第358話 ハンター協会を目指す少女
湾に一隻の大型船が入って来る。甲板で薄いリュックに肩掛けの鞄をしたレイナが、へりから上半身をななめにして視線を船首へと向けて笑った。
「ふふふ。グレン君に内緒で来ちゃった…… 驚くかなぁ……」
レイナの視線の先にはテオドールの街並みが映っている。仕事を終え帰国した、レイナは三ヶ月ぶりにノウレッジへと戻って来たのだった。
「しっかし…… 高速船は早いねぇ。一週間で着いちゃった。でも高いから帰りは普通便にしようっと……」
目前へと迫るテオドールの街並みを見ながらつぶやくのだった。少ししてレイナが乗った船が桟橋へと着岸し船員が鐘を鳴らして知らせるのだった。
「再上陸!! っと」
タラップから桟橋に飛ぶようにして着地するレイナだった。彼女は足取り軽く慣れた様子で港の入り口へと歩いてきた。
「えっと!? グレン君はさすがにもうお昼過ぎだから…… 居ないか……」
港の入り口を見渡して残念そうにつぶやくレイナだった。
最初にテオドールを訪れた時に、弟と再会した場所でレイナは同じように再会出来たらと少しだけ期待していた。
彼女は一人で冒険者ギルドへと向かうのだった。冒険者ギルドに着くとレイナは扉を開け中へ入る。少し前に定期船の人間を連れ来たのか、カウンターに新規登録の冒険者達が並び列をなしていた。
列の後方で冒険者達を見つめるミレイユにレイナは気づいて彼女に声をかける。
「ミレイユちゃん。こんにちは」
振り向くミレイユはレイナを見て驚いた様子で目を少し大きく開く。
「レッレイナさん!? またノウレッジにいらしてたんですね」
「うん。ここで仕入れた薬が好調でね。すぐ戻ってくることになったの!」
大きくうなずいたレイナは話を続ける。
「仕入の拡大と販路をもっと強固にしようと思ってね…… あっ!!!」
今回ノウレッジに来た理由を話している途中でレイナは何かを見つけて声をあげた。
「ニャーン!」
「猫ちゃん? どうしたの? この間はいなかったよね」
冒険者支援課へと続く階段で白く体に耳と尻尾が薄茶色の猫が寝ていた。レイナは猫に近づき優しく撫で振り向いてミレイユに尋ねる。
「ソーラが拾って来たんですよ…… 少しの間置いてくれって……」
「へぇ。よかったねぇ」
笑顔で猫を撫でていたレイナは今日ここに来た目的を思い出しハッとする。
「あっ!! そうだ! グレン君は不在ですか?」
「えっ!? あっ…… それは……」
笑顔で周囲を見ながらレイナはミレイユに尋ねる。カウンターの前にハモンドが居てカウンター列の後方にはミレイユとブルーボンボンが監視してグレンの姿はない。彼女は弟に会いに冒険者ギルドにやって来たのだ。ミレイユは気まずそうにレイナから視線を外す……
「はああああ!? 登録は出来ないって? なんでよ!!」
大きな声が聞こえたレイナとミレイユがすぐに声の方へ顔を向けた。カウンターにはパステルが居て受付を担当している。パステルは椅子から立って、カウンターから身を前に乗り出している。カウンターから身を乗り出した彼女の前に一人の背の小さな女性が立っている。
「うん。ララさん。残念だけどここは冒険者ギルドだからね。ハンターの登録はしてないんだあ」
パステルの前に居る女性は身長が低くカウンターからやっと頭が出るほどしかない。色白で長い黒髪の女性だ。彼女は横に長い目に高い鼻をした大人しそうな女性で見た目は幼い。真っ黒で長い綺麗な髪は後ろに結んでいた。
服装は長袖に首元を覆い白い服に十字架の模様が入った袖のない黒い厚手のベストを羽織っている。前面が太ももの付け根まで、後ろが長く膝までに斜めカットされて薄い茶色のスカートを履いている。靴は白いブーツに黒い厚手のタイツを履いている。両手は黒の小手をつけている。腰のベルトからチェーンが伸びてピンク色の星形の宝石が垂れている。ベストの上から体にクロスしたベルトをつけ銀色の十字の鍔をした短剣がいくつも刺さっている。彼女の名前はララという。
どうやら冒険者ではなく間違えてここへ来てしまったようだ。
「じゃあもういいわ。ハンター協会への行き方を教えてもらって良い?」
「えっ!? わからないよ……」
首を横に振るパステルだった。ムッとした顔をしたララが腕を組み彼女を睨んで口を開く。
「なっなんで知らないの! ここは冒険者ギルドだよねぇ?」
「いやだってハンター協会はアーリア教会の組織じゃないの! だから知らないの!」
