第350話 戻れない道
倒れたウォルフの頭上から少しずつグレンの気配が強くなっていく。空を見上げたままの彼の視界には、かつて自分を慕っていた女性がゆっくりと下りていく。四肢を失い二つの強大に挟まれた彼にはもう死を待つだけだった。
「クソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!! クソオオオオ!!!!!!」
叫び声をあげるウォルフだった。周囲に声が響き離れた場所で槍を抱えていた、エリィと彼女を見守るキティルにも彼の声は届いていた。エリィは槍を持ったままウォルフに視線を向けた。
ウォルフの顔を横に向けた最後に彼は視界にエリィをいれようとしていた。横を向こうとわずかに体をあげたウォルフの胸にぶら下げていた、蛇十字のロザリオが地面に転がり彼の視界に映る。このロザリオはグルファーブルが彼に与えた物だ。
「猊下…… そうだ…… 最後にあなたの言葉を…… ディーア様に…… ディーア!!! バラガ!!! オーラ!!!」
目に涙を浮かべウォルフは大きな声でまた叫んだ。彼の言葉を聞いたエリィが目を大きく見開いて立ち上がった。
「ウォルフ様ーーーーーーーーーーーーーー!!!! ダメ!!!!!」
「よっと!? エリィ!?」
エリィはウォルフの名前を叫び駆け出した。慌てて彼女を止めようとキティルが手を伸ばし肩をつかんで止めた。
「はなして!!」
「キャッ!!! しまった!!」
振り向いたエリィは持っていた槍でエリィに向かって振り回した。キティルは慌てて手をひっこめたが、彼女の手首にかすりわずかに切って血が垂れる。手が外れたエリィは槍を刃だけを持ち柄を捨ててウォルフの元へ走っていく。
「エリィ…… そんな……」
キティルは斬られた手首を押さえながら走り去る、エリィの背中を悲し気に見つめていた。しかし、彼女はすぐに首を横に振り真剣な表情になった。
「でっでも…… ここであきらめるわけないじゃない!」
斬られた傷にかまわずエリィは捨てられた槍の柄を拾うとエリィを追いかけていく。
「はあはあ…… 猊下…… ディーア様を守れず…… 申し訳ありません…… ですが私は彼女を守り……」
息が荒くなっていくウォルフの心臓が強烈に光りだし、胸当てと服が透けくっきりと影を映した。心臓の鼓動が早くなり赤い光が周囲を照らす。グレンは光るウォルフを見て思わず足を止めた。
「なっなんだ……」
「ヴァンパイアの自爆呪文です! グレン君! 彼に止めを!!」
「クソ!!」
叫んだグレンが駆け出してクレアも彼に続いて速度をあげ急速で地上に落ちて行く。
「ウォルフ様!!」
グレン達よりも先に駆け出していたエリィが彼らより先に到着した。グレンはエリィがウォルフを抱き抱えるのを見て舌打ちをして左手を彼女に向けた。
「チッ!!!」
「ダメえええええええええええええ!!!!」
月菜っ葉が光ると同時にキティルが声をあげた。キティルはエリィが捨てた柄で地面をたたいた。ルナレーザーがエリィに向けて発射された。
「キャッ!!」
一発のルナレーザーがエリィの肩を貫いた。続いた数発のルナレーザーが彼女に迫った。しかし、残りのルナレーザーがエリィに届く前にキティルのファイアウォールがせり上がり防いだ。
「早く下ろせ! エリィも自爆魔法に巻き込まれちまうぞ」
「えっ!? はっはい」
ファイアウォールに阻まれたグレンがキティルに叫んだ。キティルはすぐにファイアウォールを戻すのだった。ゆっくりとファイアウォール地面へと戻っていく。
「早くしろ!」
「ごっごめんなさい…… 杖じゃないから…… 慣れなくて……」
必死に折れた槍を地面につけ意識を集中させるキティルだった。見守るキティルの横に空からクレアが下りて来て心配そうにファイアウォールを見つめていた。
ファイアウォールの中ではエリィがウォルフを抱き抱えていた。
「はあはあ…… ディーア様…… 怪我を…… すぐに逃げてください。私はもう……」
首を振ったエリィは涙目でウォルフをジッと見つめていた。ウォルフは息遣いが荒く牙の先から血のような赤い液体が出ている。牙は吸血鬼の毒で自爆魔法の反動で制御が効かなくなっているようだ。彼女の右肩はグレンのルナレーザーにより穴が開き血がたれている。赤く心臓を光らせたウォルフに優しくほほ笑んだ彼女は静かに口を開く。
