第354話 まだ終われない
目をつむったキティルの頬をわずかに風が撫でた。
「よっと!!!」
グレンの声がして直後に大きな音が響いた。音に驚いたキティルはゆっくりと目を開けると、右手に持った大剣を頭上で水平にして炎の刃を受け止めるグレンが彼女の前に立っていた。
「グッグレンさーん!!!」
目を輝かせ声援を送るような高い声をグレンに背中に出すキティルだった。グレンは顔を横に向けあきれた顔を彼女を見た。
「まったく…… さっき言われたばかりだろ…… 詰めが甘いって……」
「うう…… だって…… いけると思ったのに……」
しょんぼりとしてうつむくキティルにグレンはほほ笑んだ。彼は持っていた大剣の刀身に左手を添えて両手で持つと一気に腕を伸ばし押し返す。
「おりゃあああああああああああああああ!!!」
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
擦れるような音がして炎の刃は押され、ダートドラゴンの顔をあげ後退する。炎の刃は急速に短くなっていく。グレンは大剣を戻して肩に担ぎ、うっすらと光るダートドラゴンの湾曲した角に視線を向けた。
「その角…… 邪魔だな!!!」
グレンの姿がキティルの前から消えた。彼はあっという間にダートドラゴンの頭の前へとやって来た。大剣を振りかぶってグレンは構え、角に向かって勢いよく大剣を振り下ろした。
鋭く伸びていった大剣がダートドラゴンの角へと迫っていった。大剣はダートドラゴンをほぼ中央から真っ二つに切り落とした。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ダートドラゴンが声を上げ押さえようとしているのか、両前足を角が生えていた額に持って行く。
落ちた角は地面へと落ちていき、先ほどの溶岩と同じように真っ黒な岩のようになった。地面に落ちて角は音を立てて砕け散った。グレンは大剣を肩にかつぎ視線を下に向け叫ぶ。
「クレア義姉ちゃん! 頼む!」
「はーい!!」
返事をしたクレアが大剣を構え前に出た。ダートドラゴンの左へと迂回しながら後ろ足へと回り込む。
「ほっ!!!」
クレアの気配に気づいたのかダートドラゴンは、短く先端が丸くコブがある尻尾を振り回してクレアに叩きつけた。クレアは上から叩きつけられた尻尾を横に移動してかわす。
地面から砂埃が舞い上がり地面がへこむ。
「はああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
小さく飛び上がったクレアはコブの根元についた尻尾を斬りつけた。尻尾とコブはクレアの大剣で簡単に別れた。
着地したクレアは視線を横に動かす。彼女の視線にはがっしりとした後ろ足が見える。ダートドラゴンは顔をクレアに向け大きな左前足で振り払おうとした。四本の巨大な爪が生え土をかきやすいように、ゆびの間に膜が張られた前足がクレアへと向かって来る。
「はっ!!」
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
飛び上がって前足をかわしたクレアは大剣をエフォールを前足に向かって投げる。エフォールは前足の指の間の膜を貫通し地面に突き刺さった。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアア!!!」
声をあげ左前足は止まったクレアは左手を横に持って行くと、彼女の左手から光の剣が伸びていく。クレアは横に光り剣を振り抜きダートドラゴンの爪を切り落とした。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」
声をあげるダートドラゴンにクレアは表情を変えずに飛び上がる。ダートドラゴンの背中へと回り込むクレアだった。クレアを叩き落とそうとダートドラゴンは振り向き右前足を振り上げた。
「動かないでください!!!!」
クレアは右腕を前に突き出した光の大剣が伸びて行き、ダートドラゴンの胸を貫通する。同時に彼女は左手を横に振り抜く。光の大剣が大きく伸びて振り上げたダートドラゴンの右前足の先を切り落とした。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ダートドラゴンは激しく鳴き声をあげ頭を地面につけ倒れた。グレンがダートドラゴンの首の横にやって来た大剣を大きく振りかぶった。
「これで終わりだああああああああああああああ!!!!!」
「ウギャアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
