた白銀兵に向けて左手に持った丸太を横に大きく振りぬいた。
左から順番に二回ほど鈍い音が聞こえ、グレンに左手に手応えが伝わる。
グレンが降りぬいた丸太は横から白銀兵へと叩きこまれた。白銀兵に丸太によって体がくの字に曲がり、何かが折れる音とつぶれる音が混じった奇妙な音がグレンの耳に届いた。そのままグレンは腕を振りぬいた、丸太にめり込むようになっていた白銀兵が勢いよく飛んで地面に叩きつけられた。
視線を動かしたグレン、左側から白銀兵が飛びかかって来るのが見えた。グレンは右足を引き膝を少し曲げ左腕の肘を曲げ丸太を体に巻き付けるようにする。
「おりゃあああああああ!!」
腕を戻すようにして左腕を振り上げた、グレンは左から迫ってくる白銀兵に丸太を叩きつけた。グレンが持つ丸太は白銀兵の腹へと叩きつけられれ吹き飛んだ。白銀兵は回転しながらグレンの左斜め前二メートル先あたりの地面に叩きつけられグシャッという卵が割れるようながした。グレンは素早く左腕を戻し肘を曲げ丸太を引く。
「はっ!」
左腕を伸ばし正面に丸太を突き出したグレン、丸太は前から来ていたゴブリンのような白銀兵の額にぶつかった。激しい音がして白銀兵はのけぞりそのまま地面に倒れた。
倒れたグレンは銀色のゴブリンのような白銀兵を見下ろす。
「なめるなよ。色が変わったくらいでゴブリンごときに負けるかよ」
膝を曲げ右足を大きく上げたグレンは、そのまま白銀兵の頭を踏みつけた。鈍い音がしてゴブリンの頭は地面に落としたトマトのように破裂し中身を地面にぶちまけていた。
視線を右に動かすグレンに最後尾にいて飛んで来た丸に吹き飛ばされた、白銀兵が体勢を立て直し手に小型の剣を持って飛び掛かって来る姿が見えた。
「フン!!!」
「ぎゃ!!!!!!!!!!!!!!!!」
グレンはタイミングを合わせ飛び掛かって来た、白銀兵へと右腕を伸ばした。長く太い腕があっという間に白銀兵の頭へ伸びた。グレンはそのまま白銀兵の頭をわしづかみした振り上げた。
白銀兵は必死に抵抗し手に持った小型の剣で、グレンの手や腕を斬りつけるが太く硬い彼の腕に傷一つつけることはできなかった。
「プギャ!!!!!!!!!!!!!!!!」
少し下がったグレンは地面に白銀兵を投げ落とした。落ちた白銀兵は地面にあった頭をつぶされた死体と折り重なるようなった。グレンは黙って両手で丸太を持って振りかぶり前に出る。落ちた白銀兵はまだ息があり必死に起き上がろうともがいていた。
しかし、白銀兵を大きな影が覆った。白銀兵は静かに振り返った。
「グ!? グギギギギ」
振り返った白銀兵に丸太を振りかぶったグレンが見えた。白銀兵は悲鳴のような怯えた声をだしている。グレンは無表情で、白銀兵を見つめながら静かに棒を白銀兵へと振り下ろした。
グシャというつぶれる音とバキバキという何か折れる音が重なった。白銀兵の頭をグレンの棒が叩きつぶしたのだ。声を出す間もなく白銀兵は動かなくなり、頭をつぶされ両手を両足を広げた状態でうつ伏せに倒れていた。
顔を上げて残った白銀兵をにらみつけるグレン。残りは百匹ほどの白銀兵が遠巻きに彼を見つめていた。
「「「「グギギギーーーー!」」」」
叫びながら白銀兵達は振り向いて逃げ出した。グレンに背中を向けて平原を駆けていく。
「引き上げた…… いや……」
グレンは逃げる白銀兵団の動きを見て左足で地面を蹴った。彼の体は魔法で浮かび上がっていく。丸太を投げ捨てたグレンは上空から逃げた白銀兵団を目で追う。
白銀兵達は来た道を戻るのではなく、大きく回り込みながら東方向へと走っていくのが見えた。
「東門の部隊と合流する気か…… そうはさせ…… いや…… そうだな。ふふ」
ニヤリと笑ってグレンは白銀兵の後を追いかけて飛びながら、左手首のアンバーグローブへと手を伸ばすのだった。
南門に白銀兵団が現れる少し前。東門を守るクレア達に二万近い白銀兵団が迫っていた。白銀兵達は組織された、本物軍隊のように一糸乱れぬ隊列を組み、どこで作ったのか銀の投石機や攻城櫓を引いている。
「うわぁ。たくさんいますねぇ。敵の本隊がこっちに来ちゃいましたね」
城門の櫓から迫ってくる、白銀兵団を見つめ口を開いたクレア。彼女は落ち着いた表情をして平然としているようだ。
