第355話 聖堂への帰還
ガーラム修道院から正門へと続く道で、クロースがハルバードを振り下ろした。彼女のハルバードは前に立つ剣を持った、ヴァンパイアの頭からみぞおちの辺りまでばっくりと裂いていく。
ハルバートを持ち上げ血を拭うクロースだった。ハルバートが抜かれたヴァンパイアはゆっくりと後ろに倒れた。
「はあはあ……」
息を整えたクロースはゆっくりと歩きだした。歩き出したクロースの背後でヴァンパイアの体が再生され始めた。クロースの一撃は心臓をわずかに外れていた。連戦続き疲労しいつもよりも、注意力が落ちている彼女は気づかないでいた。
かかとから垂直に浮かび上がるように尾ともなく立ち上がった、ヴァンパイアはニヤリと笑うと飛んでクロースの背後へと迫る。
「はっ!? なっんで!?」
「はははっ!! 残念だったな! 私達は再生できるんだよ!」
クロースのハルバートが落ちる音がした。飛んだヴァンパイアはクロースを背後から襲い、両腕を彼女の脇から通して羽交い絞めにして上空へと連れ去った。
「クッ! わたくしとしたことが……」
両肩に回された手を必死に外そうとするが疲れで動きが鈍りうまくいかない。必死にクロースを押さえつけヴァンパイアは口を開いた。牙が月に照らされきらりと光る。
「お前を…… このまま……」
「なにをするのです!?」
「俺の虜にしてやるよ!!!!」
「やめて!!」
ヴァンパイアは口を開けたクロースの首筋に噛みつこうとした。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「えっ!?」
月が強烈に光り黄色に照らされたヴァンパイアの体に痛みが走り彼は大声をあげた。再生が不完全だったのかべりと言う音がして頭が真っ二つに裂けていく。首まで真っ二つに裂けたヴァンパイアの体から力が抜け、クロースと拘束していた腕が外れた。
「えっ!? キャアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
ヴァンパイアが外れ浮力を失ったクロースが落ちていく。クロースは地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。猛スピードで誰かが彼女へと近づいて来た。
「キャッ!!!」
「ふぅ…… 大丈夫か?」
「グレンさん……」
落ちていったクロースは途中で飛んで来たグレンに腕を掴まれて止まった。顔をあげ唖然とするクロースにグレンは笑顔で声をかけた。
「おっと! お前は逃がさねえよ」
二人の横を頭がヴァンパイアが落下していった。右手に剣を持っていたグレンは落ちようしていた、ヴァンパイアの胸を剣で突き刺した。グレンの剣はヴァンパイアの心臓を貫いた。
グレンが剣を振るようにして下にて向けると、ヴァンパイアから抜けて地面へと落ちたいった。地面へと落ちるヴァンパイアを見てクロースに口を開く。
「珍しいな。仕留めそこなうなんて……」
「ちょっと慌ててしまいましたわ…… 急いでたものでしでね……」
恥ずかしそうに答えるクロースにグレンは自分を指して優しく声をかける。
「ならもう急がなくていいぜとりあえずは俺達が片付いた」
「ふふふ…… そうみだいですわね……」
グレンの言葉にクロースは口に指をあてほほ笑んだ。グレンはほほ笑むクロースに頬を少し赤くする。二人はゆっくりと地上へと下りたのだった。
「ほい。到着っと!」
着地してグレンがクロースの腕から手をはなした。
「あら!?」
疲労でクロースの足元がふらつく。グレンは慌てて彼女を抱きとめる。
「おっと!」
「もっ申し訳ありません……」
「気にしなくて良い。俺に体を預けてくれれば良いから……」
「はっはい……」
恥ずかしそうにクロースは小さくうなずいてグレンに支えられ彼の胸に頭を置いた。
二人の後方十メートルほどから四つの冷たく鋭い視線が彼らに向けられていた。