グレンはダートドラゴンの首に大剣を振り下ろした。鋭く伸びたグレンの大剣が首を斬り裂いて頭が地面へと落ちていった。
転がったダートドラゴンの小さな目が閉じられた。グレンは倒れたダートドラゴンを静かに見つめ大剣を横に強く振って血を拭うのだった。彼は大剣を肩にかついでゆっくりと地面へと下りて行くのだった。
地上に転がるダートドラゴンの首の前に、クレアとキティルの二人が並んで立っていた。グレンが二人の元へと下りてくるとキティルが声をかける。
「終わりましたね……」
キティルの言葉にクレアがすぐに首を横に振った。
「いや…… 終わってませんよ。ウォルフもディーアさんも逃げました……」
「あぁ。あいつらを排除しないと終わりじゃない……」
悔しそうに左手の拳を強く握るグレンだった。ウォルフとディーアは地中へと消えた、天使の涙は二人を排除するまで終わらない。二人から強い決意を感じてキティルはうつむいた。
「そうですよね…… 私もまだエリィを…… 絶対に……」
キティルはうつむいて力強く杖を握りしめた。クレアとグレンは後ろにいるキティルに視線を向け、顔を見合わせて笑ったのだ。
直後にクレアとグレンの背後に気配してどこかオドオドとした声がする。
「どっどうします?」
「所在の把握を…… 始末は私達がします……」
「あぁ……」
「りょっ了解です……」
気配が消えてグレンとクレアは厳しい表情をしていた。キティルは二人を見て首をかしげた。
「今!? 誰かと話してませんでした?」
「さぁ!?」
「いやぁ…… 気のせいじゃねえ」
とぼけた顔をするクレアと肩をすぼめるグレンだった。二人が会話をしていたのはタワーだ。クレアとグレンはタワーにウォルフとディーアの行方を捜すように依頼したのだ。
不思議そうな顔をするキティルにクレアは優しくほほ笑み口を開く。
「とにかく一旦レイナさんのところへ戻りましょう」
「そうだな…… 吸血症の治療がどうなったか気になる」
「そうだ! グレゴリウスさんも……」
「えっ!? おい。あいつもなのか……」
グレンはグレゴリウスも吸血症だと聞いて驚く。クレアは小さくうなずいた。
「はい…… どうやらグルファーブルによって吸血症にされたみたいですね」
「クソ!」
「大丈夫ですよ。レイナさんは優秀な薬師ですからね」
「ふっ。そうだな」
レイナは優秀な薬師だというクレアに、姉の優秀さを知っているグレンは笑ってうなずいた。
「じゃあ戻るか」
「はい。行きますよ。キティルさん」
振り向いてクレアがキティルに声をかけた。キティルはうなずき二人の元へ歩き出そうした。
「あっ! ちょっと待ってください!」
「どっどうした!?」
何かを思い出してハッした表情をしたキティルは一人で駆けだしたいった。グレンとクレアは顔を見合わせて首を傾げ彼女を追いかける。キティルは地面に刺さったままで置かれたウォルフのサーベルに手をかけた。クレアとグレンが彼女に追いついた。
「このサーベル…… やっぱり……」
「何かわかったのか?」
「はい。このサーベルは私が持っている短剣と同じです」
「えっ!? それって……」
うなずいたキティルはサーベルを引き抜こうとする。グレンは彼女に手を貸して手伝う。サーベルが抜けるとグレンは手をはなしキティルが一人で持つ。
「えっと…… ちょっと待ってくださいね……」
サーベルの刀身に左手を添え水平に持ってキティルは目をつむった。直後に刀身に青い文字が浮かび上がる。
「青い文字…… キティル? 読めるか?」
目を開けたキティルが刀身に浮かび上がる文字に目を向けうなずいた。彼女はゆっくりと刀身に刻まれた文字を読む。
「我が名はマスター…… 帝国の威厳の象徴である…… 邪悪なる神獣を払うもの…… って書いてありますね」
グレンに顔をむけるキティルだった。グレンとクレアは読み上げれらた文字の意味がわからず首をかしげた。
「なんだそりゃ?」
「マスター…… このサーベルの名前ですかね…… 後で調べてもらいましょう」
文字の意味を後で調べるというクレアだった。キティルはクレアに口おを開く。
「あっあの? これ…… 私が預かって良いですか? 私も調べたいです」
「構いません。もうあなたの取得した物ですからね…… ただし、冒険者ギルドから貸し出し要請には答えるようにしてください」
「わかりました」
返事をしたキティルは帽子を外してサーベルを中へとしまった。キティルがサーベルをしまい帽子をまた被り位置を調整してたい。帽子の位置を調整が終わるとグレンが彼女に声をかける。
「じゃあ…… 戻ろうか」
「はい」
キティルは大きくうなずいた。三人はガーラム修道院へと戻るのだった。