まるでここに白銀兵団の本隊が来ると分かっていたかのような……
「私! グレンさんのところに行って兵士をこっちにまわしてもらいます」
クレアの横にいたエリィが、グレンに連絡をしようと走り出そうとした。クレアはエリィの肩に手を伸ばして彼女を止めた。
「ダメですよ。ここに居てください」
首を横に振ってクレアはエリィにとどまるように指示をした。
「ふん。あんたどうせこっちに本隊が来るってわかってたでしょ」
「そっそんなことないですよ」
クレアのすぐ後ろで腕を組んだメルダが不満そうにしてる。振り向いて慌ててクレアは否定する。慌ててるクレアを見てメルダが笑った。
「はぁ。嘘が下手ね…… 私なら大事な兄弟に一番戦闘が激しくなりそうな南門を任せないわ」
「うふふ。それは私がグレン君を信頼してるからですよ」
首を横に振って呆れた顔をするメルダだった。
メルダとクレアの側に立っていたエリィが首をかしてげていた。エリィは二人の距離が、いつの間にか縮まっているように感じて不思議に思ったのだ。
クレアは背負った大剣に手をかけ白銀兵団に視線をむけた
「メルダさん、エリィさん。こっちに少し白銀兵さん達が来ちゃうと思うのでその処理を頼みますね。後、敵の攻撃には気をつけてください。白銀兵へと変わってしまうかも知れません」
ニコッと微笑み、エリィとメルダに指示をだしたクレアは左足で床を蹴った。彼女の体は浮かび上がっていく。
「えっ!? クレア!? 何を!?」
驚いて声をあげるメルダにクレアはニコッと笑って白銀兵団を指さした。
「敵陣に私が切り込んで出来る限り数を減らします! じゃあ行ってきます」
左手を上げるとクレアは、猛スピードで白銀兵団へと向かって飛んでいった。
「クレア…… やっぱりあんた…… どうしてこうもここの人達は馬鹿ばっかりなのかしらね…… フフフ」
ぶつぶつとつぶやきながらうつむいて笑うメルダ、エリィは心配そうに彼女を見つめていた。顔を急にあげたメルダはエリィに向かって口をひらく。
「エリィ! あんたに左の指揮は任せるわ。白銀兵を城壁に近づけないようにしなさい」
「えっ!? はい!」
返事をしたエリィは城壁の左側へと走っていった。飛んでいるクレアに向かって、数百を超える矢が飛んでくるが彼女は矢の間を縫うように飛んで全てかわしていく。
クレアはあっという間に白銀兵団の先頭の前に姿を表す。地面から数十センチ浮かんだ状態で白銀兵団の前に立ったクレアは右手を剣に手をかけて笑う。
「ぐわぁ!?」
姿を現したクレアに向かって白銀兵が武器を突き出した。だが、体を浮かせ急上昇したクレア、白銀兵達の攻撃は空振りしバランスを崩し倒れる者もいて隊列が乱れた。
瞬時に矢が届かない上空まで浮かび上がったクレアは、背中から大剣を抜いて剣先を天に向ける。
「主よ…… 何時に逆らう咎人を清め払いたまえ! ホーリーレイン!」
天に向かって大剣から白い光が伸びていく。直後に晴れていた空から数百の白い光が白銀兵団へと降り注ぐ。
降り注いだ数百の光が白銀兵や攻城櫓や投石機などを次々に貫いていく。
「「「「「「「「「「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」」」」」」」」
白銀兵の叫び声が聞こえ攻城櫓や投石機からは火の手が上がる。白銀兵団の前方の隊列が乱れる。その様子を見たクレアは満足そうにうなずく。
「さて…… 悪い子たちはお姉ちゃんがお仕置きしてあげますか…… はああああああ!」
右手に大剣を持ったまま、両腕を開いて気合をいれるクレア。彼女の両手が同時に白く光りだした。
クレアは体の前に両手をもっていき両手で大剣を持った。両手から光が大剣に沿って伸びていく。彼女が持つ大剣の切っ先で光が止まった。左手を一度力強く握ったクレア、彼女は左手を大剣をはなしゆっくりと両腕を開いた。腕の動きに合わせて白い光は、クレアの大剣から離れていく。クレアが両腕を開くと彼女の右手にはエフォール、左手には白い光の大剣が握られていた。
「行きますよ。お仕置き開始です!」
大剣を二本かまえた、クレアが白銀兵団へ向かって急降下していくのだった。