「私の血を…… 使ってください…… そしてあなたと…… 永遠に…… あなたと共に……」
「でっですが…… あなたは……」
真剣な表情をしたディーアは彼の口元に自分の左手首を持って行く。
「あなたは神聖騎士…… 私は聖女ですよ。さぁ早く…… 祝福のキスをしなさい」
「ですが……」
「ふふ」
「あっ!!!」
ほほ笑んだエリィはウォルフの牙に自分の左手を突き刺した。ウォルフの牙から吸血鬼の毒がエリィへと流れ込んでいく。自信とウォルフが混ざるような感覚が彼女を襲う。
「アッ…… ウォルフ様が…… 私に…… ごめんね…… キティル……」
甘く吐息交じりの声をあげたエリィは、最後に視線を上に向けキティルの名前を口ずさむ。彼女の目が赤く光り出した。
「これで同じになりました…… 今度はウォルフ様を…… 私が守ります!!!」
「えっ!? ディーア様……」
ウォルフの左胸に手を置き目をつむった。彼女の左手が緑に光出した。ウォルフの体が緑の色の光がウォルフの心臓を包み込み。赤く光り激しく鼓動していた彼の心臓は光がおさまり鼓動が静かになっていく。
「これで…… 自爆は終わりましたね…… せっかく一緒になったのに一人では寂しいです」
エリィはウォルフにほほ笑んだ。心臓を包んでいた緑の光がウォルフの全身に広がる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
声をあげるウォルフだった。緑の光に包まれた彼の手足が再生されていく。
「ウォルフ!」
「エリィ!!」
クレアとキティルの声が聞こえ視線を二人に向けるエリィだった。ファイアウォールが無くなりクレア、グレン、キティルの三人が立っていた。エリィはゆっくりと立ち上がり、倒れ体を再生させるウォルフをかばうようにたった。
「あの光…… 邪魔ですわね」
苦々しく視線を上に向けるエリィだった。彼の視線の先には空に浮かび光を放つ月菜っ葉が見えていた。月の光がウォルフの手足の再生を遅らせていた。
「妾はディーア!!! 福音をもたらす…… 聖女……」
叫んだディーアは左手をグレン達に向けた。彼女の左手が白く光り出した。
「違いますね。ウォルフと共に今を生きるヴァンパイアである! アイスウォール!!!」
白い冷気が地面から沸き上がり氷の壁となった。青く透明な氷の壁がウォルフとディーアを守る。クレアは氷越しに映るディーアを見て悲し気な表情で視線を横に向けた。
「グレン君…… 彼女はもう」
「あぁ。わかっている…… 排除だ」
小さくうなずいて返事をしたグレンは肩にかついだ大剣を持つ手に力を込めた。彼の視線がわずかに横に動き隣のキティルを気にする仕草をした。前を向いたままのクレアがグレンに口を開く。
「許可はいりません…… 邪魔するならキティルさんも排除です……」
「おっおい…… そうだな…… もう無理だな」
キティルはうつむき涙をこぼしている。クレアとグレンを睨んだディーアはウォルフに視線を向ける。
「ウォルフ! ここから逃げますよ。足止めをしなさい」
「御意…… 動け! 聖女様を…… 堕落者から救え!!!」
空に向かって声を上げたウォルフだった。同時にグレンとクレアが大剣で氷の壁を破壊し、氷の破片が転がった。二人はウォルフとディーアに迫る。しかし、上から何かが飛んで来て二人の前へと落ちて来る。
「うわ!?」
「なっなんですか」
グレンとクレアが声をだして立ち止まった。二人の前に空からウォルフのサーベルが飛んで来て地面に突き刺さったのだ。
「これって……」
サーベルの柄頭から細長い青い光が伸びて行きクレアとグレンを交互に充てる。その後、すぐに空に向かって青い光は伸びて行った。クレアとグレンとキティルは空へと伸びていく青い光を見上げていた。
「あれ…… 黒い柱から…… 出た…… 光と…… はっ!? クレアさん! グレンさん! 離れて!!! 来ます!」
キティルがハッとして前にいる二人に叫んだ。地面が激しく揺れウォルフーのサーベルを中心に十字方向にひび割れていくのだった。




