第353話 逃がしません
グレンの元へクレアに抱きかかえられたキティルが戻って来た。グレンの横でクレアはキティルから手をはなす。右肩に大剣をかついで不満げな目でキティルを見て口を開く。
「一緒に行くって言っといて抜け駆けかよ」
「それは……」
「逃がさないぞ」
「えっ!?」
キティルはグレンの言葉に頬を赤く染める。彼女は逃がさないと言う言葉を、自分と離れることをグレンが寂しがっているのだという意味だと思ったのだ。
感動するキティルだったが、グレンは彼女の変化に気づかずに地上に居るダートドラゴンに視線を向ける。
「ウォルフを逃したことを一緒に怒られてもらわないとな!」
「そうですね。キーセン神父は怒らせると怖いですよ」
「そっそんな!? なっなんですか! それ!」
うなずいたクレアが大剣を構える。二人の言葉に今度は別の意味で顔を真っ赤にキティルだった。
「もう…… 期待したのに……」
「ほら! 来ますよ!」
「えっ!?」
口を尖らせ不満げにぶつくさいうキティルにクレアが叫んだ。下を向いたダートドラゴンの角が強烈な可愛光を放っていた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
口を大きく開いたダートドラゴンは続けざまに三つの溶岩弾を吐き出した。溶岩弾は周囲に溶岩をまき散らしながらグレン達に向かって飛んでくる。
「ファイアウォールを!!」
「はっはい!」
横を向いてクレアが指示をだした。うなずいたキティルは杖で地面を叩く仕草をする。グレンたちの足元が光り出しファイアウォールが三人を包む。
すぐに溶岩弾はファイアウォールに命中した。ファイアウォールにぶつかった溶岩弾は火が舞い上がり、ドロッとした溶岩が固まって真っ黒な岩になって地面に落ちていった。
ファイアウォールが下がって消えていく。キティルは下を向いて地面に落ちて砕けた溶岩弾を見てハッとする。
「そうか! 私の炎魔法が吸収されるなら…… 相手の溶岩も私が吸収できるんですよね」
「はい! じゃあ次はこちらからです! 行きますよ」
大剣を構えてクレアがダートドラゴンへと飛んで行く。キティルは彼女に続き最後にグレンが二人を追いかけていく。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
迫って来たクレアにダートドラゴンは両前足の巨大な爪を立て挟もうとした。クレアは鋭く迫る両手を見つめていた。
「クレアさん!?」
キティルの声がした。彼女の目前で大きな音がして、ダートドラゴンの両前足が合わさった。
ぶつかりあった巨大な前足の激しい衝撃はすさまじく空気が震えた。ダートドラゴンの前足がゆっくりと離れていく。
「うがああ!?」
開かれた前足にダートドラゴンは声をあげた。前足につぶされたはずのクレアはどこにもいなかった。キティルはホッと安堵の表情をした。
「前ですよ! 油断しないでください!」
「えっ!?」
キティルは前を向くと赤い光に照らされる。ダートドラゴンは目の前にいたキティルを見つけると口を大きく開いた。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
開いたダートドラゴンの口から溶岩弾ではなく、溶岩が光線のようになって吐き出された。
「はああああああああああああああああああ!!!」
キティルは右手に持っていた杖を両手に持って腕を前にだし自分の体の前で素早く回転させた。杖の前に丸い激しく燃え盛る炎が現れた。
「バックドラフトシールド!!」
燃え盛る炎と溶岩がぶつかった。溶岩は激しい炎を吹き出して真っ黒な岩の塊に変化した。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
声をあげダートドラゴンは溶岩を吐き出すのを止めた。わずかな溶岩が地面に落ちて、キティルからダートドラゴンの口二メートル手前まで黒い岩の塊が浮かんでいた。溶岩が止まると黒い岩は地面に落ちていった。
溶岩を受け止めた炎は小さくなって消えていった。
「よっと!」
すっとクレアが横に移動する、直後に彼女の横に太い直径三メートルほどの真っ黒な丸太のような溶岩が落ちて砕けた。クレアは両前足が閉じられる寸前に急降下してかわしていた。砕けた黒い溶岩の破片を見てクレアは小さくうなずいた。次に彼女は視線を上に向けキティルを見上げ微笑んだ。
キティルは回転させていた杖を止めて下した。
「よく頑張りました!」
「いえ! まだですよ!!!!」
首を大きく横に振ったキティルはまた杖を回転させた。ただ、杖を回す方向は逆だった。キティルは杖を回しながら大きく息を吸い込んだ。
「ふぅ!!!」
回転させている杖に向かってキティルは息を吹きかける。先ほど消えたはずの炎が回転する杖の前に現れた。炎は大きくなっていきさらにダートドラゴンが吐き出した溶岩も吹き出す。ダートドラゴンに向かって溶岩の線が伸びて行き、その周囲を炎がうなりをあげ巻き付くように飛んで行く。
向かって来る溶岩と炎にダートドラゴンは左前足を出して受け止めた。激しい音がして溶岩と炎が爆発した。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ダートドラゴンは大きな声をあげた。溶岩と炎を受け止めたダートドラゴンの左前脚は爆風と衝撃で後ろに弾かれ後ずさりする。
「どう!? あなたの炎を倍返しよ!!!」
下がるダートドラゴンを見て満足そうにうなずいたキティルが叫ぶ。彼女が使ったバックドラフトシールドは魔法の炎の盾で熱や炎を受け止め吸収する防御魔法だ。ファイアウォールと違い吸収した熱や炎は息を吹きかけることによって弾き返せる。
「さぁ! 私が切り裂いてあげるわ!!」
キティルは右手で杖を持って一回転させ、ダートドラゴンに向かって飛んで行く。
杖を両手に持って構えた振りかぶったキティル、杖の先から赤い炎の刃が伸びて行き杖は薙刀のように変わった。杖から数十メートルに伸びた刃をキティルはダートドラゴンに向かって振り下ろす。斜めに振り下ろされた炎の刃がダートドラゴンの頭へ伸びていく。
「うがあああああああああああああああ!!!」
「えっ…… キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
口を開けダートドラゴンが叫び声をあげ角が赤く強く光った。角はキティルの杖を同じように大きな炎の刃を伸ばしていく。角から伸びた炎の刃はキティルの薙刀と同じくらいの長さになった。ダートドラゴンは向かってくるキティルの杖に向かって首を大きく横に振った。ダートドラゴンの炎の刃とキティルの刃が激突した。
ダートドラゴンの刃がキティルの杖を弾き返した。衝撃に耐えきれずにキティルは吹き飛ばされてしまった。放物線を描いて吹き飛ばされるキティルだったが、右手で杖をしっかりと握って彼女は地面を見ながら不満げに口を尖らせていた。
「もう!!! 負けないんだから! ファイアボール!!!」
吹き飛ばされながら左手を前に向けたキティルだった。彼女は巨大な火の球を地面に向かって撃って飛び出す反動で自身を止めた。体を起こしキティルは左手でスカートの裾を払い振り向く。
「まったくもう…… なっなんなのよ…… あっ!!!」
振り向いたキティルが目を大きく見開き青ざめる。彼女の頬が赤い光に照らされ真っ赤に染まる。キティルの視線に振り下ろされてくる、ダートドラゴンの角から伸びた巨大な炎の刃が見えたのだった。
「ああ…… クッ!」
激しく燃え上がる炎の刃がじんわりとキティルの頬を熱くしていく。防ぐこともかわすことも間に合わない。キティルは目をつむるのだった。




