第351話 家族への愛は深い
聖堂ではレイナの治療が続けられていた。猫の案内で導かれグレン達と同じルートでオリビア、クロース、メルダ、タワーが聖堂の扉の前までやってきた。ジャスミンとウォルターは冒険者ギルドと神聖騎士と協力し治安を維持するめにツリーローダーに残っている。
「ナー!!」
オリビア達を案内をしてきた猫が声をあげた。タワーは静かにうなずいて
「ここにグレゴリウスさんが居るみたいですね…… うわ!!!」
突き飛ばす勢いでオリビアが前に出て扉に手をかけた。タワーは慌てて猫を抱き抱えて後ろに下がる。メルダとクロースはタワーに申し訳なさげに頭を下げる。
「グレ!!! 私だ!! ん!? この!!!!」
扉を開けようとするオリビアだったが、グレンによって封鎖されておりビクともしなかった。
「フギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!」
だが、オリビアは諦めることなく必死の形相で扉を押し続けた。グレンの封鎖を破り少しずつだが扉が動きだす。大きな音がしてオリビアは聖堂の扉を強引に開けた。
開かれた扉の向こうには聖堂の中央に横になる、ノールとチョコとグレゴリウスの姿があった。三人の横で座り、茶を飲んでいたソーラとレイナが唖然とした顔で扉を開いたオリビアを見ていた。ナーはレイナの膝に乗り丸くなっている。
「グレンの結界を強引に…… さすが勇者オリビアだねえ……」
ソーラがあきれた顔で扉を開けたオリビアに口を開いた。彼の言葉にレイナがハッとして立ち上がる。
「オリビアちゃん! クロースちゃんも無事だったのね…… あっごめん!」
レイナが立ち上がりクロースとオリビアに声をかけた。しかし、いきなり立ち上がったためナーが驚いて飛び下りて不満げにレイナを睨んでいた。
「グレエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」
「うわ!?」
「キャッ!?」
聖堂の床で寝ているグレゴリウスを見たオリビアは駆け出した。ソーラとレイナの間を駆け抜けグレゴリウスの横にしゃがむ。通り抜ける際の風圧で、飲んでいた茶が揺れこぼれて二人は声をあげた。
「なんで…… また女装を…… おい! グレ!?」
女装させられたグレゴリウスを見て首をかしげた、オリビアは彼の肩に手を置いて揺り起こそうとした。慌てた様子でレイナがオリビアの背後から声をかける。
「ダメだよ。動かしちゃ…… まだ治療……」
「治療!?」
振り向いたオリビアは勢いよく立ち上がった。レイナの肩に手をかけ口を開く。
「大丈夫なのか!? グレは!? なあ!?」
「ちょっと!? オリビアちゃん!?」
レイナに激しい口調で、グレゴリウスの病について問い詰めるオリビアだった。オリビアの背後にクロースがやって来て彼女の肩に手をかけた。
「少しは落ち着きなさいな。これじゃレイナさんもしゃべれないですわよ」
「あっ…… すまない……」
クロースにたしなめられ冷静さを取り戻したオリビアはレイナに謝罪し肩から手をはなした。クロースが前に出て視線をグレゴリウスに向けレイナに問いかける。
「レイナさん…… 彼は? なんの治療を?」
クロースの質問にレイナは少し間を開けて答える。
「吸血症よ……」
「なっ!? それって…… グレゴリウスさんはヴァンパイアに……」
「はいはーい。みんなはまだ知らないのか。教えてあげるね。地下遺跡で死体を見たでしょ? それは……」
ソーラがクロースとレイナの話に割り込んで来て話を始めた。福音派の教皇グルファーブルはヴァンパイアだった。ヴァンパイアに福音派は支配されており、人間という共通の敵のため魔族と結び彼らは今回の事件を起こしたと……