「なんですか…… あれ…… なんかいい雰囲気で腹立つ……」
「えぇ。後でお仕置きですね……」
腕を組んで口を尖らせるキティルの横で、先ほど拾ったクロースのハルバードをグレンに向けるクレアだった。
クロースと合流したクレア達はガーラム修道院へと戻るのだった。なお、クロースを支えて歩こうとしたグレンだったが、不機嫌なクレアとキティルに彼女の横を取られて先導役をやらされていた。
グレンが扉に手を置いて聖堂の扉へを開く。
「ただいま…… えっ!? おっおい」
「うわあああ!?」
扉を開けたグレンに向かって真っ白なスケスケ寝巻で下着をさらけだした、グレゴリウスが飛びついて来た。グレゴリウスはグレンの肩に飛びつき、とっさのことで必死にバランスを取るグレンは彼に尋ねる。
「なっなんだ!? どうした? グレゴリウス?」
「助けてください! あの人が僕に……」
グレンの首い抱き着いたままグレゴリウスが怯えた顔で振り向いた。そこには……
「待ちなさい! このお薬を飲まないとダメなの!」
器に濃い緑色のドロッとした薬を持った、レイナがグレゴリウスを追いかけて来ていた。レイナがグレゴリウスに向かって薬が入った器を差し出すと口を尖らせそっぽを向く。
「嫌です! それ苦いし…… 美味しくないですもん!!」
「お薬が美味しいわけないでしょ!!!」
「べーーー!!!」
グレゴリウスはグレンが居るから強気になっているのか、レイナに怒られると舌を出して抵抗する。
「この…… お姉ちゃんの言うこと聞かないと…… あとでお尻ぺんぺんだよ!!」
「ひぃ!?」
左手の拳を振りかぶり眉間にシワを寄せレイナはグレゴリウスを叱りつけたのだった。グレゴリウスは怖がり悲鳴をあげグレンにしがみつくのだった。
グレンは首を横に振り右手をレイナに向け差し出した。
「もう…… レイナ姉ちゃん! 貸してくれ俺が飲ますよ……」
「そう。じゃあお願いね」
レイナはグレンから提案されると、あっさりと受け入れ彼に薬が入った器を渡す。グレンは器をレイナから受け取るとグレゴリウスに視線を向ける。グレゴリウスは薬を受け取ったグレンを涙目で見つめ口を尖らせている。
「裏切り者……」
不満げにつぶやこグレンにしがみつく手に力を込めるグレゴリウスだった。グレンはグレゴリウスを左腕一つで支えながら彼に顔を向け優しく声をかける。
「大丈夫だ。これ飲んだら…… おやつをやるぞ」
「えっ!? 本当ですか?」
「おいおい。大声を出すな。姉ちゃんには内緒だからな」
にんまりと微笑むグレゴリウスに、グレンはそっと右手に持った薬を彼の口元へと持って行った。グレゴリウスは器に口を当てゆっくりと薬を飲んでいた。
薬を飲むグレゴリウスを見てレイナは小さくうなずくのだった。
「すごい…… 私が何を言っても飲まなかった…… グレがちゃんと薬を……」
レイナの横に来てオリビアが薬を飲むグレゴリウスに驚いていた。グレンがここに来る直前までオリビアが必死にグレゴリウスに薬を飲むように説得していた。
「慣れているのよ。昔から下の弟や妹にああやって私の薬を飲ませてたからね。面倒見がいいの」
「ぐっ……」
弟自慢をする姉の横で、夫がグレンの言うことを素直に聞いたことに不満げにする妻がいる。グレゴリウスは薬を全て飲んだ。グレンは彼の口元から器をはなし中身を見て褒める。
「よし! よく飲んだな……」
「えへへ…… 約束は守ってくださいね……」
「あぁ…… うん!? どっどうした?」
グレゴリウスがジッとグレンの顔の下を見つめていた。グレンが彼の視線に気づき声をかける。グレゴリウスはジッとグレンの首筋を見つめながら口を開く。
「なんだろう…… グレンさんの首筋に噛みつきたい……」
「えっ!? おい!? やめろ!!」
グレゴリウスが口を大きく開けてグレンの首筋に噛みつこうとする。二人の会話が聞こえてレイナの顔が青ざめすぐに彼女は前に出ようと走り出す。




