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第35話 お姉ちゃんが居れば大丈夫

 深夜、南門の前の広場、クレア、グレン、ハモンド、ルドルフの四人が並んでいた。彼らの前には集められた三百人の冒険者と水色の鎧に身を包んだ聖騎士二百人が立っていた。彼らの後方には武器を持った町の人達が百人ほど集まり並んでいる。

 冒険者たちの中にはメルダ、エリィ、キティルの三人の姿が見える。集められた冒険者と聖騎士達は緊張し顔をこわばったり、何人かの冒険者はうつむき青い顔をして悲壮感が漂っていた。

 一歩前に出たクレアが、小さく息を吐いてから話しを始める。


「こんばんは皆さん。今日は集まってくださってありがとうございます」


 真剣な表情でクレアは挨拶をした。町から増援を入れた六百人の聖騎士と冒険者達は、黙って静かに彼女の話しを聞いている。クレアは淡々と言葉を続けていく。


白銀兵団(シロガネヘイダン)。これが今回の敵の名称で個体はモンスターか人間か問わずに白銀兵(シロガネヘイ)と呼称します」


 銀色の魔物と人間達は白銀兵団と名付けられた。


「数は二万です。援軍が来るまでは三日かかります。私達の使命はテオドールを守ること…… それだけです。では、今から部隊を三つに分けてます。それぞれ持ち場についてください」


 テオドールの西側は海、北と南と東に門がある。クレアは三つに部隊を分けてそれぞれの門を守備させるつもりだ。


「南門はグレン君が隊長。北門はルドルフさん、東門は私が指揮をとります。それじゃあ今から三つに部隊をわけますね」


 順番にクレアが冒険者と聖騎士達に立って分けていく。砦がある方角の南門は数が多く約三百五十人、次に南門から距離が近い東門には百五十人ほどで、南門から大きく迂回する必要がある北門は百人とそれぞれ配置される。

 キティルは南門、メルダとエリィが東門、北門にはハモンドがそれぞれ分かれた。東、南は聖騎士と冒険者が主力で、町からの増援の百人は戦闘の可能性が低い北門へと配置された。


「それじゃあ各部隊にそれぞれの持ち場へ向かってください」


 別れた部隊はクレアの指示で各自担当の門へと向かっていく。

 キティルとグレンは南門の担当で門へと向かう部隊を見送った。


「あの! グッグレンさん…… 私達は勝てるんでしょうか?」

「心配するな。こっちには義姉ちゃんが居るからな。一人で兵士一万人くらい簡単に蹴散らせる」


 緊張してややこわばった声で勝てるか尋ねた、キティルにグレンは即答した。彼の解答にキティルは唖然とした表情をした。


「いっ一万人って…… あの人は何者なんですか」

「そっか。キティルは知らねえよな。義姉ちゃんは……」

「ただの支援員ですよ!」


 グレンの背後から急にクレアの声がした。振り返ったグレンが驚いて声をあげた。


「わっ!? 義姉ちゃん!? まだ移動してなかったのか」


 プクッと頬を膨らませてクレアは不満そうな表情をした。近くに置いてあった二本の紐で巻かれた、矢の束をクレアは持ち上げた。


「東門に持っていく矢が少なかったから取りに戻ったんです。まったく…… 余計なこと言わないでくださいね」

「はいはい。わかったよ」


 適当に返事をしたグレンだった。彼が余計なことを言わないか確かめるように、ジッと見つめながらクレアは歩いて行く。キティルは二人の様子に困惑した表情を浮かべるのだった。東門を目指して歩くクレア、町は避難が終わりひっそりと静まり返っていた。

 ふとクレアは立ち止まった。視線を右に動かしてクレアは口を開いた。


「何か用ですか?」


 わずかな灯りが照らす、薄暗い誰もいない背後の通りに向かってクレアは話しかけた。シーンと静まり返った通りに彼女の声が響く。


「まさか…… あんたがね。その大剣を見た時に気づくべきだったわね」


 クレアの右斜め後ろの建物の影からメルダが姿を現した。首だけ横に動かし、横目でメルダを見たクレアは表情を変えずに前を向く。


「やっぱり気づきますよね…… まぁいいですよ。メルダさん…… それとも魔王ディスタードの娘って呼んだ方が良いですか?」

「うっ!? あんた…… 気づいてたの?」

「はい。ノウレッジに過去は持ち込めませんから…… 用事なら終わってからにしてもらますか?」

「終わってから? はははっ!! 私は魔王ディスタードの娘なのよ?! 裏切ってあんたの背中から斬りかかるかも知れないわよ? 第一勇者候補…… 聖剣大師(ソードマスター)クレア!!!」


 メルダはクレアの言葉に、目を吊り上げ眉間にシワを寄せ答えた。クレアはかつて魔王を討伐するために集められた勇者候補で、その中でも特に優秀で最有力候補の一人だった。聖剣大師(ソードマスター)は彼女の異名であり特殊能力の名でもある。