「そうですか…… 魔族とヴァンパイアが繋がっていたなんて……」
話を聞いたクロースは深刻そうにつぶやき視線をメルダに向けた。クロースの視線の動きに気づいたメルダが彼女に慌てて答える。
「なっなによ…… あたしは知らないわよ! そもそももう私は魔族のはみだしものなのよ!」
「わかってますわ…… べつに疑ってないですわ」
「本当かしら……」
「ふふ」
必死なメルダに優しくクロースが答えた。疑った表情のメルダにクロースはほほ笑んでいた。かつて魔界を征服した魔王ディスタードの娘だったメルダだが、今は落ちぶれほとんど魔族に影響力はない。
「それに…… あたしはあいつら嫌いだし……」
ヴァンパイアが嫌いだとつぶやくメルダに、クロースは興味を持ったのかさらに質問をする。
「嫌い? どちらも人間の敵ですのに…… 協力をしなかったのですか?」
「絶対に嫌! パパ…… ディスタードが協力を依頼したら…… お姉ちゃ…… アルダをヴァンパイア王の嫁にしろって言ったのよ」
同盟関係になるために姉アルダを差し出せと要求した、ヴァンパイアを嫌いだというメルダだった。メルダを見たクロースは思わず吹き出す。
「ふっふふ。ご家族が好きなのですね。メルダは……」
「うっうるさいわね!!」
顔を真っ赤にして叫ぶメルダだった。クロースは笑顔でメルダに優しく話す。
「今度お墓参りに行きましょう…… グレン達が作ってくれたんですよね」
「えっえぇ……」
恥ずかしそうにうつむいてうなずくメルダだった。レイナはメルダを見て目に涙をためるのだった。クロースはレイナに視線を向け少しだけ深刻な表情になる。
「レイナさん…… 吸血症の治療は成功したことは……」
クロースの言葉にオリビアが目を見開きグレゴリウスに視線を向けた。オリビアの動きにレイナは小さくうなずいた。
「大丈夫!!! さっき血清が完了して投与したから目を覚ませばきっと治っているわ!」
笑顔でレイナは自信ありげにうなずいた。彼女はさきほどと座っていた場所へ戻り置いてあった茶をすする。オリビアは不安そうにレイナを見つめていた。
「本当かな?」
つぶやくオリビアの肩にクロースが手をかけた。
「レイナさんを信じるしかないでしょう…… でも……」
「うん!?」
視線をグレゴリウスに向けクロースは笑いオリビアに口を開く。
「グレゴリウスさんを見てください。穏やかに寝てますわ」
「そうだな……」
「目が覚めた時に大事な人が見えるとグレゴリウスさんも安心しますわよ……」
「えっ!? そっそうか!? えへへ」
頬を赤くして嬉しそうに笑ったオリビアはグレゴリウスの側に座った。
「レイナさん…… オリビアにもお茶をだしてくださいまし」
「えっ!? うん! わかった」
レイナは返事をして茶を淹れる。クロースは二人を見ると寂しそうにうなずいた。彼女はオリビアに背中を向け歩き出し聖堂の出口へ向かう。
メルダは腕を組んで立っていた。彼女の横をクロースが通る時に口を開いた。
「一人で行く気なの?」
「えぇ…… あれじゃあ。彼女は役に立ちませんわ…… 面倒を見てやってくださいな」
うなずいてクロースは振り向き、グレゴリウスの横にしゃがんで額に手を置く泣きそうなオリビアを見つめる。クロースは一人でグレン達の元へ向かうつもりだ。
「なら私も……」
自分も一緒に行こうとするメルダだったが、クロースは彼女をまっすぐに見つめ優しくほほ笑み首を横に振った。
「クッ!!」
メルダは悔しそうにうつむいた。メルダはまだ特殊能力が開花していない、今のままでは連れて行っても足手まといにしかならないのだ。クロースはうつむいて悔しがるメルダに視線を向け、また優しくほほ笑むと聖堂から出て行くのだった。