「へっ!? なによそれ! チッ! 使えないわね!」
「なっ! べーーーだ!」
舌打ちをして使えないとパステルに吐き捨て背中を向けるララだった。パステルはムッとした顔でララの背中に向けて舌を出す。ララは振り向きながら右手で素早くベルトから短剣を抜いてパステルに投げた。
「うわ! 危ない!!」
声をあげパステルは身をカウンターに伏せた。正確に投げられた短剣はパステルの横を通り抜けて奥の壁に突き刺さった。顔をあげ振り向いて壁に刺さった短剣を見てパステルは顔を青ざめさせる。ララは彼女を指さして笑う。
「キャハハ! 焦ってやんの! バーカ! べーだ!」
「何するんだ! このクソガキ!」
「はぁ!? あんただってガキじゃん!」
パステルとララは怒鳴り合い二人を遠巻きに冒険者たちが見ていた。
「なに…… あの子…… 悪い子ねえ。しょうがない。ここはお姉ちゃんが叱ってあげるわ」
レイナは腕をまくり二人の元へ向かおうとする。
察しの良いミレイユはこの状況で、レイナが首を突っ込むと面倒くさいことになると考えすぐに動く。
「ブルーボンボンさん! 彼女を制圧してください!!!」
「えっ!?」
振り向いたレイナにララを指して叫ぶミレイユが見えた。直後に彼女の横をふわりを風が通り過ぎていく。
「キャッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ウゴカナイデクダサイ」
ララの悲鳴が響く。ブルーボンボンが距離を詰め背後に回り込み足をかけ、ララを倒して拘束した。
「離せ! あたしは…… 誇り高きハンターなのよ!」
「ハンター…… 情報ナシ…… 制圧継続……」
「うぐ!! く苦しい…… はなせ!」
ブルーボンボンは倒れたララの背中に膝を置き体重をかけていく。苦しそうに真っ赤になるララだった。パステルが拘束されたララを見て笑いミレイユに向かって右手を上げる。
「ミレイユ! ありがとう!」
うなずいたミレイユも右手をあげパステルに答えた。彼女の横にハモンドが近づいて来た。
「どっどうしますか?」
「冒険者じゃないみたいだし…… 外に放り出して!」
「了解デス」
「わっ!? こら! やめろ」
ブルーボンボンはララを立ち上がらせると首根っこをつかんで持ち上げた。足をバタつかせ抵抗するララだった。彼女はあっさりと冒険者ギルドの扉まで持って来られると外へ放り投げられた。
「ギャっ!!」
ララは頭から地面に落ちた。スカートがまくり上がり彼女の緑色の下着がさらされる。ブルーボンボンは両手を叩いている。
すぐにブルーボンボンは勢いよく扉を閉めた。
「おっ覚えてろ! この!!」
顔を真っ赤にして立ち上がりララは。閉められた冒険者ギルドの扉に向かって叫んで走って逃げて行った。
静かになった冒険者ギルドでレイナが口を開く。
「なんだったの? あれ……」
「ハンターって言ってましたから…… 多分ヴァンパイアハンターですね。最近増えているみたいなんです」
ミレイユの回答にレイナは首をかしげた。
「ヴァンパイアハンター? なにそれ」
「聖都でヴァンパイアによる被害が増えているんです。それで他の大陸からハンターが集まって来ているのよ」
「ふーん…… それってウォルフさん……」
「シーー! ダメよ」
口に指をあてるミレイユにレイナは慌てて口を閉じた。直後に十三時をつげる鐘が鳴りび退く。レイナは鐘の音にハッとした。
「あっ! しまった。午後に商談がるんだったわ!」
テオドールでの仕事を思い出したレイナは慌てて背中のリュックを下した中に手を突っ込んだ。
「はい! これお土産! みんなで食べて後でグレン君にも……」
「えっ!? グレンはもうここに居ません」
レイナはリュックの中から取り出した包をミレイユに渡す。ミレイユはグレンが不在だと彼女に告げる。
「居ないの? また出張か……」
「えっと…… 違くて……」
「どうしたの? グレン君に何かあったの?」
気まずそうにするミレイユにレイナはグレンに何かあったのかと彼女に尋ねる。
「なっ何も聞いてないんですか? グレンとクレアは…… 冒険者ギルドを解雇されたんです」
「えっ!? そうなんだ……」
少し驚いたレイナはすぐにうなずいて納得したような顔をした。しかし、その直後……
「えええええええええええええええええええええええええ!!!!????」
レイナの驚きの声が冒険者ギルドに響く叫んだレイナへ皆が視線を向けるのだった。




