第357話 お世話になりました
出航の鐘が鳴る港にまた右手をあげグレンは名残惜しそうにレイナに声をかける。
「じゃあな……」
「またね」
笑顔で手を振るレイナにグレンは右手をあげたままで立っている。しばらくしてもレイナは船に移動しない。動かないレイナにグレンが首をかしげた。
「うん!? 行かないのか?」
「うん。これはあたしが乗る船じゃないわ。まだ出航までもうちょっと時間があるのよ」
「そうなんだ。じゃあまだ……」
うなずいたグレンは上げていた手を下した。彼はまだ姉と居られるとどこか安堵した表情をした。グレンの動きを見たレイナは慌てた様子で彼に声をかけうr。
「えっ!? いいよ。忙しいでしょ? 早く戻りなよ」
「大丈夫だよ。俺もまだ時間に余裕が……」
普段のレイナならグレンを強引に引き止めるようだが今日は違っていた。居座ろうとする弟にレイナは口を開く。
「だから…… もう一人見送りに来てくれる予定なの!!!」
顔を真っ赤にして叫ぶレイナだった。姉の態度の豹変に驚くグレンの隣でクレアは小さくうなずいた。
「あぁ…… ルドルフさんですか?」
「うっうん……」
ハッとしたクレアがルドルフの名前を口にすると、レイナは顔を真っ赤にしたままうつむいた。二人が帰った後にルドルフがレイナの見送りに来ると言う。
「えっ!? なっなんだよ…… それ」
レイナの様子にグレンは不満げに口を尖らせ腕を組んだ。クレアはグレンを見てニヤリと笑った。
「ほら! 戻りますよ。私達はキーセン神父に呼ばれているんですから!!」
「おっおい!」
クレアはグレンの背中を押して港から去るのだった。二人が港から出ようとすると横をそわそわしたルドルフが駆けて行った。
急いでいたのかルドルフはグレン達に気づかずに行ってしまう。グレンはルドルフの背中を眉間にシワを寄せ睨みつけた。
「クソ…… ルドルフの野郎…… いつの間に姉ちゃんを……」
「あらあら? お姉ちゃんが取られて悔しいのかしら?」
「うっうるせえ!」
声をかけクレアはグレンの頭を撫でて慰める。グレンは彼女の手を振り払うのだった。ムッとしてクレアはグレンの腕をつかんで組んだ。
「なっなんだよ……」
「大丈夫です。グレン君の隣にはいつも私が居ますから……」
「ふん!!」
鼻息を荒くし不満げにするグレンにクレアは腕を組んだまま優しく笑っていた。
冒険者ギルドに戻ったグレンとクレアはキーセンの部屋へと向かった。アメリアはおらずキーセンは一人で椅子に腰かけ机に肘をついていた。グレンとクレアは彼の机の前に並び、二人の横にはもう一人が一緒に呼びだされていた。
「ありがとう……」
椅子に座ったまま顔をあげ礼を言うキーセンだった。
「あっあの…… なんで私も……」
グレンの横に居たキティルが手をあげキーセンに尋ねる。グレンとクレアと一緒に呼び出されたのはキティルだった。
顔を横に向けグレンは彼女に口を開く。
「言ったろ? 一緒に怒られてもらうって」
「うぅ…… そっそんな…… 本当に…… 怒られるんですか」
しょんぼりとうつむくキティルだった。キーセンは彼女を見た笑う。
「ははは。ダメだよ。グレン君。冒険者を脅かしちゃ…… 僕は怒ってないよ。ただ三人に言わなきゃいけないことがあるから呼んだんだ」
立ち上がったキーセンはキティルの前へと立った。キーセンの神父の方が背が高くキティルはやや上を向いて彼と目を合わす。
「まずキティルさん…… 君の冒険者資格は停止させてもらうよ」
キーセンはキティルに向かって冒険者資格の停止を告げた。
「えっ!? ええええええええええええええええ!!!」
ひどく驚くキティルだった。グレンは横目で驚いた顔をしクレアは冷静に立ち視線をわずかに横に動かすだけだった。
「どっどいうことですか?」
「君の冒険者資格を停止する。つまりもう冒険者じゃないってことだよ」
「いやだから…… なんで私が……」
うつむいて悲し気な表情をするキティルにキーセンはにっこりと微笑む。彼の態度にグレンが口を挟む。
「おい。ちゃんと説明してやれよ…… えっ!?」
口を開いたグレンにキーセンは左手を彼の前に出した止めた。
「おっと! 君達もだよ。グレン、クレア、君らのギルド職員資格も停止する。そして本日付けで解雇する」
「はぁ!?」
グレンとクレアにも同じように職員資格の停止をつげるキーセン神父だった。
「おい! どういうことだよ!」
「わからないかな…… まぁ。責任ってやつだよ」
グレンに体を向け両手を開くキーセンだった。グレンはムッとした顔をした。しかし、彼の背後からクレアが返事をする。
「わかりました」
「えっ!? くっクレア義姉ちゃん…… わかったよ……」
視線を横に向けグレンを見てクレアは小さくうなずいた。グレンは納得がいかないという表情をしたが、横にいるクレアが了承したのですぐ引き下がる。キーセンはグレンが戻ると笑った。
「理解が早くて助かるよ。キティルは冒険者の指輪。グレンとクレアは職員証を返してもらっていいかな?」
グレンとクレアは首にかけていた冒険者職員証を外した。キティルは指から冒険者の指輪を外す。
「お世話になりました」
「ほらよ」
「……」
キーセンに頭を下げて冒険者職員証を渡したクレアだった。グレンは雑に渡してキティルは何も言わなかった。キーセンは三人から職員証と指輪を受け取るのだった。
三人は冒険者ギルドから出ていき近くの小さな広場に来ていた。三人はベンチに並んで腰かけていた。グレンが悔しそうに拳を握った。
「ウォルフを逃がしたからか…… クソ!」
「でしょうね。ウォルフから私達の名前が漏れる前ってところでしょうかね」
「はぁ…… 教会も心が狭いねぇ」
「つまり私のせいで二人が……」
うつむくキティルにクレアは優しくほほ笑む。三人が冒険者ギルドを追い出されたのは天使の涙に失敗したからだ。
「気にしないでください。教会が我々の排除をしないだけましですよ」
「そっそんな……」
「そうだな。生きてりゃなんとかなるさ」
グレンはキティルの肩を優しく叩くのだった。クレアとグレンは顔を見合わせて立ち上がった。
「さて…… 今日から無職ですね…… まずは家を引き払わないと……」
「うーん。そうだな。再就職とか面倒だな……」
背伸びをするグレンにクレアは笑っていた。ハッと何かを思い出しキティルが勢いよく立ち上がる。
「グレンさん…… クレアさん! あっあの!」
手招きをして二人を呼ぶキティルだった。クレアとグレンはキティルに近づく。二人の耳元でキティルは何やら話していた。
グレンとクレアとキティルの三人は冒険者ギルドから追い出されてしまった。三人は新大陸で新たな道を歩めるだろうか……