 クレアは前を向き微笑んでやや上をむいてメルダに向かって口を開く。


「裏切るなんて出来ないですよ。あなたは魔族で人間が嫌いでしょうけど…… いい人ですから」

「はぁ!? いい人!? 私が?」


 驚くメルダにクレアはゆっくりと体を彼女に向けた。メルダをジッと見つめたクレアは、首をかしげて優しく微笑む。


「えぇ。だって私にはあなたがキティルさんとエリィさんを守ろうとしてるように見えるんで……」

「なっ!? かっ勝手なこと言わないでよ」


 目を大きく見開いて、恥ずかしそうに頬を赤らめたメルダ、クレアは彼女の様子に自分の言葉を確信したのかまた微笑む。


「さぁ。持ち場に行きますよ。エリィさんが心配しますから」


 東門がある方角を指さしてメルダに声をかけた。メルダは黙って小さくうなずき、下を向いてクレアの元へと歩いて来た。


「これ重いから半分持ってください」


 クレアは矢の束をメルダの前に差し出す。不服そうな顔でメルダはクレアの指示を否定する。


「嫌よ。なんであんたの……」

「シュン……」

「あぁ! もうほら!」


 うつむいて悲しそうな顔をするクレア、首を横に振って少し怒りながらメルダは、手を伸ばし矢束を巻いてある紐の一つを持った。

 彼女の行動にクレアはニッコリを微笑んだ。


「やっぱりいい人ですね」

「本当に怒るわよ! もう」

「あぁ! 待ってください! うふふ」


 メルダは矢の束に巻く、もう一個の紐をつかんでクレアから奪うと、早足で矢を持って歩いていく。クレアは離れていくメルダの後ろ姿を見て笑い慌てて追いかけるのだった。

 夜が明ける頃。南門の城壁の櫓に立って平原を見つめるグレン、彼の横には心配そうな表情をするキティルが居て、彼女の手には小さな鐘が握られている。

 南門の城壁の前には昨夜のうちにグレン達の手によって、木を交互に組んだバリケードが構築されている。


「来たな。キティル。皆に知らせてくれ」

「はっはい」


 平原の向こうに現れた、銀色の群衆を見たグレンがキティルに指示を出した。群衆は白銀兵団で銀色の人間や魔物が隊列を組んで進んでいる、朝日に照らされた銀色の体が光り輝いていた。

 キティルは手に持った鐘を力強く振って鳴らす。甲高い鐘の音が城壁に響く。

 城壁には弓を持ったニ百人の聖騎士と、冒険者達が仮眠を取ったり座って食事を取っていたりしていた。キティルの鐘の音で全員起き上がり慌てた様子で一列に城壁に並ぶ。


「うん!?」


 白銀兵団を見ていたグレンが首をかしげた。グレンの様子を見たクレアが尋ねる。


「どうしたんですか?」

「数が……」


 指で白銀兵団を指さしグレンが数とつぶやく。キティルが白銀兵団を見つめた。横に五十人ほど並び、縦に十ほど列をなして隊列を組んだ魔物と人間の銀の軍団が迫ってくる。


「そういえば少ないですね。あれだと五百人くらいですもんね。確か数は二万って……」

「兵団を分けたな…… まずい! 手薄な東門か北門が危ないぞ」


 グレンがハッとした表情をして東の方角を見た。遠くに黒い煙が上がっていた。


「義姉ちゃん…… クソ!」


 白銀兵団は兵士を分け守備側が南門に兵士を集中することを予想して、より手薄な方へ多くの兵士をさいたようだ。


「キティル!」

「はっはい!」

「全員を東門へ連れて行って義姉(ねえ)ちゃんの指揮下に入れ」


 東門の方角を指さしグレンがキティルに全員を連れて向かうように指示をだした。


「えっ!? でも、それじゃあここは?」

「いいから! 行くんだ!」

「はっはい……」


 躊躇するキティルに、厳しい表情で激しい口調で指示をだした。

 キティルはグレンの気迫に圧倒され少し怯えた様子で返事をした。櫓を下りてキティルは城壁にならんだ冒険者と聖騎士達に声をかけていた。


「さて…… 頼んだぞ。俺が行くまで耐えてくれよ…… 義姉ちゃん」


 胸元に下げた首飾りをグレンは、ギュッと軽く握ってつぶやくと彼は櫓から飛び下りた。バリケードが並ぶ城門の前に立ったグレンに、白銀兵団が鳴らすドラの音が聞こえる。

 ドラは白銀兵団の突撃の合図で、数百の魔物や人間が城門に向けて駆け出した。


「小賢しい真似をしたことを後悔させてやるぜ…… 獣化全解放ビーストモードプリズンブレイク!!!! はあああああああああああああ!!!」

 

 グレンの目が赤く強烈に光らせ獣化(ビーストモード)を発動させた。赤いオーラを纏ったグレンの両手両足は倍以上に太くなりさらに体全体が大きくなっていく。彼は目が赤く光り髪も赤色になりわずかに犬歯が伸び、体は二メートルを超える長身の胸板は厚くなり筋骨隆々な姿へと変貌をとげた。これは獣化全解放ビーストモードプリズンブレイクという獣化(ビーストモード)をさらに強化したものだ。

 なお、グレンが装備している服や手袋や胸当ては特注で、収縮性のある魔法繊維と金属で出来ておりグレンの体格が変わっても破れることはない。以前、クレアとの練習中に服が破れ思春期だったグレンはかなり恥ずかしいおもいをしてしまった。そのため彼に甘い義姉が特注で服と装備を見繕ったのだ

 背が高くなりバリケードを見下ろしたグレンは右手を伸ばす。バリケードを片手で軽々と持ち上げた彼は迫る軍団を見つめ右腕を大きく後ろに引くのだった。

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